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第2章
ギースの訓練2
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「うううううう……ウオオオオオーーーッ!!!」
訓練施設の裏手。午後の日差しが傾き始めた頃。
ギースの叫びが辺りに響き渡る。
「ギース!? お、おい……」
バトーが少し距離を取りながら声をかける。
ギースの目の前の空間で――
パチッ。
と小さな音がした。
「おっ……行けるか?」
「ウオオオオオオッ!!!」
ギースの額に浮かぶ血管がピキピキと盛り上がり、顔は真っ赤を通り越して紫色に近い。
パチッ、パチッ。
空間に細かなひび割れのような亀裂が走り、空気が歪んだ。
「できたーっ!! どぼぉだぁぁぁぁぁ!!!」
ギースが絶叫すると同時に――空間の裂け目が“ぱかっ”と開いた。
中には、暗く無限に続くような異空間が覗いていた。
「マジかよ……気合いで開きやがった。凄ぇな。」
呆れと驚きが入り混じった声でバトーがつぶやく。
ギースは鼻血をボタボタ垂らしながら、満面の笑みを浮かべていた。
「へへっ……やったぜ……これが……空間収納……!」
ドサッとその場に崩れ落ちる。
――少し前のこと。
昼食を終え、休憩を挟んだ午後。
身体強化を訓練したギースに、バトーは次の課題として「空間収納」を教えていた。
(まあ無理だろうな、と思ってたんだが……)
バトーは心の中でため息をつく。
空間収納は、実のところ魔力消費はほとんどない。
魔法そのものは単純で、「空間を少しだけ裂いて、自分専用の異空間を開く」だけの魔法だ。
しかし――問題は“感覚”だ。
異空間の座標を掴むという、理屈では説明できない感覚を要するため、ほとんどの戦士系冒険者には習得が難しい。
(てか、ギースはファイアボールすらまともに撃てないんだぞ?)
そう思っていた矢先に、
「気合いで開けてみせる!」
とギースは両拳を握りしめ、三時間ぶっ通しで集中を続け――
そして今、やり遂げた。
「ハァ……ハァ……見たかよ……俺だって、やればできるんだ……」
ギースは地面に倒れ込みながら、ぼたぼたと鼻血を流し続けている。
バトーは思わず吹き出した。
「お前……努力の方向性が常におかしいけど、嫌いじゃねぇよ。」
「だろ……?」
ギースはにやりと笑い、鼻の下を拭った。
午後の陽が傾き、地面に二人の長い影が伸びていく。
空間の裂け目は、静かに“パチン”と音を立てて閉じた。
翌朝。
朝靄に包まれた森の中、湿った空気の中でバトーとギースは向かい合っていた。
「今日は身体強化を使って戦闘訓練だ。」
バトーの声は静かだが、どこか引き締まった響きを持っている。
「いいか?――薄く使って、サクッと倒す。そして、すぐに強化を切る。これでいこう。分かったな?」
「分かった!」
ギースは力強くうなずき、拳を握った。
バトーが周囲に視線を巡らせる。
朝日が差し込み、木々の間に光の筋が伸びている。その中で、微かな気配が動いた。
「お、何かいるぞ。……ゴブリンっぽいな。三体だ。」
ギースの顔がぱっと輝く。
「よし、任せろ。」
「薄く、うすーく、だぞ。」
バトーが釘を刺すように言う。
「分かってるって。」
ギースは小声でつぶやきながら、身体強化を発動。
彼の体を薄い光の膜が包み――一瞬で視界から消えた。
「っ!?」
木の葉が舞い、風が切り裂かれる音が響く。
次の瞬間、ゴブリン三体の首が同時に飛んだ。
「ふぅっ。」
ギースは軽く息を吐き、後ろを振り返る。
「どうよ?」
その顔には、まさしく“ドヤ顔”という言葉が似合う笑みが浮かんでいた。
「……チッ。」
バトーは無意識に舌打ちをしていた。
