世界を滅ぼす神々に立ち向かうのは、神の理とモフモフを従えた俺でした

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第1章

初依頼、ピクニック気分

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朝の街道は、まだひんやりとした空気に包まれていた。
柔らかな陽光が石畳の道を照らし、商人たちの荷馬車が遠くをのんびりと進んでいる。

ゲンヤは冒険者カードを手に、南門の前に立っていた。

「これでいいんだよな……?」

「おう。それ見せときゃ、身分証明にもなるし、入出城の税も免除される」

肩の上のフレアが偉そうに言う。

門を守る二人組の衛兵が、ゲンヤの冒険者カードを見ると、ニヤッと笑った。

「おっ、フレアじゃねえか。また教育任務か?」

「新人の教育中だ。……ま、骨は折れそうだけどな」

「あはは、未来の英雄さんか。しっかり育ててやれよ!」

軽く手を振られながら、街の門を後にする。

 



道中、草花が揺れる舗装された道を歩きながら、ゲンヤがぽつりと呟いた。

「しかし……冒険者カードって便利だな。税金も払わなくていいとは」

「ま、帝国公認だからな。信用されてるってこった」

しばらく無言が続いた後、フレアが肩の上でつぶやく。

「そういや、登録用紙チラッと見たけど……お前、26ってマジか?」

「うん。嘘ついても仕方ないし」

「……年上かよ」

フレアがぽそっと呟き、ゲンヤが思わず笑う。

「年上にその態度ってどうなんだよ」

「年齢より中身だろ。お前どう見ても新兵だしな」

「ぐうの音も出ないな……」

 



やがて街道から外れ、森へと続く小道に足を踏み入れる。

樹々のざわめきと、土を踏む音。空気がひんやりと変わる。
そしてフレアが説明を始めた。

「この森にいるのは主にフェザーラット。このくらいの大きさのネズミだ」

フレアが手で大きさを教えてくれる。バスケットボールくらいだ。

「!? でかいな……」

「しかも速い。ちょこまか動いて、牙も鋭い。噛まれたら肉を持ってかれる。なめると痛い目見るぞ」

「……完全にピクニック気分だった」

ゲンヤが肩を落とす。

「畑を荒らす厄介者だが、討伐報酬が安定してる。初心者向けにはちょうどいいんだ」

「なるほどな……ちなみに、俺のスキルとかって、どうやって確認すんの?」

「スキル確認か? 教会でやってくれるぞ。金はかかるが、ちゃんと魔石使って解析する。街に戻ったら行ってみろ」

「そっか……。自分のこと、ちょっと気になってたし」

「そうだな。お前、剣の動き見てると、絶対何かある。……自覚しとけよ、常識じゃねえぞ」

「……ありがとよ、師匠」

「誰が師匠だ。バカ言ってねえで集中しろ。ネズミどもは空気を察してすぐ逃げる」

「お、おう!」

肩の上のぬいぐるみに振り回されながらも、ゲンヤの足取りには、不思議な高揚感があった。

初めての討伐。
初めての“冒険”。

その始まりが、今、音もなく静かに幕を開けようとしていた。


「来たぞ、あれがフェザーラットだ」

フレアの声に、ゲンヤは目を凝らす。
草むらが揺れ、バスケットボール大の灰色のネズミが姿を現した。全身を覆う毛はわずかに逆立ち、尾は鞭のように動き、真紅の瞳がじっとこちらを見ていた。

「速そうだな……」

「舐めるな。あいつは突っ込んでこない。逃げながら引っ掻いたり噛みついたりする」

「向かってこないのか?」

「うん。お前にはきつい相手だな」

「……おいおい」

 

ゲンヤは木の枝を踏みしめ、剣を構える。
じりじりと距離を詰めた――と、その瞬間、フェザーラットが一気に横っ飛びし、物陰に身を隠した。

「速っ!」

追いかけて剣を振るが、空を切る。

シュッ――ピタッ!

「ぐっ……!」

小石ほどの鋭い爪が、ゲンヤの足元をかすめて飛ぶ。少しでも動きを止めたら、確実に削られていた。

「何だよコレ……当たらねえ……!」

「そりゃそうだ、振りが無駄だらけだ!」

肩の上で、フレアが頭を抱えた。

「まず構えが甘い。重心がぶれてる。お前、動きが全部自己流なんだよ!」

「いきなり言われても……!」

「いいから、まず振ってみろ。空でいい」

「う、うん……こう?」

ブン。

「お前、マジでその身体で26年も生きてきたのか……?」

「うるせぇ!」

 

何度か素振りを繰り返し、フレアが足を突いて指導を始めた。

「重心は低く、膝は柔らかく、肘でしならせて、剣の重みを使え。いいか、無理に振るな、剣を走らせるように……そう」

ゲンヤは汗を拭い、息を整える。
剣を握り、草むらの動きを見据え――集中する。

(……来る……右……!)

