異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

ルート

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【異世界・王都郊外 ユートの屋敷・転移部屋】

「じゃ、ちょっと行ってくる」

 ユートは片手を挙げてバルトとティナに声をかけた。

「また貴族関係か? 変な揉め事になるなよ」

「ふふ、大丈夫だよ。ユートなら平気」

 バルトとティナにはあくまで“貴族絡みの用事”と伝えていた。
 本当の行き先――地球――のことは、今はまだ秘密だ。

 転移魔法を発動すると、眩い光と共にユートの姿が消えた。


---

【地球・とある倉庫街・深夜】

 人気のないコンテナ倉庫の裏に、魔法陣の光が浮かび、ユートが姿を現す。

「ふぅ……こっちの空気も変わってねぇな」

 スマホを取り出し、暗号化された連絡アプリを開く。

【風間】:

> “久しぶりだな。会えるか? 例の件、話がある”



「……ちょうどこっちも話したいことがあったんだ」

 返信を送り、指定された場所へ向かう。


---

【地球・都内某所・風間のオフィス】

 夜の雑居ビルの一室。
 カーテンが閉め切られた室内には、モニターと書類、そして風間がコーヒー片手にソファへ沈んでいた。

「来たな、勇者さま」

「やめろって、その呼び方。……で、例の話って?」

 風間はタブレットをユートに手渡す。
 そこには、いくつかの人物の顔写真と、関係者の情報が並んでいた。

「例の“薬”の話、まだ地味にくすぶってる。ただ、今は俺がフィルターかけてる。妙な筋に話が流れないようにな。だけど……これ以上は広げられない」

「……つまり?」

「新しいルートが必要だ。信用できる人間に、限定的に“使わせる”。高額でも構わないってヤツらだ。ただし、信頼が前提。広告じゃなく、紹介だけで回せるルート」

 ユートは顎に手を当てて考え込む。

「……やっぱり、タダで配るより、“価値があるもの”として扱った方が疑われにくいな」

「その通り。そして、お前もリスクを減らせる」

 風間は椅子に身を預けたまま、言葉を続ける。

「で、どうする? このリストの中から、会ってみるか?」

 タブレットに映るのは、企業経営者、慈善団体の代表、そして医療関係者たち。
 中には軍関係者らしき影も見え隠れしていた。

 ユートは画面をスクロールしながら、ゆっくりと息を吐いた。

「……選ぶのは慎重にしよう。下手をすれば、俺も、異世界も……巻き込まれる」

【都内・都心部の高級医療施設・特別病棟】

 矢代の手配により、一般には非公開の医療棟の奥まった個室。
 そこに、1人の少女がベッドに横たわっていた。

 歳はおそらく10歳前後。痩せ細った四肢、シーツの下には切断された右腕と左脚。
 小さな身体に、大きな悲しみと痛みが宿っていた。

「……小春(こはる)ちゃん。君を助けに来た人がいる」

 矢代がそう声をかけると、少女はゆっくりと顔を向けた。
 その視線の先には、黒いジャケット姿のユートが立っていた。

「榊 春都です。少し、不思議な薬を持ってきた。信じてくれたら……元通りになるかもしれない」

 少女は黙って頷いた。
 その瞳には、諦めとほんの少しの希望が混ざっていた。

「……親御さんは?」

「事故で……彼女だけが生き残った。今は私が保護してる」

 矢代の低く絞った声に、ユートは軽く頷いた。

 そして、小瓶を取り出す。淡い金色の光を放つ――上級ポーション。

「……怖かったらやめてもいい。でも、俺は今まで、これで何人も救ってきた」

「……信じる。お願いします……!」

 少女の声は震えていたが、確かな決意があった。

 ユートはキャップを外し、瓶を慎重に傾け、少女の唇へ。

 一滴、二滴、ゆっくりと。
 液体が喉を通った瞬間――

「っ……あつい……!」

