神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第一章

29 酔っぱらいたちは陰謀なんて知らずに笑う

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 数分前まで怪しさと剣呑さ満載のやりとりが近くでされていたことなんて露知らず、私服の勇者は酒場に吸い込まれるように入っていった。

「いらっしゃい。奥の席にみんないるよ」

「あいよー。とりあえず麦酒くれー」

 従業員のおばちゃんといつものやりとりをした後、仲間たちのいる席の方へ向かう。

「勇者。あんたどこ行ってたの?」

「え。えーと、妖精さんに供物を捧げに」

 妖精さんじゃなくてカユシィーちゃんの同居人だが、それを言うといろいろまずい。

 空いている席に着き、並べられているツマミを口に運ぶ。

 最辺境の町は魚系統が皆無なのはつまらないが、木の実や肉の加工品は豊富で美味い。

 勇者たちは酒とツマミと小料理だけで済ませるが、この酒場は鶏肉と木の実の一品料理も有名で、昼の時間帯は食事だけ食べに来る人が少なくない。

「勇者、神殿認定なのに妖精さんは見えるのなー。紹介してよー」

「駄目だ。妖精さんってのはすごい力を持ってるから下手につつくと恐ろしいんだ」

 本当に、あの子を下手につつくとどうなるか怖すぎる。

 邪神誕生の予言ってもしやあの子がぶち切れて何かやらかすのを暗示しているのではなんて疑念さえもある。
 だからといって危険の芽は早めに摘もうなんて攻撃したら逆効果間違いなしなので、というか勇者の聖剣でもあの子の防御突破できるか疑わしいので、カユシィーちゃんの心の平穏と健やかな成長のためにも、町の平和のためにも、状況が悪化しすぎない程度に見守っているのだ。

 断じて、カユシィーちゃん情報引き出すための道具扱いなどしていない。
 便利屋代わりにも使っていない。
 パシってなどいない。

「はい、おまちどー。今日もいっぱい飲んでってね」

「おうよ。今夜の俺はひと味違うぜ、なにせ悪酔い防止魔術符と二日酔い速攻解消快調魔術符を持っているのだから!」

「勇者、何やってんだぜ」

「金持ちしか使えない贅沢すぎる無駄魔術符……。先代勇者みたいにならないでよ?」

 仲間たちの目が冷たい。
 すげえと尊敬のまなざし向けられたかった勇者はガクリと肩を落とした後に、わなわなと拳を震わせた。

「ならねえよ。あんなんになったらカユシィーちゃんに顔向け出来なくなっちゃうじゃんか。俺はカユシィーちゃんを見守る良い大人でいたいんだ」

「ふーん? 恋愛絡んでないならいいけどねー。絡んでたら変態よーぅ?」

「からませねえよっ。俺は年上が好きなんだっ。巨乳美女な恋人募集中!」

「うわぁ、なんだよその願望丸出し」

「勇者の恋人なんて厄ネタでしょー。聖王の姫の恋人ほどひどくなさそうなのがひどいけど。ほんと何よもう、権力もないし敬われもしないし慕われもしないし、贅沢できないし自由もないし、なのに政略結婚の駒にされる義務だけあるとかもうなんなのよぅ」

 姫は酔っぱらっても顔に出にくいが、すでにできあがっているようだ。

「末娘でこれってほんとなんなのよ」

「あー、うん、大変だなー。飲め飲め。あ、酒おかわりと塩クルミ追加でー」

「勇者のせいで変な噂立てられるし、そりゃ勇者のパーティに入りたい言ったのはっ、私だけどっ、勇者になんてまったく興味ないのに! 顔が凡人過ぎるし品性ないし庶民っぽいくせに無駄使いが変な方向に派手だしっ。私はねぇ、カユシィーちゃんのお兄さんみたいな美人さんじゃないと心が揺らがないわよぅ」

「そうかそうか。飲め飲め」

「おかわりと塩クルミおまちー。ちゃんとツマミと水も口に入れなよねー?」

 酒場の勇者パーティの周りの空気がぐだぐだなのはいつものことだ。

 絡み酒になったり泣き上戸になったりはいるが暴れる奴はいないので、酒場の従業員も常連客も生暖かく彼らを見守っている。

「あんなのが勇者でさ、予言実現しちゃった時だいじょぶなんかね?」

 常連客も酔っぱらっているので、気遣いなんてのはあってないようなものだが。

「妖精さんがなんとかしてくれるだろ。この町は妖精さんが護ってくれてるんだ」

(いや護ってねえよ。全面的に保身目的の行動だよ)

「そうそう、俺さこないだ妖精さん見かけたんで娘に渡すつもりの干しぶどう供物にして拝んだら一回絶対防御の身代わり守りもらった」

(食い意地と律儀さが合わさって変な作用してやがる)

「いいなー。ほしいなー」

「だが娘には泣かれた。でもよ仕方ないじゃんっ? 妖精さんなんていつ見られるか分かんないし、また特異種なんて出たらお守りあるかないかで生き死にに関わるし?」

(そこはまぁ否定できねえよな。あの子の渡してくるもの無駄にすごいし。闇属性ってだけであんな壊れ性能になるもんなんかねぇ)

「親父の畑のそばに出たって話も聞いたな。摘みたてバジョーレイ捧げたらお礼にキャロク除け魔導具作ってくれたってさ」

「鶏の卵あげたら鶏たちが害獣被害に遭わなくなったってのも聞いたぞ」

「そういや、あのガキんちょ、妖精さんのお守りあったから逃げる途中にすっころんだ怪我だけで助かったって言ってたのう」

「俺も妖精さんに供物捧げて拝んでみてぇ……」

(その妖精さん、お前らが大っ嫌いな闇属性なんだけどなー)

 常連客の会話にいちいち心の中でつっこみ入れつつ、絡み酒の姫に酒と水とツマミを与えつつ、勇者はちびちびと酒を飲みツマミの木の実をつまむ。

 そうして夜は更けていく。

 何事もなく。





 そして何事もなく朝が来て、ドレとカユシィーの兄妹も勇者たちも魔物討伐に出かけていき、何事もなく昼になり、何事もなく夕方になり、何事もなく夜になった。

 勇者たちは当然のごとく酒場に向かい、怪しい女はその様を見て叫んだ。

「なんでよっ?」
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