脳裏に、わずかな光が差すような予感がよぎった。

フェザーラットが茂みから飛び出す。
身体が自然と動き、反応する。
剣が――走った。

ザシュ。

一閃。フェザーラットが空を裂かれて吹き飛ぶ。

「……今、俺……」

「見たぜ。あれが本来のお前の剣だ」

「何か分かった。スキルが勝手に動いてくれる。でも……」

「でも?」

「考えると、もっと良くなる。どう動くかが“分かる”んだ」

「それだ。スキルだけに頼ってると、逃げる敵や複数戦には通用しない。けど、お前の“勘”と“最適解”の読みは異常だ。考えながら動けば、お前は剣聖にだってなれる」

ゲンヤは深く息を吐いた。

「……ちょっと分かってきた。これが、俺の力」

「そういうこった。さあ、あと2匹で今日のノルマだ」

「……了解、師匠」

「誰が師匠だ!」

森の奥で、草むらがまた揺れた。

ゲンヤは、静かに剣を構える――


「よし、今日のノルマは終わったな」

フェザーラットの毛皮と尾を回収し、ゲンヤは額の汗を拭った。

「上出来だ。思ったより早く仕上がったな」

フレアが満足そうに頷き、ぬいぐるみ姿でゲンヤの肩に飛び乗る。

「じゃあ帰るか」

ゲンヤが踵を返そうとした、その時――

ピクリとフレアの耳が揺れた。

「……止まれ」

「え?」

「前方、奥。……グラップベアーがいる」

「グラ……何?」

「Aランク魔物。普通はこんな近くに来ねぇ。人里離れた山奥に生息する化け物だ」

ゲンヤの背中に、冷たい汗が伝う。

「やばいのか?」

「近くに人が来てるなら尚更だ。ここで倒しておかないと被害が出る。……お前、やれるか?」

ゲンヤはごくりと唾を飲み込む。

心は恐怖に揺れるが、足は……なぜか震えていなかった。

「やるよ。逃げたら、次は誰かが死ぬ」

 

その時だった。

「来るぞ!!」

風を裂き、轟音とともに森の緑が押し分けられた。

ズドォォォン!!

大木をなぎ倒し、黒鉄の塊のようなグラップベアーが猛突進してきた!

「なっ――!?」

慌てて飛び退るゲンヤとフレア。そのすぐ後ろで、大木が爆発音を立ててへし折れた。

「おいおい、嘘だろ!? 何なんだこの速さ!」

木の葉が舞い上がる中、現れた魔物は――
熊のような輪郭をしていながら、体毛がほとんどなく、肉体は異常なほどに肥大し、鎧のような筋肉に覆われていた。

腕は太く、地面を抉るように一歩ごとに沈み込む。
目は血走り、理性など感じさせない、まさに“暴力”そのものだった。

「正面からの攻撃は通らない! 弱点は目と顎下、あと関節部!動きを見て刺し込め!」

「分かった……やるしかない!」

 

ゲンヤは剣を構え、息を整える。
スキルが――発動する。

(来る……斜め右から、回り込む軌道!)

ズガアアアッ!

巨体が風を切って突っ込んでくる。
身体が勝手に動き、剣が防御の構えを取る。が――

(重すぎる……!)

受け流すだけでは力負けする。
かすり傷はつけられるが、それだけ。
スキル任せでは“削れない”。

「……そうか。今までは、相手が勝手に飛び込んできてくれた。だけど、こいつは……“狩り”をしてる」

振り下ろされる巨腕。
剣を回し、足元に飛び込む。
ギリギリで回避、腕を刈り上げて、関節部に一撃!

バチン!!

「ッ……固っ!!」

筋肉が分厚すぎて、刃が中まで届かない。

「スキルに任せるだけじゃ無理だ……自分で考えろ……!」

深呼吸。目を閉じる。――感じろ。

(スキルの動き、それは“最適解の型”……でも、“狙い”は俺が定められる)

開いた!

次の瞬間――

「うおおおおおッ!!」

ゲンヤが地を蹴り、空中で身を捻った。
体勢を崩すグラップベアーの右脇、皮膚が薄くなった関節部へ――
全力の一閃。

ズギャッ!!

低い破裂音が響き、グラップベアーが膝をついた。

「今だフレア!!」

「任せろッ!!」

フレアが飛び上がり、元の巨大な獣人姿に変化し、渾身の一撃を後頭部に叩き込む!

ドガッ!!!

 

……やがて、巨体が地面を揺らし、崩れ落ちた。

静寂。風が木々を揺らす音だけが残る。

「……勝った?」

「勝ったな。あの化け物に、よくやった」

ゲンヤはその場にへたり込み、空を仰いだ。

「……やべぇ、俺……マジで強くなってるかも……」

「いや、それなりにちゃんとやれば誰でも……いや、お前のはちょっと異常かもしれん」

フレアは呆れたように言ったが、少しだけ――嬉しそうだった。
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