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第一章
貴族
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王都・中央市場通り。
夕暮れの光が石畳を照らし、通りは買い物客や帰宅中の冒険者で賑わっていた。
リュウは、肉と野菜とパンを抱えて歩いていた。
ガルドとライガは別の路地で酒を買っていた。
本日の晩飯は「肉の鍋」。
---
「いや~今日は静かだったなー。平和が一番……」
そんな時だった。
ガシャッ!と前からぶつかってきた男がいた。
「おっと……すまん、見てなかっ……」
「きさま、どこを見て歩いているッ!!」
鋭く怒鳴ったその男は、妙に整った衣装に、つやつやの革靴。
後ろには、いかにも護衛らしい騎士が二人。
---
(……うわ、貴族系か……)
リュウは心の中でため息をついた。
---
「こ、この方を誰だと思っている!」
「第二王子付きのルーゼル公爵家のご子息ぞ!」
「お忍び中だぞ、静かにしろって言ってんのに……」
と、後ろからそっと呟いたのは、やたら綺麗な顔の青年。
だが明らかに“育ちの良さ”がにじみ出ていた。
---
「ひれ伏せ下民がああああ!!」
ぶつかってきた貴族の若様がリュウを指差す。
「てめぇがぶつかってきたんだけど……」
「言い訳するな!その荷物、粗末な鍋の材料か!この私が許すと思うのか!」
---
言いがかりもここまで来ると清々しい。
リュウは内心で「どうすっかなー」と考えていた。
相手は貴族。下手すりゃ政治沙汰だ。
だが、周囲の人間たちは皆、**“触れたくない雰囲気”**で距離を取っていた。
---
と、背後から聞き慣れた声。
「よぉ。またやってんのか」
ガルドとライガが戻ってきていた。
袋に酒瓶と干し肉を抱え、完全に買い物帰りのオーラ。
---
「お忍び中の貴族様にぶつかって、怒鳴られた。で、鍋を侮辱された」
「……それは許されん」
「……鍋は、正義」
---
リュウは荷物を地面に下ろすと、しゃがみ込んで野菜を丁寧に拾い直しながら、こう言った。
「悪いけど、鍋は諦められないんだ。今日の楽しみなんだよ。
だから……どいてくれるか?」
「この下郎がぁあ!!斬れッ!斬り捨ていッ!!」
---
護衛の騎士が抜刀し、リュウに向かって――
ズドン!!
一瞬で地面に倒れた。
リュウは動いていない。
「な、何が……!?」
「……オーラに潰されたな」
ライガが呟いた。
「自覚ないけど、あいつ立ってるだけで相当な威圧感だからな」
ガルドが苦笑する。
---
「ひ、ひぃいいっ!!お、覚えていろっ!!」
貴族の若様は護衛を引きずりながら、泡を食って逃げていった。
---
リュウは溜め息をひとつ。
「――これ、届いてたぞ」
翌朝、猫のひげ亭の受付嬢がリュウに封筒を差し出した。
上質な羊皮紙に、繊細な銀の縁取り。
封蝋には、王都貴族に伝わる**“双頭の獅子”の紋章**。
---
「なんだこりゃ……高そう……」
リュウは嫌な予感しかない顔でそれを開く。
中には、流れるような筆跡でこう記されていた。
---
> 拝啓
昨日、市街にて弟が失礼をいたしました。
ご迷惑をおかけしたお詫びと、お礼を申し上げたく、
ささやかながら夕食の席をご用意しております。
どうかご一考いただければ幸いです。
――ルーゼル公爵家 長男 エラン・ルーゼル
---
「……えぇ……まさかの謝罪文?」
ガルドが封筒を覗き込む。
「……お礼に食事……」
