異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第3章

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【フィルデン・開拓地・数日後】

 広場予定地を中心に、簡易な目印杭が立てられ、整地された土の上には図面通りの枠組みが作られていた。

 職人たちの動きも日に日にスムーズになり、作業現場には確かな“流れ”が生まれている。

「よし……次は倉庫と仮の守備拠点だな」

 宮野は立てたばかりの図面をユートに渡す。
 ラインは簡素だが正確で、必要なスペース、搬入経路、通風と排水まできちんと考慮されていた。

「こっちは南側の土壁を少しだけ高くして、見張り台を兼ねるつもりだ」

「さすが……最小構造でよくここまでまとめたな」

「最初の街ってのは、足場さえ確保できれば、あとは人が自然に形を与えていくものだ。
 ――とはいえ、魔物対策だけは侮らない方がいい」

「了解。そっちは俺が何とかする」


---

 倉庫の基礎工事にあたって、ユートは土魔法で地盤を整え、溝を掘り、資材の運搬を補助する。

 魔力は惜しまなかった。
 転移で使える“ストック”があるとはいえ、今は街の命運がかかっている。

「はいっ、土の壁できたよー!」

「バルト、雑っ! ちょっと傾いてる!」

「えぇ!? そんなはずは……! ほら、俺、なんでも真っ直ぐ!」

「体だけでしょそれ!」

 ティナとバルトの掛け合いに、現場が和やかな笑いに包まれる。

 そんな雰囲気を、宮野が少し遠巻きに見ていた。

(……あれが、ユートの“仲間”たちか。
 彼が“秘密”を抱えてでも、守りたい存在)


---

 夕方、仮設の見張り台から遠くの森を見渡すユートの瞳は、わずかに陰りを帯びていた。

(……王太子殿下。やっぱり“何か”を見ている)

(俺を自由にさせる一方で、密偵を送り、街の進行状況を逐一確認……ただの好奇心じゃない)

(それとも、俺自身に“何かを託すつもり”なのか?)

