シノビと盗賊少女

海王星型惑星

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プロローグと序

紅蓮

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シルヴィアが立ち上がったことは、理源にとって完全に予想外の出来事であった。


本気と言いつつ加減はしたものの、あの一撃は喰らえば通常の人間ならしばらく立ち上がる事はできない程だった。


それだけではなかった。


シルヴィアの様子も違う。


(笑ってやがる...?)


不敵な笑みを浮かべ、がっ、と目を見開き、理源をまっすぐ見つめるその瞳には、赤い炎が宿っている。


目の色が変わったのは、外傷のせいなのだろうか。


                            ‼︎!


次の瞬間、ナイフを構えたシルヴィアが理源の目と鼻の先の距離まで突っ込んできた!


「っ⁉︎」


予想外の動きに思わず後ろに飛び退く。


しかし地面を力強く蹴り、シルヴィアは喰らいつくように理源に向かってくる。


接近したシルヴィアは、逃げに徹しようとした先程とは対照的に、ナイフで理源を四、五回切りつける。


風を切る音が耳元をかすめるのを感じながら、理源はすぐさま平常心を取り戻し、加速する斬撃を紙一重で避けていく。



そしてシルヴィアが理源の喉元を突き刺そうと大きく踏み込み、ナイフを突き出した瞬間、一転して反撃に出た。


前方に傾けた上体と重心、伸び切った腕、そしてガラ空きとなった胴部。


一歩も下がることなく上体だけ反らして突きを回避し、リーチの長い脚でシルヴィアの腹に蹴りを入れる。


ヂッと激しく擦れる音と同時にシルヴィアは右方に蹴り飛ばされた。
数回転がり、壁に当たって止まった。


(こいつ...殺しに来やがったな...!)


先程から感じている、まるで別人のようなシルヴィアの動きに対する疑念は更に深まった。



(なぜ今のに反応できる?)


威力の乗らない体勢での蹴りではあったが、シルヴィアを一撃で昏倒させるには充分であった。


加えて隙の大きい攻撃を狙ったカウンターはタイミングも含めて的確だった。


ただの活発な少女に過ぎないシルヴィアでは反応すら出来ないはずだ。


(こいつには...)


ダメージを極力まで軽減したシルヴィアはすぐに立ち上がり、再びナイフを構えた。


(何が見えてやがる...?)


先程と似た形で、再びシルヴィアが突進してくる。


しかし先程と違うのはその速さだ。


「ッッッ‼︎‼︎‼︎」


更に数段速くなった斬撃を、またもやすんでのところでかわしていく。


(どこまで速くなんだよっ‼︎)


理源も徐々にギアを上げていくが、シルヴィアは理源が避けた先まで刃を振りかざす。


まるで初めから理源がそこに来ると分かっているかのようだった。


(しょうがねえなっ!)


やや体勢を低くし、斬撃をかわした理源は刈り込むような足払いをシルヴィアの脚に繰り出す。


しかしシルヴィアは攻撃の真っ最中であったにも関わらず、飛び上がりそれを避ける。


だか少し遅れたようだ。


わずかに両者の脚が接触し、シルヴィアは空中でバランスを崩す。


その隙を理源は見逃さなかった。


シルヴィアの懐へ飛び込み、距離を詰めると、倒れかけたシルヴィアを支える形で右腕を掴んだ。



緊迫した空気の流れる小さな通りにわずかな静寂が訪れた。


「30...過ぎちまった」


シルヴィアが我を取り戻し、元の状態に戻った。


「えっ...もう...?」


理源はいぶかしむような目つきでシルヴィアを見つめていたが、やがて手を離すと、大きなため息をつく。


「しょうがねえ、約束は約束だ」


シルヴィアの顔がぱっ、と輝く。


「ホントか⁉︎ほんとに本当か⁉︎」


「ただし、命の保証はしねえぞ。いいんだな⁉︎」


「おう!任せとけ‼︎」


シルヴィアは自慢げに胸を張った。


「凄かったわシルヴィア!まるで別人みたい!」


2人が抱き合って喜びを分かち合ったあと、セレーネはシルヴィアの瞳を見つめながら優しく言った。


「判断はあなたに任せるけど、酷い怪我をする前に帰ってきてね。何かあってからじゃ遅いから」


「うん...分かった。ありがと!」

シルヴィアはこくりと頷いた。


セレーネは理源に向き直って頭を下げた。


「それでは理源さん、シルヴィアをよろしくお願いします」


「任せといて下さい」


(ほんとこいつ...)

紳士的な態度に早変わりする理源に呆れるシルヴィアだった。

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

2人は市内の南端にある鉄門の前にいた。


ここを通ればそこからはシルヴィアにとって未知の領域。

危険も伴うだろう。


だがそれよりも興奮がはるかに上回っていた。

シルヴィアは自分の頰が熱くなるのを感じていた。


ギィィィと重い音を立てて門が開く。


新しい光と風がシルヴィアを迎え入れているような気がした。


ゆっくりと深呼吸して、新鮮な若葉の匂いを嗅ぐ。



大きく広がった視界に一本の道があり、遥か遠くの森にまで続いている。


あれがきっと南の森だろう。


「よーし!やるぞーっ‼︎」


高まる気持ちを叫びながら一歩ずつ踏み締めるように歩みを進めていく。


「ちなみに今昼だか、着くのは早くても日が沈むかどうかぐらいの時間だ」


「ゔっ...」


早くも歩みが遅くなるシルヴィアだった。



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