世界を滅ぼす神々に立ち向かうのは、神の理とモフモフを従えた俺でした

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第1章

ギルドに帰還、フレアの家へ

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 冒険者ギルド・ニュード支部――。

 重く軋む扉を開けて中に入ると、夕暮れ時のギルドは賑やかな喧騒に包まれていた。だが、その一角が静まり返る。

「あっ、フレアだ!」

「おーい! おかえりー!」

 ベテラン冒険者たちがぬいぐるみ姿のフレアに群がるが、彼はいつものように軽く舌打ちしながらゲンヤの肩にしがみついた。

「おい、受付行くぞ。面倒事は早めに終わらせる」

「はいはい」

 カウンターに向かい、依頼の報告をする。

「フェザーラット5体、それと……もう一つ、予定外だけど」

 ゲンヤが報告書に記入していた魔物名に、受付嬢の女性が固まった。

「……グラップベアー?」

「うん。なんか、森の中で会っちゃって……倒した」

「え、えええぇっ!?」

 受付の声がギルド中に響き、冒険者たちが一斉に振り返る。

「ちょっと確認してきます!」

 受付嬢が奥に駆け込むと、すぐにギルドの調査部隊の数名が走り出していった。

「……グラップベアーは、討伐にAランク以上のチームが出るレベルだぞ。お前……何者だ?」

 隣にいた年配の冒険者が目を見開いてゲンヤを見てくる。

「いや、Fランクですけど……」

「ははっ……マジかよ。バケモンだな」

 ゲンヤとフレアには、討伐報酬が支払われた。

 


「にしても、森が立入禁止になっちゃって、しばらく仕事ないんだってさ」

 ギルドの外に出たゲンヤは、受け取った金貨の袋を見ながらぼやいた。

「金はある。けど、ヒマなのは嫌だなあ……」

「お前、ヒマって言えるほどやれること多くねぇだろ」

 フレアが肩の上で仁王立ちするように腕を組む。

「お前にはまだ基礎体力が足りてない。いくらスキルがすごくても、剣を振る腕がヘロヘロなら意味ない。明日から体力訓練だ」

「えぇー……地味すぎない? 魔法とか剣技とかカッコいいやつからでいいじゃん……」

「そう言う奴に限って3日で泣きを見る。やるぞ、ゲンヤ。まずは走り込みだ。毎朝街を5周」

「マジか……」

 

 その夜。

 ゲンヤは、フレアの家に招かれた。

 小さな、だが整えられた一軒家だった。ぬいぐるみ形態のフレアがちゃんと生活しているのが不思議に思えるが、ちゃんとテーブルも椅子も用意されており、棚には本が並び、シンプルなベッドがひとつあった。

「お前はソファー使え。俺のベッドには絶対来るなよ」

「来ない来ない」

 フレアはぬいぐるみ姿のまま、ぴょんと自分用のふかふかのクッションに飛び乗った。

「それにしても、なんで一人暮らしなんだ?」

「理由は……まあ、色々ある。呪いのことも含めてな」

「そっか……いつか、話してくれよ」

「気が向いたらな」

 

 ゲンヤは朝靄の街を一人駆けていた。

「……はぁ、はぁ……お、思ったよりキツイな」

 肩には小さなぬいぐるみの姿のフレアが乗っている。ぐったりして、耳がぴくぴく動いていた。

「なあ……朝早すぎ……」

「ダメだ。俺、やるって決めたからにはやる。まずは体力つけなきゃダメだってお前が言ったんだろ?」

「そうは言ったが……眠い……」

 ゲンヤは苦笑しながら、未舗装の街道を踏みしめ続けた。汗が背を流れる。だが、身体が鍛えられている実感はまだない。ただ息が切れるだけだ。




 ニュード教会の神聖堂分室――。

 冷たい石の床に囲まれた小部屋で、ゲンヤはフレアと二人、鑑定の準備をしていた。

「……ここって、本当に他の人に聞かれないのか?」

「平気だ。さっきから“個別鑑定”って言ってただろ。ここで話すことは神官も記録しねぇし、外には漏れない」

 テーブルの上には、分厚い魔道具が据えられていた。石板に刻まれた魔方陣と、大きな水晶球。そして四隅の魔石が淡く輝いている。

「銀貨三枚……高いけど、ここで分かることがあるなら」

 ゲンヤは指示に従い、水晶に手を置いた。神官は無言でうなずき、詠唱を始めた。

 魔方陣がぼんやりと光を放ち、水晶の内部に煙のような光が舞い上がっていく。

 やがて、言葉が浮かび上がった。


 ---

【スキル一覧】

【言語理解】

【魔力操作】



 ---

【ユニークスキル】

【神の理】



 ---

 ゲンヤとフレアは、しばらくその表示を見つめていた。

「……やっぱり、持ってたか。ユニークスキル」

「ふつうは誰でも持ってるわけじゃないのか?」

「当たり前だ。ほとんどの奴が、せいぜい“筋力強化”とか“火魔法適性”くらいだ。ユニークスキルなんて、選ばれたやつしか持たない。しかも“神の理”ってのは、初めて聞いた」

