ハッタリと適当で世界を救う ~泣きそうだけど最後まで貫く~

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第1章

もう一人の"賢者"、現る!?

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「賢者様!! 大変です!!!」

 俺は、王国の重臣たちに呼び出され、すでに嫌な予感しかしなかった。

(頼む、もう俺を巻き込まないでくれ……!!!)

 今まで俺は、適当に考えた**「魔法の流れ理論」や「剣気理論」**で勇者を鍛え上げ、
 さらに隣国との食糧交渉を乗り切ったことで、完全に王国の大賢者として崇められる存在になってしまった。

(そろそろボロが出るぞ……本当にヤバいぞ……)

 しかし、俺の予想を超える"ヤバい事態"が発生していた。

「……王都に、"賢者を名乗る者"が現れました」

「……は?」

(ちょっと待て、それ俺の役職なんだけど!?)




 王宮の謁見の間。
 そこには、白いローブを纏い、いかにも"賢者っぽい"雰囲気を醸し出した男が立っていた。

「ふっ……やっとお目にかかれましたね。"自称"大賢者ヨウダ・コウイチ殿」

(なんか、めっちゃ煽られたぁぁぁ!!!)

 男はニヤリと笑い、ゆっくりと手を広げる。

「私は**"賢者レヴィン"**。本物の知識を持つ者にして、この国を正しく導く存在です」

(いや、俺だって導くつもりなんてねぇよ!!!)

 そして、レヴィンは堂々と言い放った。

「ここにいる"ヨウダ・コウイチ"が、果たして"本物の賢者"なのか……それを明らかにするため、私はここに来たのです」

(やばい!! 俺、完全に詰んでる!!!)




「むっ……この者が本物の賢者を名乗るとは!!」
「賢者様とどちらが本物か、見極める必要があるのでは……?」

(いや、俺が本物なわけじゃねぇんだよ!!!)

 俺は必死に冷静を装いながら、ソフィアに視線を送る。
 すると、彼女はフッと微笑み――。

「……面白いですね。"本物の賢者"ならば、それを証明してみせるべきでは?」

(おい、なんで煽るんだよ!!!)

 しかし、国王ヴァルガスも頷く。

「よし、では決めよう。"賢者の試練"を行い、どちらが真に賢者たる者かを示すのだ!」

(俺が決めるんじゃなくて、王が決めちゃったぁぁぁ!!!)



「……試練とは?」

「簡単なことです。"知恵"を示すだけのこと」

(知恵……って、それ俺が一番持ってないやつぅぅぅ!!!)

 だが、もう逃げられない。

 俺はレヴィンと向かい合い、王国の重臣たちが見守る中で"賢者対決"が始まることになった。

(くそっ!! こうなったら、また適当に乗り切るしかねぇ!!!)



「では、"賢者の試練"を始める!!!」

 国王ヴァルガスの声が響き渡る。
 俺は、目の前の"偽賢者"レヴィンと向かい合い、汗が止まらなかった。

(やばい、どうしよう……!!)

 今まで適当な理論をでっち上げてなんとか生き延びてきた俺が、
 "本物の賢者"を名乗るヤツと直接対決することになった。

 しかし――。

「では、第一問です」

 審査役の学者っぽい爺さんが、分厚い本を開きながら言った。

「仮に、魔力流動係数が通常の1.7倍に上昇した状態で、エネルギー保存則に基づく高次魔法式を適用した場合、理論上の魔法発動効率は何パーセント向上するか?」

(…………)

(………は?)

 何言ってるか全然分からない。

「……賢者様?」

 周囲が俺の回答を待っている。

(やばい、マジで意味が分からない……)

 冷や汗が止まらない。
 足がガクガク震える。

 なんとか答えをひねり出そうと、頭をフル回転させるが――。

(無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!)

 結論が出た。

 俺は、震える声で――。

「……無理」

 そう答えた。

「…………」

 静寂が訪れる。

 審査役の爺さんも、レヴィンも、王国の重臣たちも、全員が固まっていた。

(終わった……俺の"大賢者人生"、ここで終了か……)

 しかし――。

「……なるほど……!!」

 グラディウス伯爵が、何かを悟ったように頷いた。

「さすが賢者様……!!」

(えっ、なんでそうなるの!?!?)


