快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは星降る夜

変わらない砂時計

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 セイカは、イスラから受け取った砂時計を眺めながら歩く。
 それを、浮きながらセイカの肩に抱きついて移動しているマホも眺めている。


「セイカさまぁ、それ、動かないねぇ」

「そうだな…。まぁ、その時がきたら動くらしいしな」

「でも、綺麗だねぇ」

「ん?……あぁ、そうだな。砂が反射してて光ってるみたいだ」


 ぼーっと、そんな会話をしながら星の街へ戻る。
 途中までの晴天は、嘘のように夜空に変わる。


『ふふ、門番さん、サンに敬礼しているみたいね』

「そうなの?いつもご苦労さま」

『ありがとうございます!…って、元気に言ってるわ。ふふ、この子、あなたのことが大好きなのね』

「え?そうなの?照れるなぁ。門番さんみたいに強そうな見た目とかしてないよ?」

『そういうことじゃないんでしょう?門番さん』

「そっかぁ~、ふふふ、あぁ、早くみんなとお話したいなあ」


 今はもう話すことの出来ない花と、リリィが仲介してくれることで初めて会話ができる。
 それが叶うサンは、セイカとビオンにとってはとても羨ましかった。
 花になっている間も、住人たちは楽しく過ごせていたのだろうか。
 普通の世界だった時には、会話できるのが当たり前だった。だから気付けなかった楽しさや寂しさが込み上げる。

 セイカとビオンは、自分の中にその気持ちを押し込むように屋敷へと歩いた。


「ふぅ、沢山歩いたね~!でもみんなはまたこれから花の街に行くんでしょ?いつ?」

「そうだな…、アンジュが気になるところではあるから、早めに行きたい気持ちではある」

「そっか、そうだよねぇ。…あ、じゃあ、行く前にひとつだけお願いしたいんだ。良いかな?」

「なんだ?」

「ちょっと着いてきて」


 サンは先頭を歩き、屋敷の奥へ奥へと進んでいく。
 主に客人が宿泊している時にはおおよそ行かない場所へ入っていく。照明も暗く、不気味な雰囲気が辺りを包んだ。


「…僕はさ、プラチナ級だ」

「そう、だな?」

「……でも、怖くてどうしてもダメなことがあるんだ」

「怖いこと?なんだ」

「この部屋。この部屋の扉を、開けられないんだ。この部屋の中でやらなきゃならない事がある、だけど僕じゃ…怖くて。3年前、メイド長が着いてきてくれたんだけどやっぱり、あの子には魔力がない、それにか弱い女の子だ、だから…何も出来なくて」


 俯きながらそう零したサンは、少しだけ震えていた。
 扉は古く、所々塗装が剥げた木製の扉だった。両開きの扉だが、どこにもドアノブのような取手は見当たらない。

 扉の大きさからして、屋敷の中でもかなり狭い方の部屋だろう。
 中からは異様な気配が漂ってきていた。


「こんな扉あったか?」

「うん。昔からね。セイカはここまで来たことないでしょ」

「ああ。·····中に、何があんだ?何すんだ?」

「·····。おじい様なんだ。·····死にきれなかったおじい様が居る」

「は?」

「僕がね、プラチナを目指したのは·····おじい様を楽にさせてあげるためなんだ。お金とかそういうのじゃない。·····ここから解き放つためなんだ。だけど·····最後に見たおじい様の姿がトラウマになって、ここを開けられない」


 クラウド家は、魔法使いでも珍しく家系図のある家だった。
 だからこそ、由緒正しく、強い魔法使いが常に居る。
 このクラウド家でおじい様と呼ばれるということは、クラウド家と銘打った家系が始まるよりも前の魔法使いがここに居る。


『死にきれなかったって、どういうこと?』

「死にきれなかった。魔法使いが光を放って死ぬ時、おじい様は光れなかった。邪魔をされたんだ。大昔の大きな魔物に。それから死に損なって、今でもこの部屋で、もう自我もないのにボクの名前を呼び続けてるんだ。可愛いサン、って·····。だけれどもう僕のことが分からないから、入れば攻撃してくる。その1波が、並の威力じゃなくて·····」

