神に選ばれたのは、爆弾と俺だった。

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第一章

安宿暮らし

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「……で、空いてる部屋、ないの?」

不動産ギルドの窓口で、リュウが困り顔で訊いた。
さっきまでの“金の舞”は、もう見る影もない。


---

「王都中心区は現在、全棟満室です。
 空き予定は……四か月後ですね」

「まって、いや、え? 金あるよ?今なら前金で50枚くらい即金で出すけど?」

「お金の問題ではなくてですねぇ……前回の“魔法省の件”で、あなた危険人物リストに入ってまして……」

「そこ根に持つぅぅぅ!?」


---

 ガルドが横から口を挟む。

「なら、俺のとこに……あ、ダメだ。俺、地下酒場の裏倉庫に寝泊まりしてるわ」

 ライガは小声で。

「……オレ、野営専門。屋根ない」

「お前ら人間らしい生活してないのかよ……」


---
王都・東区の外れ。
石畳の路地にひっそりと建つ三階建ての古びた建物。
そこが、リュウたち三人が新しく借りた宿だった。


---

宿の名前は《猫のひげ亭》。

内装はボロいが、清潔で静か。
一泊銀貨3枚。素泊まり、共同トイレ、風呂は別料金。


---

「ここが俺たちの……“拠点”か」

リュウが畳の部屋でゴロゴロしながら呟く。

「悪くない。静かだし、壁は分厚い。怒鳴っても隣に響かない」

ガルドが窓の桟に腰かけ、外を眺めながら言う。

「……虫、少ない。安心」
ライガが布団をチェックしながら満足げに頷く。


---

豪華さも快適さもない。
だが、“人間らしい暮らし”がここにはあった。


---

翌日から、三人は本格的に冒険者業に取り組みはじめた。

・村への配送依頼
・街道の盗賊退治(リュウの拳で即終了)
・魔獣の駆除(ライガが素早く背後を取って首を裂く)
・商人護衛(ガルドが盾になって全てを防ぐ)


