ハッタリと適当で世界を救う ~泣きそうだけど最後まで貫く~

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第2章

帰国、そして英雄扱い

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俺たちは死霊王ネザーレイスを討伐し、帝国北部を制圧した。

 これで、王国の支配は帝国全域に及ぶことになった……らしい。
 いや、俺はただ適当に指示を出していただけなんだけど。

(……まぁ、これでやっと王都に戻れるな!!)

 戦いの連続で、俺はもう心身ともにボロボロだった。
 せめて王宮でのんびりできるはず……そう思っていたのだが。

「賢者様!!」

「王都の人々が、あなたの帰還を待っています!!」

「……え?」

(嫌な予感がするんだけど……)



 王国へ戻ると、俺たちを待っていたのは"熱狂的な歓迎"だった。

「「「賢者様、ばんざぁぁぁぁい!!!!」」」

(……えっ!?)

「賢者様が魔王軍を撃退し、帝国を統治下に置いた!!!」

「賢者様こそ、王国の光!!!!」

「賢者様がいなければ、我々は滅んでいたのだ!!!」

(ちょっと待て、お前ら何も知らねぇだろ!!!)

 俺はただ"終わらせろ"とか"様子を見ろ"とか言ってただけなんだけど!?

(ヤバい……これ、今までで一番ヤバい展開かもしれない……)



「王宮にて、"賢者様の偉業を称える祝賀会"が開かれることになりました!!!」

「王自ら、賢者様を迎えます!!!」

(待て待て待て待て!!!)

 俺は逃げる隙を探したが、王国軍の兵士たちにがっちり囲まれていた。

(これ、逃げられないやつだ……)

 そして――

 王宮に到着すると、俺のための大規模な祝賀会が開催されることになった。

「賢者様、おめでとうございます!!!」

「まさに王国の英雄!!!」

(やめろぉぉぉ!!! 俺は英雄じゃねぇ!!!)




「よく戻ったな、賢者よ」

 王国の王が俺を見つめる。

「そなたの働きにより、我が王国は魔王軍の脅威を退け、帝国を手中に収めることができた。」

「これは偉業である!!!」

「よって、賢者よ――」

(えっ……やめて……その先は言わないで……)

「そなたに**"公爵位"を与える!!!」

「「「おおおおおおおお!!!!」」」

(終わったぁぁぁぁぁ!!!!)



 俺は何もしてないのに、公爵になった。

 当然、王宮内では貴族たちが騒然となった。

「しかし、賢者様は王国の者ではないのでは?」

「異国の者に公爵位を与えるのは……」

 そう言った貴族たちに対し、王は静かに言った。

「"国を救った者"に、国籍など関係ない」

「そなたらは、賢者の功績を疑うのか?」

「「「い、いえ……!!」」」

(いやいや、俺をそんなスゴい奴みたいに持ち上げるなぁぁぁ!!!)



 式典が終わった後――

「……賢者様、公爵になられましたね」

「……」

 俺は、ソフィアの冷たい視線に耐えることができなかった。

「どういうお気持ちですか?」

「えっ、いや、その……」

「"何もしていないのに、公爵になった気分"はいかがですか?」

(やめろぉぉぉ!!!)

「まぁ……仕方ないですね」

 ソフィアは、少し溜息をついた。

「……あなたが王国の重臣になったということは、これからは**"逃げられない"ということでもありますけどね?」」

「……え?」

(ちょっと待て、それどういう意味だ!?)


 俺はただのハッタリ野郎なのに、王国の公爵にされ、英雄扱いされてしまった。

(もう……俺の平穏な生活、完全になくなったよな……)

 しかし――

「賢者様!!!」

 またしても、兵士が駆け込んできた。

(あぁぁぁ!!! 絶対また何かあるぅぅぅ!!!)

「"新たな魔王軍の動きが確認されました!!"」

「……」

(……もうやだぁぁぁぁ!!!)

 こうして――

 俺の"賢者としての苦難"は、まだまだ続くのであった。


---

「賢者様!!!」

(うわぁぁぁ、またかぁぁ!!!)

 またしても兵士が血相を変えて駆け込んできた。
 もう聞き飽きたこの流れ……。

「"魔王軍の動きが活発化している"との報告が入りました!!!」

(だから俺に言うなって!!!)

「賢者様、どうされますか!?!」

 俺は、できるだけ威厳を保ちつつ、またしても適当に言うことにした。

「……"探れ"」

「「「おおおおお!!!!!」」」

(よし、勝手に深読みしてくれ!!!)

「つまり!! "銀狼の剣に調査を命じよ"ということですね!!?」

(そういうことにしといてくれ!!!)

