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第1章
緊急召集
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朝、ギルド本館。
まだ陽も高くない時間だというのに、Cランクに昇格したばかりの冒険者たち五組が、重苦しい空気を纏って集まっていた。
受付前には、「ギルドマスター・グレッグ」の姿。
飄々とした爺さんだが、今はいつもの軽口も封印して、厳しい表情をしていた。
「おう、揃ったな。……ったく、朝から集めるこっちの身にもなれってんだ」
軽く咳払いすると、グレッグは真顔になり、低い声で告げた。
「――依頼だ。内容は【調査任務】。対象は“東の森”だ」
集まった者たちがざわつく。
「森に異変が起きている。魔物の数が、激減した」
「……魔物が、減った?」
ガアラが眉をひそめた。
魔物の減少は、単なる自然現象ではない。
普通、ありえない事態だ。
グレッグは続けた。
「この前のお前らCランク試験、ラズ・セリア鉱窟だったな? あの鉱山の周囲でも似たような兆候が出てた。……魔物が消えた場所には、必ず“何か”がいる。そういうもんだ」
静かな緊張が、場に広がる。
「今回動くのは、昇級試験を通ったお前ら五組だけだ。……現場慣れさせるためにもな」
グレッグの目が、ガアラたち、スキンヘッド三兄弟、ジャグたち、そして貴族チームへと順番に向けられる。
「指揮系統はねぇ。それぞれ自由に動け。ただし、最悪の場合は協力しろ。死にたくなきゃな」
ぼそりと皮肉を飛ばしてから、ギルドマスターは巻物を取り出した。
「対象区域はこの辺り。地図にマークした。東の街道を進み、そこから南東に外れた一帯が調査範囲だ」
「制限時間は半日。日没までに帰還できない場合は、捜索対象に切り替える。……まぁ、死ぬなよ」
そう締めくくり、巻物を渡す。
受け取ったのは、今回最年長のノッポ・ジャグ。
「んじゃま、始めるか。負けたくねぇしな」
ニヤリと笑って、ジャグがガアラたちを一瞥する。
すぐ隣では、レオン・ファーロックが冷ややかに目を細めていた。
「……あまり、邪魔をしないでもらいたいものだな」
「そっちこそ、背中晒すなよ、坊ちゃん?」
ガアラが軽く挑発すると、レオンの眉がピクリと動く。
空気がピリつくが、ギルドマスターがあくび交じりに言った。
「喧嘩すんな。行け。何か出たら生きて帰れ」
それだけ言い放ち、グレッグはくるりと背を向けた。
こうして、Cランクたちは――
森の異変調査へと向かう。
何も起きなければいい。
だが、彼らの歩む先には、想像を超える“現実”が待ち受けていた。
---
ギルド本部の会議室を出たCランク冒険者たちは、すぐさま準備を整え、グラースの東門へ向かっていた。
朝の冷たい空気を切り裂きながら、十数名の冒険者たちが無言で行進する。 それぞれ試験を共にした顔ぶれ――ガアラたち、バリカンズ、ジャグたちケンカ屋三人組、貴族チーム、普通チーム。
緊急召集の目的はただ一つ。
《森の異変調査》。
最近、街の外縁に広がる「ファングリーフの森」から魔物が激減している。 異様な静けさ。動物たちの逃走。 ただ事ではないと、ギルドが直ちに調査を命じたのだ。
「全員、聞け」
先頭を歩くギルド職員が声を上げる。
「本日の調査指揮は、リーダーを立てない。各チームごとの行動を基本とする。ただし――」 「異変が発生した場合は、即座に連携を取れ。単独行動は禁止だ!」
「了解!」
全員が応じる中、後方からノッポのジャグがヒョイと顔を出した。
「なあ、聞いたか? 後から援護に、Aランクチームも来るらしいぜ」
「Aランク?」 リィナが小声で振り向いた。
「ああ。西門で別件やってるが、調査が済み次第こっちに回すってよ。ガチでヤバい異形でも出たら頼れってさ」