---

どの依頼も、見事な連携と実力でこなしていった。

三人は互いに言葉が少なくても意思が通じ、
毎日のように報酬が入り、食事も、寝床も、安定し始める。


---

ある夜。

猫のひげ亭の薄暗い共有スペースで、三人は飯を囲んでいた。

今日の夕食は――焼き魚、パン、スープ。

「……これ、旨いな」

「当たり前だ。俺が買ってきたからな」

「……魚は生より焼いた方がいい」


---

静かで、落ち着いた時間。

リュウは、ふと口元を緩めた。

「こういう生活……悪くねぇな」


---
冒険者ギルド・王都本部。
受付カウンターの裏で、職員たちがざわざわと話していた。

「最近あの三人、やたらと依頼の達成スピード早くない?」

「しかも全部、被害なし・怪我なし・物損なし。……たぶん一番すごいのはそこ」

「スキル未登録なのに、いつの間にかランクBだし……」


---

そう、リュウ・ガルド・ライガの三人組は、
見た目は地味、報告もあっさり。
だが、依頼の成果は驚異的な成功率。


---

ギルド内では密かにこう呼ばれ始めていた。

「……あの三人、何者?」

「実は、別の国の処刑部隊だったりして……」

「いや、爆竜って呼ばれてたあのリュウじゃね?」

「え、マジで!?」


---

そんな中、ある一通の封筒が彼らのもとに届けられる。

差出人:
王都ギルド上層部・探索課

内容:
《西部ダンジョン群第七区画》における、
未確認領域の調査依頼。
参加メンバーの一部欠員のため、実力評価の高い即応可能パーティを急募。


---

「……まさか、俺たちに白羽の矢が立つとはな」

ガルドが封筒を眺めながら言う。

「地味にこなしてたら……地味に目立ってたみたいね」

リュウがニヤリと笑う。

「ダンジョン……好き」

ライガの目が静かに光る。


---

調査は一週間後、王都から西へ3日。
複数パーティによる合同探索。
三人は“臨時参加”という立場で加わることに決まった。


---

「やっと……ちょっとだけ、冒険者らしくなってきたな」

安宿《猫のひげ亭》の一室。
リュウは装備の点検をしながら、満足げに言った。

「でも、調査依頼ってことは……戦闘、あるな?」

「……むしろ、あった方がいい」
ライガがさらりと答える。

「お前ら、血の匂いに飢えてねぇか?」


---
王都から西へ、馬車で三日。

広大な平野の先に、黒い岩の裂け目のような入口がぽっかりと開いていた。

これが――
西部ダンジョン群 第七区画


---

リュウ、ガルド、ライガの三人は、調査隊の一員としてそこに立っていた。

他にも、王都ギルドから派遣された冒険者が二組、
合計で四パーティ・総勢11人。


---

「おい新人ども、足引っ張るなよ?」
「Fランク上がりって聞いたぞ?」

同じ調査隊の中堅パーティのひとりが、リュウたちに笑いかける。
挑発的な、どこか見下すような目。


---

「……うん、よろしく」
リュウは軽く笑って受け流す。

だがライガはフードの奥で、静かに目を細めていた。


---

◆ 地下一層:調査開始

中は異様なまでに静かだった。
足音だけが広がり、湿った空気が肌にまとわりつく。

壁は黒曜石のように光を反射し、
ところどころ、意味不明な魔方陣がうっすらと浮かび上がっている。


---

「罠も魔物も……出ないな」

ガルドが肩の重剣を軽く背負い直す。

「静かすぎる。……罠が“動いていない”」

ライガの言葉に、他の冒険者たちがざわめいた。


---

「なぁ、あんたら……何か、変だと思わないか?」

「俺らも何度かこのダンジョン入ってるが、こんなに“静まり返ってる”のは初めてだ」


---

そのとき。

カツン。

ひとつ、石を蹴ったような音。

全員が一斉に止まる。


---

次の瞬間、通路の奥の闇から、
白く爛々と光る“目”が十以上、じっとこちらを見つめていた。


---

「っ……来るぞッ!!」

だが、出てきたのは――

骨の兵士たち。

ガシャアアン!と音を立てて、剣と槍を持つスケルトンがなだれ込む。

しかも、普通のスケルトンではない。
骨が黒く、動きが早い。魔力をまとっている。


---

「なんだこいつら、強化されてるぞ!?」

「魔力が……周囲の空間ごと歪んでる!」


---

リュウは、剣をまだ抜かずに一歩踏み出す。

「よし、様子見はここまで。
 ……地下の連中、ちょっと叩くか」


---
「おい、リュウ!剣は!?」

ガルドが振り返りざまに叫ぶ。
リュウは肩をすくめて、軽く手を広げた。

「ごめん、置いてきた。重いし」

「てめぇ……!!」


---

 通路の先、黒骨のスケルトンが次々と姿を現す。

 目の奥で光る魔力の残滓。
 黒くねじれた骨格。
 そして、その数――50以上。


---

 ギルドの他パーティがざわつく。

 「ちょ、待て待て、こいつらAランク級の魔力持ってるぞ!?」  「おい撤退だ、こんなの聞いてねぇ!」


---

 だがリュウは、一歩前へ踏み出した。

 魔法は使わない。
 スキルも封印中。
 剣もない。

 あるのは――

 ステータス999×全身。


---

「……ぶっ壊していいなら、俺がやる」

「……ああもう、やっちまえ!!」

ガルドが開き直った。

ライガは静かに構えを解き、通路の端に移動する。

「リュウ、前、任せた」


---

 リュウ、ダッシュ。

 一歩で石畳にヒビ。

 次の瞬間、拳がスケルトンの頭に炸裂。

 ゴシャッ。
 まるで陶器を砕くように、黒骨の頭が粉々に弾けた。


---

 左ストレート、ボディ一撃、回し蹴り。

 殴るたびに骨が飛ぶ。
 蹴るたびに通路が揺れる。


---

「数が多いなら――まとめて砕く!!」

 壁を蹴り、反対側に跳躍。

 宙で一回転しながら、両脚でスケルトン2体を挟み撃ち――
 骨ごと胴体がバラバラに。


---

 後続のスケルトンが、リュウを取り囲む。

 ガシャガシャと剣を振るうも――
 一撃も当たらない。

 その速さ、回避の軌道が、常識外。


---

「化け物だろ……」
 ギルド冒険者が呆然と呟いた。

「素手で黒骨相手に無双って、何者なんだよ……」


---

 そして1分後。

 黒骨50体、すべて粉砕。

 あたりには魔力の残滓と、バラバラになった骨の山。
 リュウは、微塵の汗もかかずに立っていた。


---

「……あ、しまった。アイテムボックスに剣入れてたんだった」

「てめぇ今言うな!!」


---
「よし、終わったな」

リュウは手をパンパンと払い、骨まみれの手袋を脱いだ。

ガルドとライガも黙って頷く。

扉の前には行った。
それ以上は、開けていない。

怪しげな封印、意味不明な骨の山。
全部、ギルドに報告する。それが任務だ。


---

◆ 王都ギルド・本部

受付に戻って報告を終えると、即座に手続きが行われた。

「臨時参加扱いでしたが、内容・成果ともに素晴らしい結果です。
 報酬は、おひとり金貨15枚になります」

「うおおお、また稼げたあああ!!」

リュウ、思わずガッツポーズ。

「これで飯が食えるな……」
「……酒も飲める……」


---

そしてその夜。

安宿《猫のひげ亭》、共同食堂。

三人は揃ってテーブルを囲み、ちょっと贅沢な夕飯を楽しんでいた。


---

メニューは:

・分厚い牛ステーキ(焼き加減:ミディアム)
・バター香るジャガ芋のオーブン焼き
・野菜たっぷりのスープ
・もちもちの白パン
・そして、果実酒(微発泡)


---

「……うまっ……うまっ……」
リュウが目を潤ませながら肉をかじる。

「冒険者って、案外いい職業だな……」
ガルドは既に二杯目の酒で顔が赤い。

「このスープ、スパイスが……最高」
ライガが静かにスプーンを握りしめていた。


---

食後。
宿の屋上にて、三人は寝転びながら夜空を見上げていた。

「……たまにはさ、こういう日もいいよな」
リュウがぽつりと呟く。

「戦いもいいが、こういう飯が……生きてるって感じする」

「……空、きれい」


---

星が瞬く静かな夜。

このときだけは、誰も“爆竜”なんて思わなかった。
ただの若者たちの、平和な日常。


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