 全身を駆け巡るような、激しい熱。
 少女の顔が赤くなり、目を閉じて身体を震わせる。

「心拍上昇!数値確認、異常活性化!血流増加中!」

 モニターの警告音が鳴り響く。医療スタッフが慌てて動き出すが、矢代が手を挙げて制止する。

「そのままだ。……見てろ」

 ユートは静かに言った。

「これが、奇跡の始まりだ」

 次の瞬間――

 切断されていた右腕の付け根から、新たな骨と筋肉が生まれ始める。
 まるで映像の早送りのように、細胞が再構築され、皮膚が張られ、指が生まれる。

「うそ……うそ、でしょ……?」

 看護師の呟きが漏れる。

 左脚も同様に、関節が形を成し、足先が生まれていく。

 そして、10分も経たぬうちに――

「……動く……」

 小春が、再び“自分の手”を見つめ、涙を流した。

「ありがとう……ありがとう……っ!」

 ユートは少しだけ微笑み、頷いた。

「もう、大丈夫だ。君は、自分の力で立てるようになる」


---

【医療施設・出口付近】

 矢代がユートに追いつき、静かに言った。

「……これが、君の“力”か」

「これは、あくまで“薬”の力だ。俺は、ただ届けただけだよ」

「それでも、君の存在がいなければ、この奇跡は起こらなかった」

 矢代は深く頭を下げる。

「ありがとう。君がどこから来たかは聞かない。だが――これからも、力を借りたい」

「……必要な人のためなら、考えるさ」

 ユートは、風のようにその場を去った。


---

【数日後・とある病院の噂】

「聞いたか? あの特別病棟の子、再生したらしいぞ」

「まさか。あれはデマだろ? だって切断だったんだろ?」

「でも見たやつがいるんだよ……腕も脚も、元通りだったって」

 噂はあっという間に医療関係者の間を駆け巡った。
 表立って報道はされない。だが、医師たち、研究者たち、そして一部の“探る者たち”にとって――その情報は、衝撃だった。


---

【都内・風間のオフィス】

 雑居ビルの一室、コーヒー片手に書類の山を前に風間が頭を抱えていた。

「おい、ちょっと……広がってきてるぞ。あの子の話、さすがに抑えきれなくなってきてる」

 ユートはソファに座り、足を組んだまま小さく溜息を吐いた。

「……やっぱりな。でも、あれだけのことが起きて“誰にもバレない”なんて無理な話だ」

 風間はタブレットを差し出す。画面には各所からのアクセスログ、問い合わせ、SNS上での都市伝説的な投稿が散見されていた。

「“謎の再生薬”とか“超再生医療の実験台”とか、“異星由来のバイオテクノロジー”とか、いろんな憶測が飛んでる。どれも真実にかすってるのが厄介だ」

「矢代は?」

「必死に火消ししてる。今のところ“再生医療技術の一環”ってことにして、限定的に話を進めてる。……でもな、政府関係者も動き出してるぞ」

 ユートは顎に手を当て、しばらく黙ってから呟く。

「風間……もし俺がいなくなったら、矢代を頼む」

「縁切りかよ?」

「違う。……いずれ、どこかで“逃げなきゃいけない”状況が来る気がしてる」

「はっ、まるでSF映画の主人公みたいなセリフだな」

 風間は笑いながらも、その目には真剣さが宿っていた。

「……けど、俺も今さら引けねぇよ。“榊春都”って名の後ろに、いくつ命が救われてると思ってんだ?」

「……ありがとな」


---

【夜・街のビル屋上】

 ネオンの光が滲む夜景を背に、ユートは空を見上げた。

(次に救うのは誰だ……)

 胸ポケットには、あと数本の上級ポーション。
 だが、万能薬はもう残り1本。

(そろそろ、また異世界に戻らないとな……)

 風間との新たな取引ルート、矢代との協力関係、広がる噂と迫り来る危機。

 ユートの“二つの世界の狭間での使命”は、ますます複雑さを増していく。

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