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第3章
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【フィルデン・開拓地・数日後】
広場予定地を中心に、簡易な目印杭が立てられ、整地された土の上には図面通りの枠組みが作られていた。
職人たちの動きも日に日にスムーズになり、作業現場には確かな“流れ”が生まれている。
「よし……次は倉庫と仮の守備拠点だな」
宮野は立てたばかりの図面をユートに渡す。
ラインは簡素だが正確で、必要なスペース、搬入経路、通風と排水まできちんと考慮されていた。
「こっちは南側の土壁を少しだけ高くして、見張り台を兼ねるつもりだ」
「さすが……最小構造でよくここまでまとめたな」
「最初の街ってのは、足場さえ確保できれば、あとは人が自然に形を与えていくものだ。
――とはいえ、魔物対策だけは侮らない方がいい」
「了解。そっちは俺が何とかする」
---
倉庫の基礎工事にあたって、ユートは土魔法で地盤を整え、溝を掘り、資材の運搬を補助する。
魔力は惜しまなかった。
転移で使える“ストック”があるとはいえ、今は街の命運がかかっている。
「はいっ、土の壁できたよー!」
「バルト、雑っ! ちょっと傾いてる!」
「えぇ!? そんなはずは……! ほら、俺、なんでも真っ直ぐ!」
「体だけでしょそれ!」
ティナとバルトの掛け合いに、現場が和やかな笑いに包まれる。
そんな雰囲気を、宮野が少し遠巻きに見ていた。
(……あれが、ユートの“仲間”たちか。
彼が“秘密”を抱えてでも、守りたい存在)
---
夕方、仮設の見張り台から遠くの森を見渡すユートの瞳は、わずかに陰りを帯びていた。
(……王太子殿下。やっぱり“何か”を見ている)
(俺を自由にさせる一方で、密偵を送り、街の進行状況を逐一確認……ただの好奇心じゃない)
(それとも、俺自身に“何かを託すつもり”なのか?)
魔力の使い方、街を作る意図、仲間との関係……
自分がこの世界に何をもたらすのか――もはや、自分ひとりの物語ではなくなってきている。
---
【フィルデン・開拓本部・設計テーブル】
仮設テント内のテーブルには、住居区画の図と共に、新たな設計草案が並ぶ。
宮野がペンを走らせながら言った。
「次は住居だが、先に決めておきたいのが上下水道の基盤だ。
これを雑にやると、街全体がすぐ衛生的にダメになる」
「確かに……こっちの世界、下水とか整ってる場所の方が珍しいからな」
---
宮野はメモを指差す。
「幸い、水源が近くにある。丘の上にある小川――あそこから引水して重力式の給水を作る」
簡易な木管・陶管による水路を引き、
集水地を街のやや高い位置に設けて、
そこから重力で各エリアに水を配る
「ユート、君の土魔法で“水路を通す溝”を正確に作れるか?」
「勾配を意識すればいける。水が自然に流れる角度に調整して掘るのは得意だ」
---
「問題は“排水”だな。ここは衛生管理をシビアにしたい」
住居ごとに簡易な**汚水溜め(浸透式 or 集水)**を設置
一定区画ごとに**排水管(溝)**を設け、下流に流す構造へ
集水地は街の外れに設け、自然分解+魔法的除菌を試す
「一部に“浄化系の魔法”が使える人材がいれば、もっと理想的なんだが……」
「俺は浄化魔法は無理だけど、フィルターとして使えそうな素材を調べてみるよ。
土や砂利の層で、ある程度の濾過ができるはずだ」
「水路用の土溝、そして分岐の基礎、
ユート、まず試作で一本、通せるか?」
「ああ、任せろ」
ユートはすぐさま現場へ出て、
重力給水ルートと、住居予定地に向かう支線の溝掘り作業に取りかかるのだった。
---
【フィルデン・上流の小川付近】
小川のほとりに立つユートの足元では、細長く掘られた浅い溝が丘の斜面へと続いていた。
水源から住居区画へ――それがこの街の“命の線”になる。
「よし……流せるか、試してみるか」
ユートは指先に魔力を集中し、掘ったばかりの水路の縁をなぞる。
「《アース・ライン》……水路、固定」
掘り出した土を均し、崩れやすい部分に圧をかけて固める。
わずかに勾配がついており、自然に水が流れ出した。
――サラサラッ……という音が、静かに溝を伝って広がっていく。
