フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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八章:越えられぬ壁

第53話 やっぱりね

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「だめだ。やっぱり埒が明かない」

 街をほっつき歩いては、自身に挑んでくる者達を倒していたクリスだったが、唐突にそんな事を呟いた。騒ぎを起こした元凶であるシャドウ・スローンの親玉を突き止めるため、辛うじて殺さずにしておいた後に尋ねては見るが、出て来る答えは仲間内で取り決めでもしていたかのように同じ言葉ばかりである。

「知らない」
「指示をされただけ」
「会った事も無い」

 怯えながら彼らが言うたびに辟易し、殺すのも悪いからという理由で怪我を負わせて再起不能にするだけの時間が暫し続いていた。こんな調子では業を煮やした黒幕が逃げ出してしまうと危惧をしたが、手掛かりも無い今の状態ではこんな暇潰し以外にすることなど何も無かった。

 少し落ち着こうかと町の路地裏に入ると、銃声やら物騒な音が遠のくのを感じた。のんびり歩きながらどうしたものかと考えている時、前から逃げ遅れたらしい女性の住民が荷物を抱えて歩いて来ていた。敵ではなさそうだと判断したクリスだったが、右側の煉瓦造りの建物から殺気を感じ取った。すぐさまその方向へ拳銃の引き金を引くと、放たれた弾丸が窓ガラスを突き破って室内の暗闇に吸い込まれていく。何かが倒れる音が微かに聞こえた。

 拳銃を収めた直後、他の建物の扉からいかにもな輩がマチェットやラッパ銃を片手に飛び出してくる。言うまでも無く、クリスは片っ端から殴り倒していった。

「ヒィィィ… !」

 一部始終を目撃してしまった市民が思わず悲鳴を漏らす。

「怪我は無いか ?」

 物陰のゴミ箱に隠れていた彼女にクリスは近寄ってから、静かに尋ねた。

「ありがとうございます…」
「避難所に向かいたいならこの先にある図書館へ行くといい。騎士団の兵士達で守っている」
「え、えっと…実は最近引っ越して来たばかりで…道が分からないんです」
「案内したいのは山々だが、俺といれば却って危険だぞ。待ってろ…連絡をして迎えを寄越すように頼んでみよう」

 クリスは装置を触ってから、少し待っててくれと女性にジェスチャーで伝える。そして何やら一人で喋り始めた。

「こちらガーランド、逃げ遅れた民間人を見つけた。迎えを寄越してやって欲しいんだ。場所はグレー・クロス通りの路地裏、確か派手な色合いの看板を掲げてるカフェがあっただろ…あー、違う。そこじゃなくて―――」

 クリスが話をしながら背を向けた時であった。オドオドとした仕草をしていた女性は、先程までのか弱そうな表情を冷酷なものへと一気に変えた。音を一切立てることなく、服に隠していた鋭利な暗器を取り出し、静かに近寄りながらクリスの背中越しに心臓へと狙いを定める。

 一突きにしようと暗器で攻撃を仕掛けた瞬間、クリスは横へと避けてそれを躱した。すぐさま彼女の腕を掴んで、恐ろしい握力で手首を締め付ける。たまらず得物を落とした後に頭を掴んで近くにあった窓へと叩きつけた。繊細かつ甲高い音を出しながらガラスが割れ、女性は額から血を流している。

「長生きしたいだろ ?シャドウ・スローンやお前の雇い主について知っている事を言え」

 そのままガラスの割れた窓へと彼女の首筋を近づけてからクリスは言った。窓に残ったガラスの破片が皮膚に食い込みかけている。

「知らないわ !あなたに懸賞金を掛けたって事以外は何も…今度は嘘じゃない !」
「またハズレか…」

 相も変わらず想像通りの答えが返って来たことにクリスは落胆し、彼女を窓から遠ざけてやった後に、顔へ向けて頭突きを放った。崩れ落ちた女性の意識が無くなっている事を確認すると、クリスは「演技が下手すぎるんだ」と小馬鹿にした。そして”改めて”ダイヤルを弄ってから本部へと連絡を取る。

「ガーランドだ、何かシャドウ・スローンに関する情報が入ってないかと思ってな。こっちでも探してはいるが…どうも尻尾が掴めない」
「お疲れ様です、ガーランド様。そうですね、今のところは我々のもとにも目新しい情報が入っていないようです…お役に立てず申し訳ありません」
「まあ良いさ。気にしないでくれ」
「… !ガーランド様。どうやらオールドマン様から話があるとの事です。こちらで装置同士の通信をお繋ぎしてもよろしいでしょうか ?」

 大した情報は無しかと諦めた時、駆け込むように急いでいる様子で職員がグレッグからの反応があると申し出た。出来るのならすぐに頼むとクリスが答えた後、しばらく大雨が降っているかのような雑音が続き、やがて聞き慣れた若い男性の声が聞こえて来る。

