異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

異世界にて

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【三日後・王都 ゼネの研究室】

 指定された三日目の午後。ユートが研究室を訪れると、部屋の中には薬草の香りと、わずかに焦げたような匂いが混ざっていた。

「来たか。仕上がってるぞ」

 ゼネが目の下に軽くクマを作りながらも、どこか誇らしげに瓶を並べる。
 机の上には、琥珀色に輝く《上級ポーション》が30本、そして淡く光を放つ透明な《万能薬》が3本、丁寧に木箱に詰められていた。

「手間はかかったが、満足できる出来だ。万能薬のほうは……少し冷暗所で保管するんだな」

「分かった。ありがとう。助かる」

 金貨180枚を手渡し、丁重に礼を述べて研究室を後にするユート。
 屋敷に戻り、素材と薬を保管して一息ついたところで――

 屋敷の扉が控えめにノックされた。

「失礼します。ギルドより使いの者です。至急、ユート様にお届けするようにとのことでした」

 家政婦のミリアが手渡したのは、封蝋のされた文書。ギルド本部印が押された重厚な紙だった。


---
【王都ギルド 本部室】

 王都のギルド本部。その重厚な扉の奥にある応接室へと通されたユートは、ギルド幹部のひとり、初老の男性と向かい合っていた。

 銀髪に厳つい顔立ち。だが、その目には迷いと切実さがにじんでいた。

「ユート君……この件、私個人からの話として聞いてほしい」

 ギルドの重役である彼が、まっすぐにユートの目を見据えながら話を切り出す。

「……グレイス伯爵から、少し前に聞いたんだ。グラズの娘を、あんたが“ある薬”で治したってな」

 ユートは表情を変えなかった。ただ、ゆっくりと腕を組み、静かに頷いた。

「そうか……やっぱり、あんたか。安心したよ」

「……他言は?」

「するわけない。伯爵にも、黙っておけと言われてる。私からも口外はしないと誓う。……そのうえで、頼みがある」

 重役は一枚の紙を差し出した。それは、王都から南にある小村の情報だった。

「この村にいる女性だ。数年前に事故で両脚を失って以来、寝たきりでな。もうどんな治療も効果がなかった」

 ユートはじっと目を伏せ、しばし黙考した。

「俺は……医者じゃない。だけど、その薬が効くかもしれない。確実な保証はできない」

「わかってる。それでも……もしあの娘が、もう一度立てるなら……どれだけの人間が救われるか……」

 机の下、彼の拳は震えていた。
 それが、個人的な感情から来るものであることは、すぐにわかった。

「……行ってみるよ。俺にできることならな」

「……ありがとう。本当にありがとう。報酬は、ギルド個人枠で用意させてもらう。だが、それ以上に……私は、あの子の未来を買いたい」

 その言葉に、ユートは軽く微笑んでうなずいた。

「俺のことも、薬のことも……できれば忘れてくれ」

「約束しよう。あんたの秘密は、俺の胸の中だけにしまっておく」


---
【王都南部・小さな村】

 王都から南へ馬車で半日。広がる田畑と、のどかな景色の中にある小さな村。
 ユートはギルドの案内人と共に、ひときわ静かな一軒の家を訪れていた。

「……ここです。ミレーヌさんという村長の娘さんでして。数年前の事故で両脚を失って以来、ずっと寝たきりで……」

 案内人の言葉に軽く頷き、ユートは扉を叩く。
 出てきたのは優しげな中年女性で、彼女が丁寧にユートを室内へと招いた。

 奥の部屋。差し込む日差しの中、白い寝具の上で少女が静かに横たわっていた。
 年は二十歳前後。やせ細った身体に、憂いを帯びた瞳――だが、その瞳だけは力を失っていなかった。