「……心強いのか、情けないのか」
ガアラが肩をすくめる。
カリアは前を向いたまま小さく呟く。
「でも、Aランクが動くって……よほどの異常ってことだよね」
空気が一段、引き締まる。
ファングリーフの森はすぐそこだった。 東門を抜け、広がる草地を越え、森の入り口へ。
茂みは異様に静かだ。
鳥の声も、虫の羽音もない。 木々の間を抜ける風だけが、微かに葉を揺らしていた。
「……本当に、静かすぎる」
誰ともなく、呟きが漏れた。
「カリア、気流を読む。リィナ、気配を探知」
「了解」 「任せて」
ガアラたちは即座に対応。 他チームも、警戒態勢に入る。
森の奥には、まだ見ぬ異形。 そして、試される――Cランクたちの“本物の力”。
これが、彼らにとって本当の"試練"の始まりだった。
---
ファングリーフの森へと足を踏み入れたCランク冒険者たちは、それぞれ間隔を保ちながら慎重に進んだ。
リィナが気配を探る。
「……生き物の、気配が……ない」
その声に、ガアラもスマホで周囲を確認する。 気配察知アプリは静かすぎるほど静かだった。 本来なら、この森には小動物や低級魔物がうごめいているはずなのに。
「こっちだ」
カリアが手を振る。 風の流れを読む彼女の指示で、東へ少し進んだ。
その時――
「……これは」
目の前に広がったのは、異様な光景だった。
地面には黒ずんだ焦げ跡。 草は枯れ、木々は折れ、瘴気のようなものが微かに漂っている。 そして、腐りきった魔物の死骸が、いくつも転がっていた。
「……一体、何があった?」
リィナが短剣を構え直す。
カリアが、さらに顔をこわばらせた。
「これ、自然死じゃない……。何か、ものすごい力で、まとめて……潰された跡だよ」
「間違いねぇ。ここに、何かいる」
ノッポのジャグが後ろから歩いてきた。 その顔も、いつもの軽口を叩く余裕はない。
続いて、スキンヘッド三兄弟、貴族チーム、普通チームも追いついてくる。
「……まるで、狩場みたいなもんだな」 ゲーラが唾を吐いた。
「くそ、嫌な予感しかしねぇ」 ミックが舌打ちした。
その時。
ズズ……ッ。
地面がかすかに振動した。
「……!?」
皆が同時に振り向いた。
森の奥、霧の向こう。 巨体が、ゆっくりと姿を現した。
――大型異形。
全身が漆黒に染まり、背には骨のような突起を生やし、四肢は異様に太い。 片目だけがぎらぎらと赤く光り、こちらを見据えている。
「また、あの化け物か……!」
ガアラが剣を引き抜いた。
だが。
異形もこちらを見据えたまま、ゆっくりと低く、呻くような咆哮を上げる。
「ッ、来るぞ!!」
異形は地を蹴った。
ズドン!
地響きと共に、一気に距離を詰め――
「ばらけるな!陣形を維持しろ!!」
誰かが叫んだ。
だが、すでに遅い。 一斉に武器を抜き、身構えるCランクたち。
――しかし、連携は取れていなかった。
ジャグたちが前に出て、無理矢理突撃。 貴族チームは後方で魔法準備に手間取り、 スキンヘッド三兄弟は慣れない位置取りで混乱する。
(バラバラだ!)
ガアラはリィナとカリアを守るため、すぐに左に展開。 だが、他のパーティーは好き勝手に動き、異形の攻撃範囲に次々と引き込まれていく。
――ズガァァァァン!!!
異形の豪腕が振り下ろされ、ジャグとゲーラが吹き飛ばされた。
「うわっ……!」
「クソ、無茶すんなって言っただろ!」
ミックが必死で支えようとするが、異形の勢いは止まらない。
さらに続けざまに、地を薙ぐような蹴り。
「ぐぅっ!」
「やべっ……!」
リィナが素早く回避。 カリアはギリギリで風魔法を展開し、吹き飛びを防いだ。
「最悪……! 全員、まとまってない!」
ガアラも剣を構え直しながら、息を荒げる。
だが――異形は、こちらを狙っている。
(止めないと、マジで全滅するぞ……!)