(クソ……俺は半年もかかったのに、こいつは一日でこれかよ。)
心の中でぼやきつつも、表情には出さない。
「後は慣れだな。数をこなしていこう。」
「おうっ!やってやるぜ!」
ギースは再び拳を握りしめ、元気よく返す。
その様子に、バトーはふっと笑みを漏らした。
(まあ、素質があるってのは、悪いことじゃない。)
朝の光が強くなり、森の奥へと道が続いていく。
二人は肩を並べ、さらに深く――濃い魔力の漂う方へと進んでいった。
森の奥。
濃い霧の向こうで、地面がドスン、と揺れた。
「……お、オーガだ。」
バトーが呟く。木々の間から姿を現したのは、全身が岩のように硬い筋肉で覆われた二メートルを超える巨体。牙を剥き、唸り声を上げながら、ゆっくりと二人へ迫ってくる。
ギースの口元が緩む。
「やってやるぜ!」
「お、おい、ちょっと待て――!」
バトーの制止も聞かず、ギースは身体強化を発動させ、一気に地面を蹴った。
空気を裂く音と共に一直線に突っ込む。
オーガの拳が唸りを上げて振り下ろされる。ギースはギリギリで剣を構え、受け止めた。
衝撃で後ろへ吹き飛ぶが、すぐに地面を蹴って姿勢を立て直す。
「フンッ!」
次の瞬間には、すでにオーガの懐。斜めに斬り上げ、すぐに距離を取る。
血しぶきが弧を描き、オーガが怒り狂ったように咆哮を上げた。
「おいおい……マジかよ。」
バトーは苦笑しながら腕を組んで見ていた。
「こいつ……もう身体強化を完全にモノにしてやがる。感覚も反応も一流だ。」
ギースは息を乱すことなく、再び走り込む。
右腕を狙って鋭く斬りつけ、オーガの動きが止まった一瞬――。
「今だっ!」
回転しながら剣を振り抜く。
首筋を捉えた刃が、肉と骨を断ち切り、オーガの巨体が地響きを立てて倒れ込んだ。
血しぶきが朝日に照らされ、朱に輝く。
ギースは剣を軽く振って血を払い、腰に収めた。
「おっしゃっ!」
その顔には、達成感と自信が入り混じった笑み。
バトーはゆっくりと歩み寄り、ニヤリと笑う。
「ホント、こいつは……大物になるよ。」
森の風が静かに吹き抜け、倒れたオーガの血の匂いを遠くへ運んでいった。
森を抜け、陽が傾きかけた頃。
オーガの巨体を見下ろしながら、バトーがふと口を開く。
「……オーガの牙を受注してなかったっけ?」
ギースが「あ」と声を漏らす。
「そうだったな!」
慌てて腰の袋から解体ナイフを取り出し、オーガの口元へしゃがみ込む。
ギースの手つきは慣れたもので、数分もしないうちに大きな牙を2本、器用に取り外した。
「よし、完了っと。」
血を軽く拭いながらナイフを鞘に戻す。
「じゃあ、納品に戻ろうぜ。」
「ああ、報酬でうまい酒が飲めるな!」
ギースのテンションは高い。
――
夕暮れの街に戻り、ギルドの重厚な扉を押し開ける。
中はいつも通り活気に満ち、依頼掲示板の前には冒険者達が群がっていた。
受付に牙を差し出すと、受付嬢が微笑んで受け取る。
「確認しました。依頼達成、おめでとうございます。報酬はこちらになります。」
手渡された革袋には金貨が数枚。
「よしっ!」
ギースが拳を握りしめる。
「飲みに行こうぜ!」
「そうだな。飲むか!」
バトーも笑って頷いた。
ギース行きつけの酒場〈獣のあばら骨亭〉。
店に入ると、香ばしい肉の匂いと笑い声が満ちている。
ギースは馴染みらしく、店主に軽く手を上げた。
「おう!ギース、今日も元気だな!」
「当たり前だろ!今日はオーガ討伐の祝いだ!」
大ジョッキが二つ、ドンとテーブルに置かれる。
「乾杯!」
「おうっ!」
木のジョッキがぶつかり、泡がこぼれる。
肉を食らい、酒をあおり、戦いの疲れもすっかり吹き飛ぶようだった。
「……なあ、バトー。」
「ん?」
「俺、やっぱり冒険者が好きだわ。戦って、飯食って、仲間がいてさ。」
「そうだな。」
笑い声が響き、夜は更けていった。
