ハッタリと適当で世界を救う ~泣きそうだけど最後まで貫く~

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第2章

賢者、最大のピンチ!?(マジで逃げたい)

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黒い霧に包まれた亡霊の王が、俺をじっと見つめている。

「貴様が"賢者"か……」

 その声は、氷のように冷たく、俺の背筋を凍らせた。

「その魂……我が不死の軍勢に加えてやろう……」

(いやぁぁぁ!!! 勘弁してくれぇぇぇ!!!)

 俺は全身から冷や汗を流し、必死に足を踏ん張る。

(ここで動揺したら終わる……! 何か、それっぽいことを言わないと!!!)

 俺は、死霊王の言葉に負けないよう、できるだけ低く、威厳のある声で答えた。

「……"それは無理だ"」

「「「おおおおお!!!!!」」」

(頼む、勝手に深読みしてくれ!!!)



「さすが賢者様!!!」

「"死霊王の提案を一蹴することで、こちらの意思を示す"……!!」

「つまり、"俺たちの軍勢は不滅だ"という意味か!!!」

(違う!!! 俺はただ断っただけだぁぁぁ!!!)

 だが、王国軍の兵士たちの士気は上がった。

「よし!! 王国軍、隊列を維持しろ!!」

「奴の術に惑わされるな!!!」

(いいぞいいぞ!! 俺は何もしなくても勝手に状況が進んでいく!!!)

 だが――

「ククク……愚かな……」

 ネザーレイスが静かに笑った。

「ならば、力ずくで貴様の魂をいただくとしよう……!!!」

「……!!?」

(おいおいおい、やっぱりそうなるのかよぉぉ!!!)


「貴様ら、絶望するがいい……!!」

ズズズズズ……!!!

 ネザーレイスが片手を上げると、無数の死霊兵が地面から湧き上がった。

「骸骨兵が……増えていく!!!」

「これではキリがない!!」

「賢者様!! どうすれば!!?」

(そんなの俺が知るかぁぁ!!!)

 だが、俺はここで適当に指示を出すことにした。

「……"数を減らせ"」

「「「おおおおお!!!!!」」」

(頼む、勝手に深読みしてくれ!!!)

「つまり!! "まずは数の多い雑兵を減らし、戦場の混乱を抑えろ"ということですね!!!」

(そういうことにしといてくれ!!!)

「よし!! 魔法部隊、広範囲攻撃を開始!!!」

「ファイアストーム!!!!」

「ライトニングボルト!!!!」

ドゴォォォォン!!!!

 王国軍の魔法部隊が一斉攻撃を開始し、死霊兵を吹き飛ばしていく!!

(おおおお!! なんか上手くいってる!!!)



「フフフ……なかなかやるな……」

 だが、ネザーレイスはまだ余裕の表情だった。

「だが、生者よ……貴様らの力が尽きる前に、貴様らの魂を狩り尽くしてやろう……!!!」

ズズズズズ……!!!

 空間が歪み、巨大な影の騎士が現れた。

「"奈落の騎士"……!!」

「これはまずい!! 強力なアンデッドが……!!」

「賢者様!! どうすれば!!?」

(いやいや、知らねぇよ!!!)



 俺は、ここで何か言わないといけないと思い――

「……"動きを封じろ"」

「「「おおおおお!!!!!」」」

(頼む、勝手に深読みしてくれ!!!)

「つまり!! "敵の機動力を奪い、こちらの優位を確保せよ"ということですね!!?」

(そういうことにしといてくれ!!!)

「よし!! 魔法部隊、凍結魔法を使え!!!」

「"フリーズ・ストーム!!!!"」

「"アイスランス!!!!"」

ズガァァァァァァン!!!!

 巨大な影の騎士が、氷に包まれて動きを鈍らせる!!

(おおおお!! またしても成功!!!)



「貴様……」

 しかし――

「賢者よ……貴様の力、確かに厄介だ……」

「……!!?」

(え、えぇぇぇ!!!? 俺、なにもしてないんだけど!?!?)

「ならば、直接貴様を屠るまでよ……!!!」

「待て待て待て!!! 俺は戦う気ないってば!!!」

ズズズズズ……!!!

 ネザーレイスの影が俺の方へ向かってくる。

「ぐぬぬ!! 賢者様が狙われている!!!」

「守れ!! 賢者様を死なせるな!!!」

(いやいやいや、俺、死にたくないってばぁぁ!!!)

 こうして――

 俺はガチで逃げないとヤバい状況に追い込まれたのだった。


---

死霊王ネザーレイスの影が、俺を狙って襲いかかる。

「待て待て待て!!! 俺は戦いたくないんだってばぁぁ!!!」

「フフフ……貴様の魂を我が軍勢に加えてやる……!」

 ネザーレイスの手から、黒い魔力が伸びてくる。
 それが触れた瞬間、俺はきっと"アンデッド"にされる。

(やべぇぇぇ!!! 本当にやべぇ!!!)

「誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!!!」

 その時――

ズガァァァァァン!!!!

「……何?」

 俺を襲おうとしたネザーレイスの魔力が、別の力に打ち消された。

「賢者様に触れることは許しません」

 そう言いながら、一人のエルフの女性が前に出た。

「ソフィア……!!!」



「貴様……何者だ?」

 ネザーレイスが警戒の色を見せる。

 しかし、ソフィアは表情を変えずに淡々と答えた。

「そんなこと、あなたには関係ないわ」

(えっ!? 強気すぎるだろ!!!)

 ネザーレイスが目を細める。

「なるほど……只者ではないな」

「……ええ、そうよ」

 ソフィアは、スッと手を前に掲げた。

「"聖光爆裂"(ホーリー・エクスプロージョン)」

ズガァァァァァァン!!!!

 光の爆発がネザーレイスを直撃し、周囲の死霊兵たちを吹き飛ばした。

「ぐおおおお!!!」

(えっ!? こいつ、こんなに強かったの!?!?)



「……"光の魔法"か……!」

 ネザーレイスが低く唸る。

「貴様、生半可な力ではないな……」

「当たり前でしょう?」

 ソフィアは、相変わらず涼しい顔で答える。

「あなたのような"死霊術師"は、光属性の攻撃には滅法弱い」

「ほう……ならば、試してみるがいい」

 ネザーレイスが手を掲げ、影の槍を無数に作り出した。

「"闇槍の乱舞"(ダークランス・テンペスト)」

 黒い槍が、雨のようにソフィアへ降り注ぐ。

ズガガガガガガ!!!!

「……!!!」

「ソフィア!!!」

 しかし――

「ふう……やれやれ」

 ソフィアは手をかざし、静かに呟いた。

「"聖盾結界"(ディバイン・バリア)」

 光のドームが形成され、すべての闇槍を無効化した。

「……なっ!?」

(えっ!? ソフィア、めちゃくちゃ強くね!?!?)



「さて……私からも一撃お見舞いしましょう」

 ソフィアは、手のひらに眩い光を凝縮する。

「"聖光槍"(ホーリーランス)」

ズドォォォォン!!!!

「ぐあああああ!!!」

 ネザーレイスが、完全に吹き飛ばされる。

(うわぁぁぁ!!! なんかすごいことになってるぅぅ!!!)

 しかし、ネザーレイスはギリギリのところで態勢を立て直した。

「……ククク……やるではないか……」

 だが、その身体はボロボロになっていた。

「しかし……まだ終わらぬ……!!」

 ネザーレイスが、最後の力を振り絞るように何かをしようとしている。

「賢者様!! トドメを!!」

「えっ!? 俺!?!?」

(いやいやいや、無理無理無理!!!)



(ここは……適当なことを言うしかない!!!)

 俺は、賢者らしい態度を作り、静かに言った。

「……"終わらせろ"」

「「「おおおおお!!!!!」」」

(頼む、勝手に深読みしてくれ!!!)

「つまり!! "最後の一撃を加えて、ネザーレイスを完全に消し去れ"ということですね!!?」

(そういうことにしといてくれ!!!)

「よし!! 銀狼の剣、総攻撃!!!」

「「「おおおおお!!!!!」」」

ズガァァァァァン!!!!

 魔法と剣撃が一斉に放たれ――

「ぐ……が……!!!」

 ネザーレイスは、ついに力尽きて霧散した。

「……ふう」

 ソフィアが静かに息をつく。

「やりました!!!」

「死霊王ネザーレイス、討伐成功!!!」

「「「賢者様ばんざぁぁぁぁい!!!!」」」

(いや、俺何もしてねぇ!!!)



 戦場は沈黙し、王国軍の勝利が確定した。

 しかし――

「……賢者様」

「……ん?」

 俺の背後で、ソフィアがじっとこちらを見ていた。

(……あっ、これヤバい)

 彼女は、静かに近づき、俺の目の前でピタリと立ち止まった。

「……本当に何もしていませんでしたね?」

「……」

 俺は、できるだけ気配を消して目を逸らした。

「……まぁいいです。"私がいなければ即死だった"ということは忘れないでくださいね?」

「……あ、ありがとう、ソフィア」

 すると――

「……仕方ないですね」

 ソフィアは、ほんの少し微笑んだ。

(……えっ、ちょっと可愛くない?)

 こうして――

 俺はソフィアのおかげで、またしても命拾いしたのだった。

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