ライガがそっと箸を置く。
「昨日の鍋、すっげぇうまかったけど……貴族飯……気になるな……」
リュウが真顔で言った。
---
そしてその夜。
三人は王都北端のルーゼル家の屋敷を訪れた。
騎士たちに案内され、通されたのは、広く荘厳な応接間。
待っていたのは――
昨日とはまるで雰囲気の違う、知的で優雅な青年。
長身で金髪、目は切れ長。
品の良い礼服に身を包み、静かに一礼した。
---
「改めてご挨拶を。エラン・ルーゼルと申します。
昨日は……弟が、大変な非礼を。心よりお詫び申し上げます」
「まあ……鍋は無事だったんで」
リュウが小さく笑って返す。
「……鍋、重要」
ライガが頷く。
---
エランは微笑み、指を鳴らした。
「では。ささやかながら、お詫びの席を」
---
運ばれてきた料理は、王都でも最高級と名高い貴族料理。
・香草とトリュフを使った白肉のクリーム煮
・魔獣の骨髄で煮込んだスープ
・薄くスライスされた果実と花蜜のデザート
・魔力水で作られた澄み切った葡萄酒
---
「……うんめぇぇ……」
「……これは……反則だろ……」
「……舌が……震えてる……」
三人ともほぼ無言で完食した。
---
その後、エランはふと真顔になり、静かに切り出した。
「実は――一つだけ、お願いがありまして」
---
「……依頼?」
リュウが眉をひそめて問うと、
エランは一度深く息を吐いてから、慎重に口を開いた。
---
「王都の南区、第五魔術院の一派が――
“禁術”に手を出している可能性があるのです」
---
その言葉に、ガルドとライガの表情が一変する。
「禁術……?」
「それ、つまり……人間や魂に干渉する系の……」
「ご明察です」
エランはゆっくりと頷いた。
---
「表向きには解体済みの研究部門。
ですが、そこに“消えたはずの研究員たち”がいるという情報がありまして……」
---
エランは机の引き出しから、数枚の資料を取り出す。
・失踪した魔術師の名前
・不自然に閉鎖された研究所
・街で目撃された“不老”に近い人物の記録
---
「……王都の警戒監査局には動きません。
証拠が不十分で、“貴族間の陰謀”と捉えられて終わるでしょう」
「つまり、公式じゃできない。だから……俺たち?」
リュウの問いに、エランは真っ直ぐに答えた。
「あなた方なら、“正面突破”も可能かと」
「……そういう評価、嫌いじゃないけどさ」
---
「……金、出るの?」
ライガが静かに口を挟む。
「当然です。情報の確保だけで、金貨70枚。
壊滅までしていただければ、150枚+保証付きの貴族認可依頼契約に変更します」
「よし、受けた」
「即決!?」
---
リュウは肩を回しながら立ち上がる。
「魔法犯罪?禁術?上等じゃん。
俺たちは鍋のために生きてるんだよ。誰にも邪魔はさせねぇ」
「……鍋、最優先」
---
こうして、爆竜パーティは――
王都の裏側、“消えた魔術師”の謎を追う任務へと踏み出した。
---
王都・南区の外れ。
廃棄されたはずの研究施設、その名は――第五魔術院跡地。
石造りの建物は一部崩れ、入り口の扉はねじ曲がり、錆びた鉄柵が枯れた蔦に覆われていた。
夜。
人気のない時間を狙い、リュウ、ガルド、ライガの三人は物音もなく敷地へと足を踏み入れた。
---
「ここ……“生きてる”感じがする」
ライガが呟く。
風もないのに、背筋に冷たいものが走る。
「見張りの気配はなし。けど……妙に“魔力”が漂ってるな」
ガルドが壁に触れながら警戒を強める。
「……誰もいないなら、進もうか」
リュウが軽く拳を握る。