 魔力の使い方、街を作る意図、仲間との関係……
 自分がこの世界に何をもたらすのか――もはや、自分ひとりの物語ではなくなってきている。


---
【フィルデン・開拓本部・設計テーブル】

 仮設テント内のテーブルには、住居区画の図と共に、新たな設計草案が並ぶ。

 宮野がペンを走らせながら言った。

「次は住居だが、先に決めておきたいのが上下水道の基盤だ。
 これを雑にやると、街全体がすぐ衛生的にダメになる」

「確かに……こっちの世界、下水とか整ってる場所の方が珍しいからな」


---

宮野はメモを指差す。

「幸い、水源が近くにある。丘の上にある小川――あそこから引水して重力式の給水を作る」

簡易な木管・陶管による水路を引き、

集水地を街のやや高い位置に設けて、

そこから重力で各エリアに水を配る


「ユート、君の土魔法で“水路を通す溝”を正確に作れるか?」

「勾配を意識すればいける。水が自然に流れる角度に調整して掘るのは得意だ」


---

「問題は“排水”だな。ここは衛生管理をシビアにしたい」

住居ごとに簡易な**汚水溜め(浸透式 or 集水)**を設置

一定区画ごとに**排水管(溝)**を設け、下流に流す構造へ

集水地は街の外れに設け、自然分解+魔法的除菌を試す


「一部に“浄化系の魔法”が使える人材がいれば、もっと理想的なんだが……」

「俺は浄化魔法は無理だけど、フィルターとして使えそうな素材を調べてみるよ。
 土や砂利の層で、ある程度の濾過ができるはずだ」



「水路用の土溝、そして分岐の基礎、
 ユート、まず試作で一本、通せるか?」

「ああ、任せろ」

 ユートはすぐさま現場へ出て、
 重力給水ルートと、住居予定地に向かう支線の溝掘り作業に取りかかるのだった。


---
【フィルデン・上流の小川付近】

 小川のほとりに立つユートの足元では、細長く掘られた浅い溝が丘の斜面へと続いていた。
 水源から住居区画へ――それがこの街の“命の線”になる。

「よし……流せるか、試してみるか」

 ユートは指先に魔力を集中し、掘ったばかりの水路の縁をなぞる。

「《アース・ライン》……水路、固定」

 掘り出した土を均し、崩れやすい部分に圧をかけて固める。
 わずかに勾配がついており、自然に水が流れ出した。

 ――サラサラッ……という音が、静かに溝を伝って広がっていく。

 遠く、丘の中腹。そこに設けられた“集水槽”に、水が無事に届いた。

「完璧……だな」


---

【仮設本部】

「見事だよユートくん。
 土だけでここまで均整のとれた導水路を作れるなんてな」

 地図にチェックを入れながら、宮野が満足そうに頷く。

「この流れを基本に、まず5区画分の住居と、物資集積用の簡易倉庫を作る。
 排水ルートは住居の裏手から東斜面へ。最終的に“自然分解エリア”を作るとして……」

「作業分担どうする?」

「僕が配置を指示する。
 君は引き続き“水の通り道”と“地盤の強化”を。バルトとティナには搬入と壁の仮組みを頼もう」

「了解」


---

【フィルデン・建設開始】

 拠点の中央から、まず仮設住居5棟分の枠が組まれ始めた。
 仮設といっても、今後の拡張を見越した本気設計だ。

「ユートー、こっちの基礎掘れたぞー!」

「このあたり、少し湿ってるから地面締め直すぞ。バルト、足元どけろ!」

「おおっ!? うわっ、土が勝手に固まっていく……!」

「それが魔法だってば」

 土を削り、締め、整地して――水が通り、風が抜ける。
 フィルデンの地に、ようやく“人が住む形”が生まれ始めた。


---

 夕陽が落ちる頃。仮設の見張り台に立つ宮野とユート。

「……これ、本当に“街”になるな」

「まだ始まりに過ぎない。でも、ここからが本番だ」

「君の魔法と、僕の設計が合わさることで――普通じゃありえないスピードで成長できる。
 だがそれだけ“注目も集まる”。」

 宮野は遠く、森の向こうを見やった。

「……何者かが、また“見ている”気がするよ。あの森の奥。あれは獣の視線じゃない」

「――俺もそう思う」


---

【フィルデン・中央広場予定地・仮設会合】

 住居棟五つ、物資用倉庫一棟、簡易給排水、作業テント、資材置き場。
 街の骨格が、ようやく“機能”として成立し始めていた。

 宮野はその図面の上に手を置きながら、ぽつりと口にした。

「この街……そろそろ“住む人”を呼べる段階に来ている。
 けれど、いきなり無計画に人を増やすのはまずい」

「だな。治安、物資、管理体制……とくに“ルール”が整ってないうちは混乱する」

 ユートは腕を組み、真剣な表情を見せていた。

「とりあえず、信頼できる商人や職人から“定住候補”を集めて、ゆっくり拡大していく。
 その第一歩として――商会からの視察を受けるのはどうだ?」

「……先に来るぞ、多分。こっちが誘う前に」

 ユートの言葉通り、それは思った以上に早くやってきた。


---

【フィルデン・仮設本部・昼】

 ティナが仮設詰所から手紙を手に戻ってきた。

「ユートー、なんか“商会の使者”が来てるって。手紙もあるわ」

「もう来たか……どこの商会?」

「えっと……“エンデリオ商会・外商部”――って書いてある。差出人、ノア・スヴェルって」

「やっぱり来たか……」

 ノアは、王都で何度も顔を合わせている有能な商人だ。
 抜群の嗅覚と決断力を持ち、“投資価値のある土地”に敏感なことで知られている。


---