「クリス、聞こえるかい ?」
「ああ、問題ない」
「実は魔術師関連の捜査をしている時に死体を見つけてね…以前に君が話してくれた魔法による攻撃が死因じゃないかって思ったんだ。その道のプロとして君の意見が聞きたい。それと出来るなら協力して欲しい」

 やはりブラザーフッドも動いていたかと、クリスは内心困り果てていた。

「…分かった。見てみよう」
「ありがとう !場所は中央通りにある病院だよ。レングート市立グランドブリッジ病院…建物が大きいから分かると思う。それじゃあ」
「ああ、後でな」

 クリスはそうして連絡を切った後、なるべく人目につかなそうな道を選びながら駆け足で向かっていく。街はもぬけの殻となっているか、荒れ果ててしまっているかの二択状態であり、早いうちに騒動を終わらせなければならないという事をヒシヒシと痛感した。



 ――――締め切られている鉄製の門の前に立つと、顔を確認できたらしい兵士達によってようやく病院への立ち入りが許可された。行政によって管理されている施設は全て民間人のために一時的な避難所となっているらしく、既に大量の物資が積まれており、兵士達が辺りをうろついている。

「オールドマン先生はこの先にいますよ」
「先生 ?」
「ああ…すいません。いつも授業でお世話になっていたのでつい」

 敬礼で出迎えてくれた兵士と他愛もない会話をして、クリスは建物の内部を歩いていく。避難した民間人が寝そべったり立ち話で気を紛らわせている様子であった。

「ガーランドさん、そういえば食事は取られましたか ?今だったら炊き出しをやっていますよ」
「いや、腹も空いてないから別に良い。民間人も沢山いるだろう、その分を俺が食べるわけにもいかない」

 不意に兵士の一人が食事でもどうかとクリスに促す。当然だがそんな事をしている余裕が無いのではないかとクリスは断ろうとした。

「我々兵士には別に用意してあるから問題無いですよ。腹が減っていては何とやらって言うじゃないですか。せっかくのミート―ボール入りシチューですから。それに作っている人が凄く美人で…あれで子持ちだなんて信じられない」
「お前、間違ってもナンパなんかしようと思うなよ…マクレーン教官に殺されるぞ」

 兵士の一人が惚気た様子で献立とその配給を切り盛りしている人物について語ろうとした所、もう一人が青ざめた様にそれを遮った。ひとまず彼らと別れた後に、まさかと思ったクリスが病院に備え付けられている食堂へ向かってみると、鍋からシチューをよそって人々に配っているリリーと愛娘であるアンネの姿が目に入った。

「ガーランド様 !こんなすぐにお会いできるとは」
「こ、こんばんは… !」

 相変わらず優しい笑みを浮かべながら穏やかな口調でリリーは語り掛けて来た。一方のアンネは、初めて会った際とは違う物騒な雰囲気に気圧されたのか、少々緊張しながら挨拶をして来る。

「ミセス・マクレーン、それにアンネちゃん…だったね。あなたがたもココに避難を ?」
「はい。しかし、何かお手伝い出来ないかと思いまして…ですから給仕を申し出たのです」

 事の経緯を聞いている間にも、器に盛ったシチューをアンネは並んでいた人々に配っている。

「休むように言ったんですが、『パパみたいに人の役に立ちたい !』って聞かなくて…」

 少し困ったようにリリーは娘を見ながら言った。

「将来が有望ですね」
「フフ…そうだ、よければ食事を取っていきますか ?」
「いえ、すぐに仕事に向かわないといけませんので。ただせっかくですし、顔を見せておこうかと」

 冗談を交えて感心を示すと、リリーは軽く笑ってから食事が必要かと尋ねてきた。クリスがそれを断ると相変わらずの優しい笑顔と共に了解する。誘いを断った事に対して、得体の知れぬ罪悪感と申し訳なさがこみ上げてきた。

「それでは失礼…お体に気を付けて。アンネちゃん、またね」

 クリスがそうして一礼をすると、二人はまたいつでも来て欲しいと言いながら手を振った。再び来た時にシチューが残っている事を願いながら、グレッグのもとへ急ごうとした時、近くの安っぽいテーブルに着いてシチューを食べている彼と目が合った。

「食べてるのか…」
「う、うん…凄く美味しい」

 クリスからの問いかけに対し、グレッグは気まずそうに答えるが食べる手を止めるという事はせず、こちらを見ながらシチューを啜る。「食べ終わったら案内してくれ」と伝えてからクリスは彼の隣に座って、興味が無い振りをしつつ内心羨ましいと思いながら食事が終わるのを待ち続けた。
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