「確かに……!!」

「"無理"……つまり、その数値計算を求めること自体が誤りであると……!!?」

「つまり、賢者様は"答えを求めること自体が無意味"だと看破されたのか……!!」

(違う違う違う違う!!!! 俺はただ本当に無理だっただけなんだよ!!!!)

 しかし、すでに周囲は俺の答えを"深遠な哲学的解答"として受け取っていた。

 そして――。

「この試練、第一問は"賢者ヨウダ・コウイチ殿"の勝利とする!!」

「「おおおおお!!!!!」」

 俺の意図しない方向で、まさかの勝利が確定した。

(もうやだぁぁぁぁ!!!!)

---

「では、第二問です!!」

 審査役の学者爺さんが、厳かに宣言する。

(……ちょっと待って、俺まだ第一問の衝撃から立ち直れてないんだけど!?)

 第一問、俺は問題の意味すら理解できず、泣きそうになりながら出した答えが**「無理」。
 しかし、それが「答えを求めること自体が誤り」**という深遠な哲学的解釈をされ、まさかの勝利を収めてしまった。

(もう逃げられない……俺、あと何問答えなきゃいけないんだ……!?)

 冷や汗ダラダラ、足ガクガク震えながら、次の問題を待つ。

「……第二問」

 学者爺さんが、またしても分厚い本を開きながら言った。

「直径200メートルの隕石が、秒速15キロメートルで落下してきた場合――。
 魔力障壁で防ぐには、最低限どのくらいの魔力量が必要になるか?」

(………………)

(………は?)

「……賢者様?」

 周囲が俺の回答を待っている。

(いやいやいやいや!!! 無理だろ!!!)

 どこをどう計算すればいいのかも分からない。
 そもそも、そんな隕石、魔力障壁とか以前に王国ごと吹っ飛ぶんじゃね!?

 頭をフル回転させた結果――。

「……いや、無理だろ。」

 俺は正直に答えた。

「………………」

 またしても静寂が訪れる。

(あ、今度こそ終わったかも……)

 しかし――。

「……!! そ、そうか……!!」

 突然、王国の重臣の一人が感動したように声を上げた。

「賢者様は、この問いの本質を見抜かれたのだ……!!!」

(ちょっと待て、また何か勝手に解釈されてるぞ!?)



「確かに!!」

「この計算を行う前提として、"魔力障壁で防ぐ"という概念自体が"無謀"であると見抜かれたのでは!?」

「つまり、賢者様は"最適解を求めることすら無意味"であると示されたのだ!!」

(違う違う違う!!! 俺、ただ無理だと思っただけなんだよ!!!)

 しかし、すでに周囲は俺の答えを"世界の理を見極めた至高の解答"として受け取っていた。

「この試練、第二問も"賢者ヨウダ・コウイチ殿"の勝利とする!!」

「「おおおおお!!!!!」」

 俺の意図しない方向で、またしてもまさかの勝利が確定した。

(もうやめてくれぇぇぇぇ!!!!)

---

「では、最終問題です!!!」

 審査役の学者爺さんが、神妙な面持ちで宣言する。

(うわぁぁぁぁぁ!!! もう無理だってぇぇぇ!!!)

 第一問、俺は何も分からず「無理」と言ったら、**「答えを求めること自体が誤り」という超理論で勝手に解釈されて勝利。
 第二問、今度こそ絶対無理だと「いや、無理だろ」と言ったら、「最適解を求めることすら無意味」**と深読みされ、また勝利。

(もう逃げられねぇ……!! でも、これ以上こんな無茶苦茶なやり方、続けられる気がしねぇ!!!)

 俺の脳は限界だった。

 額からは滝のような冷や汗、膝はガクガク震え、呼吸すら浅くなっている。
 頭の中は**「帰りたい」「俺の人生どこで狂った?」「これ終わったら飯なに食おう?」**の三つで埋め尽くされていた。

 そして――。

「では、最終問題を出します」

(くそぉぉぉぉ!!! もうどうにでもなれぇぇぇ!!!)


「この世界の"真理"とは何か?」

「…………」

 ……え?