その時だった。
――ズズン。
後方の森から、新たな足音。
複数。
「遅くなったな!」
声が響いた。
現れたのは、漆黒のロングコートを羽織った、四人の冒険者。
――Aランクチーム《ナイトホークス》。
リーダー格の黒髪の男・グレイが前に立ち、鋭い視線をガアラたちに投げた。
「このバラバラな連中が、噂のCランクか。――ったく、情けねぇ」
「下がれ。後は俺たちがやる」
言い終わると同時に、彼らは駆けた。
ガアラたちは、ただ見守るしかなかった。
ここから――
AランクとCランクの、実力差をまざまざと見せつけられることになる。
---
ズシン――
黒いコートをはためかせ、グレイたちAランク冒険者が前に出る。
異形が彼らに気づき、咆哮を上げた瞬間――
「スイッチ、スタートだ」
グレイが短く号令をかけた。
その瞬間、空気が変わった。
まず動いたのは、赤髪の大男・バース。
「うおおおおおッ!!」
巨大な戦斧を振りかざし、一直線に異形へ突っ込む!
異形も巨腕を振り下ろすが――
ズガン!!
バースの一撃が異形の腕を弾き飛ばす!
吹き飛ぶのは、異形のほうだった。
「……ありえない……」
リィナが呟いた。
ガアラも言葉を失っていた。
(正面から、力で……押し返した……!?)
そこへ、二人目。
蒼髪の魔術師・シエラが素早く詠唱。
「――《氷結牢獄》!」
異形の両脚を瞬時に凍らせ、動きを封じた!
異形が抵抗しようと力を込めるが、すぐに動けない。
三人目、短剣使いのフェイが背後へ回り込み――
シュッ!!
喉元に素早く短剣を突き立て、喉を切り裂く!
「ガアラ!」
カリアが思わず叫ぶ。
「異形の皮膚、切れた……!」
(――信じられない)
あの硬かった異形の皮膚を、まるで紙みたいに。
最後に、リーダーのグレイが静かに前に出た。
剣を抜き、一歩一歩、異形へ迫る。
異形が抵抗し、腕を振るう。
だが――
グレイは一閃。
剣が、空間すら切り裂くような音を立てた。
スパァンッ!!
異形の腕が、肩からごっそりと切断された。
絶叫。
だが、グレイは表情一つ変えない。
「――終わりだ」
魔力を纏った剣を、異形の胸に突き立てた。
ゴンッ!!
その一撃で、異形の巨体が大きくのけ反る。
続けざまに、バースの斧が胴体を叩き割り、 シエラの氷が内側から砕き、 フェイの短剣が心臓を突き刺した。
ドゥゥゥゥンッ!!
異形が、音を立てて崩れ落ちた。
完全なる、完封だった。
静まり返った森。
ガアラたちCランク冒険者たちは、誰一人言葉を発せなかった。
ただ、圧倒的な実力差を、まざまざと見せつけられた。
(……あれが、Aランク)
(あれが、頂点に立つ者たち……)
震えそうになる心を、ガアラは必死で押しとどめた。
グレイが剣を払いながら、こちらを向いた。
「――見たか?」
声は静かだったが、重かった。
「お前らCランクは、バラバラだった。個人の力だけで突っ込んでも、こんな奴には勝てない」
「連携もなければ、指揮もない。バラバラに動いて、バラバラに倒れるだけだ」
リィナも、カリアも、スキンヘッド三兄弟も、レオンたち貴族パーティーも、誰も言い返せなかった。
グレイは、なおも言葉を続ける。
「だが――」
一拍置いて、静かに告げた。
「今日、こうして生きて帰れる。なら、次はどうすべきか、自分で考えろ」
「俺たちは、待ってるぜ」
フェイがにやりと笑い、シエラはそっと手を振った。 バースは無言で大斧を担ぎ、背を向ける。
Aランクチーム《ナイトホークス》は、悠然と森の奥へ歩き去っていった。
まるで、最初から"次元が違う"とでも言うように。
静寂。
それでも、誰も口を開かない。
ガアラは、拳を握りしめた。
「……次は、ああなる」
ポツリと呟いた。
リィナとカリアが、顔を上げる。
スキンヘッド三兄弟も、ジャグたちも、レオンたちも―― その言葉に、ハッと何かを掴んだように顔を引き締めた。
まだ、負けてはいない。 負けたままでは、終わらない。
こうしてCランクチームたちは、悔しさと誓いを胸に、森を後にする。
だが――
本当の試練は、まだこれからだった。
帰還途中。
更なる大型異形の影が、待ち構えていたのである――!
