神に選ばれたのは、爆弾と俺だった。

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第一章

魔法省の尋問

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尋問から戻ったリュウは、バタリとベッドに倒れ込んだ。

 「……マジで詰んでた……」

 あのイケオジ騎士とのやり取りが頭をよぎる。
 “魔法省の使者が来る”という言葉の重みが、じわじわ胃にくる。


---

 「で、どうだった?」

 パンをかじっていた隣のベッドの男――ガルドが、無造作に尋ねる。

 「んー、まあ色々聞かれた。森の爆発のこととか」

 「そりゃ、騒ぎだったからな。旅人でも知ってると思われて当然だ」

 「(知ってるどころか……爆心地から来た本人だけどな!)」

 内心ツッコミながら、表面上はにこやかに笑ってごまかす。


---

 そして夕食。例の堅パン一個。

 「はあ……さすがにこれ飽きたな」

 「贅沢言うな。出るだけマシだ」

 「──今日は、違うぜ。オヤジ」

 「……なんだ?」


---

 看守の足音が遠ざかったのを確認し、
 リュウはこっそり呟く。

 「アイテムボックス、展開」

 異空間から現れたのは、スライスした魔物肉、干し野菜、そして白く粉状の結晶──塩。


---

 ガルドが目を剥く。

 「なっ……!? どこから出した、それ……!?」

 「ん、ちょっと魔物を捌いてたときさ。魔石の周辺に“結晶化した塩分層”があったんだよ。たぶん体液内の成分が長年かけて固まったやつだな」

 「……意味わかんねえけど、すげえな」


---

 【火魔法】で温めた石を即席鉄板代わりにし、
 肉と野菜を並べ、塩をパラリと振る。

 ──ジュウウウ……

 香ばしい音と、漂う匂い。

 「うぉぉ……これは反則だろ……」

 ガルドの目が潤みかけている。


---

 二人で分け合いながら、リュウは言った。

 「なあ、ここ牢屋だよな?」

 「たぶんそう……だけど、めちゃくちゃ旨い……」

 「俺、ちょっと文明復活させてる気がするんだよな」

 「そういうのを“調子に乗ってる”って言うんだ」


---

 食後、石板を冷ましながら、ガルドがポツリとつぶやく。

 「お前さ……リュウって言ったな。変わったヤツだが……悪くない」

 「お前もな。ダンディなオヤジ、嫌いじゃないぜ」

 「うるせぇ。ダンディってのはな……もうちょい静かなもんなんだよ」


---

 その数日後。再び、あの足音が牢に近づいてくる。

 「リュウ、出ろ」

 イケオジ騎士が現れた。無精ヒゲに重い眼差し。

 「魔法省の使者が到着した。──お前のことを、調べさせてもらう」


---
「リュウ、出ろ」

 イケオジ騎士の声とともに、牢屋の扉が開いた。

 リュウは小さく深呼吸しながら立ち上がる。
 ガルドに小声で言った。

 「……帰ってこれなかったら、ナイフと干し肉は任せた」

 「おい縁起でもねえこと言うな!」


---

 連行されたのは、石造りの応接室のような場所。
 重厚なテーブルの向こうに座っていたのは──

 美しい女性だった。

 淡い金髪を一つに束ね、紫色のローブを纏ったスレンダーな姿。
 だがその瞳は氷のように冷たく、じっとリュウを見つめている。

 「火来リュウ……ですね?」

 「リュウで。名乗ったのはリュウだけなんで」

 「……そうですか」


---

 女性は背筋をぴんと伸ばし、名を名乗った。

 「私はクロエ・ラインベルク。王都魔法省の上級監察官です」

 「お、お手柔らかに……」

 彼女は資料らしき紙を一枚机に広げた。


---

 「あなたがこの騎士団に拘束されたのは十日前。森の中を放浪し、不審な言動をし、身分証もなく、情報も不明。
 ──正直、あなたはこの国にとって“極めて怪しい存在”です」

