雑食読書日記

日本文学

『黄金比の縁』 著：石田夏穂

黄金比の縁　
著：石田夏穂
発行：集英社
『すばる』2022年8月号を図書館で読んだ時に惚れこんた中編小説。個人的に2022年読んだ本の中で一番面白かった。

Ｋエンジニアリングの新卒採用チームであった小野は、入社当時、花形部署である〈プロセス部　尿素・アンモニアチーム〉に所属していたが、ジェンダーがらみの騒動で「女性は人事部の方が活躍できる」と人事部に飛ばされてしまう。不当な人事異動に会社への復讐心を燃え上がらせた小野は、早期退職する新人を沢山入社させ、会社を崩壊させると決意する。優秀な人間ほど早期退職すると考えた小野は、エントリーシートと面接でどうやって優秀な人間を見分けるか試行錯誤した結果、顔の縦横比が黄金比に近いほど優秀な人間である事を発見する。そして黄金比の顔を採用し続けて数年、結果が出てきた事に喜ぶ小野は今年の新卒採用の準備を始める。

就職活動をテーマに人が人を選ぶ事の奇妙さを細かくポップに描いた小説。
特に小野のキャラクターがよくできていて、行動原理は数値的で理屈っぽいのに、ブルドーザーのような行動力を支えているのは復讐心と感情的な所がギャップがあり、優秀な人間を採用するのは外から見れば人事部の仕事を真面目にやっているが、内心では会社の崩壊の事しか考えていないのが面白い。