遠く、丘の中腹。そこに設けられた“集水槽”に、水が無事に届いた。
「完璧……だな」
---
【仮設本部】
「見事だよユートくん。
土だけでここまで均整のとれた導水路を作れるなんてな」
地図にチェックを入れながら、宮野が満足そうに頷く。
「この流れを基本に、まず5区画分の住居と、物資集積用の簡易倉庫を作る。
排水ルートは住居の裏手から東斜面へ。最終的に“自然分解エリア”を作るとして……」
「作業分担どうする?」
「僕が配置を指示する。
君は引き続き“水の通り道”と“地盤の強化”を。バルトとティナには搬入と壁の仮組みを頼もう」
「了解」
---
【フィルデン・建設開始】
拠点の中央から、まず仮設住居5棟分の枠が組まれ始めた。
仮設といっても、今後の拡張を見越した本気設計だ。
「ユートー、こっちの基礎掘れたぞー!」
「このあたり、少し湿ってるから地面締め直すぞ。バルト、足元どけろ!」
「おおっ!? うわっ、土が勝手に固まっていく……!」
「それが魔法だってば」
土を削り、締め、整地して――水が通り、風が抜ける。
フィルデンの地に、ようやく“人が住む形”が生まれ始めた。
---
夕陽が落ちる頃。仮設の見張り台に立つ宮野とユート。
「……これ、本当に“街”になるな」
「まだ始まりに過ぎない。でも、ここからが本番だ」
「君の魔法と、僕の設計が合わさることで――普通じゃありえないスピードで成長できる。
だがそれだけ“注目も集まる”。」
宮野は遠く、森の向こうを見やった。
「……何者かが、また“見ている”気がするよ。あの森の奥。あれは獣の視線じゃない」
「――俺もそう思う」
---
【フィルデン・中央広場予定地・仮設会合】
住居棟五つ、物資用倉庫一棟、簡易給排水、作業テント、資材置き場。
街の骨格が、ようやく“機能”として成立し始めていた。
宮野はその図面の上に手を置きながら、ぽつりと口にした。
「この街……そろそろ“住む人”を呼べる段階に来ている。
けれど、いきなり無計画に人を増やすのはまずい」
「だな。治安、物資、管理体制……とくに“ルール”が整ってないうちは混乱する」
ユートは腕を組み、真剣な表情を見せていた。
「とりあえず、信頼できる商人や職人から“定住候補”を集めて、ゆっくり拡大していく。
その第一歩として――商会からの視察を受けるのはどうだ?」
「……先に来るぞ、多分。こっちが誘う前に」
ユートの言葉通り、それは思った以上に早くやってきた。
---
【フィルデン・仮設本部・昼】
ティナが仮設詰所から手紙を手に戻ってきた。
「ユートー、なんか“商会の使者”が来てるって。手紙もあるわ」
「もう来たか……どこの商会?」
「えっと……“エンデリオ商会・外商部”――って書いてある。差出人、ノア・スヴェルって」
「やっぱり来たか……」
ノアは、王都で何度も顔を合わせている有能な商人だ。
抜群の嗅覚と決断力を持ち、“投資価値のある土地”に敏感なことで知られている。
---
【商会視察の申し入れ】
手紙は丁寧でありながら、強い興味と下調べの跡が見える文面だった。
> 「現在、貴殿の計画されている開拓地に関し、
安定的な物流拠点としての可能性を感じております。
ご迷惑でなければ、一度現地を拝見させていただきたく――」
そして末尾には、ノア直筆で小さく書かれていた。
> 「――どうせ近いうちに必要になる。だったら、早めに話そう、ユート」
「……うん、ノアだな」
---
ユートはしばらく黙ったあと、静かに頷いた。
「迎えよう。だが、“ただの視察”で済む相手じゃない」
「じゃあ、こちらも準備しておいた方がいい?」
「宮野、少しだけ“街の理念”を整理しよう。
ノアに“投資させる価値がある街”だと、はっきり伝えなきゃならない」
---
【フィルデン・仮設設計テント・夜】
夜風が地図をめくる音が静かに響く。
宮野が椅子に深く腰かけ、設計図にペンを走らせながら言った。
「この街の形は見えてきた。あとは“何を強みにするか”だな。
街ってのは、ただ住めるだけじゃ人は集まらない」
「……ああ、それなんだよ」
ユートは湯気の立つ木製マグを片手に、テーブルに肘をつく。
「実は、俺――地球から色々持ってこれる。技術も、道具も、知識も。
土木機械や建材も、多少なら持ち込み可能だ。街づくりには応用できる」
