時を越えて世界を救え。転生したオタクは最強に成り得るのか?

モデル.S

文字の大きさ
13 / 15
第2章

ギースの訓練

しおりを挟む
ギルドの執務室――。
重厚な扉を開けて入ると、すでにベック・セルワースが書類を片手に待っていた。
昼下がりの陽光が窓から差し込み、部屋の中は穏やかな香草茶の香りに包まれている。

「ティアナ君、ギース君、そしてバトー君。戻りましたか。お疲れさまです。」
ベックの優しい声が響く。

ティアナが一歩前に出て、背筋を伸ばした。
「はい。例の件ですが――人身売買組織の拠点を発見し、壊滅させました。ですが、その中に魔族が潜んでいました。」
「……魔族が、ですか。」
ベックの表情が一瞬で引き締まる。

ティアナは頷き、淡々と続けた。
「戦闘の末、正体を現しましたが、かなり強く、バトーを呼び、撃退しました。捕縛はできませんでしたが、逃走を確認しています。」

「なるほど……。ご苦労でした。」
ベックは顎に手を当て、何事かを考え込むように目を細めた。

そこに、バトーが口を開く。
「それと――その魔族は森で遭遇したバーリッシュ、奴の仲間だった。名前はオルグ。バーリッシュの事を隊長と呼び、他に隊員がまだこの街に三人いるらしい。本人たちは“支配域を広げている”と言っていた。恐らく、潜伏して次の動きを狙ってる。」

「……三人、ですか。」
ベックの表情がさらに険しくなる。

「あと、バーリッシュの追跡は失敗した。痕跡が途絶えて、それ以上は無理だった。」
「そうですか。無理をなさらなくて正解です。」

ベックはゆっくりと椅子に深く腰を下ろし、二人を見回した。
「ともかく、これで街の安全が少しでも保たれたのは、あなた方のおかげです。ティアナ君も、部下の者たちをよくまとめてくれましたね。」

ティアナは軽く頭を下げる。
「いえ、仲間たちのおかげです。」

「バトー君も、本当にありがとう。森での戦闘に加えて今回の件まで……。心身ともに疲れたでしょう。しばらくは休息を取ってください。」

「助かります。」
バトーは短く答え、ギースと共に頭を下げた。

「また何か分かりましたら、こちらから連絡します。それまでは自由に過ごしてください。」
ベックは穏やかな笑みを浮かべ、最後に「お疲れさまでした」と言葉を添える。

ティアナが一礼し、バトーとギースもそれに倣って部屋を後にした。

――ギルドの外に出ると、夕暮れの風が頬を撫でた。
「ふぅ……やっと終わったな。」とギースがつぶやく。
「ああ。今日くらいは、ゆっくり休もうぜ。」とバトーが返す。

二人は肩を並べ、橙色に染まる街道を宿へと歩き出した。
その背後で、ギルドの旗が風に揺れ、静かに彼らを見送っていた。


朝の陽光が宿の窓から差し込み、テーブルの上には焼きたてのパンと温かなスープの香りが漂っていた。
バトーとギースは向かい合い、ゆっくりと朝食を取っている。

「今日はどうする?」とギースがスプーンをくるくると回しながら聞く。
「身体強化の訓練でもするか?」とバトーがパンをちぎりながら答えた。

「お、いいのか? よっしゃ!」
ギースの目が輝く。まるで子供のような反応に、バトーは少し笑みを浮かべた。

「どこがいいかな……良い場所ないか?」
「ギルドの訓練施設はどうだ?」
「そんなのあったのか。じゃあ、そこ行こうぜ。」

二人は食事を終えると、冒険者ギルドの裏手にある訓練施設へと向かった。

――ギルド裏・訓練施設。
広々とした石畳の広場には、訓練用の木人や魔力測定器、模擬戦用の結界装置まで整っている。朝早くということもあり、まだ人影は少なかった。

「ギース、魔力操作は出来るか?」とバトー。
「へへっ、ほらっ。」
ギースは指先に小さな火を灯して見せた。

「昔、知り合いの冒険者に教えてもらったんだよ。出来るのはこれくらいだけどな。」
「なら、話は早いな。魔力を全身に行き渡らせるんだよ。まずやってみようか。」

「んー……こうか?」
ギースの体がうっすらと光を帯びる。

「器用な奴だな。それだと身体を覆っただけだ。まあ、それでも防御力は上がるが、動きには直結しない。」
バトーは腕を組みながら見守る。
「血が流れるように、身体の中で魔力を流すんだ。」

「血が流れるように……こんな感じか?」
「流れが悪いな。もっと全身をくまなく廻すんだ。そうそう、それでいい。そのまま動いてみろ。」

ギースは息を整え、軽く拳を握る。
「うおっ! す、すげえ! 体が軽い!」
ギースは石畳を蹴り、驚くほどの速さで動き回った。殴り、蹴り、跳び、まるで風のように動く。

「ははっ! こりゃ最高だな!」
調子に乗って連続で動き回るギースを見て、バトーが苦笑いを浮かべる。
「おい、あんまり飛ばしすぎると……あらら。」

直後、ギースの体から光が消え、ドサッと地面に倒れた。

「……魔力が枯渇して倒れるぞ。」
「は……早く言ってくれ……。」
地面にへたり込んだギースが、息を荒げながら恨めしそうに言う。

バトーは苦笑しながら肩をすくめた。
「まあ、初回にしては上出来だ。少し休んでろ。」

ギースはそのまま地面に仰向けになり、空を見上げて息を整える。
高い空の向こうに、薄く流れる雲。
「……やっぱり、強くなりてぇな。」
その小さなつぶやきに、バトーはわずかに目を細めた。

