快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは花降る空

花の街

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 一行は、セイカの泉を通り過ぎて花の街を目指す。
 サンの街からは歩くと1日掛かるので、浮遊しながら速度を上げる。


「アンジュ、元気になるといいけどな……」

「たしか、アンジュちゃんもその花好きだったよね」

「おう。よく一緒にサンから貰ってた」

「そっかあ」


 ビオンは複雑な感情の乗った返事をした。セイカにそれは伝わっていないだろう。
 だが、それ以降アンジュの昔話はしなかった。
 セイカ自身も、特段話すものでもないと思っているのだろう。


「ねぇーセイカさまー?どうしてマホのこと抱っこなのー?」

「お前まだ魔力少ないだろ。この距離を飛んだら無くなるからな」

「あ、そっかあ!んへへ…!」

「なんだその笑い方…」

「んふふ、なんでもなーい!」

「変な奴だな……」

「マホちゃん、ほかの女の子には秘密だよ?ふふ」

「うん!」


 ビオンとマホの会話は、セイカにはまるで分からなかった。
 しかし、そんな事を深く気にする男でもない。

 しばらく飛んでいくと、街の外壁が見えた。
 外壁には、やはり花のツタが這っているのが目に見えてわかる。


「ここにも……。やっぱ、こいつらはあの門番達か」

「そうみたいだね…」

『セイカ。門番が貴方に話しかけているわ』

「え?俺に?……なんだ?」


 セイカは、1輪の晴花に近付いた。


『なに……。アンジュ様を治して、もう花が散る……だそうよ』

「花が散る……?…………どういうことだ?」

『街の花が、どんどん枯れている…街の花は全部アンジュ様が咲かせたもの、だから、枯れたらアンジュ様の身が危ない……』

「……まじかよ……。わかった、お前たちの主は必ず治す。…流石に、幼馴染に死なれるのは俺だって嫌だ」


 セイカは、門番の話を聞くために膝を着いた脚を立て直し立ち上がる。

 そして、チラリと街の中に視線をやりビオンとマホに向き直る。


「このまま直行でアンジュの屋敷に行くぞ。恐らく弟子が待ってるはずだしな」

「そうだね、心配だ」

「アンジュおねーさん?具合悪いの……?」

「そうみたい。だから僕達で治しに行こうね」

「うん!」


 一行は、街に入りすぐにアンジュの屋敷へ向かった。
 門番の言う通り、あれほど美しかった花の街が今は腐臭に包まれ、色鮮やかだった花壇は茶一色になっている。

 湧き出ていた噴水も、管理人が居なくなり暑さで枯れているようだ。


「酷いな、こりゃ……」

「アンジュちゃんが普通に生活しているだけで回ってた街だからね…。それが、アンジュちゃんが倒れるとこうなるのは儚い街なのかも」

「花ってのは、まぁ、……そういうもんだからな」


 一行がアンジュの屋敷前に着くと、屋敷の門に人が立っていた。

 近寄ると、白い髪が美しい少年だった。
 黄金の瞳、白い睫毛、陽光を反射するほどの白い肌。
 シルクで出来た艶のあるシャツが良く似合う、15程の少年は一行をじっと見つめている。

 薄く色付いた唇は、一行が門の前に立つと動き出す。


「初めまして。手紙を代筆致しました、レベルです。実際に訪れていただき、心から感謝申し上げます」


 レベルは、一行に深々と頭を下げた。
 そして、また話し出す。


「セイカ様、ビオン様。手紙でご報告致しました通り、現在アンジュ様は伏せっておられます。どうか…せめて、診察だけでもお願い出来ますでしょうか。街はこの有様で、お2人にできるおもてなしは限られてしまいますが、どうか……」

「そんなに言わなくても、診るためにここに来たんだ。アンジュ自身は話せるのか?」

「ええ、話すことくらいで有れば問題無いかと。体力が低下し、消化のいい食べ物を口にするので精一杯です。どうぞお入りください。アンジュ様の居室にご案内致します」

「ありがとうレベル…くん?」

「えぇ、私の性は男です」

「あ、ありがとう教えてくれて……」


 終始丁寧なレベルに、ビオンは苦笑いを浮かべる。

 門を通り、咲き乱れていた花の残骸が残る庭を通り抜けると屋敷の玄関が見えてくる。

 アンジュは生きているだけで花を咲かせ、空気を浄化出来た。
 魔法は一通り使える。が、一般魔法使いより優れていると言うだけのレベルで、花を恒久的に生成する独自の魔法故のプラチナ級として栄えている。
 花は魔物が嫌う匂いがするようで、街に魔物は全くと言っていいほど近寄らなかった。