---
まだ陽も高くない時間だというのに、Cランクに昇格したばかりの冒険者たち五組が、重苦しい空気を纏って集まっていた。
受付前には、「ギルドマスター・グレッグ」の姿。
飄々とした爺さんだが、今はいつもの軽口も封印して、厳しい表情をしていた。
「おう、揃ったな。……ったく、朝から集めるこっちの身にもなれってんだ」
軽く咳払いすると、グレッグは真顔になり、低い声で告げた。
「――依頼だ。内容は【調査任務】。対象は“東の森”だ」
集まった者たちがざわつく。
「森に異変が起きている。魔物の数が、激減した」
「……魔物が、減った?」
ガアラが眉をひそめた。
魔物の減少は、単なる自然現象ではない。
普通、ありえない事態だ。
グレッグは続けた。
「この前のお前らCランク試験、ラズ・セリア鉱窟だったな? あの鉱山の周囲でも似たような兆候が出てた。……魔物が消えた場所には、必ず“何か”がいる。そういうもんだ」
静かな緊張が、場に広がる。
「今回動くのは、昇級試験を通ったお前ら五組だけだ。……現場慣れさせるためにもな」
グレッグの目が、ガアラたち、スキンヘッド三兄弟、ジャグたち、そして貴族チームへと順番に向けられる。
「指揮系統はねぇ。それぞれ自由に動け。ただし、最悪の場合は協力しろ。死にたくなきゃな」
ぼそりと皮肉を飛ばしてから、ギルドマスターは巻物を取り出した。
「対象区域はこの辺り。地図にマークした。東の街道を進み、そこから南東に外れた一帯が調査範囲だ」
「制限時間は半日。日没までに帰還できない場合は、捜索対象に切り替える。……まぁ、死ぬなよ」
そう締めくくり、巻物を渡す。
受け取ったのは、今回最年長のノッポ・ジャグ。
「んじゃま、始めるか。負けたくねぇしな」
ニヤリと笑って、ジャグがガアラたちを一瞥する。
すぐ隣では、レオン・ファーロックが冷ややかに目を細めていた。
「……あまり、邪魔をしないでもらいたいものだな」
「そっちこそ、背中晒すなよ、坊ちゃん?」
ガアラが軽く挑発すると、レオンの眉がピクリと動く。
空気がピリつくが、ギルドマスターがあくび交じりに言った。
「喧嘩すんな。行け。何か出たら生きて帰れ」
それだけ言い放ち、グレッグはくるりと背を向けた。
こうして、Cランクたちは――
森の異変調査へと向かう。
何も起きなければいい。
だが、彼らの歩む先には、想像を超える“現実”が待ち受けていた。
---
ギルド本部の会議室を出たCランク冒険者たちは、すぐさま準備を整え、グラースの東門へ向かっていた。
朝の冷たい空気を切り裂きながら、十数名の冒険者たちが無言で行進する。 それぞれ試験を共にした顔ぶれ――ガアラたち、バリカンズ、ジャグたちケンカ屋三人組、貴族チーム、普通チーム。
緊急召集の目的はただ一つ。
《森の異変調査》。
最近、街の外縁に広がる「ファングリーフの森」から魔物が激減している。 異様な静けさ。動物たちの逃走。 ただ事ではないと、ギルドが直ちに調査を命じたのだ。
「全員、聞け」
先頭を歩くギルド職員が声を上げる。
「本日の調査指揮は、リーダーを立てない。各チームごとの行動を基本とする。ただし――」 「異変が発生した場合は、即座に連携を取れ。単独行動は禁止だ!」
「了解!」
全員が応じる中、後方からノッポのジャグがヒョイと顔を出した。
「なあ、聞いたか? 後から援護に、Aランクチームも来るらしいぜ」
「Aランク?」 リィナが小声で振り向いた。
「ああ。西門で別件やってるが、調査が済み次第こっちに回すってよ。ガチでヤバい異形でも出たら頼れってさ」
「……心強いのか、情けないのか」
ガアラが肩をすくめる。
カリアは前を向いたまま小さく呟く。