――彼の中にある「何か」を感じ取りながら。


ギースは石畳の上にあお向けになり、荒い息を吐きながら空を見上げていた。額には汗が光り、胸が上下を繰り返す。

「なあ、ギース。」
静かな声でバトーが呼びかけた。

「なんだぁ? ……ハァ、ハァ……無様だったって言いたいのか?」
ギースは片手で顔を覆い、息を整えながら言う。

「いや。」
バトーは首を横に振った。
「お前さ、才能あるよ。普通いきなりでこんなに動けないんだよ。」

ギースは目をぱちくりとさせる。
「ほ……ほんとかぁ?」

「ああ。」
バトーは地面に腰を下ろし、軽く笑った。
「腕を振るにしても、そこに魔力を流さないといけないし、走るだけでも全身の流れを考えないといけない。お前は自然とそれが出来てた。俺は半年近くかかったな。」

ギースはしばし黙り、そして突然笑い出す。
「ははっ! ギース様は天才らしいな!」

「そうだな、天才だ。」
バトーもつられて笑いながら言う。
「身体強化が得意な奴は戦士向きらしい。俺は魔法使い向きだからな。」

ギースはバトーの方へ目を向ける。
「魔法使いのクセにその強さかよ。」

「言ったろ、剣は才能がない。三流だってな。」
バトーは肩をすくめた。
「でも、お前は一流になれるよ。」

「ほんとかぁ?」
「まあ、努力次第だろうがな。」

「そうだな。……ははっ。」

ギースは再び空を見上げた。高い空は澄み渡り、どこまでも青い。
バトーはそんな彼を横目に見ながら、静かに微笑んだ。

(こうして誰かと訓練するなんて、久しぶりだな……。)

風がゆるやかに吹き、汗ばんだ空気を冷ます。
ギースの笑い声が、訓練場の空へと軽やかに響いていった。


訓練施設の扉がギィと音を立てて開いた。
中へと、数人の冒険者たちがわいわいと騒ぎながら入ってくる。革鎧や鎖帷子を身にまとった者の中で、ひときわ目立つ男がいた。陽光を反射してギラギラと輝く銀の鎧――金の装飾まで施された、いかにも“金持ちの冒険者”という出で立ちだった。

その男がギースを見つけるなり、声を荒げた。
「おいっ! ギース、そんなとこで寝てんじゃねぇよ! 邪魔だろうが!」

ギースは寝転がったまま片目を開けて、面倒くさそうに言った。
「ん? あぁ……ダックか……悪かったな。」
そう言いながら、ゆっくりと体を起こす。まだ息が少し荒い。

バトーが黙って肩を貸し、ギースを端のベンチまで連れていく。
ダックと呼ばれた男は、ギースを一瞥して舌打ちをし、自分の仲間と共に訓練を始めた。剣を振るたびに鎧がギラギラと光り、見ているだけで眩しい。

「……あいつは?」
バトーが小声で尋ねる。

ギースは苦笑しながら答えた。
「前にパーティー組んでたやつだ。ダックルドルフ・バーンズ。確か貴族の坊ちゃんだよ。今はシルバーに上がったって聞いた。」

「へぇー、貴族か。」

「カネ払いはいいんだけどな。あの性格がな……ついていけなくなって離脱したんだよ。」

その時、ダックが再びこちらに歩いてきた。靴の金具がカツンカツンと床を叩く。
「ギース、お前、まだソロでやってんのか?」

ギースは小さく笑って首を振る。
「いや、こいつ。」
そう言って、隣のバトーの肩を軽く叩いた。
「バトーと組んでる。」

「ほう……そうか。」
ダックはバトーを頭の先から足の先まで舐め回すように見て、口の端を歪めた。
「なあ、模擬戦しねぇか?」

「いや、やめとくよ。」
ギースは苦笑して手を振る。
「魔力枯渇で動けねぇんだ。」

「チッ。」
ダックは舌打ちをして、再び他の冒険者たちに声を掛けに行った。何やら大げさに笑いながら剣を構え、見せつけるように訓練を始める。

ギースは深いため息をついた。
「もう歩ける。出ようか。」

バトーがうなずき、2人は訓練施設を後にした。

外の風が、汗ばんだ肌を心地よく撫でる。
ギースは歩きながらぼそりと呟く。
「模擬戦なんてやってたら、勝っても負けても面倒なことになる。貴族様は、プライドの塊だからな。」

「……なるほどな。」とバトー。

「いいか、バトー。貴族とは関わるな。覚えとけ。」

「あ、ああ。覚えとくよ。」

ギースが歩き出し、バトーもその後を追う。
背後では、ダックの笑い声と金属のぶつかる音がいつまでも響いていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生 〜転生したら最強種だったので無双します〜

るの 。
ファンタジー
ある日突然、俺は背中を押され車に轢かれてしまった…。 意識を取り戻し目覚め身体を確認すると俺は全くの別人となっており、俺は転生してしまったのである。 家を飛び出し目の前には前世では見られない景色が広がっていた。 すると突然、俺の脳内に謎の声が響いた。 「ーー我が主、お目覚めになられましたか?ーー」 (脳内から女の声!?どういうことだよ…) 主人公であるルクスが「最強種」吸血鬼族として、旅などし仲間を集め、成長しチート能力を得る物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...