フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

文字の大きさ
59 / 115
八章:越えられぬ壁

第59話 手掛かりを求めて

しおりを挟む
「そんな…じゃあ、あの銃撃は君じゃなかったのかい!?」

 本部に一時的に戻ったグレッグは、状況の詳細を伝えるために帰投していたシェリルから事実を知らされて愕然とした。クリスは弾薬をシリンダーに込め直しながらそれを見ている。

「うん。本部からトーキンス製鉄所の近くに二人がいるって話を聞かされて、すぐに時計塔へ向かった。あそこからなら見渡せるし…でも先客がいた」

 走り書きした報告書を担当の職員に渡しながらシェリルは答える。先程の交戦の際に感じた相手との力量の差にやるせなさがあるのか、あまり快く思っている雰囲気ではない。

「先客とやらはどうなったんだ」
「色々聞き出してやろうとしたけど、急に泡吹いて倒れてさ。毒でも飲んで自殺したのかと思ったら、ただの死んだ振りだった。マーシェに聞いたら巷で出回ってる仮死薬を使ったみたい。特定の神経毒や魔物の体液から作ってるんだって。それで…不意打ちを食らって、何とかやり合おうとはしてみたけど…逃げられちゃった」

 困り果てた事と申し訳なさを表しているのか、軽く後ろ髪を指で弄りながらクリスの問いかけにシェリルは応じる。現場で押収した物品は諜報班や研究開発班の手によって解析を進められているが、自分が情報を聞き出す事さえ出来ていれば、彼らの手間を煩わせずに済んだという負い目が残り、彼女の顔を少しばかり曇らせていた。

「相手の顔と名前が分かっただけで儲けものだ。気を落とすな」
「…どうも」

 クリスはなんとなく察したのか、彼女に対してフォローを入れた。シェリルも一例を入れて小銃を担いで立ち上がろうとした時、調べ終わったらしい兵士達が彼らの前に現れる。

「武器自体は簡単に手に入る市販の物ですが、弾薬については面白い結果が出ましたよ」

 生真面目そうな青年が言った。

「我々騎士団が使用している程のものでは無いですが、クリナ鋼や銀を大きく含んでいる仕様になっていました。騎士団の装備に関する情報の一部が出回ってからというもの、こういった粗悪な対魔物用の弾薬が流通しているんです…恐らくブラックマーケットで入手したものでしょう」
「この辺りで手に入れられるものなのか ?」
「やろうと思えばですがね…そうだ、オオカミさんなら何か知っているかもしれません」

 青年が手掛かりである非正規品の弾薬について説明をしてから、クリスは出所の特定が出来るのかどうかを尋ねる。そして、イゾウが力になってくれるかもしれないという返答に対して、意外そうに目を丸くした。

「アイツが ?なぜ ?」
「イゾウは元々暗黒街での裏稼業を生業にしてたらしいんだ。暗殺とか用心棒をやってたんだってさ」

 グレッグが理由を話してくれた事で、イゾウが自分と同じようにスカウトされた身だという新しい事実を知ったクリスは、すぐにでも彼のもとへ向かうと言って事務室から出ていこうとする。少しでも情報を集めてシャドウ・スローンのボスを見つけ出し、この騒動の落とし前を付けさせてやるという決意が確かにあった。

「ねえ…クリス !イゾウは今、街のあちこちで立て籠もっている犯罪者たちの追跡をしているんだって。僕はこれから病院の警護に戻るよ、手伝ってくれてありがとう。シャドウ・スローンについて何か情報があったら僕も連絡する」
「ああ、気を付けてな」

 彼の後を追いかけるようにグレッグは部屋を出ると、そのままイゾウの所在と自分が今後どこにいるのかを伝えた。クリスも彼と挨拶を交わしてから建物の外へと出ていく。

「…」

 そんなクリスの背中をグレッグは見送っていたが、彼に抱える一抹の不安が心の中でざわつく。敵であるとみなせば、かつての師であろうと屠るクリスの姿に対して、得体の知れぬ恐怖を感じていた。なぜそこまで冷酷に徹する事が出来るのか、てんで見当がつかなかったのである。



 ――――建物の上を瞬間移動や跳躍で移動しながら、クリスは通信を頼りにイゾウがいると思われる場所へ辿り着いた。バーテルミアと呼ばれるその区域は、通称”悪夢の街”と称される犯罪の温床であった。

「おい、いたぞ !例の賞金首だ !」

 クリスが比較的高い集合住宅の屋根から飛び降りて、膝を突きながら大通りへと着地した時であった。どこからかそんな声が聞こえると同時に銃声が響き渡る。クリスはすぐさま付近にあった空き家と化している商店へ走った。そしてショーウインドーを突き破って入り込み、受付のカウンターに身を隠す。集中して辺りの気配を探ると、数人程の人物がこちらに近づいているらしかった。数や動きからして用意周到に計画をしていたわけではないらしく、「偶然見つけたので一攫千金を夢見て攻撃した」程度のものだろうという事が推測出来る。

 割れたショーウィンドーから風が入り込むと同時に、付近を取り囲む足跡も聞こえた。内部に入る度胸までは無いらしく、店の前で敵がたむろしている瞬間を見計らい、クリスはカウンターから拳銃を持つ手と頭を出し、誰が先に入るか揉めている内の一人へ目掛けて撃った。腕を吹き飛ばされた仲間の姿を見て怖気づいたのか、慌てて競うように全員で路地裏へ駈け込んでいく。店から出て来たクリスも彼らを追いかけようと路地裏へ向かった。

 大通りから離れているとはいえ、比較的華やかなレングートの中心地区とは大幅にかけ離れた空気感としけた街並みの一部が垣間見えた。汚物や泥の混じった臭いが鼻を通るたびに不快な苛立ちを呼び起こし、周囲の壁や道端はゴミや落書き、いつ張られたのかも分からないチラシが乱雑に散りばめられている。

 目と鼻の先にある別の通りへの出口付近で悲鳴が聞こえた。不思議に思ったクリスが顔を向けると、先程襲撃をしてきたゴロツキ達の一人が息も絶え絶えに血を流し、脚を引き摺りながら路地を横切ろうとしている。何があったのかと呼びかけようとした時、彼の頭に何かが飛来し、深々と突き刺さった。駆け足で近づいてみると、後頭部に小振りのクナイが突き刺さっており、髪の毛や道を赤黒い血で濡らしつつある。

「何だ、もう来たのか」

 背後から聞き覚えのある嫌味ったらしい声を耳にして、まさかと思いクリスが振り向く。ボロボロの体を匍匐で動かしながら逃げようとするゴロツキと、それをゆったりとした歩調で追いかけるイゾウの姿があった。ゴロツキはクリスへ助けを求めるように手を伸ばしたが、背中から刀を突き立てられると血を吐きながら絶命した。

「話は聞いてる。その代わりこっちの仕事を少し手伝え」
「…情報をくれるだけで良いんだが」
「ほう、貰うもん貰ったら後は知らん顔と…馬鹿にしてるのか ?どの道お前の欲しがってる情報にも関わっているんだ。さっさとついてこい」

 こちらの反論には耳を貸さずに歩き始めるイゾウに対して、今後もアイツの事は好きになれそうにないとクリスは思いながら後をついて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...