フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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八章:越えられぬ壁

第54話 身から出た錆

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「これがその死体だよ」

 死体安置所にて、グレッグが医師達に持ってこさせた死体は二つあった。焼け焦げた死体、大量の鋭い岩が余すところなく突き刺さった死体達が布に包まれていた。性別さえ分からない程に変わり果てている体は、硬直した体勢の様子から、苦しみ悶えた末に絶命したのが分かる。身元の特定は難航しているらしいが、付近に散らばっていた手掛かりから兵士と民間人である事は分かったらしく、避難の途中に襲われた可能性があった。

「単純に考えるなら火と大地の属性を持つ魔法だ。魔術師に見せかけた一般人による殺人という可能性もあるが…それにしては手が込みすぎている。骨にまで貫通させられるほどに岩を加工する手間もそうだが、人間を藻屑に出来る程の火力なんざすぐに用意できるものじゃない。間違いないだろう」

 淡々と死体の具合を調べながら、クリスは魔術師によるものだと断定した。マジマジと見つめすぎて気分が悪くなったのか、途中で顔を放して余所見を行う。

「やっぱり魔術師が入り込んでたんだ。死体も新しいし、暴動に乗じて街に乗り込んできたのかも」
「だな。だが問題は…なあ、死体が発見された時はどんな状態だった ?」
「あ、それについては私が」

 魔術師が街に潜伏していると睨んだ二人だったが、クリスが次に気になっていらしいのは発見された当初の状況であった。すぐさま近くにいた兵士の一人が口を出す。

「アレは何というか…簡潔に言うなら磔にされていたんです」
「…磔 ?」
「はい、街灯にそれぞれ吊るされていたんですよ。恐らく、被害者を殺した後でそのような仕打ちを…それと近くにこのような書き置きが残されていました」

 兵士が状況を語るにつれ、クリスは深刻そうに顔をしかめる。そして兵士に渡された若干湿っている紙切れに目をやった時、溜息をついて首を横に振った。不思議そうに見ていたグレッグに渡すと、「裏切り者へ」とだけ走り書きがされている。

「…以前、魔術師の持つ殺人に関する風習は教えたよな」
「確か、決闘みたいに公然での殺し合いを未だに容認しているんだったっけ ?」
「ああ。基本として殺人自体は禁じられてはいるんだが…元来、戦うのが好きだった連中なもんだから、双方合意の下でなら良しとされ続けて来たんだ。魔術師同士の間で抗争が起きる事さえザラにある」

 そこまで言い終えると、クリスは少し落ち着きを見せつつ死体に改めて近寄る。反吐が出るとでも言いたげな不愉快な気分を隠そうともせずに表情に込めていた。

「魔術師にとって死体を人前で吊るすってのには複数の意味がある。宣戦布告、そして決闘の申し出…本来なら忌避すべき行為の結果を敢えて晒す事で『自分は逃げも隠れもしない』っていう意思を伝える。選択肢なんざ与えない質の悪い方法だよ。同胞の死には仇の血で償うべきなんていう考えを持ってる奴が未だに蔓延っている界隈なんだ。文書による申し出と違って、断ってしまえば臆病者…及び薄情者として一生後ろ指をさされ続ける人生が待っている」 
「じゃあつまり今回は…」
「俺宛の招待状だろうな」

 魔術師の風習についてクリスの解説が終わった所で、ようやく犯人の動機が明らかになる。すっかりトラブルメーカーと化してしまい、つくづく過去の行いが悔やまれるとクリスは頭を指で掻いた。

「死体が見つかった場所はどこだ ?」
「街の中央、運河沿いにあるトーキンス製鉄所の入り口付近でした」

 クリスが尋ねると、兵士はすぐさま答えてくれた。

「もしかして一人で行くのかい ?何があるか分からないんだ…僕も一緒に行くよ」
「自分のケツぐらい自分で拭くさ。仲間を連れて行って文句言われるのも嫌だしな」
「決闘を望んでるのなら手出しはしないって事にすれば良い。それか立会人としてでも…万が一ってのもあるしね。彼らが正々堂々戦ってくれる保証も無いんだ」
「…今から言う条件を呑んでくれるなら、別に構わない」

 自分が蒔いた種であるという事もあってか、グレッグからの申し出をクリスはすぐさま断った。しかし彼の反論や熱意にアッサリ押されてしまい、「自分の身は自分で守る」、「マズいと思ったらすぐに逃げる」事を最終的に条件として定めてから同行を承諾した。

 二人が仕度を追えて病院から出ようとした時、食堂から疲れ切った様子で出て来るリリーの姿があった。

「もしかしてお二人で ?」
「ええ、これから仕事です」

 物騒な装備に身を包んだクリス達を心配そうに見つめながら彼女は話しかけて来る。クリスもそれに対して快く返答した。

「怪我人も沢山運び込まれているみたいなんです。どうか気を付けてください…あなた方に何かあれば、主人もきっと悲しむでしょうから」

 優しく身を案じる彼女の健気さが身に染みると同時に、一体どういう経緯でデルシンが彼女と出会ったのかを不思議にクリスは思った。

「大丈夫ですよ。戻ってきた時のためにシチューの残りでも用意していただければ幸いです」
「…あ、あの…すいません。実はもう…」
「え ?」

 評判が良かったシチューの事を思い出したクリスが、自分の分を残しておいて欲しいと頼んだ瞬間、彼女が申し訳なさそうに謝罪を始めた。

「随分とお気に召してくれたようで、ガーランド様以外の方々で…その、全部食べつくしてしまったんです。次の物資が届いたとしても同じものが作れるかどうか…本当に申し訳ありません !」
「あ、ああ~…気に病む事なんてありませんよ。断ったのは私の方ですから。お疲れでしょう、しっかり休んでください」

 罪悪感に押しつぶされそうだと言わんばかりに釈明を行うリリーに、クリスは慌てて大丈夫だと返事をして休むように言った。彼女と別れた後に人々の間を通り抜けている時、グレッグがこちらと目を合わせようとせずに無口である事に気が付く。

「正直に言ってくれ。グレッグ、お前何杯食べた ?」

 あの鍋に入ってた量がすぐに無くなることなどあるのかと疑いを持ったクリスは、視線に気づかぬふりをしているグレッグに問いかける。

「さ、三杯…」
「…お前後で一発蹴っても良いか ?」
「食べないって言ったのに!?」

 こっそりと楽しみにしてあった食事が無くなってしまっている事を知ったクリスは、恰好など付けなければ良かったと思いながら、八つ当たり紛いにグレッグへ悪態をつく。本来ならある筈だった食事を奪ったことについては悪いと思っていたグレッグだったが、流石にその言い分はおかしいと返しながら目的地へ向かって行った。
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