「……やっぱりな」
宮野は驚きもせず、むしろ納得したように頷いた。
「君が一人でここまで魔法と物資を回してるのを見て、
“この世界だけでやってるはずがない”とは思ってた」
---
「でもな、ただ便利な街じゃダメだ。
この街にしかない、“人を引き寄せる何か”が要る」
「そうだな。資源、文化、技術、風景、空気――何でもいいが、この街だからこそ、の価値だ」
宮野が指を一本立てる。
「そこで提案。
君が持ち込める“地球の技術”を、“この街で独自に発展させた風”にすればいい」
「たとえば?」
「加工精度の高い道具、便利な設備、保存性の高い建材や布、道具。
それらを魔道具風にアレンジして“この街の職人が作った”として発信すれば――」
「なるほど、“高品質なモノづくりの街”としてブランディングできるってことか」
ユートは顎に手を当てたあと、ぽつりと呟く。
「……じゃあ、“見せる街”ってのはどうだ?」
「見せる?」
「旅人や商人が立ち寄ったときに、他の街にはない驚きとか、感動がある。
“ここの噴水は勝手に水が湧く”とか、“空が広くて魔法が見える”とか、“屋台が全部ちょっと便利”とか――」
「……小さな革新の積み重ねか」
「うん。それが“暮らす価値”になって、“働きたい”“住みたい”に繋がる。
異世界でも、便利とか、安心とか、やっぱり強いよ」
「高品質な物作り+日常の小さな革新」
「それを、君の持ち込める技術で裏から支え、表では“フィルデン式”として売り出す」
「特産は、まず“加工品”と“魔道具めいた日用品”でいけるな。
水をろ過する石とか、自己修復する道具袋とか、ありそうでなかったモノを出す」
宮野が笑う。
「……本当に面白いことになってきたな、“フィルデン”は」
ユートも口元をほころばせる。
「誰もが驚いて、でも安心して暮らせる街にしたい。それが理想だ」
---
【フィルデン・設計テント・昼】
街の形が整いはじめ、いよいよ“外にアピールする顔”が必要になってきた頃。
ユートと宮野は、設計図の横に別紙を広げていた。
「ノアが来る前に、“この街の売り”を一つ形にしたいんだよな」
「つまり特産か……最初に一つだけ作って、街の“象徴”にするような品。
異世界人から見て“高品質”で、でも“ここの技術で作れる”ものが必要だ」
「うん。地球の技術も参考にしつつ、こっちの素材と魔力で、なにか一つ。
――インパクトがあって、欲しくなるような物」
---
【ユート&宮野が候補に挙げた案】
1. “香る石鹸”または“香り付き洗浄剤”
→ この世界には香り付きの清潔アイテムは希少。
→ 地球のアロマ技術+この世界でのいい香りで“香りが持続する石鹸”を開発
→ 「フィルデンの香り」は記憶に残るフレーズにできる
2. “魔力布”を使った万能クロス(汚れ落とし・軽い防汚)
→ 地球のマイクロファイバー素材に着想を得て、
→ 魔力を流し込むことで“汚れを吸着”する布を錬成
→ 町娘にも兵士にも需要あり
3. “冷やす器”=持ち運べる魔力冷却ポッド
→ 地球の保冷バッグを参考に、魔石で冷気を発する小箱
→ 薬品保存や貴族向けの食材輸送に高需要
4. “無音ノート”=魔法で音が漏れない日記帳
→ 地球の「手帳文化」と“プライバシー”の概念を融合
→ 情報管理を重視する商人や貴族にヒットする可能性大
---
「この中で一番早く量産できて、しかも受けが良さそうなのは――」
「“香る石鹸”だな」
「うん。まずはそれでいこう。
異世界では“良い香りで体を洗える”ってだけで、上流層には大ウケする」
「こっちの素材と、地球のアロマ知識、それと“魔力の香気固定”の応用で――
試作、数日で出来るかな?」
---
こうして、フィルデン最初の特産は――
《香る魔道石鹸》:フィルデンの香り
として、商会へ提示されることになる。
---
広場予定地を中心に、簡易な目印杭が立てられ、整地された土の上には図面通りの枠組みが作られていた。
職人たちの動きも日に日にスムーズになり、作業現場には確かな“流れ”が生まれている。
「よし……次は倉庫と仮の守備拠点だな」
宮野は立てたばかりの図面をユートに渡す。
ラインは簡素だが正確で、必要なスペース、搬入経路、通風と排水まできちんと考慮されていた。
