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1章 森林の巨獣
闇夜と
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2人が南の森の入り口に着く頃には、すでに夕方になっていた。
真っ赤に燃える太陽が周囲の雲を、空をオレンジ色に染めて、西の山脈に沈んでいく。
シルヴィアの気持ちもまた、沈んでいた。
「や...っと着いた...」
バラク市の南門を出たのは昼過ぎのこと。
出発直後こそは活気に満ち溢れていたシルヴィアだったが、進めど進めど一向にたどり着く気配はなく、道の中ほどですでに意気消沈していた。
さらに理源の歩行速度は予想以上で、
同じペースで歩くだけでも一苦労だった。
「あんな小うるさかったのにもうバテたのか、情けねーなぁオイ」
近くの樹木の幹にもたれかかるように座り込んだシルヴィアを見て理源は意地の悪そうな笑顔を見せる。
「昼間は『よーしやるぞ』とか言ってた癖によー、『やるぞ』ってなんだよ、何をやるんだよ」
「...うっせ...」
シルヴィアには煽りに噛み付く気力もなかった。
理源は背嚢から水渇丸(兵糧丸の亜種食品)を取り出して、口に含むと、再び歩き出した。
「この先に川がある」
理源は振り返って進行方向を指差した。
「そこで水を確保したら少し離れたところで休む準備をする」
「はいい...」
シルヴィアはのろりと立ち上がって理源の後ろをついていった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「着いたぞ、ここだ」
立ち止まった理源に追いつき、シルヴィアが理源の背後から顔を覗かせると、月明かりを反射して輝く小川が見えた。
「...おお...!」
疲労で曇っていた表情が一気に晴れやかになる。
「飲んでいいのか!?」
理源が頷く。
「ここはそのまま飲めるほど水質がいい。だが飲み過ぎるなよ?」
シルヴィアは若草の生えた地面に膝をつくと、両手をそっと流水の中に入れ、水をすくった。
そしてそれを口に運ぶ。
両手に伝わる冷たい感覚が口から喉へ広がっていく。
疲れの溜まった、乾ききったシルヴィアの身体に染み込んでいく。
水とはここまで美味しい物だったのか。
両手で水を流し込むたびに、疲れが消えているような気がした。
シルヴィアの表情が活気に満ちてきたのを見計らって、理源は竹の水筒を二つ渡す。
「これに水を入れろ」
受け取った水筒を水の中に入れながら、ふと気になったことを聞いた。
「川の側で寝ちまえばいいんじゃねえのか?」
「いや、大雨が降った時に氾濫する可能性があるし、水源には野生動物や魔物が来ることがある。リスクは減らした方がいい」
理源も水筒に水を入れながら答える。
「まあ、この辺はそうそうおっかねえ魔物なんざ出ねえけどな」
理源が立ち上がってまた歩き出した。
それについてくシルヴィアがふと後ろを振り返ると、もう森の外は見えなくなっていた。
この森はどのくらい広いのだろうか。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「この辺でいいだろ。薪集めるぞ」
「おう」
返事をしながらシルヴィアは辺りを見回す。
(ん...?)
暗闇で何かが動いているような気がした。
しかし見える範囲が限られている夜では、それが本当に動いているのか、何なのかは分からない。
(気のせいか...)
近くにあるやや太い枝を拾う。
薪がわりにはなるかもしれない。
その時だった。
理源の動きが止まる。
そして静かに手招きしながら言った。
「...来い」
「え?」
「まだそんな奥深くには来てねえんだがな...」
理源は先ほどシルヴィアが何かを見た方向を睨んでいた。
やがて暗闇の中に無数の光が浮かび上がる。
四方八方から黒い影が近づいてくる。
パキパキと枝を踏み折る音もかすかに聞こえる。
「.......っっ⁉︎」
先ほどの違和感は気のせいではなかった。
2人は魔物の群れに取り囲まれていたのだった。
真っ赤に燃える太陽が周囲の雲を、空をオレンジ色に染めて、西の山脈に沈んでいく。
シルヴィアの気持ちもまた、沈んでいた。
「や...っと着いた...」
バラク市の南門を出たのは昼過ぎのこと。
出発直後こそは活気に満ち溢れていたシルヴィアだったが、進めど進めど一向にたどり着く気配はなく、道の中ほどですでに意気消沈していた。
さらに理源の歩行速度は予想以上で、
同じペースで歩くだけでも一苦労だった。
「あんな小うるさかったのにもうバテたのか、情けねーなぁオイ」
近くの樹木の幹にもたれかかるように座り込んだシルヴィアを見て理源は意地の悪そうな笑顔を見せる。
「昼間は『よーしやるぞ』とか言ってた癖によー、『やるぞ』ってなんだよ、何をやるんだよ」
「...うっせ...」
シルヴィアには煽りに噛み付く気力もなかった。
理源は背嚢から水渇丸(兵糧丸の亜種食品)を取り出して、口に含むと、再び歩き出した。
「この先に川がある」
理源は振り返って進行方向を指差した。
「そこで水を確保したら少し離れたところで休む準備をする」
「はいい...」
シルヴィアはのろりと立ち上がって理源の後ろをついていった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「着いたぞ、ここだ」
立ち止まった理源に追いつき、シルヴィアが理源の背後から顔を覗かせると、月明かりを反射して輝く小川が見えた。
「...おお...!」
疲労で曇っていた表情が一気に晴れやかになる。
「飲んでいいのか!?」
理源が頷く。
「ここはそのまま飲めるほど水質がいい。だが飲み過ぎるなよ?」
シルヴィアは若草の生えた地面に膝をつくと、両手をそっと流水の中に入れ、水をすくった。
そしてそれを口に運ぶ。
両手に伝わる冷たい感覚が口から喉へ広がっていく。
疲れの溜まった、乾ききったシルヴィアの身体に染み込んでいく。
水とはここまで美味しい物だったのか。
両手で水を流し込むたびに、疲れが消えているような気がした。
シルヴィアの表情が活気に満ちてきたのを見計らって、理源は竹の水筒を二つ渡す。
「これに水を入れろ」
受け取った水筒を水の中に入れながら、ふと気になったことを聞いた。
「川の側で寝ちまえばいいんじゃねえのか?」
「いや、大雨が降った時に氾濫する可能性があるし、水源には野生動物や魔物が来ることがある。リスクは減らした方がいい」
理源も水筒に水を入れながら答える。
「まあ、この辺はそうそうおっかねえ魔物なんざ出ねえけどな」
理源が立ち上がってまた歩き出した。
それについてくシルヴィアがふと後ろを振り返ると、もう森の外は見えなくなっていた。
この森はどのくらい広いのだろうか。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「この辺でいいだろ。薪集めるぞ」
「おう」
返事をしながらシルヴィアは辺りを見回す。
(ん...?)
暗闇で何かが動いているような気がした。
しかし見える範囲が限られている夜では、それが本当に動いているのか、何なのかは分からない。
(気のせいか...)
近くにあるやや太い枝を拾う。
薪がわりにはなるかもしれない。
その時だった。
理源の動きが止まる。
そして静かに手招きしながら言った。
「...来い」
「え?」
「まだそんな奥深くには来てねえんだがな...」
理源は先ほどシルヴィアが何かを見た方向を睨んでいた。
やがて暗闇の中に無数の光が浮かび上がる。
四方八方から黒い影が近づいてくる。
パキパキと枝を踏み折る音もかすかに聞こえる。
「.......っっ⁉︎」
先ほどの違和感は気のせいではなかった。
2人は魔物の群れに取り囲まれていたのだった。
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