---
◆ 内部
建物の中は、時間が止まったように静かだった。
埃をかぶった机、割れたフラスコ、床に散らばる記録用紙。
けれど、その全てが“不自然”なほど整然としている。
まるで、誰かがずっとここを管理していたかのように。
---
「見ろ……これは」
ライガが指差した先にあったのは、
壁に刻まれた魔方陣の痕跡。
焼け焦げたように一部だけが黒く変色している。
「何か……暴走したな、これは」
---
ふと、リュウが足を止めた。
耳の奥に――声がした。
> 「……たすけて……」
「……ここから……でたい……」
「……イタイ……くるしい……」
---
「っ……今の……!」
「聞こえた。魔力の残留音……」
「いや、これは……“魂”だ」
---
次の瞬間。
通路の奥、閉ざされた扉が“ギィ……ッ”と自然に開いた。
そこには、何かがうずくまっていた。
---
青白く透ける身体。
ぼろぼろの白衣。
だが、その顔は――人間ではなかった。
目が真っ黒に潰れ、口から血のような黒い霧が流れている。
---
「……たすけて……あれを、とめて……」
「もう、だれも、いないのに……」
---
リュウは一歩前に出た。
「……わかった。止めに来たんだ。だから――」
その言葉の途中で、“亡霊”は一瞬で消えた。
代わりに、奥から禍々しい魔力が噴き出す。
---
「来るぞ――!」
「……せっかく鍋日和だったのになぁ。騒がしくて味が落ちそう」
---
「……この扉の向こうだな」
ガルドが巨大な金属扉の前で立ち止まる。
その扉には数え切れないほどの封印痕、そして壊された鍵の残骸。
「開いてる……というか、壊されてる」
ライガが囁く。
「行こう」
リュウはためらわず一歩、闇へと踏み込んだ。
---
実験室の扉を開いた瞬間、肌に感じたのは――殺意。
空気が熱を持ち、魔力が空間そのものを圧縮していた。
石床に描かれた魔方陣が光り、中央には**赤黒く脈打つ“肉塊”**がうごめいていた。
その姿は曖昧。四肢のようなものがあるが、常に形を変え、
“触れてはならない何か”の警鐘を本能が鳴らしている。
---
「……術式生命体か。しかも、暴走型だ」
ガルドが低く呟き、盾を構える。
ライガはすでに姿勢を低くし、回避準備に入っていた。
そしてリュウは――拳を握る。
「黙らせる」
---
瞬間、“それ”が動いた。
ギィギィと軋むような魔力音と共に、空間が歪む。
触手のような器官が鋭く伸び、床を穿ち、壁を這う。
「来るぞッ!」
---
リュウ、地を蹴る!
踏み込みと同時に石床が砕け、砂煙が弾ける。
“それ”の正面から、一切の躊躇なく突進!
接近を許した“それ”は、一瞬遅れて反応した――が遅い!
---
拳、直撃。
肉塊の中心部がめり込み、術式が一時断裂!
血のような魔力液が飛び散り、実験室の空気が悲鳴を上げる。
だが、“それ”は即座に回復し、二重三重に拡張された術式を展開!
今度は音速で撃ち出される刃状の魔力弾!
---
「遅い!」
リュウ、避けない。
真正面から拳で弾き飛ばす。
爆発音のような衝撃が実験室に鳴り響く!
---
「ライガ!」
「了解」
ライガが影のように滑り込み、術核らしき器官へ手裏剣のような飛刃を投げる。
同時に地を這うように接近し、脇腹を鋭くえぐる一撃!
---
“それ”が叫ぶような音を上げた――が、すぐに術式で修復が始まる。
「くそっ、回復早すぎるぞ!」
「ガルド、抑えろ!」
「任せろッ!!」
ガルド、正面から突撃!
盾で触手を押し返し、再生部分を殴り潰しながら押し込む!