「でも、Aランクが動くって……よほどの異常ってことだよね」
空気が一段、引き締まる。
ファングリーフの森はすぐそこだった。 東門を抜け、広がる草地を越え、森の入り口へ。
茂みは異様に静かだ。
鳥の声も、虫の羽音もない。 木々の間を抜ける風だけが、微かに葉を揺らしていた。
「……本当に、静かすぎる」
誰ともなく、呟きが漏れた。
「カリア、気流を読む。リィナ、気配を探知」
「了解」 「任せて」
ガアラたちは即座に対応。 他チームも、警戒態勢に入る。
森の奥には、まだ見ぬ異形。 そして、試される――Cランクたちの“本物の力”。
これが、彼らにとって本当の"試練"の始まりだった。
---
ファングリーフの森へと足を踏み入れたCランク冒険者たちは、それぞれ間隔を保ちながら慎重に進んだ。
リィナが気配を探る。
「……生き物の、気配が……ない」
その声に、ガアラもスマホで周囲を確認する。 気配察知アプリは静かすぎるほど静かだった。 本来なら、この森には小動物や低級魔物がうごめいているはずなのに。
「こっちだ」
カリアが手を振る。 風の流れを読む彼女の指示で、東へ少し進んだ。
その時――
「……これは」
目の前に広がったのは、異様な光景だった。
地面には黒ずんだ焦げ跡。 草は枯れ、木々は折れ、瘴気のようなものが微かに漂っている。 そして、腐りきった魔物の死骸が、いくつも転がっていた。
「……一体、何があった?」
リィナが短剣を構え直す。
カリアが、さらに顔をこわばらせた。
「これ、自然死じゃない……。何か、ものすごい力で、まとめて……潰された跡だよ」
「間違いねぇ。ここに、何かいる」
ノッポのジャグが後ろから歩いてきた。 その顔も、いつもの軽口を叩く余裕はない。
続いて、スキンヘッド三兄弟、貴族チーム、普通チームも追いついてくる。
「……まるで、狩場みたいなもんだな」 ゲーラが唾を吐いた。
「くそ、嫌な予感しかしねぇ」 ミックが舌打ちした。
その時。
ズズ……ッ。
地面がかすかに振動した。
「……!?」
皆が同時に振り向いた。
森の奥、霧の向こう。 巨体が、ゆっくりと姿を現した。
――大型異形。
全身が漆黒に染まり、背には骨のような突起を生やし、四肢は異様に太い。 片目だけがぎらぎらと赤く光り、こちらを見据えている。
「また、あの化け物か……!」
ガアラが剣を引き抜いた。
だが。
異形もこちらを見据えたまま、ゆっくりと低く、呻くような咆哮を上げる。
「ッ、来るぞ!!」
異形は地を蹴った。
ズドン!
地響きと共に、一気に距離を詰め――
「ばらけるな!陣形を維持しろ!!」
誰かが叫んだ。
だが、すでに遅い。 一斉に武器を抜き、身構えるCランクたち。
――しかし、連携は取れていなかった。
ジャグたちが前に出て、無理矢理突撃。 貴族チームは後方で魔法準備に手間取り、 スキンヘッド三兄弟は慣れない位置取りで混乱する。
(バラバラだ!)
ガアラはリィナとカリアを守るため、すぐに左に展開。 だが、他のパーティーは好き勝手に動き、異形の攻撃範囲に次々と引き込まれていく。
――ズガァァァァン!!!
異形の豪腕が振り下ろされ、ジャグとゲーラが吹き飛ばされた。
「うわっ……!」
「クソ、無茶すんなって言っただろ!」
ミックが必死で支えようとするが、異形の勢いは止まらない。
さらに続けざまに、地を薙ぐような蹴り。
「ぐぅっ!」
「やべっ……!」
リィナが素早く回避。 カリアはギリギリで風魔法を展開し、吹き飛びを防いだ。
「最悪……! 全員、まとまってない!」
ガアラも剣を構え直しながら、息を荒げる。
だが――異形は、こちらを狙っている。
(止めないと、マジで全滅するぞ……!)
