フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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九章:瓦解

第60話 アポなし訪問

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「俺の顔見知りから話を聞き出す。裏の世界では名の知れた商人だ…あの女科学者が使っていた設備や不良共が使っている武器、どれも奴が流した可能性が高い」
「確かか ?」
「銃火器、大型の得物、爆薬…能無しのチンピラが手に入れられるような代物じゃない。間違いなく一枚噛んでいる」

 歩きながら心当たりがある事を伝えるイゾウは、外套で纏った腕で刀を挟み、血を拭きとってから鞘へ仕舞った。

「どこにいるんだ ?」
「すぐそこだよ。たとえ掃き溜めの様な場所だろうが見つかったら終わり…目立つ場所に店を構えられるわけがないだろ」

 話しながらかなりの距離を歩いた二人は、やがて住宅街へ差し掛かる。とは言っても非常にお粗末な環境であり、そのほとんどはタコ部屋同然であった。時折、窓の陰からこちらを窺う視線があるが、睨み返すとすぐに消えてしまう。

「何か潜んでいるな」
「逃げ遅れたか、避難所から追い返された貧乏人共だろう。まともな生活環境すらない場所で暮らしているんだ。病気の感染や犯罪を犯すリスクがある以上、入れるわけには行かないんだと…だからああやって家の中で縮こまるしかない」

 敵意を感じなかった事を不思議に思ったクリスが呟くと、イゾウが頼んでもいないというのに区域における現状を説明をした。

「おいおい…街の秩序を守る組織が差別を推奨してるのか ?」
「犯罪者生産工場へようこそ。この場所の現状を知らない奴ほど、お前みたいな理想論を並べるんだ…今の騎士団の対応も、俺からすれば生温い」
「…フン」

 騎士団の仕事とやらはどうしたんだとクリスは驚くが、イゾウはすかさず皮肉交じりにバーテルミアの何を知っているんだと、馬鹿にしたように言い返してくる。しかし、彼の顔は笑ってなどいなかった。一方でクリスは苦虫を噛み潰したように鼻を鳴らす。

 入り組んでいる住宅街を進み続ける内に辿り着いたのは、元は作る予定だったのであろうにも拘わらず諸事情によって中断された下水道、その入り口であった。

「来い」

 足元を泥で汚しながらもトンネルを進み続け、幾度となく分かれ道を曲がっていく。やがてどこかへと繋がる階段らしきものが現れた。明らかに最近になって作られた物らしく、これまでの道中に比べれば幾分か清潔感が漂う程度には清掃がなされていた。

「相変わらずだ…まだ現役か」

 目立った汚れの無い上に、ご丁寧に灯りまで用意されている階段を昇りながらイゾウは呟いていた。心細さの漂うしみったれた階段の先には鉄製の強固な扉がある。下水道になぜこのような物が作られているのはハッキリ言って分からなかった。

「ドアの近くに隠れていろ。ドアが開いたら開いたら一斉に乗り込むぞ」

 イゾウは小声でクリスに告げると、二段飛ばしで階段を駆け上がって扉の前に立った。ノックをすると鈍重な金属音が響く。向こう側からパタパタと足音が聞こえた後、やがて外の確認を行う際に使われているらしい鉄製の小窓が開き、目つきの悪い視線がイゾウを見つめる。どうやら扉付近の壁に張り付いているクリスには気づいてないらしい。

「何だお前 ?」
「”愛しの人に会いたい”」

 不愛想に尋ねて来る男に対して、イゾウは突如意味の分からないことを言い始める。扉の小窓から見えないであろう死角で息を潜めながら、クリスは頭がイカれたのかと疑う。

「…誰の事だ ?」
「”ジェーン・ドゥ”」
「…貢物はあるか ?」
「”二枚の硬貨”」

 淡々と問いかけて来る番人に対して、イゾウは何やら意味ありげな言葉を返し続けている。相手側が不思議に思う事なく話題を切り替えて行くことから、どうやら合言葉の確認をしているらしかった。

「…入れ」

 経年劣化によるものなのか、扉は擦り合わさる不快な音を立てて開いた。だるそうな声の番人がイゾウを出迎えようとした時、その服装の全貌を改めて拝見した彼は疑心を隠さずに顔へ出す。

「忙しいんじゃないのか ?…騎士様とやらは。こんな場所へ何の目的があるのか知らんが…おい、そいつ――」

 怪しみながら番人はイゾウへ語り掛けて中へ入る様に手で促す。その直後、死角に隠れていたクリスの存在に気づいた。言葉が途切れそうになった番人は、抜刀したイゾウの一太刀によって胸元を袈裟切りにされる。そのまま追い討ちをかける様にイゾウは首を切り落とした。目を見開いた生首は、残された肉体が噴き出す血を浴びながた床の上で転がっている。

「行くぞ」

 そのまま刀を仕舞うという事はせずに、イゾウはクリスへ呼びかけると歩き出した。後に続いて入ってみれば、そこはどこかの建物の地下へと続いていたらしく簡素な設備や休憩室として使われている痕跡がある。

「な、何してくれてんだテメェ!?」

 仲間が戻って来ない事から異変に勘付いたらしい一人の男が現れ、驚愕した後に声を上げる。それと同時に、同じく地下にいたらしい他の者達も武器を携えて二人の前に出て来た。辺りにはボロボロのソファーやベッドが用意され、裸でうずくまっている女性が倒れこんでいた。よく見れば男たちの中にも慌てて服を着直したせいで着崩れを起こしているか、上半身裸の者がチラホラと紛れ込んでいる。

 奥に転がっている死体を見つけたらしく、敵討ちのためにと男たちはいきり立っていた。クリスとイゾウは一度だけ顔を見合わせてから二人して肩を竦める。そして次の瞬間には、襲い掛かって来る男達への迎撃を始めた。片っ端から斬り伏せ、殴り倒していった後に死体の山と化した地下室を歩いていくと、再び階段を発見する。

「ここはなんだ ?」
「氷山の一角…俺が知る限りでは、この国で一番品揃えのいい店だよ。まあ表沙汰に出来ない代物限定だがな」

 悲鳴をあげる女性を無視してクリスは周りを観察する。そこかしこに置かれている吸引式の喫煙具や、紙の上に乗せられている薄っすらと茶色がかった白い粉末を見れば、少なくともマトモな場所では無い事は火を見るよりも明らかだった。わざとらしいクリスの問いに対して、イゾウは不穏な情報だけを述べてから階段を昇って行く。色々と聞きたい事があるという好奇心を堪えつつ、クリスも追従していった。
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