---
三人の連携が火花を散らす。
リュウの圧倒的なパワー。
ライガの刺突と速度。
ガルドの硬さと支援。
魔術生命体の高度な再生と攻撃演算を、完全に上回る連携。
---
「リュウ、今だ!」
術核が露出する一瞬。
リュウ、最大加速。
「──吹き飛べッッ!!」
拳が術核を撃ち抜いた。
爆音。閃光。爆散。
断末魔のような魔力波が実験室を満たし、崩れ落ちた“それ”は、二度と動かなかった。
---
「……終わった」
返り血ならぬ返り魔力に塗れながら、リュウが肩で息をする。
「さすが、爆竜……」
ガルドが呆れたように笑う。
「……鍋、二人前、追加」
ライガがまじめな顔で言った。
---
王都・北区、ルーゼル家の屋敷。
かつて鍋の平和を脅かしたあの事件以来、久しぶりの再訪。
エラン・ルーゼルは、落ち着いた笑みで三人を迎えた。
---
「任務、お見事でした。
想定以上の成果と、確認された魔術生命体の殲滅。……完璧です」
そう言って差し出されたのは、金貨150枚分の報酬袋と、
王都上層部からの正式推薦状だった。
---
「……これで、もう一生分……」
リュウがじわりと目を潤ませ、ガルドとライガが即座に袋を分け始める。
---
「ただ一つ、懸念がありまして」
エランが声を潜めた。
「任務に関与していたことが一部に漏れました。
……そして、あの弟が――どうにも“復讐”に燃えておりまして」
---
と、まさにそのとき。
「リュウうううううう!!! また会ったな下民がぁああああッ!!」
扉をぶち破って、以前ぶつかったあの貴族の弟が突入してきた。
豪華すぎる上着にふわっふわのマント。
しかも今回は部下を10人以上引き連れている。
---
「この屋敷でお前が優遇されてるのは聞いていたッ!!
私のプライドを地に落とした罪、ここで清算してくれる!!」
「また来たのかお前……」
リュウが金貨袋をゆっくり隠す。
---
「エラン兄上、そこをどいてください!
私はこの者を“貴族侮辱罪”で告発いたします!」
「やめてくれ……」
エランが頭を抱える。
---
「さあ部下たち! この男を捕らえよッ!!」
部下たちが一斉に剣を抜いて――
ドン。
その瞬間、全員が同時に膝をついた。
---
「っ……が、ぐっ……!? 体が……ッ!」
リュウは、ただ立っていた。
だが空気が、重力のように沈んでいた。
ステータスカンストの爆竜が、本気で“睨んだ”。
それだけで、騎士団もどきが全滅した。
---
「……帰れ」
低く、圧のこもった一言。
貴族の弟は膝をつきながら、ガタガタと震え、やがて――
「……ひっ……申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」
半泣きで逃げていった。
---
「……やれやれ。また名が売れてしまいますね」
エランが苦笑した。
「……鍋、買って帰ろう」
ライガが真顔で呟いた。
---
夕暮れの光が石畳を照らし、通りは買い物客や帰宅中の冒険者で賑わっていた。
リュウは、肉と野菜とパンを抱えて歩いていた。
ガルドとライガは別の路地で酒を買っていた。
本日の晩飯は「肉の鍋」。
---
「いや~今日は静かだったなー。平和が一番……」
そんな時だった。
ガシャッ!と前からぶつかってきた男がいた。
「おっと……すまん、見てなかっ……」
「きさま、どこを見て歩いているッ!!」
鋭く怒鳴ったその男は、妙に整った衣装に、つやつやの革靴。
後ろには、いかにも護衛らしい騎士が二人。
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(……うわ、貴族系か……)
リュウは心の中でため息をついた。
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「こ、この方を誰だと思っている!」
「第二王子付きのルーゼル公爵家のご子息ぞ!」
「お忍び中だぞ、静かにしろって言ってんのに……」
と、後ろからそっと呟いたのは、やたら綺麗な顔の青年。
だが明らかに“育ちの良さ”がにじみ出ていた。
---
「ひれ伏せ下民がああああ!!」
ぶつかってきた貴族の若様がリュウを指差す。
「てめぇがぶつかってきたんだけど……」
「言い訳するな!その荷物、粗末な鍋の材料か!この私が許すと思うのか!」
---
言いがかりもここまで来ると清々しい。
リュウは内心で「どうすっかなー」と考えていた。
相手は貴族。下手すりゃ政治沙汰だ。
だが、周囲の人間たちは皆、**“触れたくない雰囲気”**で距離を取っていた。
---
と、背後から聞き慣れた声。
「よぉ。またやってんのか」
ガルドとライガが戻ってきていた。
袋に酒瓶と干し肉を抱え、完全に買い物帰りのオーラ。
---
「お忍び中の貴族様にぶつかって、怒鳴られた。で、鍋を侮辱された」
「……それは許されん」
「……鍋は、正義」
---
リュウは荷物を地面に下ろすと、しゃがみ込んで野菜を丁寧に拾い直しながら、こう言った。
「悪いけど、鍋は諦められないんだ。今日の楽しみなんだよ。
だから……どいてくれるか?」
「この下郎がぁあ!!斬れッ!斬り捨ていッ!!」
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護衛の騎士が抜刀し、リュウに向かって――
ズドン!!