【商会視察の申し入れ】

 手紙は丁寧でありながら、強い興味と下調べの跡が見える文面だった。

> 「現在、貴殿の計画されている開拓地に関し、
安定的な物流拠点としての可能性を感じております。
ご迷惑でなければ、一度現地を拝見させていただきたく――」



 そして末尾には、ノア直筆で小さく書かれていた。

> 「――どうせ近いうちに必要になる。だったら、早めに話そう、ユート」



「……うん、ノアだな」


---

 ユートはしばらく黙ったあと、静かに頷いた。

「迎えよう。だが、“ただの視察”で済む相手じゃない」

「じゃあ、こちらも準備しておいた方がいい?」

「宮野、少しだけ“街の理念”を整理しよう。
 ノアに“投資させる価値がある街”だと、はっきり伝えなきゃならない」


---
【フィルデン・仮設設計テント・夜】

 夜風が地図をめくる音が静かに響く。
 宮野が椅子に深く腰かけ、設計図にペンを走らせながら言った。

「この街の形は見えてきた。あとは“何を強みにするか”だな。
 街ってのは、ただ住めるだけじゃ人は集まらない」

「……ああ、それなんだよ」

 ユートは湯気の立つ木製マグを片手に、テーブルに肘をつく。

「実は、俺――地球から色々持ってこれる。技術も、道具も、知識も。
 土木機械や建材も、多少なら持ち込み可能だ。街づくりには応用できる」

「……やっぱりな」
 宮野は驚きもせず、むしろ納得したように頷いた。

「君が一人でここまで魔法と物資を回してるのを見て、
 “この世界だけでやってるはずがない”とは思ってた」


---


「でもな、ただ便利な街じゃダメだ。
 この街にしかない、“人を引き寄せる何か”が要る」

「そうだな。資源、文化、技術、風景、空気――何でもいいが、この街だからこそ、の価値だ」

 宮野が指を一本立てる。

「そこで提案。
 君が持ち込める“地球の技術”を、“この街で独自に発展させた風”にすればいい」

「たとえば?」

「加工精度の高い道具、便利な設備、保存性の高い建材や布、道具。
 それらを魔道具風にアレンジして“この街の職人が作った”として発信すれば――」

「なるほど、“高品質なモノづくりの街”としてブランディングできるってことか」



 ユートは顎に手を当てたあと、ぽつりと呟く。

「……じゃあ、“見せる街”ってのはどうだ?」

「見せる?」

「旅人や商人が立ち寄ったときに、他の街にはない驚きとか、感動がある。
 “ここの噴水は勝手に水が湧く”とか、“空が広くて魔法が見える”とか、“屋台が全部ちょっと便利”とか――」

「……小さな革新の積み重ねか」

「うん。それが“暮らす価値”になって、“働きたい”“住みたい”に繋がる。
 異世界でも、便利とか、安心とか、やっぱり強いよ」



「高品質な物作り+日常の小さな革新」

「それを、君の持ち込める技術で裏から支え、表では“フィルデン式”として売り出す」

「特産は、まず“加工品”と“魔道具めいた日用品”でいけるな。
 水をろ過する石とか、自己修復する道具袋とか、ありそうでなかったモノを出す」


宮野が笑う。

「……本当に面白いことになってきたな、“フィルデン”は」

 ユートも口元をほころばせる。

「誰もが驚いて、でも安心して暮らせる街にしたい。それが理想だ」


---
【フィルデン・設計テント・昼】

 街の形が整いはじめ、いよいよ“外にアピールする顔”が必要になってきた頃。
 ユートと宮野は、設計図の横に別紙を広げていた。

「ノアが来る前に、“この街の売り”を一つ形にしたいんだよな」

「つまり特産か……最初に一つだけ作って、街の“象徴”にするような品。
 異世界人から見て“高品質”で、でも“ここの技術で作れる”ものが必要だ」

「うん。地球の技術も参考にしつつ、こっちの素材と魔力で、なにか一つ。
 ――インパクトがあって、欲しくなるような物」


---

【ユート&宮野が候補に挙げた案】

1. “香る石鹸”または“香り付き洗浄剤”
 → この世界には香り付きの清潔アイテムは希少。
 → 地球のアロマ技術+この世界でのいい香りで“香りが持続する石鹸”を開発
 → 「フィルデンの香り」は記憶に残るフレーズにできる


2. “魔力布”を使った万能クロス(汚れ落とし・軽い防汚)
 → 地球のマイクロファイバー素材に着想を得て、
 → 魔力を流し込むことで“汚れを吸着”する布を錬成
 → 町娘にも兵士にも需要あり


3. “冷やす器”=持ち運べる魔力冷却ポッド
 → 地球の保冷バッグを参考に、魔石で冷気を発する小箱
 → 薬品保存や貴族向けの食材輸送に高需要


4. “無音ノート”=魔法で音が漏れない日記帳
 → 地球の「手帳文化」と“プライバシー”の概念を融合
 → 情報管理を重視する商人や貴族にヒットする可能性大




---

「この中で一番早く量産できて、しかも受けが良さそうなのは――」

「“香る石鹸”だな」

「うん。まずはそれでいこう。
 異世界では“良い香りで体を洗える”ってだけで、上流層には大ウケする」

「こっちの素材と、地球のアロマ知識、それと“魔力の香気固定”の応用で――
 試作、数日で出来るかな?」


---

こうして、フィルデン最初の特産は――

《香る魔道石鹸》:フィルデンの香り

として、商会へ提示されることになる。


---
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