翌朝――。
ギルド裏の訓練施設には朝靄が漂い、空気はひんやりと張りつめていた。
バトーとギースは、向かい合って木製の訓練剣を構えている。
「くっ……! オラァッ!!」
ギースが叫び、身体強化を発動させる。魔力が全身を巡り、足元の土が弾け飛ぶ。
その勢いのまま踏み込み、鋭い一撃をバトーへ叩き込む――が。
「甘い。」
バトーは軽く身体をずらし、剣を横へ流す。
そのまま手首の返しで反撃。木剣がギースの胴を叩き、衝撃が走った。
「ぐっ!」
それでもギースは止まらない。
すぐさま姿勢を立て直し、右から左へ連撃を浴びせる。
しかし、すべて防がれる。打ち込むたびに、火花のように魔力の残滓が散った。
「はぁっ!」
ギースが飛び込み、低い姿勢から斬り上げようとした瞬間――。
「そこだ。」
バトーの膝蹴りが横腹を捉える。
「ぐぼぉっ!」
ギースは宙を舞い、地面を何度も転がった。
「お、おい、大丈夫か?」
慌てて駆け寄るバトー。
ギースは顔を歪め、地面を拳で叩く。
「くそっ……おかしい。三流なんだろ?お前!」
バトーは苦笑した。
「ああ、三流だ。」
「じゃあ俺は……五流ってことじゃねぇかよ!」
ギースが情けない顔をする。
――そのとき。
「パチ、パチ、パチ。」
拍手が響いた。振り返ると、ティアナ、ケルス、シエナ、マルリスの姿があった。
どうやら、最初から見ていたらしい。
「おいおい、中々やるじゃねぇか、ギース。」
大剣を背負ったケルスがにやりと笑う。
「身体強化使えるなら、剣を変えたらどうだ?」
「剣?」とギースが首を傾げる。
「ああ。お前、力あるだろ。細い剣より、もっとデカい剣で圧倒した方が向いてる。」
ケルスが自分の背中の大剣を軽く叩いた。
「……そうか!」
ギースの目が輝いた。
「バトー! 買いに行くぞ!」
「お、おう。そうなのか? ま、まあいいけど……。」
バトーは苦笑いしながら後を追う。
ティアナ達の前を通り過ぎながら、ギースが軽く手を振った。
「じゃあな!」
「……ほんと元気ね、あの子。」
ティアナが微笑みながら呟く。
そのまま、2人は勢いよく訓練場を飛び出し――ギースおすすめの武器屋へと向かっていった。
訓練施設の裏手。午後の日差しが傾き始めた頃。
ギースの叫びが辺りに響き渡る。
「ギース!? お、おい……」
バトーが少し距離を取りながら声をかける。
ギースの目の前の空間で――
パチッ。
と小さな音がした。
「おっ……行けるか?」
「ウオオオオオオッ!!!」
ギースの額に浮かぶ血管がピキピキと盛り上がり、顔は真っ赤を通り越して紫色に近い。
パチッ、パチッ。
空間に細かなひび割れのような亀裂が走り、空気が歪んだ。
「できたーっ!! どぼぉだぁぁぁぁぁ!!!」
ギースが絶叫すると同時に――空間の裂け目が“ぱかっ”と開いた。
中には、暗く無限に続くような異空間が覗いていた。
「マジかよ……気合いで開きやがった。凄ぇな。」
呆れと驚きが入り混じった声でバトーがつぶやく。
ギースは鼻血をボタボタ垂らしながら、満面の笑みを浮かべていた。
「へへっ……やったぜ……これが……空間収納……!」
ドサッとその場に崩れ落ちる。
――少し前のこと。
昼食を終え、休憩を挟んだ午後。
身体強化を訓練したギースに、バトーは次の課題として「空間収納」を教えていた。
(まあ無理だろうな、と思ってたんだが……)
バトーは心の中でため息をつく。
空間収納は、実のところ魔力消費はほとんどない。
魔法そのものは単純で、「空間を少しだけ裂いて、自分専用の異空間を開く」だけの魔法だ。
しかし――問題は“感覚”だ。
異空間の座標を掴むという、理屈では説明できない感覚を要するため、ほとんどの戦士系冒険者には習得が難しい。
(てか、ギースはファイアボールすらまともに撃てないんだぞ?)