「よし!! 銀狼の剣、帝国周辺の偵察を開始せよ!!!」

「「「了解!!!!」」」

 俺はまたしても丸投げに成功した。



王国の英雄として祀り上げられ、公爵にされてしまった俺。

 そのせいで、王宮内の仕事は増えるし、戦争の話も次々に舞い込んでくる。

(……もう疲れた……休みたい……)

 そう思っていたところに、ソフィアの提案。

「たまには気分転換をされては?」

 ということで――

 変装して、王都を散策することになった。


---

 フード付きの旅人の服に身を包んだ俺は、王都の街をゆっくり歩く。
 ソフィアもシンプルな白いワンピースのような服を着ており、普段とは違う雰囲気だった。

(……なんか、新鮮だな)

「……どうしました?」

「いや、普段のソフィアと違う感じがしてな」

「……気のせいですよ」

 彼女は表情を変えずに答えたが、どことなく落ち着いた雰囲気だった。



 王都の繁華街を歩きながら、ふと目に留まったのは洒落たカフェ。

「おい、あれ……甘いものじゃないか?」

「ええ、たまにはいいですね」

 俺たちはカフェに入り、甘いお菓子と紅茶を頼んだ。

「……ふう……やっと落ち着いた」

「お疲れ様です、賢者様……じゃなかった、"ただの旅人"」

「それな」

 こんなふうに何のしがらみもなく、のんびりする時間なんて、いつぶりだろうか。

(……やっぱり、こういう時間は必要だな)

 そんなことを考えていると――

ゴトン!!!

 店内で、突然揉め事が発生した。


「おい!! てめぇ、ぶつかってきておいて謝らねぇのか!!?」

 隣のテーブルで、屈強な男が立ち上がり、痩せた男の襟首を掴んでいた。

「す、すみません!! ですが、そちらが急に動かれたので……」

「言い訳すんじゃねぇ!!」

 男の周囲には、同じようなガラの悪い奴らが数人。

 ……これは、完全にゴロツキの喧嘩沙汰だ。

(……やばいな、関わらない方がいいな)

 俺はさりげなく目を逸らし、ソフィアに視線を送る。

(よし、ここは静かにやり過ごして――)

「……」

 しかし、ソフィアが立ち上がった。

(えっ!? ちょっと待て!!?)


 彼女は無言で、ゴロツキたちの間にスッと割って入る。

「……何だ、お前?」

「すみませんが、店内で騒ぐのはやめていただけますか?」

「はぁ!? てめぇ、何様のつもりだ!!?」

 ゴロツキの一人が、ソフィアに掴みかかろうとする――

パシッ!!!

「っ……!?」

 一瞬の動きで、ソフィアは男の手を払った。

「……」

 その動きの無駄のなさに、ゴロツキたちが一瞬たじろぐ。

「……あなた方は、ただの喧嘩で終わらせるつもりですか?」

 ソフィアの静かな声に、男たちは戸惑い始める。

「この店の中には、他のお客様もいます。
 あなた方が騒ぎを起こせば、店の評判も落ち、商売にも影響が出るでしょう。」

「……」

「あなた方が本当に"強者"なら、無関係な人を巻き込まず、"外"でやるべきでは?」

 男たちは顔を見合わせる。

「……ちっ!!」

「……クソッ、行くぞ!!」

 ゴロツキたちは舌打ちしながら、店を後にした。



 カフェの店主が、ホッとした顔でソフィアに礼を言う。

「ありがとうございます、お嬢さん」

「いえ、当たり前のことをしただけです」

 ソフィアは、何事もなかったかのように席に戻った。

(……すげぇな)

 彼女は、何も力を使わずに、圧倒的な雰囲気で問題を解決した。

「……やっぱり、お前すごいな」

「? 何の話です?」

「いや、さっきのさ……普通ならあそこで暴力沙汰になってたかもしれないのに、言葉だけで収めたんだろ?」

「……別に、当然のことをしたまでです」

 彼女は紅茶を一口飲み、俺をじっと見た。

「あなたは……"私が力で解決するタイプ"だと思っていましたか?」

「いや、まぁ……少しは……」

「……見くびらないでください」

 そう言いながら、彼女はほんの少し微笑んだ。

(……やっぱり、こいつすげぇな)



 そんなわけで、俺はようやくつかの間の休息を楽しむことができた。

 だが――

「おい、さっきの男、どこかで見たことがあるような……」

「……あれ、もしかして"あの賢者"じゃないか?」

(……やばい!?)

 ちらほらと、周囲の客が俺に注目し始める。

「……そろそろ出ましょうか」

 ソフィアが俺の手を引き、カフェを出る。

(やべぇ!!! 絶対バレる前に逃げろ!!!)

 こうして――

 俺の束の間の休息は、ギリギリのところで終わりを迎えたのだった。
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