フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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十三章:無知と罪

第102話 最後の休息①

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 鉱山地帯での任務が終わってから暫くというもの、騎士団は戦力の調整や国の情勢の立て直しに集中した。ブラザーフッドの活動は目に見えて停滞しており、最早懸念する必要が無いのではないかと言うほどに沈黙を保っていた。そういった事情も騎士団の活動を手助けし、数か月程経った頃には物資の流通がそれなりには安定するようになったのである。

 不気味なほどに穏やかな状況に対して、「ブラザーフッドには抵抗できる程の戦力が残ってないからだ」と好意的な推測をする者がいれば、「既に罠を張っており、騎士団が動き出すのを待っている」と不安げに語る専門家もおり、常に新聞や井戸端会議を賑わせていた。

「ぐああああ !」

 騎士団の地下にある研究開発部用の実験場では、爆発音と共にクリスが丸焦げになっていた。倒れたクリスの前には、義手を装着したグレッグとその傍らでデータを取り続けるマーシェがいる。

「精度問題無し、威力も良し…肉体に燃え移った際の炎の持続力もバッチリ…使い心地は ?」
「とても馴染んでいる。欲を言えばもう少し軽くしてほしかったけど…たぶん支障はない」

 性能を確かめ合いながら仕込み義手の確認を行っていた二人を余所に、クリスは体を再生させながら立ち上がる。

「新しい腕か…随分と物騒ではあるが」

 クリスが鋼鉄で作られたグレッグの左腕の眺めながら言った。

「だけど、これでまた戦える。次の戦いでケリを付けられるかもしれないんだ。出来る事をしたい」

 グレッグはそれに対して義手で握りこぶしを作りながら言った。キメラの技術を応用して神経を接続してあるらしく、鈍器としての使用も可能である。さらに特徴的だったのは義手の中に仕込まれた焼夷弾の存在である。生物であれば一撃で火だるまに出来るだけの火力を持っている。一発しか装填出来ないという弱点はあるが、不意打ち用という点もあるため問題無しと判断されていた。

「山脈から連れ帰った生物についても面白い情報が見つかったわよ。クリス、特にあなたは知りたがるかも」

 出来栄えに感心しながら義手を鑑賞していた二人に割って入ったマーシェが話を切り出した。

「報告をもとに魔術師や兵士達と色々実験してみた…解剖もね」
「何があったんだ ?」
「あなたと同じ、”闇”に良く類似した物質が体中に含まれていた。未だに謎が多いけど、少なくとも”闇”には取り込んだ物体を瞬間的に移動させる力や、その性質を利用して触れた部分だけをどこかへ送る…つまり実質的に「削り取る」なんていう攻撃も出来るみたいね。それとあいつらは魔法に弱い。魔法というよりは、魔法で操った物質に宿っている魔力に弱いって感じだけど」

 実験や調査の結果を資料と共に照らし合わせながらマーシェが語る一方で、クリス達に募るのはこの”闇”の持つ力が再生能力とどう結びついているのかという点であった。

「俺の体の構造にはあらゆる生物や人種の遺伝子が組み込まれていると言ったが、それも”闇”と関係があるのか ?」
「どうだか。でも可能性自体は大いにある。もしかすると、あなたの体の持つ再生能力っていうのは、「体を治癒させる」というより「”闇”の力によって新しい肉体のパーツを持ってきている」っていう性質に近いのかも…なんてね。そうだとしても、どこからそのパーツを持ってきているのかが説明できない」

 クリスの問いにマーシェは仮説を立てて見せるが、肝心の仕組みについては何も分かっていない様だった。



 ――――その日の午後、研究室での話を終えたクリスは、グレッグの提案により二人で街へと繰り出していた。ブラザーフッドへの総攻撃を仕掛ける直前という事もあってか、英気を養うためという名目で休暇を取れるようになっていたのである。

「ごめんね、付き合わせちゃって」
「良いさ。どうせ暇だった」

 コートを羽織った状態で申し訳なさそうに謝るグレッグに、クリスは何て事は無いと言い返す。同行を快諾した事に対して特に理由はない。比較的親しい間柄だからというのは勿論だが、他の者達が出払っている中で断っては彼に不快な思いをさせてしまうだろうという配慮もあった。

「そういえば、前も二人で街に出た事があったよね」
「ああ、確か俺が仕事を始めたての頃だっけか。今となっては少し懐かしいな…ああ、そうだ。ジョンの所に顔を出しても良いか ?最近、顔を見せてなかったもんで」

 二人で初めて共に任務に赴いた時のことを懐かしみながら、騎士団本部から出ようとした時、クリスは少し思い出しように運動場へ向かいたいと申し出る。勿論だとグレッグが二つ返事で承諾してからジョンの元へ向かってみると、昼寝をしている様子だった。中々作られない居住区もだが、最近ではこのままここに住まわせても良いのではないかという声も上がっているらしい。

「ジョン、起きろ」

 近づいたクリスが足で小突くと、ハッとした様にジョンはそのバカでかい体を起こす。

「クリス !」
「久しぶりだな。てか、その絵…まだ残してたのか」

 調子が良さそうに寝ぼけた声で名前を呼ぶジョンに、クリスは笑って返事をするが壁に描いた自分の絵がまだ残っている事が少々気に食わなかった。

「へぇ~…これが話に聞いた…」
「やめろ、見るな」

 物珍しそうにグレッグは犬のような何かが描かれた壁を眺めていたが、クリスによって遮られてしまう。

「ソウダ !…コレ…アゲル !」

 ジョンは唐突に隠していたらしい何かを、近くに置いてあった小物入れ代わりの袋から取り出してクリスに渡す。やたら光沢のある固い質感のペンダントだった。

「カラダノ…カラ…デ…ツクッタ。ベヒーモスノ…カラ…オマモリニ…ツカウッテ…デルシン…イッテタ !エノ…ショウブ…オコッテタ…ダカラ、ナカナオリ !」

 彼の外殻を加工して作った物らしいペンダントだった。古くからその頑強な外殻を「守護の象徴」として祀っている地域も存在する事から、この手のベヒーモスの素材を利用したお守りの類は決して珍しくない。もっとも、この場合はキメラではあるが、本物の素材で作られている事が保証されていた。

「そ、そうか。ありがとうな…仲直りしたいのなら絵も消してくれると嬉しいんだが」
「…」
「…分かったよ。消さないで良い」

 別に怒っていたわけではないが悪い気分はしなかったため、クリスはそのペンダントを貰った。ついでに出来る事なら自分の描いた黒歴史も処分して欲しいと頼んでみる。しかし、思っていたよりもガッカリした様な顔でこちらを見てきたジョンを憐れんで発言を取り消してしまった。

 そのまま手を振りながら見送るジョンを尻目に歩き出す二人だったが、クリスが首にペンダントをかける姿を見たグレッグは、なぜか微笑ましそうにしている。

「どうした」
「ああ、いや…何だかすっかり馴染んでるなあって」
「…そうか ?」

 何やら感慨深そうなことを言われたクリスは、初めて騎士団に入った時から思い返してみるが、どうも心当たりがない。自分だけでは分からない事もあるものなのかと考えつつ、グレッグと街へ繰り出していった。大仕事を前にした最後の休暇である。
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