「こんにちは。俺はユート。少し変わった薬を持ってきた。もしかしたら……君の脚を、もう一度動かせるかもしれない」

 ミレーヌは驚いたように目を見開いたが、すぐにゆっくりと頷いた。
 希望を抱くにはあまりに長い時間が経っていた。その中でようやく届いた、かすかな光。

 ユートは腰のポーチから、小瓶を取り出す。
 淡く琥珀色に光る液体――それが、《上級ポーション》。

「この薬は、普通の治癒薬とは違う。深い傷や病、失ったものさえ癒す力がある。完全ではないが、可能性はある」

 ミレーヌの母が息を呑み、そっと娘の背を支える。
 ユートは瓶の蓋を開け、慎重にミレーヌの口元に近づけた。

「……じゃあ、いくぞ」

 一滴、また一滴。液体がゆっくりと喉を伝って落ちていく。
 次の瞬間――ミレーヌの身体が、かすかに震えた。

「……ん……熱い……身体の中が……なにか、動いてる……!」

 脚――長年動かなかった、存在すら忘れかけていたそれが、びくりと反応する。

「……嘘……指が、……動いてる……!」

 周囲の誰もがその瞬間を見逃さなかった。
 毛布の下、脚が明らかに力を取り戻し、筋肉が、関節が、生まれ変わるように動き出していた。

「ミレーヌ……!」

 母親が泣き出す中、ミレーヌは震える声で言った。

「立って……みても、いいですか……?」

 ユートは、にっこりと笑いながら頷いた。

「無理はするな。でも……ゆっくりなら、きっとできるさ」

 支えられながら、ミレーヌは数年ぶりに足の裏で床を感じた。
 一歩――そして、もう一歩。

「……立ってる……私、ほんとに……!」

 家の中に歓声と涙が溢れた。
 案内人が黙ってユートに深く頭を下げた。


---

【その夜・帰路】

 ユートは村を後にしながら、静かに夜空を仰いだ。

「上級ポーション……こんな使い方なら、いくらでもしてやりたいな」

 それがまた、誰かの希望になるなら――

 ユートはそっとポーチの中に残る瓶に手を添え、王都への帰路についた。


---
【王都・ライネル商会 応接室】


「……で、万能薬の方はどうだった?」

 その言葉に、ライネルと執事の男が顔を見合わせた。
 一瞬の間のあと、ライネルが口を開く。

「はい。先日お預かりした万能薬、1本……実は、すでに売れました」

「……売れた?」

「はい。王都北部に屋敷を構えるエステール侯爵家が買い求めました。
 重病の奥方が長年病に伏せていたのですが、“いかなる病でも癒やす可能性がある薬”として紹介したところ……即決で、金貨五万枚での取引となりました」

「……五万枚」

 ユートは思わず眉をひそめた。

「そんな額で買ってくれるのか」

「“もし本当に治るなら、安い”とまで言っていました。しかも……結果として、治癒は成功したようです」

「……成功?」

「ええ、信じられないほど劇的に回復したとのことで、貴族間では今“噂”になりつつあります」

 ライネルが笑みを浮かべて続ける。


「とはいえ、万能薬は上級ポーションとは格が違う。あれは下手に出回らせない方がいい」

 ユートは少し考えてから、静かに頷いた。

「……なら、しばらくは少量ずつ……だな。今はまだ目立ちたくない」



---

【王都・ユートの家 早朝】

 空が白み始めた頃、ユートは静かに荷物をまとめていた。
 窓の外では、まだティナとバルトが静かに眠っている気配がある。
 食卓の上に、書き置きを一枚残しておいた。

 ──数日で戻る。少し遠くへ行ってくるだけだ。
   訓練は忘れずに。戻ったら、また一緒に依頼を受けよう。

「……よし、行くか」

 深呼吸をひとつ。
 ユートは【魔大陸】に転移した。


---

【魔大陸・瘴気の谷】

 地を這うように広がる黒い霧。空は常に曇り、どこかざらついた空気が漂っている。
 その中でも、命樹の芽は――確かに、根元で小さく輝いていた。

「……あった」

 前回よりも瘴気は濃く、視界も悪い。
 だがユートは前回の経験を活かし、慎重に周囲の魔力反応を探っていた。

「魔物の気配……複数。囲むように動いてるな」

 草を踏み鳴らすような足音が近づく。獣型の魔物――《ナイトストーカー》。
 漆黒の体毛と異様に長い前肢。三体が姿を現し、低く唸る。

「……まぁ、来るよな」

 ユートは魔力を解放することなく、素早く腰を落とし、魔法陣を構築。
 【ストーンバレット】を連射し、先頭の1体の膝を砕いた。
 その隙に【ウィンドカッター】を重ね、体勢を崩した後ろ2体の首を断つ。

 地面に倒れた魔物を見下ろしながら、小さく呟いた。

「……強化魔法なし、魔力も抑えた状態……これなら調整しながら狩れるな」

 その後、瘴気の谷を抜け、命樹の芽を6つ入手。
 魔法袋にしまい、休む間もなく次の目的地へ――。


---

【魔大陸・黙滅の谷】

 ここはさらに危険なエリア。死した魔物の魔力が濃密に漂い、空気自体が重い。
 だが、ここには“命の核石”が眠っている。

「前よりも……魔力の流れが不安定だな」

 空間に歪みすら感じる。
 慎重に進むユートの前に、全身を岩のような鱗で覆った巨大な魔物が姿を現す。

 《マグ・トラッグ》。
 かつての戦いでも苦戦した個体であり、今目の前にいるのはそれよりも一回り大きい。

「……やるか」

 魔力の指輪を外す。抑えていた力が一気に溢れ出す。
 ユートは拳を握りしめ、空中に複数の魔法陣を展開。
 火、水、風、土――属性を重ねた魔法を次々に放ち、魔物の動きを封じる。