「こっちは南側の土壁を少しだけ高くして、見張り台を兼ねるつもりだ」
「さすが……最小構造でよくここまでまとめたな」
「最初の街ってのは、足場さえ確保できれば、あとは人が自然に形を与えていくものだ。
――とはいえ、魔物対策だけは侮らない方がいい」
「了解。そっちは俺が何とかする」
---
倉庫の基礎工事にあたって、ユートは土魔法で地盤を整え、溝を掘り、資材の運搬を補助する。
魔力は惜しまなかった。
転移で使える“ストック”があるとはいえ、今は街の命運がかかっている。
「はいっ、土の壁できたよー!」
「バルト、雑っ! ちょっと傾いてる!」
「えぇ!? そんなはずは……! ほら、俺、なんでも真っ直ぐ!」
「体だけでしょそれ!」
ティナとバルトの掛け合いに、現場が和やかな笑いに包まれる。
そんな雰囲気を、宮野が少し遠巻きに見ていた。
(……あれが、ユートの“仲間”たちか。
彼が“秘密”を抱えてでも、守りたい存在)
---
夕方、仮設の見張り台から遠くの森を見渡すユートの瞳は、わずかに陰りを帯びていた。
(……王太子殿下。やっぱり“何か”を見ている)
(俺を自由にさせる一方で、密偵を送り、街の進行状況を逐一確認……ただの好奇心じゃない)
(それとも、俺自身に“何かを託すつもり”なのか?)
魔力の使い方、街を作る意図、仲間との関係……
自分がこの世界に何をもたらすのか――もはや、自分ひとりの物語ではなくなってきている。
---
【フィルデン・開拓本部・設計テーブル】
仮設テント内のテーブルには、住居区画の図と共に、新たな設計草案が並ぶ。
宮野がペンを走らせながら言った。
「次は住居だが、先に決めておきたいのが上下水道の基盤だ。
これを雑にやると、街全体がすぐ衛生的にダメになる」
「確かに……こっちの世界、下水とか整ってる場所の方が珍しいからな」
---
宮野はメモを指差す。
「幸い、水源が近くにある。丘の上にある小川――あそこから引水して重力式の給水を作る」
簡易な木管・陶管による水路を引き、
集水地を街のやや高い位置に設けて、
そこから重力で各エリアに水を配る
「ユート、君の土魔法で“水路を通す溝”を正確に作れるか?」
「勾配を意識すればいける。水が自然に流れる角度に調整して掘るのは得意だ」
---
「問題は“排水”だな。ここは衛生管理をシビアにしたい」
住居ごとに簡易な**汚水溜め(浸透式 or 集水)**を設置
一定区画ごとに**排水管(溝)**を設け、下流に流す構造へ
集水地は街の外れに設け、自然分解+魔法的除菌を試す
「一部に“浄化系の魔法”が使える人材がいれば、もっと理想的なんだが……」
「俺は浄化魔法は無理だけど、フィルターとして使えそうな素材を調べてみるよ。
土や砂利の層で、ある程度の濾過ができるはずだ」
「水路用の土溝、そして分岐の基礎、
ユート、まず試作で一本、通せるか?」
「ああ、任せろ」
ユートはすぐさま現場へ出て、
重力給水ルートと、住居予定地に向かう支線の溝掘り作業に取りかかるのだった。
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【フィルデン・上流の小川付近】
小川のほとりに立つユートの足元では、細長く掘られた浅い溝が丘の斜面へと続いていた。
水源から住居区画へ――それがこの街の“命の線”になる。
「よし……流せるか、試してみるか」
ユートは指先に魔力を集中し、掘ったばかりの水路の縁をなぞる。
「《アース・ライン》……水路、固定」
掘り出した土を均し、崩れやすい部分に圧をかけて固める。
わずかに勾配がついており、自然に水が流れ出した。
――サラサラッ……という音が、静かに溝を伝って広がっていく。
遠く、丘の中腹。そこに設けられた“集水槽”に、水が無事に届いた。
「完璧……だな」
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【仮設本部】
「見事だよユートくん。
土だけでここまで均整のとれた導水路を作れるなんてな」
地図にチェックを入れながら、宮野が満足そうに頷く。
「この流れを基本に、まず5区画分の住居と、物資集積用の簡易倉庫を作る。
排水ルートは住居の裏手から東斜面へ。最終的に“自然分解エリア”を作るとして……」
