スキル放出と神様落ちた。~異世界で始まる神様とチート旅。

モデル.S

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第1章

Dランク依頼

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「……見つけた。三体、接近中。距離、およそ二十メートル」

森の奥、霧のかかる静かな獣道で、ソウマが声を低くして言った。
右手には、静かに震える小さな水球。
それに《放出》の感覚を重ね合わせ、前方に気配を探る――ソナーのような使い方だった。

 

Dランク依頼は、B級冒険者たちからすれば“中級の通過点”。
しかし、まだ駆け出しのソウマたちにとっては、明確な“危険領域”の入口だった。

 

「Dランクに出てくる魔物は、“魔石”を持つようになるらしいな」

ミタマが木の陰からソウマを見やる。

「うむ。魔力の中核が結晶化し、体内に宿るのじゃ。
 大きく強い魔物ほど、より高純度な魔石を持つ」

「そしてそれをギルドに持ち帰れば、“鑑定魔道具”でどの魔物のものか特定できる……
 しかも魔道具の部品として重宝されてるってワケか」

「そう。つまり、“倒すだけじゃダメ”、じゃ。“回収してナンボ”の依頼になる」

 

今回の依頼は、「指定範囲内の魔物を討伐し、最低十個の魔石を回収して帰還する」というもの。
森の奥へ踏み込んでから、すでに5つは集まっていた。

「あと半分……この調子で行けば何とか」

その瞬間、地面がズズッと揺れた。

「来た!」

 

飛び出してきたのは、ヘルドスパイダー――
全長1.5メートルほどの黒い大蜘蛛。
脚は鎌のように鋭く、口元には毒の液体を滴らせている。

一体、二体、三体……さらに後方から“親玉”のような、ひときわ大きな個体が姿を現した。

 

「……あれは、“魔石核持ち”じゃな。目の奥が輝いとる」

ミタマが呟いた。

「じゃあ――しっかりいただこうか!」

 

ソウマは放出の魔力を足に込めて、斜め後方に飛び退きながら、水球を二発、空中から射出!

カーブを描いた水刃が蜘蛛の脚を斬りつけ、バランスを崩した隙に――
ミタマが剣を抜き、一閃。

「“神速抜刀――水月穿”!」

鋭い踏み込みから生まれた波紋のような斬撃が、一体を真っ二つにする。

 

二体目が回り込んできた。
ソウマは地面に“滑るように”放出を使って側面へ回避、同時に反転射撃!

“ズバッ!”

左の水刃が、相手の胴体に食い込み、毒腺ごと破裂させる。

 

「残りは親玉――!」

巨大な蜘蛛が、六本の脚を使って急加速。
鋭い毒牙が振りかぶられ――

(こっちが囮になる!)

ソウマはあえて真正面に立ち、水球を連続でばら撒きながら撤退。
蜘蛛がそれに気を取られ、動きが乱れた瞬間――

「今だミタマッ!」

「心得た!」

ミタマの放った回転斬が、宙を舞う水球の一つをすり抜け、
その勢いのまま、蜘蛛の頭部へ直撃。

“ドシュッッ!”

大きく呻きながら、魔物は崩れ落ちた。

 

「……よし。魔石、抜き取るぞ」

ソウマが腹部を裂き、中から光る紫水晶のような魔石を取り出した。

「……でかい。高く売れるな、これ」

「うむ、“初級魔道具の中核”に使われるサイズじゃな。
 おぬしの狙撃も見事じゃった。“罠じみた誘導”が様になってきたのう」

 

一息ついて、魔石を布袋に詰める。

「これで合計十個か。任務完了だな」

 

森の静寂が戻ってくる。

静かだが、どこか“世界の深み”に触れたような気がした。

“この世界の魔物は、ただの敵ではない”。
魔石――それは、命の核であり、価値そのものだ。

「……ようやく、“この世界の冒険者”って気がしてきたよ」

「ふむ、“おぬしの戦い方”も、“一つの型”になり始めたな。
 放出と連携――見どころのある成長じゃ」

 

ギルドへの帰路。
袋の中で揺れる魔石が、カラン、と澄んだ音を立てた。

 
「……さすがに、もう限界だ」

ソウマが布団の上で天井を見上げながら呟いた。
ギシギシ鳴るベッド、薄い壁、湿った空気。
冒険者としてDランクまで上がっても、まだこの“安宿・たぬき亭”に泊まっているのは、もはや根性というより“執念”だった。

 

「まったく同感じゃ。朝起きるたびに、腰に違和感があるのじゃ……神であるワシの身体に」

「お前、神の自覚なくなってきてるよな」

 

というわけで――

「今日は“引っ越し先”探しに行くぞ」

「おお、宿探しとは久しぶりの“文明的イベント”じゃの!」

 

* * *

 

街の中央通りから少し外れた一角には、“中級宿”と呼ばれる施設が並んでいる。
冒険者ランクで言えば、D~Cランク以上の連中が使う宿。
ちょっと高いが、風呂はついてるし、飯も普通にうまいという噂。

 

「……おぉ、ちゃんと“窓”あるぞ」

「水場も個別にあるらしいぞ。あと、共同浴場も時間で貸切にできるとか」

「え、マジで? 神か?」

「神はワシじゃ」

 

