快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは星降る夜

きっと上手くいくよ

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 湯を浴び、もう一度ベッドに横になる。どうせただの夢、脳の作用だ。
 そう言い聞かせて眠りにつく。

 だが、頭にはあの声が響いてぐるぐると回る。
 結局、眠れないまま朝を迎えた。


「はぁ……。さて、今日はどうするか。マホ、街見るんだろ、どこに行きたいんだ」

「大きな木!」

「あぁ~、太陽の木だねぇ。ボクより年下の木~」

「あれ、俺の魔法の暴発だし……」

「そ~なの!?凄いんだあ……」

「じゃ、行ってみるか。懐かしいしな」


 一行は、街の中心にある太陽の木に向かい歩き出した。
 街のどこから見ても、実を輝かせそびえる大木は見事なものだった。

 しばらく歩いて、木の根元にたどり着く。


「わぁ……すっごいねぇ」

「俺がマホくらいの時、ここでよく修行しててな。木を生やそうとは思ったんだ。……けど、なんか出来た。アレは酷かった」

「そうだねぇ。怒られてたもんねえ」 

「別に悪いことはしてないんだけどな」

「お父様、怒るポイント変だったしね。お前!なんでこんな魔法5歳でやってしまうんじゃ!全く、サンの夜空と言いお前の大木と言い、なんなんだこの世代は!ってね」

「あは……多分同じくらいに、ボクも1個やらかしててさ……多分それがクラウド卿に伝わってたのかも」

「お前もしかして……世界図書か?」

「そ~、5歳で使えちゃって……」

『意味わかんないよね、この会話』

『はい……。昔からですが』

『本当に意味がわからないわ。この天才ども』


 妖精に呆れられながら、木の根に座り朝食を摂る。常に夜のため、時間の感覚は無いが今は朝である。


「この木の下でさぁ。セイカが言ったこと、覚えてる?」

「…………あぁ。星のヤツな。いちばん綺麗な花が見てみたいって」


 サンドイッチを頬張りながら、思い出し呟くように話す。


「えー!?あの絵本、セイカ様なのー!?」

「そーだよ。……あの願い、どーなったんだ」

「……叶ったの、かも?……だけど、この花じゃあ花冠は作れないね」

「……そう、だな。…………。リジェネの師匠にさ、お前のせいじゃないって、言われたんだ。でも、……わかんなくて」

「それはそうだよ~!セイカのせいじゃない!……だけど、誰のせいでもないから怖いんだよね……」

「コレを運命だと言った何かが居るはずなんだ。リリィは……プシケは、知らないらしい」

『そうね、私も分からないの。だけれど、あなた方ができることはただ1つ。セイカの女神に話を聞くことよ、それしか無いわ』

「そうだな。あの泉はこの辺りから近かったはずだしな…」

「花の街から行く?ここからにする?」

「アンジュが心配なのはあるからな…こっちから行こう」

「そうだね。そうしよう」


 そよそよと撫でるように穏やかな風が吹く。
 旅路を決め、大木に寄り掛かり星空を見上げる。
 セイカの心ここに在らずと言った表情に、ビオンだけが不安を抱いた。

 しばらくそうして、樹の根元で過ごす。他愛のない昔話だった。


「ねぇねぇビオン~、セイカって今もモテるの~?」

「んー?そうだねぇ、旅の中でもかなり」

「は?そうなの?俺?」

「え?嘘でしょ気付いてないの?マホの村でも他の女の子から影でキャアキャアされてたよ」

「知らねぇ…。つーか、今もって何?俺モテてないけど」

「ビオン、いい感じにいじめれる魔法無いかな」

「数日性転換なら知ってるよ」

「それ禁書術だろ」

「使えるよ」

「なんで??」

「世界図書をナメないで欲しいんだよね」

『あなた達も大変ね…』


 平和な時間が過ぎた。世界が、人間がこうでなければどれほどに良かっただろうか。
 この街の人間は昔から、セイカとサンを大切にしてくれていた。
 それが今は、誰1人残っていない。