 【マルチ・ストーンバレット】
 【トルネードスパイク】
 【トリプル・ファイアボール】
 連続で放たれる弾幕に押され、巨体の魔物はついに膝をついた。

 最後に、【ウォーターカッター】を一点集中で放ち、首筋の装甲を切り裂いた。

 魔物が崩れ落ちると、その背後の岩陰に、小さく光る“結晶”があった。
 ──命の核石。

「……見つけた」

 苦戦の末、命の核石を4つ確保。
 回収後、ユートは魔法袋を閉じ、転移の構えをとった。

「帰るか。これでまた、誰かを救える」


---

【王都・ゼネの研究室】

 王都の裏通りに佇む錬金術師ゼネの工房。
 魔大陸から戻ったユートは、素材を詰めた魔法袋を肩にかけ、扉を叩く。

「おお、来たかユート君。入れ入れ、いいタイミングだ」

 ゼネはいつもどおり白衣姿で、薬草と金属の匂いをまといながら迎え入れた。
 作業台には、先に依頼していた【上級ポーション】と【万能薬】の瓶が並んでいた。

「完成したのか?」

「うむ。上級ポーション30本、万能薬は5本。どれも最高の出来だ。素材の質が良いからな」

 ユートは魔法袋から、追加の素材を取り出して机に並べた。

「こっちが今回の分。命樹の芽が6つ、命の核石が4つ。追加で頼む」

「ふむふむ……これなら、上級ポーション60本、万能薬4本は確実に作れるな。数日はかかるが、問題ない」

 ゼネが手際よく素材を仕分ける様子を見ながら、ユートは革袋を差し出す。

「それと、報酬。金貨300枚で」

「……ほう、今回はずいぶんと弾むな?」

「これだけの手間を考えれば安いくらいさ。それに、あんたの腕前にも感謝してる」

「ふふ、口がうまいな。では、ありがたく受け取っておこう」

 ゼネは袋を手に取り、手慣れた様子で枚数を確認すると、柔らかく頷いた。

「素材は申し分ないし、作り甲斐もある。完成したらすぐ知らせよう」

「頼んだ」


---

【ポーション製作状況】

完成済:

上級ポーション × 30本

万能薬 × 5本


新たな素材:

命樹の芽 × 6(→ 上級ポーション60本分)

命の核石 × 4(→ 万能薬4本分)


完成予定:数日後

報酬:金貨300枚

【王都・ライネル商会 応接室】

 王都の中心部に位置する、格式高いライネル商会。
 ユートは革製の頑丈なケースを携え、応接室へと通された。

 部屋の奥には、ライネル・ロッセ商会長が静かに紅茶を口にしていた。
 その佇まいは落ち着いており、実務家としての気品と理知を感じさせる。

「今日は、納品にきた。」

 ユートがケースをテーブルに置くと、ライネルは柔らかく微笑んだ。

「いえ、わざわざありがとうございます、ユート様。どうぞ、そちらへ」

 ライネルの物腰は丁寧で、威圧感のない洗練された敬語が自然に耳に入る。
 ユートがケースの留め具を外すと、丁寧に並べられたポーションの瓶が姿を現した。

「上級ポーション20本と、万能薬3本。状態は万全。冷却加工も施してある」

「……素晴らしい出来栄えです。薬師ギルドと協力し、品質チェックは万全を期して対応いたします。価格の設定は以前と同様でよろしいですか?」

「任せるよ。信頼してる」

 ライネルは頷き、傍に控える書記に目配せして控えを記入させた。
 続けて、ユートはもう一つの話題を口にする。

「それと、もうひとつお願いがある」

「はい。どうぞおっしゃってください」

「“魔力制限の指輪”、それもできれば呪い付きのものを探してほしい」

 ライネルの表情がわずかに動いた。

「……なるほど。魔力の暴走や過剰出力を抑えるための措置、という理解でよろしいでしょうか?」

「そう。強力な魔法職が、あえて自分に枷をかけて制御の訓練をしたい時に使うやつだ。……できれば、物理的に外せないタイプがいい」

「呪い系の魔道具は流通が限られておりますが……当商会の裏ルートを使えば、可能性はあります。少々お時間を頂ければ、探してみましょう」

「頼む」

「かしこまりました。見つかり次第、速やかにご連絡いたします」


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