一件目――「月影の宿」
店構えは落ち着いていて、受付も上品なお姉さん。
中を案内されて、広い部屋、清潔なシーツ、暖炉のある共用スペースにソウマは声を失う。

 

「えっ……えっ、ここ異世界じゃないの?」

「正気に戻れ。ここも異世界じゃ」

 

料金は一泊銀貨5枚。
安宿の倍以上だが、今のソウマたちなら問題なく払える範囲。

 

「ここ、いいな……もう決めてもいいくらいだ……」

「ふむ、待てソウマ。“比較”というものを知らぬのか?」

「えっ……え、もうちょっと見るの? もう腰が完全に宿に沈んだんだけど」

「“交渉材料”にもなるのじゃ。他も見ておくのが良き宿探しの鉄則じゃぞ」

 

* * *

 

二軒目――「青葉亭」
こちらは少し賑やかな雰囲気。料理が売りらしく、外からでも香ばしい匂いがしている。

「うまそう……これはこれでアリかも」

「ただし、部屋数が少ない。今空いておるのは“角部屋一室のみ”じゃと。
 騒がしい可能性もあるし、“長期滞在”には向かぬかもしれん」

「うーん、候補には入れとくか」

 

三軒目――「風鈴亭」
静かで落ち着いた雰囲気。畳のような内装に、ミタマが「和風じゃな……落ち着くのう」とご満悦。

「……あ、ここも悪くない」

「ただし、風呂が共同で“夜しか湯が沸かぬ”らしい」

「……一気に冷めたな」

 

* * *

 

夕方、三件回って戻ってきた二人。
ベンチに腰を下ろして、少しだけ贅沢なパンをかじりながら考える。

 

「やっぱ“月影の宿”が一番良かったな」

「うむ。施設、清潔感、食事、静けさ……全て高水準じゃ。
 あそこを拠点にすれば、ワシも“寝起きの腰痛”から解放される」

「それ一番重要なんだ……」

 

そのまま二人は、その日のうちに宿を移動することにした。

最後に“たぬき亭”に別れを告げながら、ソウマはぼそっと呟く。

「お世話になったけどさ……もう絶対戻らねぇ……」

「ワシも同感じゃ……人間界のベッドというもの、少しは見直したわい」

 

こうしてソウマとミタマの新たな拠点生活が始まった。
次なる戦いへ向けて、ほんの少し、暮らしが豊かになる――それだけで、なんだか未来が明るくなった気がした。



「……うーん……これは……最高……」

ふかふかのベッドに仰向けに沈み込みながら、ソウマは幸せそうに目を閉じていた。
新たな拠点、“月影の宿”――
柔らかいベッドに静かな部屋、湯と水の設備付き、虫の出ない空間。
“たぬき亭”とはすべてが段違いだった。

「やっぱり……いい宿って、正義なんだな……」

「ふふ、“人の尊厳”を取り戻した顔じゃな。
 腰の痛みも消えたし、これでワシもようやく人間界での修行に集中できるわい」

ミタマはティーカップを傾けながら、優雅に微笑んでいる。
この宿では、神の威厳も少しだけ取り戻せるらしい。

 

翌朝。ソウマは朝食を取ると、いつものようにギルドへ向かった。
依頼掲示板の前には、今日も冒険者たちが群がっている。

(さて……今日は何か“面白そう”なのあるかな)

 

受付カウンターに目を向けると、顔馴染みのスタッフがソウマに気づいて手を振ってきた。

「おはようございます、ソウマさん。
 今日、新しく追加された依頼の中で、“機動力がある方にお願いしたい案件”が一つあります。よかったら確認してみますか?」

「……機動力?」

「ええ。山間部の地形で、崖や段差が多い場所なんです。
 討伐対象はさほど強くないんですが、“上下の移動に難あり”でして……」

 

提示された依頼書にはこう書かれていた。

> 『峡谷地帯に出没する獣型魔物の駆除。
高低差あり、狭所での戦闘あり。柔軟な移動力を持つ者を歓迎。』



 

(なるほどな……こういう地形だと、放出でのジャンプや壁蹴りがそのまま使える)

ソウマは依頼書を受け取りながら、自然と頬を緩めた。

「うん、これ、ちょっと面白そうかも。引き受けます」

 

もちろん、スキル《放出》のことは一切話していない。
周囲からは“ちょっと変わった魔法使い”くらいに思われているのが、むしろ好都合だった。

 

その日の夕方、宿に戻ると、ミタマがすでに風呂上がりの姿でくつろいでいた。

「どうじゃ、依頼は見つかったか?」

「ああ、ちょうど良さそうなのがあった。
 険しい地形で動ける奴が歓迎されるらしい。俺、地形向きだしな」

「ふむ、“放出の移動術”を実戦で試すにはうってつけじゃな」

「うん。ちゃんと隠しながら使えば、“不審がられない程度”に力を見せられるかも」

 

湯気が残る部屋で、ソウマは大きく伸びをした。

「なんか、冒険者らしくなってきたな。
 依頼受けて、稼いで、帰ってきて、風呂入って飯食って……」

「うむ。そろそろ“次の段階”に入ってもよかろう。
 《放出》の応用――さらに広げていくぞ」

 

ソウマの胸に、小さな炎が灯る。

“自分の力”を武器に変える旅は、まだまだこれから。
だが、ようやく“ちゃんとしたスタート地点”に立てた気がしていた。
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