「作業分担どうする?」
「僕が配置を指示する。
君は引き続き“水の通り道”と“地盤の強化”を。バルトとティナには搬入と壁の仮組みを頼もう」
「了解」
---
【フィルデン・建設開始】
拠点の中央から、まず仮設住居5棟分の枠が組まれ始めた。
仮設といっても、今後の拡張を見越した本気設計だ。
「ユートー、こっちの基礎掘れたぞー!」
「このあたり、少し湿ってるから地面締め直すぞ。バルト、足元どけろ!」
「おおっ!? うわっ、土が勝手に固まっていく……!」
「それが魔法だってば」
土を削り、締め、整地して――水が通り、風が抜ける。
フィルデンの地に、ようやく“人が住む形”が生まれ始めた。
---
夕陽が落ちる頃。仮設の見張り台に立つ宮野とユート。
「……これ、本当に“街”になるな」
「まだ始まりに過ぎない。でも、ここからが本番だ」
「君の魔法と、僕の設計が合わさることで――普通じゃありえないスピードで成長できる。
だがそれだけ“注目も集まる”。」
宮野は遠く、森の向こうを見やった。
「……何者かが、また“見ている”気がするよ。あの森の奥。あれは獣の視線じゃない」
「――俺もそう思う」
---
【フィルデン・中央広場予定地・仮設会合】
住居棟五つ、物資用倉庫一棟、簡易給排水、作業テント、資材置き場。
街の骨格が、ようやく“機能”として成立し始めていた。
宮野はその図面の上に手を置きながら、ぽつりと口にした。
「この街……そろそろ“住む人”を呼べる段階に来ている。
けれど、いきなり無計画に人を増やすのはまずい」
「だな。治安、物資、管理体制……とくに“ルール”が整ってないうちは混乱する」
ユートは腕を組み、真剣な表情を見せていた。
「とりあえず、信頼できる商人や職人から“定住候補”を集めて、ゆっくり拡大していく。
その第一歩として――商会からの視察を受けるのはどうだ?」
「……先に来るぞ、多分。こっちが誘う前に」
ユートの言葉通り、それは思った以上に早くやってきた。
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【フィルデン・仮設本部・昼】
ティナが仮設詰所から手紙を手に戻ってきた。
「ユートー、なんか“商会の使者”が来てるって。手紙もあるわ」
「もう来たか……どこの商会?」
「えっと……“エンデリオ商会・外商部”――って書いてある。差出人、ノア・スヴェルって」
「やっぱり来たか……」
ノアは、王都で何度も顔を合わせている有能な商人だ。
抜群の嗅覚と決断力を持ち、“投資価値のある土地”に敏感なことで知られている。
---
【商会視察の申し入れ】
手紙は丁寧でありながら、強い興味と下調べの跡が見える文面だった。
> 「現在、貴殿の計画されている開拓地に関し、
安定的な物流拠点としての可能性を感じております。
ご迷惑でなければ、一度現地を拝見させていただきたく――」
そして末尾には、ノア直筆で小さく書かれていた。
> 「――どうせ近いうちに必要になる。だったら、早めに話そう、ユート」
「……うん、ノアだな」
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ユートはしばらく黙ったあと、静かに頷いた。
「迎えよう。だが、“ただの視察”で済む相手じゃない」
「じゃあ、こちらも準備しておいた方がいい?」
「宮野、少しだけ“街の理念”を整理しよう。
ノアに“投資させる価値がある街”だと、はっきり伝えなきゃならない」
---
【フィルデン・仮設設計テント・夜】
夜風が地図をめくる音が静かに響く。
宮野が椅子に深く腰かけ、設計図にペンを走らせながら言った。
「この街の形は見えてきた。あとは“何を強みにするか”だな。
街ってのは、ただ住めるだけじゃ人は集まらない」
「……ああ、それなんだよ」
ユートは湯気の立つ木製マグを片手に、テーブルに肘をつく。
「実は、俺――地球から色々持ってこれる。技術も、道具も、知識も。
土木機械や建材も、多少なら持ち込み可能だ。街づくりには応用できる」
「……やっぱりな」
宮野は驚きもせず、むしろ納得したように頷いた。
「君が一人でここまで魔法と物資を回してるのを見て、
“この世界だけでやってるはずがない”とは思ってた」