一瞬で地面に倒れた。
リュウは動いていない。
「な、何が……!?」
「……オーラに潰されたな」
ライガが呟いた。
「自覚ないけど、あいつ立ってるだけで相当な威圧感だからな」
ガルドが苦笑する。
---
「ひ、ひぃいいっ!!お、覚えていろっ!!」
貴族の若様は護衛を引きずりながら、泡を食って逃げていった。
---
リュウは溜め息をひとつ。
「――これ、届いてたぞ」
翌朝、猫のひげ亭の受付嬢がリュウに封筒を差し出した。
上質な羊皮紙に、繊細な銀の縁取り。
封蝋には、王都貴族に伝わる**“双頭の獅子”の紋章**。
---
「なんだこりゃ……高そう……」
リュウは嫌な予感しかない顔でそれを開く。
中には、流れるような筆跡でこう記されていた。
---
> 拝啓
昨日、市街にて弟が失礼をいたしました。
ご迷惑をおかけしたお詫びと、お礼を申し上げたく、
ささやかながら夕食の席をご用意しております。
どうかご一考いただければ幸いです。
――ルーゼル公爵家 長男 エラン・ルーゼル
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「……えぇ……まさかの謝罪文?」
ガルドが封筒を覗き込む。
「……お礼に食事……」
ライガがそっと箸を置く。
「昨日の鍋、すっげぇうまかったけど……貴族飯……気になるな……」
リュウが真顔で言った。
---
そしてその夜。
三人は王都北端のルーゼル家の屋敷を訪れた。
騎士たちに案内され、通されたのは、広く荘厳な応接間。
待っていたのは――
昨日とはまるで雰囲気の違う、知的で優雅な青年。
長身で金髪、目は切れ長。
品の良い礼服に身を包み、静かに一礼した。
---
「改めてご挨拶を。エラン・ルーゼルと申します。
昨日は……弟が、大変な非礼を。心よりお詫び申し上げます」
「まあ……鍋は無事だったんで」
リュウが小さく笑って返す。
「……鍋、重要」
ライガが頷く。
---
エランは微笑み、指を鳴らした。
「では。ささやかながら、お詫びの席を」
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運ばれてきた料理は、王都でも最高級と名高い貴族料理。
・香草とトリュフを使った白肉のクリーム煮
・魔獣の骨髄で煮込んだスープ
・薄くスライスされた果実と花蜜のデザート
・魔力水で作られた澄み切った葡萄酒
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「……うんめぇぇ……」
「……これは……反則だろ……」
「……舌が……震えてる……」
三人ともほぼ無言で完食した。
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その後、エランはふと真顔になり、静かに切り出した。
「実は――一つだけ、お願いがありまして」
---
「……依頼?」
リュウが眉をひそめて問うと、
エランは一度深く息を吐いてから、慎重に口を開いた。
---
「王都の南区、第五魔術院の一派が――
“禁術”に手を出している可能性があるのです」
---
その言葉に、ガルドとライガの表情が一変する。
「禁術……?」
「それ、つまり……人間や魂に干渉する系の……」
「ご明察です」
エランはゆっくりと頷いた。
---
「表向きには解体済みの研究部門。
ですが、そこに“消えたはずの研究員たち”がいるという情報がありまして……」
---
エランは机の引き出しから、数枚の資料を取り出す。
・失踪した魔術師の名前
・不自然に閉鎖された研究所
・街で目撃された“不老”に近い人物の記録
---
「……王都の警戒監査局には動きません。
証拠が不十分で、“貴族間の陰謀”と捉えられて終わるでしょう」
「つまり、公式じゃできない。だから……俺たち?」
リュウの問いに、エランは真っ直ぐに答えた。
「あなた方なら、“正面突破”も可能かと」
「……そういう評価、嫌いじゃないけどさ」
---
「……金、出るの?」
ライガが静かに口を挟む。
「当然です。情報の確保だけで、金貨70枚。
壊滅までしていただければ、150枚+保証付きの貴族認可依頼契約に変更します」
「よし、受けた」
「即決!?」
---
リュウは肩を回しながら立ち上がる。
「魔法犯罪?禁術?上等じゃん。
俺たちは鍋のために生きてるんだよ。誰にも邪魔はさせねぇ」
「……鍋、最優先」
---
こうして、爆竜パーティは――
王都の裏側、“消えた魔術師”の謎を追う任務へと踏み出した。
