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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、48)
しおりを挟むティアヌはチラチラと、セルティガたちが姿を消した穴へと意識をやる。
無駄話しでもいいからなるべく時間をかせぎたい。
二人が少なくとも身をひそめる、安全なる場所を確保できるまで。
「それはそうとハンスはどうしたの?」
事を起こした張本人の不在。
ティアヌは再度辺りを見回し、それらしき人影がないことを確認する。
「ハンス? ……あぁ、あのハンスね。
ハンスならこの聖木の一番はじめのニエになることをのぞんだわ。だからこそ、その願いを叶え、そしてこの器(体)を誰のものにもならないよう、その願いまでも叶えてあげたわ。とっても親切だと思わない?」
「思わない」
本当の親切なら代価を要求せず、人にそれと知れずご奉仕するのが真の親切だ。
なるほど。どうりでハンスらしき人影がなかったわけだ。
そこまでしてハンスは彼女を誰かの手にゆだねたくなかったのだ。
それは男のさがなのか、プライドなのか。
結果、自らのモノにもならないが、ハンス亡きあとも誰のモノにもおちない…というわけか。
歪みきったその愛。
ある意味、邪蛇と似ている。
脇目もふらず、一途に一人の人を想う不器用な愛し方。
「そんなことより、ねぇ、知っていて?」
邪蛇は事もなげにそんなこととハンスを切り捨てた。
益々もって気の毒になる。
ただ一人の女性を好きになっただけ。それだけなのに。
どんな強力な呪術よりもその想いは深く、道を誤ると、人を自虐へと導く恋という名の恐ろしい執着のなせる呪縛。
たとえその想いが永遠に届かないことと知りながら。
「あなたのお父様もかつて虚海へと旅立ち、今も時のはざまで彷徨っている」
「今―――――なんて言ったの?」
「あら、聞いてなかったの? 聞いていたからこそ、ここまで来たんじゃなかったわけ??
まぁいいわ。結論から言えば、あなたのお父様は生きている」
「父は………生きている?」
「今では貴重な精霊族に属するただ一人の男、まだ殺すわけにはいかないわ。だから生かしてあるのよ。
聡いあなたなら、わかるわよね?」
「生かしてある?」
まだ殺すわけにはいかない、とは、生かしてあるだけで父にそれだけの利用価値がある、ということだろうか。
それと同時に父や仲間の命、ティアヌの返答いかんで左右されることを知る。
「さて、本題に入るわね。あなたと取引がしたいの。
もちろんあなたにも得があるし損もしょうじる。それが取引ってもの」
「取引!? 邪蛇であるあなたと???」
「取引の内容を言う前に、まずはじめに言っておくわ。この取引に応じない場合は、あなたとその仲間、お父様を生かしておく必要などない。この言葉の意味がわかるわね?」
邪蛇はそれとなく念をおす。
ノー(No)とは言わせない。拒否権はこちらにはないのだと。
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