そう思っていた矢先に、
「気合いで開けてみせる!」
とギースは両拳を握りしめ、三時間ぶっ通しで集中を続け――
そして今、やり遂げた。
「ハァ……ハァ……見たかよ……俺だって、やればできるんだ……」
ギースは地面に倒れ込みながら、ぼたぼたと鼻血を流し続けている。
バトーは思わず吹き出した。
「お前……努力の方向性が常におかしいけど、嫌いじゃねぇよ。」
「だろ……?」
ギースはにやりと笑い、鼻の下を拭った。
午後の陽が傾き、地面に二人の長い影が伸びていく。
空間の裂け目は、静かに“パチン”と音を立てて閉じた。
翌朝。
朝靄に包まれた森の中、湿った空気の中でバトーとギースは向かい合っていた。
「今日は身体強化を使って戦闘訓練だ。」
バトーの声は静かだが、どこか引き締まった響きを持っている。
「いいか?――薄く使って、サクッと倒す。そして、すぐに強化を切る。これでいこう。分かったな?」
「分かった!」
ギースは力強くうなずき、拳を握った。
バトーが周囲に視線を巡らせる。
朝日が差し込み、木々の間に光の筋が伸びている。その中で、微かな気配が動いた。
「お、何かいるぞ。……ゴブリンっぽいな。三体だ。」
ギースの顔がぱっと輝く。
「よし、任せろ。」
「薄く、うすーく、だぞ。」
バトーが釘を刺すように言う。
「分かってるって。」
ギースは小声でつぶやきながら、身体強化を発動。
彼の体を薄い光の膜が包み――一瞬で視界から消えた。
「っ!?」
木の葉が舞い、風が切り裂かれる音が響く。
次の瞬間、ゴブリン三体の首が同時に飛んだ。
「ふぅっ。」
ギースは軽く息を吐き、後ろを振り返る。
「どうよ?」
その顔には、まさしく“ドヤ顔”という言葉が似合う笑みが浮かんでいた。
「……チッ。」
バトーは無意識に舌打ちをしていた。
(クソ……俺は半年もかかったのに、こいつは一日でこれかよ。)
心の中でぼやきつつも、表情には出さない。
「後は慣れだな。数をこなしていこう。」
「おうっ!やってやるぜ!」
ギースは再び拳を握りしめ、元気よく返す。
その様子に、バトーはふっと笑みを漏らした。
(まあ、素質があるってのは、悪いことじゃない。)
朝の光が強くなり、森の奥へと道が続いていく。
二人は肩を並べ、さらに深く――濃い魔力の漂う方へと進んでいった。
森の奥。
濃い霧の向こうで、地面がドスン、と揺れた。
「……お、オーガだ。」
バトーが呟く。木々の間から姿を現したのは、全身が岩のように硬い筋肉で覆われた二メートルを超える巨体。牙を剥き、唸り声を上げながら、ゆっくりと二人へ迫ってくる。
ギースの口元が緩む。
「やってやるぜ!」
「お、おい、ちょっと待て――!」
バトーの制止も聞かず、ギースは身体強化を発動させ、一気に地面を蹴った。
空気を裂く音と共に一直線に突っ込む。
オーガの拳が唸りを上げて振り下ろされる。ギースはギリギリで剣を構え、受け止めた。
衝撃で後ろへ吹き飛ぶが、すぐに地面を蹴って姿勢を立て直す。
「フンッ!」
次の瞬間には、すでにオーガの懐。斜めに斬り上げ、すぐに距離を取る。
血しぶきが弧を描き、オーガが怒り狂ったように咆哮を上げた。
「おいおい……マジかよ。」
バトーは苦笑しながら腕を組んで見ていた。
「こいつ……もう身体強化を完全にモノにしてやがる。感覚も反応も一流だ。」
ギースは息を乱すことなく、再び走り込む。
右腕を狙って鋭く斬りつけ、オーガの動きが止まった一瞬――。
「今だっ!」
回転しながら剣を振り抜く。
首筋を捉えた刃が、肉と骨を断ち切り、オーガの巨体が地響きを立てて倒れ込んだ。
血しぶきが朝日に照らされ、朱に輝く。
ギースは剣を軽く振って血を払い、腰に収めた。
「おっしゃっ!」
その顔には、達成感と自信が入り混じった笑み。
バトーはゆっくりと歩み寄り、ニヤリと笑う。
「ホント、こいつは……大物になるよ。」
森の風が静かに吹き抜け、倒れたオーガの血の匂いを遠くへ運んでいった。
森を抜け、陽が傾きかけた頃。
