フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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十章:不尽

第73話 肉弾無双

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 殴り殺されたゴブリンの頭が転がって来ると、他の個体たちは揃って挑むのを躊躇った。知能が高い事で知られているゴブリンだが、それ故に彼らは目の前で暴れている男が自分達にとってどうする事も出来ない相手である事が分かっていたらしい。さらに人間のように他者への忠誠心などという物は無く、餌に釣られてこの遠方の地まで運び込まれただけのゴブリン達にとって、命を賭してまで戦いを続ける理由も無かったのである。

「おい何やってるんだ !」

 親衛隊の一人が逃げ出そうとするゴブリンを呼び止めようとするが、間もなく頭上からクリスによって飛び蹴りを食らわされて倒れた。

「ボビー、ジョック、ブルート !あいつを食い殺せ!」

 誰かがすかさずケルベロスに指示を出すと、唾液を撒き散らしながら三つの頭が吠えた。巨体を使って飛び掛かって来るが、クリスはそれを受け止めながら拳を振るう。パンチによって片目を潰されてしまい、悲鳴を上げる真ん中の頭部を庇う様に他の二つが咆哮を轟かせた。噛みつきによる連携を仕掛けてくるがクリスはそれを見切りながら彼らへアッパーカットを放って顎を砕いてみせる。

 尻尾を撒いて逃げようとするケルベロスだったが、クリスは瞬間移動で回り込んでから巨体の頭部へカウンターを決める。パンチの衝撃によって頭蓋骨が砕かれたらしい真ん中の頭部が垂れ下がって動かなくなってしまった。続けざまに背中へ飛び乗ってから、右側に生えている頭部を何度も殴りつける。最後には首に腕を回して骨をへし折った。残り一つとなった頭部だが、既に他がやられてしまった事で統率が取れないでいるようで、体を動かせずにうずくまったまま吠える事しか出来なくなっていた。

 近くに落ちていた岩の残骸を持ち上げて叩きつけると、ケルベロスはようやく大人しくなった。

「あ、あ…あいつ、バケモンかよ…!!」

 一人が悲鳴に近い声で言った。クリスはすぐに走り出して、残りの人間とゴブリンをまとめて始末する。ようやく門をくぐる事が出来たが、玄関までのだだっ広い道のりには大量のならず者たちと、ミノタウロスやトロールを始めとした屈強な魔物達が武装して待ち構えていた。

「先は長いな…」

 一呼吸してからクリスが近くにいた男に殴りかかると、敵が皆して雪崩のように押し寄せて来た。しかしどうという事は無く、殴り倒し、時には奪った武器も利用しながら殲滅していく。最後の一人が殴り飛ばされた後に、クリスは正面の扉を開けて古城の内部へと突入した。時計を見れば、朝の三時になろうとしている。

 クリスは気怠そうに突入して、ギャッツ達がいる場所を探そうと探索を開始した。部屋という部屋のドアを開け、よくもまあこんな広い場所に住む気になったもんだと心底馬鹿にする。そうこうしている内に、厨房と思われる場所に差し掛かった。

 乱雑に積まれた仕込みのされていない食材や、棚に積まれた食器の間を通り抜けようとした直後に腹が鳴ってしまう。

「おっと、いかんいかん…」

 今なら多少つまんでもバレないのではと、少しだけ魔が差した。そんな事をしてる場合ではないとすぐに気を取り直した時、すぐ目前に迫っていた別の出入り口から何人かの男たちが入って来る。

「死にたくないんならどけ」

 一応言っては見たが聞き入れては貰えなかった。サーベルや長尺の警棒を振りかざして彼らは襲って来る。敵をいなしながらクリスが適当に反撃をしていると、背後に回り込んでいた大柄な一人が自分を羽交い絞めにしようとした。クリスは急いで肘を入れてから怯ませ、一本背負いを決めてから腕を折った。

 すかさずもう一人が襲って来るので、クリスは武器を持っている腕を掴んでからテーブルへ叩きつけた。そして近くに置かれていた包丁を手の甲に突き立てて固定する。当然悲鳴も上がった。もう一人に関してはすかさずぶん殴った後に鍋を被せて視界を奪い、ドロップキックで扉の方へ蹴飛ばしてやった。

 ナイフを必死に抜こうとしている男に近づき、ナイフを抜いてやったと思えばクリスはそれを背中へ突き刺した。そのまま倒れる男を尻目に歩いて破壊された出入口をくぐっていく。自分が目くらましに使った鍋が転がっており、その先を走る男の姿があった。

「おい !こっちだ !こっちにいる !」

 彼の呼び声に唆された他の者達が、やたら煌めいている装飾品や家具に囲まれた廊下へ走って現れた。何人かは銃まで携えている。

「嘘だろおい…」

 ようやく一息つけると思った矢先の出来事だったため、尚の事クリスは苛ついてしまう。閉店間際に滑り込んできた客を相手にする店番の様な心持で呟いてから、彼らを相手に再び派手な立ち回りを繰り広げていった。



 ――――普段であれば食事に使っていたダイニングルームも、今日は静かであった。椅子に座ってリラックスしながら煙草を吸っていたギャッツは、銃声や悲鳴が段々と近づいているのを感じながら吸い殻を灰皿に押し付ける。グラスに入った酒を呷り、のんびり立ち上る煙を眺めていると何とも言えない気持ちになる。体中が緩み、何もしたくないという倦怠感が忍び寄る前にギャッツは立ち上がった。

「お前もやるか ?」

 酒の残っているグラスをかざしながらギャッツは隣に立っていたアンディに問いかける。

「今は遠慮しておきます」

 アンディは微笑みながら断った。その時、ダイニングルームの扉が音を立てて開き、ウンザリした様な顔でクリスが入り込んでくる。

「ほう…全員倒したのか ?それとも上手く出し抜いて来たのか ?」
「言わなくても分かるだろ。出し抜くなんて器用な真似は、昔から出来なかった」
「いずれにせよ大したものだ。話に聞いてはいたが、やはりソックリだよ…お前と俺は」

 余裕のある表情で尋ねてきたギャッツに、クリスは少し腹立たしさを覚えながら答えた。調子に乗っていられるのも今の内だという反抗心から来るものである。そんなクリスから自分にとっての満点の回答が聞けたギャッツは、嬉しそうに言いながら楽し気な笑顔をクリスに見せる。勝ち誇っているという訳でも無く、まるで何かを楽しみにしているかの様な期待に満ち溢れている表情だった。
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