「なるほどな…。そりゃあそうだ、クラウド家ってだけでも強いってのに、その始まりと言ってもいい魔法使いが居るんだぞ」

「だからっ…僕一人では、情けないけど、どうにも出来ないんだ。それに僕はあんまり戦闘にも向いてない…。この足だって、お爺様に再戦してこうなった。街全体なら星が護れる。でも、この屋敷のこの部屋だけは…ボクは…」

「…分かった。やろう」


 セイカが、一言で了承する。すると、サンは今まで暗く下げていた面持ちをパッと上げ、セイカの顔を見つめた。
 その顔は、凛々しく、優しく、強い魔法使いだと。サンはこの光景が目に焼き付いて離れなくなるほど、印象に残った。


「開ける時は、みんな杖を構えろ。マホ、お前は後ろに下がっていてくれ。いいな?」

「は、はいっ!」

「ボクも戦闘には向いてないけどなあ…」

「うるさい、街一つ護ってるだろ」

「確かに…」


 セイカがドアノブに手を掛ける。
 ゆっくりとドアノブを回し、ゆっくりと扉を開く。
 セイカ、ビオン、サンは手持ちの杖を構える。開いた扉の隙間から、声が聞こえてきた。


「サン…あー、可愛いサン…どこにいるんだい…おじいちゃんはココだよぉ…サーン…」

「っ………」


 サンがセイカに、目で問い掛ける。声を掛けても良いのかと。
 セイカは、静かにうなづいた。


「…、おじいちゃん!」

「…!サン、サンの声がするねえ…!どこだい?どこにいるんだい?」

「ここだよおじいちゃん、ここにいるよ」

「………。誰じゃ?サンは、サンは…!!ワシのサンは!!まだ幼子じゃ!!!!」

「…くるよ」


 ふつふつと怒りを露にし、魔力を周りから吸い上げ始める。
 元々の魔力量に加え、吸い上げる性質もある様だった。


「おいおい吸い上げはチートだろ…!」

「そうだよチートだよ!万越えの魔法使いなんかみんなチート!!ちょっとサンこれ避けれる!?」

「むり!ガードして!」

「明るく言うな!!」

「…いけ、…出ていけぇええ!!!」


 サンの祖父は叫ぶと同時に、空気が揺れるほどのただの魔力球を放った。
 本来、魔力球は自身の魔力の100分の1程度しか放つことが出来ない。
 が、この魔法使いに限っては周りからの魔力を上乗せしている。


「でっっっかいでっかいでっかい!!!」

「「「ハルトプロテクト!!」」」


 ビオンが慌てふためきながら唱えるのに対し、サンとセイカはあまり動じず唱える。
 その魔法を放つ仕草は、どこか似通っていた。

 衝撃を生みながら、防御壁に魔法球は消されて行く。


「…なんなんだオマエら…!ワシの球を…!ワシは、ワシはただサンを探しているだけじゃああ!!!」

「おじいちゃん!僕は、僕はここに…!」

「幼子だといぅ…その後ろの幼子はなんじゃ、だれじゃ?」

「ぁッ…!」

「出せぬというか…!自身の孫に会いたいだけだと言うに!!あの春の庭で、にこやかに跳ねる孫を探しているだけだと言うに!!!」

「…春の庭…おじいちゃん、もしかして、ずっと…」


 激昂する祖父の発言の中に、サンは何かを見付けた。
 サンは、セイカを見つめた。


「…ねぇ、セイカ。僕には出来ないことなんだけれど…セイカなら出来るかな?」

「なんだ?」

「この部屋にね、色々な季節の花を咲かせて欲しいんだ。ここを、花畑にして欲しい。それで、お爺様の後ろに、桜の木を生やして欲しい」

「…。ああ、いいぞ、お前の頼みだ」

「!ありがとう、セイカ…!」

「ふぅ…」


 セイカは一息ついて、杖をサンの祖父に向ける。
 目を閉じ、自身の魔力の半分を消費する。
 この量の消費を行えば、先程の魔力球のような空気振動が起こる。


「な、何をする小童…!何をする気だ…!!!」

「…みてて、爺さん」


 辺りに、暖かい風がふわりと起こり始める。
 杖の先端にある、セイカの瞳と同じ色の宝石が眩い光を放つ。


『エリアクレアール、ガーデン。ポイントクレアール、ケラスィヤ』

「あんたの孫は、ここにいるよ」


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