---
王都・南区の外れ。
廃棄されたはずの研究施設、その名は――第五魔術院跡地。
石造りの建物は一部崩れ、入り口の扉はねじ曲がり、錆びた鉄柵が枯れた蔦に覆われていた。
夜。
人気のない時間を狙い、リュウ、ガルド、ライガの三人は物音もなく敷地へと足を踏み入れた。
---
「ここ……“生きてる”感じがする」
ライガが呟く。
風もないのに、背筋に冷たいものが走る。
「見張りの気配はなし。けど……妙に“魔力”が漂ってるな」
ガルドが壁に触れながら警戒を強める。
「……誰もいないなら、進もうか」
リュウが軽く拳を握る。
---
◆ 内部
建物の中は、時間が止まったように静かだった。
埃をかぶった机、割れたフラスコ、床に散らばる記録用紙。
けれど、その全てが“不自然”なほど整然としている。
まるで、誰かがずっとここを管理していたかのように。
---
「見ろ……これは」
ライガが指差した先にあったのは、
壁に刻まれた魔方陣の痕跡。
焼け焦げたように一部だけが黒く変色している。
「何か……暴走したな、これは」
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ふと、リュウが足を止めた。
耳の奥に――声がした。
> 「……たすけて……」
「……ここから……でたい……」
「……イタイ……くるしい……」
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「っ……今の……!」
「聞こえた。魔力の残留音……」
「いや、これは……“魂”だ」
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次の瞬間。
通路の奥、閉ざされた扉が“ギィ……ッ”と自然に開いた。
そこには、何かがうずくまっていた。
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青白く透ける身体。
ぼろぼろの白衣。
だが、その顔は――人間ではなかった。
目が真っ黒に潰れ、口から血のような黒い霧が流れている。
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「……たすけて……あれを、とめて……」
「もう、だれも、いないのに……」
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リュウは一歩前に出た。
「……わかった。止めに来たんだ。だから――」
その言葉の途中で、“亡霊”は一瞬で消えた。
代わりに、奥から禍々しい魔力が噴き出す。
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「来るぞ――!」
「……せっかく鍋日和だったのになぁ。騒がしくて味が落ちそう」
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「……この扉の向こうだな」
ガルドが巨大な金属扉の前で立ち止まる。
その扉には数え切れないほどの封印痕、そして壊された鍵の残骸。
「開いてる……というか、壊されてる」
ライガが囁く。
「行こう」
リュウはためらわず一歩、闇へと踏み込んだ。
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実験室の扉を開いた瞬間、肌に感じたのは――殺意。
空気が熱を持ち、魔力が空間そのものを圧縮していた。
石床に描かれた魔方陣が光り、中央には**赤黒く脈打つ“肉塊”**がうごめいていた。
その姿は曖昧。四肢のようなものがあるが、常に形を変え、
“触れてはならない何か”の警鐘を本能が鳴らしている。
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「……術式生命体か。しかも、暴走型だ」
ガルドが低く呟き、盾を構える。
ライガはすでに姿勢を低くし、回避準備に入っていた。
そしてリュウは――拳を握る。
「黙らせる」
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瞬間、“それ”が動いた。
ギィギィと軋むような魔力音と共に、空間が歪む。
触手のような器官が鋭く伸び、床を穿ち、壁を這う。
「来るぞッ!」
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リュウ、地を蹴る!