 現状では、花が枯れているため近寄り放題になっていた。

 そうして生きているだけで街を栄えさせたアンジュの自室に通されると、あの鮮やかな赤い髪も艶や輝きを失い色褪せ、見るからに痩せていた。


「アンジュ」

「……?……ぁ、せいかぁ~……!」

「よう。……だいぶ参ってるな」

「久しぶりアンジュちゃん。……喋っても平気なの?」

「ビオンくんだ~……!あ、ぇと……へへ、……ちょっと、疲れるかも……」

「回復魔法は」

「知ってるでしょぉ、わたし、自分に使うの…苦手なの……」

「レベルは使えないのか」

「レベルにはまだ扱えなかった、というか…彼、攻撃専門だから……」

「ふぅん、なるほどな。さて……診るけどいいか」

「うん」


 セイカは内側を、ビオンは外側の異常を魔法で探した。
 特に外傷は無い。見るからに痩せ細っていて、栄養が足りていないのは明白だった。
 内側は、内臓や血流に問題がある訳ではなかった。だが、魔力の総数がかなり減っていた。


「魔力、随分減ったな。心当たりないか」

「花が咲き始めて……私の、花のなかに紛れてたの…。多分、吸われてしまったんだと思う…」

「…………そうか、お前、花は魔力経路になってたな」

「うん。……でもあのお花って、街の人たちでしょ?……抜くことも、枯らすことも、できやしないよ……」

「抜いても生きてはいる。……分かった、とにかくその花を一旦1箇所に集めよう。魔力吸われても俺なら問題ない、ビオンと待っててくれ」

「ぁ……、わかった」



 セイカはそう言うと、屋敷を1人出ていった。
 アンジュは心做しか、どこか寂しそうに見えた。


「……。……僕とじゃやっぱり嫌だった?」

「え!?い、いや!そういうわけじゃ……!」

「嘘だよ、ごめんね。ゆっくり寝てて」

「う、うん…………………。ビ、ビオンくん?ほんとだよ?嫌なんかじゃないよ?」

「ふふ、分かってるよ、ありがとね」


 横になりながらも、ビオンの顔色を不安そうに眺める。
 大丈夫だよとは言うが、ビオンにとっては傷にしかならないだろう。

 こういう時に言葉をかけられないことに、ビオン自身も嫌気が差していた。
 気まずい空気を打破したのは、じっとベッドの足元からアンジュを見ていたマホだった。


「んねぇ!」


 ひょっこりと、アンジュの顔横に飛び出す。
 全く気付いていなかったのだろう、アンジュは驚きのあまり声も出さずに飛び跳ねた。


「え?え?……え!?ど、どなた!?どなたのお子!?!?」

「ああ、マホちゃん、急に出てきちゃったらびっくりしちゃうよ?」

「あっ!ごめんなさあいっ!マホ、セイカさまのでしですっ!」

「……え!?!?!?!?セイカの弟子!?!?!?!?でっ、でし、え!?!?セイカが!?!?」


 急に出てきたことへの驚きなど既になく、セイカが弟子をとっていたことに驚きを隠せない。
 あたふたしながらも、自己紹介をする


「お、驚いたら疲れちゃった……え、えっと、おっきい声出してごめんね?アンジュって言います、セイカのえっと…幼なじみ?です!よろしくね、マホちゃん」

「よろしくお願いしますっ!……ねーえーアンジュおねーさん?」

「な、なあに?」

「セイカ様のこと好きなの?」

「!?ゲホッゴホッ……え?え?その、あの」

「すきなの?」


 マホの純真無垢な質問に、アンジュは狼狽える。
 きっと明白なんだろうが、自分の気持ちの中ではまだ誰にもバレていないと思っていたかった。
 だが、幼子の純真無垢な質問を無下に却下することもままならず言葉にならない声ばかり出る。

 ビオンの表情など、今は気にしている余裕などなかった。


 すると、レベルが話を遮るように扉をノックし、アンジュの寝室に入ってくる。


「失礼します。……お話中でしたでしょうか」

「あ!だ、大丈夫!なに?レベル」

「……久しぶりに、アンジュ様の芯の通った声が聞こえましたので……。……すこし、体調良いように見えますが」

「え?あっ、ほんとだ……!いつもより力が少し入る……」


 アンジュは身を起こす事はままならないものの、腕を少し上げ、握りこぶしを弱々しく作った。


「セイカもしかして……」


 セイカが今街で何をしているか、見えてはいないものの憶測がたつ。

 窓の外にもセイカの姿は見えないが、花の香りがしたような気がした。

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感想 2

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みんなの感想(2件)

海乙乃ノア
2025.04.13 海乙乃ノア

続きを…早く…サンが健気すぎて苦しい!はよ!はよぉ!

2025.04.13 雫花

今書いてるからね〜☺️
もう一周して待っててね~

解除
もみじ
2025.04.09 もみじ

マホちゃんかわいい

2025.04.09 雫花

マホちゃんは物語の中のスポドリ並にリフレッシュ要素なので大切にしていきたいです……☺️

解除

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