その時だった。
――ズズン。
後方の森から、新たな足音。
複数。
「遅くなったな!」
声が響いた。
現れたのは、漆黒のロングコートを羽織った、四人の冒険者。
――Aランクチーム《ナイトホークス》。
リーダー格の黒髪の男・グレイが前に立ち、鋭い視線をガアラたちに投げた。
「このバラバラな連中が、噂のCランクか。――ったく、情けねぇ」
「下がれ。後は俺たちがやる」
言い終わると同時に、彼らは駆けた。
ガアラたちは、ただ見守るしかなかった。
ここから――
AランクとCランクの、実力差をまざまざと見せつけられることになる。
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ズシン――
黒いコートをはためかせ、グレイたちAランク冒険者が前に出る。
異形が彼らに気づき、咆哮を上げた瞬間――
「スイッチ、スタートだ」
グレイが短く号令をかけた。
その瞬間、空気が変わった。
まず動いたのは、赤髪の大男・バース。
「うおおおおおッ!!」
巨大な戦斧を振りかざし、一直線に異形へ突っ込む!
異形も巨腕を振り下ろすが――
ズガン!!
バースの一撃が異形の腕を弾き飛ばす!
吹き飛ぶのは、異形のほうだった。
「……ありえない……」
リィナが呟いた。
ガアラも言葉を失っていた。
(正面から、力で……押し返した……!?)
そこへ、二人目。
蒼髪の魔術師・シエラが素早く詠唱。
「――《氷結牢獄》!」
異形の両脚を瞬時に凍らせ、動きを封じた!
異形が抵抗しようと力を込めるが、すぐに動けない。
三人目、短剣使いのフェイが背後へ回り込み――
シュッ!!
喉元に素早く短剣を突き立て、喉を切り裂く!
「ガアラ!」
カリアが思わず叫ぶ。
「異形の皮膚、切れた……!」
(――信じられない)
あの硬かった異形の皮膚を、まるで紙みたいに。
最後に、リーダーのグレイが静かに前に出た。
剣を抜き、一歩一歩、異形へ迫る。
異形が抵抗し、腕を振るう。
だが――
グレイは一閃。
剣が、空間すら切り裂くような音を立てた。
スパァンッ!!
異形の腕が、肩からごっそりと切断された。
絶叫。
だが、グレイは表情一つ変えない。
「――終わりだ」
魔力を纏った剣を、異形の胸に突き立てた。
ゴンッ!!
その一撃で、異形の巨体が大きくのけ反る。
続けざまに、バースの斧が胴体を叩き割り、 シエラの氷が内側から砕き、 フェイの短剣が心臓を突き刺した。
ドゥゥゥゥンッ!!
異形が、音を立てて崩れ落ちた。
完全なる、完封だった。
静まり返った森。
ガアラたちCランク冒険者たちは、誰一人言葉を発せなかった。
ただ、圧倒的な実力差を、まざまざと見せつけられた。
(……あれが、Aランク)
(あれが、頂点に立つ者たち……)
震えそうになる心を、ガアラは必死で押しとどめた。
グレイが剣を払いながら、こちらを向いた。
「――見たか?」
声は静かだったが、重かった。
「お前らCランクは、バラバラだった。個人の力だけで突っ込んでも、こんな奴には勝てない」
「連携もなければ、指揮もない。バラバラに動いて、バラバラに倒れるだけだ」
リィナも、カリアも、スキンヘッド三兄弟も、レオンたち貴族パーティーも、誰も言い返せなかった。
グレイは、なおも言葉を続ける。
「だが――」
一拍置いて、静かに告げた。
「今日、こうして生きて帰れる。なら、次はどうすべきか、自分で考えろ」
「俺たちは、待ってるぜ」
フェイがにやりと笑い、シエラはそっと手を振った。 バースは無言で大斧を担ぎ、背を向ける。
Aランクチーム《ナイトホークス》は、悠然と森の奥へ歩き去っていった。
まるで、最初から"次元が違う"とでも言うように。
静寂。
それでも、誰も口を開かない。
ガアラは、拳を握りしめた。
「……次は、ああなる」
ポツリと呟いた。
リィナとカリアが、顔を上げる。
スキンヘッド三兄弟も、ジャグたちも、レオンたちも―― その言葉に、ハッと何かを掴んだように顔を引き締めた。
まだ、負けてはいない。 負けたままでは、終わらない。
こうしてCランクチームたちは、悔しさと誓いを胸に、森を後にする。
だが――
本当の試練は、まだこれからだった。
帰還途中。
更なる大型異形の影が、待ち構えていたのである――!
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順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
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異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
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追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
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完成品ゼロ
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今日も異世界で、
調味料無双しちゃいます!
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