(……いやいやいやいやいや!!! なんだその壮大すぎる問い!?)

 魔力とか魔法理論とか計算問題じゃなくて、
 世界の"真理"って……そもそも答えあんのかよ!?

「……賢者様?」

 周囲が俺の回答を待っている。
 偽賢者レヴィンも、ニヤニヤしながら俺を見ている。

(やばい、これはマジで逃げ場がない……!!!)

 俺は、必死に考える。

(えっ、どうすればいいの!? "真理"ってなに!? 神とかそういう話!? それとも哲学!?)

 しかし、いくら考えても答えが出る気配がない。
 だって、俺はただのフリーターだった男だぞ!?

(……いや、もう無理!!! 知らん!!!)


 俺の脳は、限界を超えた。

「……っ!!!!」

 俺は立ち上がり、机をドン!!と叩き――。

「分かるわけねぇだろ!!!!!!」

「「「!!!!?」」」

 その場の全員が驚いて固まる。

「お前ら、自分で考えろや!!! 世界の真理なんか、そう簡単に分かるか!!?」

「な……!!??」

「知るかよ!! そんなの、生きてりゃ分かるもんじゃねぇのか!??」

 俺は、もう自暴自棄になっていた。

「毎日頑張って生きて、苦労して、それでも前に進む……それが世界の真理じゃねぇのか!??」

「……!!」

「なぁ!? お前らだって、生きてるだろ!? だったら、自分で答えを見つけろよ!!!!!」

 俺の叫びが、王宮に響き渡る。

(……終わった……これで俺の賢者人生は終了だ……)

 そう思ったその時――。


「……!!」

「………………!!!」

 周囲の空気が、一変した。

「まさか……!!」

「賢者様は"答えを出すこと"自体が誤りだと見抜かれたのか……!!!」

(いや、違う、俺はただキレただけなんだが!?!?)

「"真理とは、答えを求めるものではなく、自らの手で探し続けるもの"……!!」

「"知ることではなく、歩み続けることこそが真理"……!!!」

「「おおおおおおお!!!!!」」

 気づけば、国王ヴァルガスを筆頭に、王国の重臣たちが涙を流しながら頷いていた。

「深い……なんという深淵なる思想……!!」

(もうやめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!)

 そして――。

「この試練、最終問題も"賢者ヨウダ・コウイチ殿"の勝利とする!!」

「「おおおおおおお!!!!!」」

 結局、俺はまた勝ってしまった。



 その時だった。

「……くっ、こんな茶番に付き合ってられるか!!!」

 レヴィンが、静かに後退し始める。

(あっ、こいつ逃げるつもりだ!!)

 しかし――。

「捕らえよ!!」

 国王の号令が飛ぶや否や、王国の騎士たちが一斉に動き、
 あっという間にレヴィンを取り押さえた。

「ちっ……!! 離せ!!!」

(いやいや、しれっと逃げようとすんなよ!!!)

 そして、騎士たちはレヴィンの身元を調査。

「調べたところ……こやつは、"ゼルヴァ帝国の詐欺師"として指名手配されていた者のようです!!」

「なっ……!!?」

「つまり、こいつは"偽賢者"でもなんでもなく、ただのペテン師か!!!」

(えぇぇぇぇぇぇ!!!!)

 レヴィンは歯を食いしばりながら、俺を睨んでいた。

「くそっ……なぜだ……なぜお前の適当な言葉が、ここまで人々を惹きつける……!!!」

(俺が聞きてぇよ!!!)

 こうして――偽賢者レヴィンは捕まり、俺の"勝利"が確定した。


---

ソフィアとの反省会(もう無理かもしれない)

「……おい、ソフィア」

「はい?」

「俺、また勝っちまったよな……?」

「ええ。"賢者様の思想"として、今後の王国の教育方針にも影響を与えるかもしれませんね」

「いや、俺、ただキレただけなんだけど!!?」

 俺は頭を抱える。

(もう、逃げられねぇ……)

「では、賢者様。"次の試練"はどうします?」

「……!!!」

(また試練が来るのかよぉぉぉ!!!)

 俺の胃は、もう限界を超えていた。
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