 戻せるのなら、戻す方法を。
 戻せないのであればせめて、話す方法を。

 この旅の目的が…失敗しないように。

 セイカの頭の中は、他愛のない話の中でさえそれでいっぱいだった。

 しばらく木の根元で話した後に、一行は街の商店街を見た。

 露天の中には、規則正しく花が1~数輪咲いていた。
 店主や店員だろう。


「なぁリリィ、なんか言ってるか?あいつらは」

『ええ、そりゃあもう賑やかよ。ふふ、セイカってばここでも人気なのね。ほら、そこのお花屋さん、あなたに薬草を安くするからデートしてって言ってるわよ』

「ホントかよそれ…。いやでもそこの店主なら有り得るな」

「そうなんだよね。有り得ちゃうんだよね。確かハユンちゃんだよねこの子。僕のことは誘ってくれないよねぇ!」

「ハユン、誘ってやれよサンのこと」

『いや、セイカくんがいい!だって』

「はぁ…。でも、いいな。声が聞こえて。俺の街の人間はなんて言ってたんだろうな」

『…あなた達にも聞こえる方法、探しておくわね』

「ああ」


 商店街を抜け、街の外に出てみる。

 街壁を潜っても、静けさは変わらなかった。


「ここからだと、確か11刻くらいの位置にセイカの泉があったよね」

「そうだねぇ~。そんなに遠くないよね、セイカどうする~?」

「早いに越したことはねぇな、行ってみるか」


 そのまま、イスラの居る泉に向けて歩き出す。マホは歩き疲れたのか、少し浮いて移動していた。

 途中で魔物が出ることも無く、すんなりと泉の目の前に到着する。

 泉には誰もおらず、呼び出さなければ来ない様子だった。


「おーい。女神居るかー」

「え?そんな風に呼ぶの??」

「リジェネの女神はコレで出てきた」

「えぇ…」


 しかし、呼びかけてしばらく待ってもイスラは出てくる気配が無い。


「おい、あんたの息子だけど。…まぁ息子って感覚も無いかアンタには」


 悪態をついても、出てくる気配は無い。
 女神の気配は感じる事から、居るには居るのだろう。だが単純に出てこないだけのようだった。


「おーい。おばさーん。…………。イスラ出てこい」


 名前を口にすると、その途端に泉が光った。
 そして、泉の中から、鋭い目をした美麗な女神が現れた。


「あんた。私の名前どこで聞いたの。教えた覚え無いけど」

「リジェネの女神が言ってた。んな事どうだっていいだろ」

「良くないわね。教えてないのに知ってるなんて気持ち悪いじゃない」

「ケンカしないで~、セイカ~?聞きたいことあるんでしょ~?」

「あぁそうだった。イスラ、あんた俺の名前誰に言われてつけたんだ」

「………。ヴァシリアスじゃない方の主神様よ。あの方は聡明で、とても素敵な神だわ。だけれど、誰も知らないわ。あの方の事は何も伝えられない、あの方の事は私たちのような泉の女神しか知らない。私たちはあの方に作られたの」

「……その神は、なんでもお見通しなのか」

「ええ、そうよ。…この花の話を人間界に広めたのは、人間界に居た時の彼だわ。だけれどそれはヴァシリアスでさえ知らない。そうよね、プシケ」

『……そうね。知らなかったわ、そんな神がいること』


 イスラは、沈黙の後少し俯く。そして、少し待っていてと泉に1度戻って行った。

 運命を、未来を告げた神。女神を作った神。
 自分に名前をつけた神。

 セイカは、1人でまた考え込む。


「セイカさまぁ……? どしたの、お腹痛い……?」

「ん?あぁ……いや、痛くねぇよ。悪いな、考え事してたんだ」


 心配そうにセイカを覗き込むマホの頭を、セイカはくしゃくしゃと撫でた。
 決して優しいとは言えない撫で方だが、マホはそれがいいと言わんばかりの笑顔だった。

 しばらく待っていると、泉からイスラが戻ってきた。
 そして、セイカに手を伸ばす。


「ん……なんだ?」

「次にセイカに会った時に、これを渡しなさいと仰せつかっているわ。きっと、貴方に必要なものなのよ」

「……なんだこれ……。砂時計……?へんな形だな」


 手渡されたものは、砂時計だった。だが、砂時計の中央が金のリングで囲まれている。


「その金のリングは、普段は動かないそうよ。でも、必要な時が来たら回り出すと仰っていたわ。あとは普通の砂時計らしいけれど」

「そうか……。助かる。……その神と、話すことは出来ないのか」

「……それについてだけれど、居場所は案外普通にたどり着ける場所よ。でも、彼は何度君が訪ねてきても、ただ友人として迎えよう。と仰っていた。だから、詳しい話は無理だと思うわ」

「何度……。そうか。ありがとうイスラ。悪ぃな急に」

「いいのよ。これでも息子同然の生き物に対する愛情くらいあるわ。……あと、もうひとつ。これは私から」

「なんだ?」

「きっとジェシーにも言われたと思うけれど。……同じ瞳を大切にする事ね」

「…あぁ、あいつジェシーっていうのか。分かったよ。じゃあな」


 セイカは、イスラの泉を後にする。それに続き、他のメンバーも街へと戻っていく。

 それを、イスラはただ、消えて見えなくなるまで見守っていた。
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