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「でもな、ただ便利な街じゃダメだ。
この街にしかない、“人を引き寄せる何か”が要る」
「そうだな。資源、文化、技術、風景、空気――何でもいいが、この街だからこそ、の価値だ」
宮野が指を一本立てる。
「そこで提案。
君が持ち込める“地球の技術”を、“この街で独自に発展させた風”にすればいい」
「たとえば?」
「加工精度の高い道具、便利な設備、保存性の高い建材や布、道具。
それらを魔道具風にアレンジして“この街の職人が作った”として発信すれば――」
「なるほど、“高品質なモノづくりの街”としてブランディングできるってことか」
ユートは顎に手を当てたあと、ぽつりと呟く。
「……じゃあ、“見せる街”ってのはどうだ?」
「見せる?」
「旅人や商人が立ち寄ったときに、他の街にはない驚きとか、感動がある。
“ここの噴水は勝手に水が湧く”とか、“空が広くて魔法が見える”とか、“屋台が全部ちょっと便利”とか――」
「……小さな革新の積み重ねか」
「うん。それが“暮らす価値”になって、“働きたい”“住みたい”に繋がる。
異世界でも、便利とか、安心とか、やっぱり強いよ」
「高品質な物作り+日常の小さな革新」
「それを、君の持ち込める技術で裏から支え、表では“フィルデン式”として売り出す」
「特産は、まず“加工品”と“魔道具めいた日用品”でいけるな。
水をろ過する石とか、自己修復する道具袋とか、ありそうでなかったモノを出す」
宮野が笑う。
「……本当に面白いことになってきたな、“フィルデン”は」
ユートも口元をほころばせる。
「誰もが驚いて、でも安心して暮らせる街にしたい。それが理想だ」
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【フィルデン・設計テント・昼】
街の形が整いはじめ、いよいよ“外にアピールする顔”が必要になってきた頃。
ユートと宮野は、設計図の横に別紙を広げていた。
「ノアが来る前に、“この街の売り”を一つ形にしたいんだよな」
「つまり特産か……最初に一つだけ作って、街の“象徴”にするような品。
異世界人から見て“高品質”で、でも“ここの技術で作れる”ものが必要だ」
「うん。地球の技術も参考にしつつ、こっちの素材と魔力で、なにか一つ。
――インパクトがあって、欲しくなるような物」
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【ユート&宮野が候補に挙げた案】
1. “香る石鹸”または“香り付き洗浄剤”
→ この世界には香り付きの清潔アイテムは希少。
→ 地球のアロマ技術+この世界でのいい香りで“香りが持続する石鹸”を開発
→ 「フィルデンの香り」は記憶に残るフレーズにできる
2. “魔力布”を使った万能クロス(汚れ落とし・軽い防汚)
→ 地球のマイクロファイバー素材に着想を得て、
→ 魔力を流し込むことで“汚れを吸着”する布を錬成
→ 町娘にも兵士にも需要あり
3. “冷やす器”=持ち運べる魔力冷却ポッド
→ 地球の保冷バッグを参考に、魔石で冷気を発する小箱
→ 薬品保存や貴族向けの食材輸送に高需要
4. “無音ノート”=魔法で音が漏れない日記帳
→ 地球の「手帳文化」と“プライバシー”の概念を融合
→ 情報管理を重視する商人や貴族にヒットする可能性大
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「この中で一番早く量産できて、しかも受けが良さそうなのは――」
「“香る石鹸”だな」
「うん。まずはそれでいこう。
異世界では“良い香りで体を洗える”ってだけで、上流層には大ウケする」
「こっちの素材と、地球のアロマ知識、それと“魔力の香気固定”の応用で――
試作、数日で出来るかな?」
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こうして、フィルデン最初の特産は――
《香る魔道石鹸》:フィルデンの香り
として、商会へ提示されることになる。
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