 ゲンヤは目を伏せ、少し考える。

「……なんとなくわかるんだ。力の使い方っていうか、敵の動きとか、そういうの」

「ほう?」

「いや、うまく説明できない。ただ、棒とか剣を握ると、自然に動ける気がするんだよな」

フレアは腕(?)を組み、ゲンヤを見上げる。

「なるほどな……。その“神の理”ってやつがそういうスキルなのかもな。だが詳細は不明ってとこか。こりゃ、使いながら探るしかねぇな」

「うん……」



 その日の夜、ゲンヤは宿のベッドに腰かけ、スキル鑑定の結果が記された羊皮紙をじっと見つめていた。

「神の理――か」

 不思議な気配が、確かに自分の内に宿っている。

 それが何を意味するのかはまだ分からない。ただ、あの時……光のトンネルの中で、何かを掴んだあの瞬間から、自分はもう“普通”じゃなくなった。
ゲンヤは再び早朝に備えて目を閉じた。


ゲンヤの生活は、まさに修行漬けの日々となった。

朝は空が白む前に起き、冷え切った空気の中をひた走る。
肩にはぬいぐるみ形態のフレアが乗っているのが当たり前になっていた。

「……なぁ、毎日これやる必要あるか?」

「あるに決まってんだろ。俺、まだ全然動けてないからな」

「なら勝手に走れ……俺は寝る……zzz」

小さく寝息を立て始めるフレアを乗せたまま、ゲンヤは走り続けた。黙々と、ただひたすらに。


走り込みの後は剣の素振り。

重たい訓練用の木剣を振るたびに、腕に響く痛み。それでもゲンヤは振り続ける。

「剣はな、筋肉だけじゃない。軸だ。動きの線を意識しろ」

「うっす!」

初めは筋肉痛で寝返りも打てなかった。だが、日に日に筋肉が目覚め、剣の重みが馴染んでいく。
“神の理”は動きの無駄を排除する。それに身体がついていけるよう、努力するしかなかった。

 

そして、一週間後。

森への立ち入り制限が解除された。

ゲンヤとフレアは再び森へ。

「お前の剣がどこまで通じるか、実戦で確かめるぞ」

初級魔物から徐々にステップアップし、狩りの腕を磨いていく。
最初はうまく動けなかったゲンヤも、“スキルをただ使う”から“自分の判断と組み合わせて使う”へと進化していく。

 

「ゲンヤさん、Eランク昇格おめでとうございます!」

ギルドの受付嬢が笑顔でそう伝える。

「ありがとう!」


冒険者カードに記された文字が少しずつ誇らしくなってきていた。

 
日々は続く。

朝は走る。剣を振る。昼から森に入り魔物を狩る。夜はフレアの家で飯を食い、風呂に入って眠る。

そんな生活を一ヶ月続けたある日――

「ゲンヤさん」

受付嬢がゲンヤを呼び止める。

「Dランク昇格試験の受験資格が認められました。条件を満たしていますので、正式な試験を受けていただきます」

「試験内容は?」

「単独討伐になります。対象はDランクの魔物一体。詳細は別紙でお渡しします」

「単独、か……」

「不安か?」

フレアが横で言う。

「いや――むしろ、やってやるって気分だ」

ゲンヤは拳を握り、静かに闘志を燃やした。

 
受付の女性が、にこやかながらも事務的にゲンヤに向き直る。

「Dランク試験を受けるのであれば、こちらの受験申請書にご記入をお願いします」

ゲンヤは頷いて、渡された用紙にペンを走らせる。名前の欄に「ゲンヤ」と丁寧に書き込む。
その横で、受付はちらりとフレアに視線を送り、声を潜めて告げた。

「フレアさん、領主様より連絡が入っております。明日、屋敷にお越しくださいとのことです」

「……あぁ。分かったよ」

フレアは小さくため息をつきながらも、どこか諦めたように頷く。

ゲンヤが記入を終えると、受付は改めて彼に向き直った。

「では、ゲンヤさん。Dランク昇格試験は一週間後の早朝、ここギルドにお越しください。試験の詳細は当日お伝えします。遅れないようお願いしますね」

「了解です」

ゲンヤは用紙を返しながら、気を引き締めるように頷いた。試験まであと一週間──また新たな挑戦が始まろうとしていた。


---

ギルドを出て、夕暮れに染まる街道を二人並んで歩く。

ゲンヤがちらりと横目でフレアを見て、口を開いた。

「なあフレア、領主から呼び出しって……まさか何かやらかしたんじゃないのか?」

フレアは鼻を鳴らしながら、ふてくされたように返す。

「違ぇよ。ちょっと前に個人的な依頼を受けてただけだ」

「へぇ~、Aランクともなると貴族から直接依頼が来るのか。やっぱ礼儀とか言葉遣いとか、色々大変なんだろ?」

「ココの領主様はそういうの気にしねぇから、案外気楽だぞ」

そう言って、フレアは小さく笑う。そして──

「……つうか、お前も行くんだよ」

「えぇぇっ!? なんで俺まで!?」

ゲンヤが思わず声を上げると、フレアは面倒くさそうに肩をすくめた。

「依頼の内容が、お前にも関わってくるんだ。一緒に来い。文句は聞かねえ」

「……なんか、面倒なことに巻き込まれてないか、俺?」

ゲンヤは頭を掻きながらため息をついたが、フレアの背中を追いながら、心のどこかでほんの少しだけ胸が高鳴っていた。
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