踏み込みと同時に石床が砕け、砂煙が弾ける。
“それ”の正面から、一切の躊躇なく突進!
接近を許した“それ”は、一瞬遅れて反応した――が遅い!
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拳、直撃。
肉塊の中心部がめり込み、術式が一時断裂!
血のような魔力液が飛び散り、実験室の空気が悲鳴を上げる。
だが、“それ”は即座に回復し、二重三重に拡張された術式を展開!
今度は音速で撃ち出される刃状の魔力弾!
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「遅い!」
リュウ、避けない。
真正面から拳で弾き飛ばす。
爆発音のような衝撃が実験室に鳴り響く!
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「ライガ!」
「了解」
ライガが影のように滑り込み、術核らしき器官へ手裏剣のような飛刃を投げる。
同時に地を這うように接近し、脇腹を鋭くえぐる一撃!
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“それ”が叫ぶような音を上げた――が、すぐに術式で修復が始まる。
「くそっ、回復早すぎるぞ!」
「ガルド、抑えろ!」
「任せろッ!!」
ガルド、正面から突撃!
盾で触手を押し返し、再生部分を殴り潰しながら押し込む!
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三人の連携が火花を散らす。
リュウの圧倒的なパワー。
ライガの刺突と速度。
ガルドの硬さと支援。
魔術生命体の高度な再生と攻撃演算を、完全に上回る連携。
---
「リュウ、今だ!」
術核が露出する一瞬。
リュウ、最大加速。
「──吹き飛べッッ!!」
拳が術核を撃ち抜いた。
爆音。閃光。爆散。
断末魔のような魔力波が実験室を満たし、崩れ落ちた“それ”は、二度と動かなかった。
---
「……終わった」
返り血ならぬ返り魔力に塗れながら、リュウが肩で息をする。
「さすが、爆竜……」
ガルドが呆れたように笑う。
「……鍋、二人前、追加」
ライガがまじめな顔で言った。
---
王都・北区、ルーゼル家の屋敷。
かつて鍋の平和を脅かしたあの事件以来、久しぶりの再訪。
エラン・ルーゼルは、落ち着いた笑みで三人を迎えた。
---
「任務、お見事でした。
想定以上の成果と、確認された魔術生命体の殲滅。……完璧です」
そう言って差し出されたのは、金貨150枚分の報酬袋と、
王都上層部からの正式推薦状だった。
---
「……これで、もう一生分……」
リュウがじわりと目を潤ませ、ガルドとライガが即座に袋を分け始める。
---
「ただ一つ、懸念がありまして」
エランが声を潜めた。
「任務に関与していたことが一部に漏れました。
……そして、あの弟が――どうにも“復讐”に燃えておりまして」
---
と、まさにそのとき。
「リュウうううううう!!! また会ったな下民がぁああああッ!!」
扉をぶち破って、以前ぶつかったあの貴族の弟が突入してきた。
豪華すぎる上着にふわっふわのマント。
しかも今回は部下を10人以上引き連れている。
---
「この屋敷でお前が優遇されてるのは聞いていたッ!!
私のプライドを地に落とした罪、ここで清算してくれる!!」
「また来たのかお前……」
リュウが金貨袋をゆっくり隠す。
---
「エラン兄上、そこをどいてください!
私はこの者を“貴族侮辱罪”で告発いたします!」
「やめてくれ……」
エランが頭を抱える。
---
「さあ部下たち! この男を捕らえよッ!!」
部下たちが一斉に剣を抜いて――
ドン。
その瞬間、全員が同時に膝をついた。
---
「っ……が、ぐっ……!? 体が……ッ!」
リュウは、ただ立っていた。
だが空気が、重力のように沈んでいた。
ステータスカンストの爆竜が、本気で“睨んだ”。
それだけで、騎士団もどきが全滅した。
---
「……帰れ」
低く、圧のこもった一言。
貴族の弟は膝をつきながら、ガタガタと震え、やがて――
「……ひっ……申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」
半泣きで逃げていった。
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「……やれやれ。また名が売れてしまいますね」
エランが苦笑した。
「……鍋、買って帰ろう」
ライガが真顔で呟いた。
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