オーガの巨体を見下ろしながら、バトーがふと口を開く。
「……オーガの牙を受注してなかったっけ?」
ギースが「あ」と声を漏らす。
「そうだったな!」
慌てて腰の袋から解体ナイフを取り出し、オーガの口元へしゃがみ込む。
ギースの手つきは慣れたもので、数分もしないうちに大きな牙を2本、器用に取り外した。
「よし、完了っと。」
血を軽く拭いながらナイフを鞘に戻す。
「じゃあ、納品に戻ろうぜ。」
「ああ、報酬でうまい酒が飲めるな!」
ギースのテンションは高い。
――
夕暮れの街に戻り、ギルドの重厚な扉を押し開ける。
中はいつも通り活気に満ち、依頼掲示板の前には冒険者達が群がっていた。
受付に牙を差し出すと、受付嬢が微笑んで受け取る。
「確認しました。依頼達成、おめでとうございます。報酬はこちらになります。」
手渡された革袋には金貨が数枚。
「よしっ!」
ギースが拳を握りしめる。
「飲みに行こうぜ!」
「そうだな。飲むか!」
バトーも笑って頷いた。
ギース行きつけの酒場〈獣のあばら骨亭〉。
店に入ると、香ばしい肉の匂いと笑い声が満ちている。
ギースは馴染みらしく、店主に軽く手を上げた。
「おう!ギース、今日も元気だな!」
「当たり前だろ!今日はオーガ討伐の祝いだ!」
大ジョッキが二つ、ドンとテーブルに置かれる。
「乾杯!」
「おうっ!」
木のジョッキがぶつかり、泡がこぼれる。
肉を食らい、酒をあおり、戦いの疲れもすっかり吹き飛ぶようだった。
「……なあ、バトー。」
「ん?」
「俺、やっぱり冒険者が好きだわ。戦って、飯食って、仲間がいてさ。」
「そうだな。」
笑い声が響き、夜は更けていった。
翌朝――。
ギルド裏の訓練施設には朝靄が漂い、空気はひんやりと張りつめていた。
バトーとギースは、向かい合って木製の訓練剣を構えている。
「くっ……! オラァッ!!」
ギースが叫び、身体強化を発動させる。魔力が全身を巡り、足元の土が弾け飛ぶ。
その勢いのまま踏み込み、鋭い一撃をバトーへ叩き込む――が。
「甘い。」
バトーは軽く身体をずらし、剣を横へ流す。
そのまま手首の返しで反撃。木剣がギースの胴を叩き、衝撃が走った。
「ぐっ!」
それでもギースは止まらない。
すぐさま姿勢を立て直し、右から左へ連撃を浴びせる。
しかし、すべて防がれる。打ち込むたびに、火花のように魔力の残滓が散った。
「はぁっ!」
ギースが飛び込み、低い姿勢から斬り上げようとした瞬間――。
「そこだ。」
バトーの膝蹴りが横腹を捉える。
「ぐぼぉっ!」
ギースは宙を舞い、地面を何度も転がった。
「お、おい、大丈夫か?」
慌てて駆け寄るバトー。
ギースは顔を歪め、地面を拳で叩く。
「くそっ……おかしい。三流なんだろ?お前!」
バトーは苦笑した。
「ああ、三流だ。」
「じゃあ俺は……五流ってことじゃねぇかよ!」
ギースが情けない顔をする。
――そのとき。
「パチ、パチ、パチ。」
拍手が響いた。振り返ると、ティアナ、ケルス、シエナ、マルリスの姿があった。
どうやら、最初から見ていたらしい。
「おいおい、中々やるじゃねぇか、ギース。」
大剣を背負ったケルスがにやりと笑う。
「身体強化使えるなら、剣を変えたらどうだ?」
「剣?」とギースが首を傾げる。
「ああ。お前、力あるだろ。細い剣より、もっとデカい剣で圧倒した方が向いてる。」
ケルスが自分の背中の大剣を軽く叩いた。
「……そうか!」
ギースの目が輝いた。
「バトー! 買いに行くぞ!」
「お、おう。そうなのか? ま、まあいいけど……。」
バトーは苦笑いしながら後を追う。
ティアナ達の前を通り過ぎながら、ギースが軽く手を振った。
「じゃあな!」
「……ほんと元気ね、あの子。」
ティアナが微笑みながら呟く。
そのまま、2人は勢いよく訓練場を飛び出し――ギースおすすめの武器屋へと向かっていった。
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