 「はい、その通りですね、ぐうの音も出ない……」

 「一ヶ月前、森の奥で前代未聞の魔力爆発が観測されました。
 上空には、巨大なキノコ状の雲。地形が変わるほどの衝撃波。
 ──それについて、何か知っていることは?」


---

 再び来たこの質問。
 逃げ切れるわけがないのは分かっている。
 けれど、爆弾と言えば誤解され、異世界と言えば精神鑑定を勧められそう。

 リュウは口元を引きつらせながら、絞り出す。

 「……うんと……偶然、近くにいたんですよ。たまたまね」

 「その“偶然”のせいであなたの体からは極度の魔素反応が検出され、
 通常の十倍以上の魔力量を有していることも確認されています」

 「(うわああ、完全にマークされてるぅ!)」



 クロエの視線が、さらに鋭くなる。

 「あなたは……“魔族”ですか?」

 「違う違う違う違うちが……!! 超ちがう!! 超純人間!!」

 「では、“爆発”の中心にいたのでは?」

 「い、いたけど!! いや、いた“だけ”です! 爆心地通過系男子です!」



 しばしの沈黙。
 クロエはジッとリュウを見つめる。

 「……あなた、嘘をつくのが、致命的に下手ですね」

 「すいません……本当は嘘つくのも初心者なんです……」

 少しだけ、彼女の口元が動いた。
 それが、笑ったのか、呆れたのかはわからなかった。


 「……いいでしょう。すぐに処分、とは言いません。
 ただし、今後の行動はすべて記録され、監視下に置かれることになります」

 「えっ……出られるんですか?」

 「身柄を王都へ移送し、引き続き調査。必要があれば、魔法省の保護下に置く。
 もしかしたら、あなたは“有用な存在”かもしれませんから」

 (有用……保護……まさかの、異世界就職!?)


---

 リュウは首をかしげながらも、内心でガッツポーズを決めた。

 「(やべぇ、なんか話が進んでる。とりあえず牢屋脱出できそう!)」


---
数日後。

 看守が再び、鉄格子の前に現れた。
 カチャ、と鍵が回される音。

 「リュウ、出ろ。王都行きだ」

 「ついに……!」

 リュウが立ち上がると、その横で一緒に立ち上がった影があった。

 「……お、オヤジ?」

 「俺もだ」

 ガルドが、珍しく真面目な顔をしていた。


---

 「聞いたぜ。お前の取り調べの後にな……“あいつも参考人として王都に同行させろ”ってな。
 どうやら、俺の隣にいたことで、なんかの“証人”扱いになったらしい」

 「マジか……まさか一緒に転職か……?」

 「さすがにそれはねぇよ」


---

 身なりは変わらず、
 でも手錠は外され、足枷も外され、
 何より――空が広い。

 久しぶりの地上に出たリュウは、大きく深呼吸した。

 「……うおっ、空、まぶし! 空がある! 空が動いてる!!」

 「お前、牢屋に何年いた設定なんだよ……」


---

 護送車は、馬車タイプの頑丈な木造キャリッジ。
 ただし中はそこそこ広く、何より窓がある。風が通る。ありがたい。

 座席に座った瞬間、リュウは目を細めた。

 「これ、贅沢すぎん? 柔らかい座面とか、文明すぎる……」

 「……お前の文明基準が狂ってんだよ」


---

 ガルドと並んで座り、馬車が動き出す。

 先頭には、イケオジ騎士。
 そのすぐ隣には、無表情で本を読むクロエ・ラインベルク。

 リュウは彼女をチラリと見て、そっとガルドに耳打ちする。

 「なあ……あの人、見た目はドストライクなんだけど、会話の圧がマジでやばい」

 「お前はまず“死ぬほど怪しいやつ”って印象を拭け。恋愛とか五億年早い」


---

 馬車はゆっくりと、王都へと進む。

 リュウの知らない異世界。
 その中心部へ――
 そして、数奇な運命が動き出す場所へ。


---
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