快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは花降る空

土産花

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 しばらく一行はサンの家で休息を摂る。

 とはいえ、紅茶を飲む気分でも、お菓子を食べる気分でもない。
 ただソファに寝転がって、魔力が半分消えたセイカと全て持っていかれたサンは眠っていた。


「んねぇービオンさまあー?」

「ん?どしたのマホちゃん」

「あーんなにすごぉーくでぇーーーっかいお月様、どこいっちゃったのー?」

「あははっ、アレはね、サンくらいしか出来ないから僕もあんまりよく分かってないんだあ」

「そなんだあ…お月様、綺麗だったねぇっ!セイカさまのお花畑も凄かったあ!」

『そうねぇ、マホもセイカと同じ魔力性質だから、沢山修行して大きくなったら、できるかもしれないわよ?』

「そうかなそうかなっ?出来たらいいなあ~!」

「……できる、つーか、マホはもう景色くらい作れるぞ多分。ノーデイガーデンはまだ無理だが」

「わっ!起こしちゃったぁッ…!ごめんなさあぁい…」

「いい、半分起きてたから」


 セイカは横になりながら、頭の後ろで手を組み、目を瞑りながら話に参加する。
 サンは変わらず深く眠っているようだ。

 サンの妖精は、サンの寝ているソファの背もたれに腰掛けながらサンを眺めている。


『心配だねえ…』

『そうだね…』

『大丈夫よ、魔力は寝てご飯を食べたら回復するわ。そうよ!ビオン、ご飯を作りましょう?』

「あ!そうだね。魔力回復に効きそうなお肉あるし、セラ!セラにお願いするのは気が引けるけど、魔力回復に効く野菜ってあるかな?」

『ふっふーーん!みんな、知らないでしょぉ…。実は実は…!!!』

「だるい。空菜ってスッと言え」

『ご主人!!!!!』

『本当にそこのペアは正反対よね…』

『そうですね…。見ていてとても楽しいですけれど』


 目を瞑りながら喋るセイカに、無力なパンチをし続けるセラを見て、起きているメンバーは微笑む。


「それじゃあ、僕らはご飯作ってくるね。セイカ、サンが起きたら教えてー」

「おー。しばらく起きねぇと思うぞ」

「あはは、だよねぇ。待っててね~」


 ビオン、セラ、リリィ、マホ、ララは厨房に行き、魔力回復に効く料理を作り始める。
 作る間は、手は忙しくても口は暇なものだ。雑談に花が咲くのも当然だろう。


「よしっ、じゃあまずは空菜のサラダから作ろうか。よいしょ」

『いつ見てもその収納凄いわね~、なんでも入るじゃない』

「ふふん。…師匠に怒られるから言ってないけどこれ世界図書の中」

『本当にぶちのめされても仕方ないと思うのです。私は』

「ララ…?ララ……??」

「ララちゃんがおくちわるいの、初めて見たあ…」

『ララって時々そうだよね』

『そうでしょうか…?セラさんほどでは…』

『ほら!!!そういうとこ!!!』

「確かにそういう時ある…。ララ、お願いだから師匠に言わないでね」

『……善処致します』


 ララの不安な回答に、手で葉をちぎっていたビオンのちぎる力が思い切り入ってしまう。
 空菜は大きく歪にちぎれた。
 軌道修正し、均等にちぎった空菜に途中で狩った鳥系のモンスター肉を蒸して解し、空菜と混ぜる。
 途中で1つ、こっそり収穫した日の実を収納から取り出す。


『ちょ、ちょ、えビオン師!?それ日の実!?』

「うん。セイカが美味しいって言ってた」

『あの人さぁ……!!』

「いいじゃない、あの木、セイカが生やしたんだし」

『あ、そっか。すっかりこの街の御神木みたいになってたから抜けてたや。そうだったご主人だった』

『あの木を生やした時、セラも居たのでしょう?どんな風にああなったの?』

『なんかね、ご主人が、「この辺に木あったらよくね?気分的に」って言い始めたからいいね~ってボクはただ肯定したんだよ。で、サンくんもいいねーって言うからご主人がイメージだけの無詠唱で杖振ったら地面が揺れて生えた』

「多分その行数で説明しきれたらダメな光景だと思うんだよね」

「セイカさま、すごぉぉい…!」


 そうやって雑談をしている間に、空菜のサラダが完成した。
 ドレッシングとして、サンの家にあった調味料を拝借しオイルドレッシングを作り掛ける。

 サラダは冷蔵魔法で冷やしておき、次に世界図書倉庫からバルトロメオピグの肉を取り出す。


「おにく!おにくー!」

「そうだよー、これなんのお肉でしょー」

「んえぇ…うしさん?ぶたさん…?魔物さんだけどどっちかなあ…」

「正解はぶたさん!バルトロメオピグって言うんだよ~」

『マホ、これは高級なお肉なのよ。貴方には正確な金銭感覚と舌を養って欲しいわ』

「はぁい!これお高いぶたさんね!」

『良い子だわ…うちの子本当に良い子…』


 バルトロメオピグの肉を1度薄くスライスする。
 そして、魔法使いの村でお裾分けしてもらった薬味を削り、調味料と共に圧縮空間魔法の中に閉じ込め味を染み込ませる。


『本当に魔法使いの料理って便利ね。ほぼ道具いらないじゃない』

『ご主人、いつも薬草煎じるときは道具だよ』

『あら意外、全て魔法でやってると思っていたわ』

『そっちの方がテンション上がるらしい』

「セイカでもテンション上がることあるんだ…」

『あるよ?真顔だし顔変わんないし声のトーン変わんないけど、若干うるさい』

「若干うるさい……ンフッ…ちょっと面白い…」

『セイカ様も喜怒哀楽くらいあると思いますよ…?恐らくですが…』

「ララも似たようなもんだよ?」

『ご主人様、水責めと空中吊るしどちらがよろしいでしょうか』

「ごめん」


 手元では、バルトロメオピグの味が染み込んだスライス肉をよく焼き、その間に麺を茹で、塩気のある味付けをしてから盛り付ける。

 世界図書倉庫から卵を取り出し、スープを作る。
 喋ってばかりだが、手際はとても良かった。


「よしっ、もうすぐ出来るよ」

「おー、うまそーな匂い。サン起きたぞ」

「おお!ちょうど良かった、運ぶねー」

「セイカさまーーっ!んへへっおはよぉー!!」

「わっ、どうしたマホ…はいはい、戻るぞ」


 急に走り寄ってきて抱きついたマホを、セイカは軽々と抱き上げ部屋に戻る。
 この光景も慣れてきたものだが、確実に昔より優しくなったんだろうと周りは思わざるを得ない。


「サン、飯出来たぞ」

「ぁ…ありがと、すごくいい匂いだねえ」

「でしょー?ほら食べて、元気だしてよ」

「うん…。ね、みんなもう行っちゃうの?」

「ん、まぁーそうだな。これ食ってもう少し休んだら…かな」

「そっか…。…、着いていきたいけど、僕はこの街から離れられないしなあ…」

「だな。お前が着いてきたら行く場所全部夜だ。…ま、綺麗だとは思うけどな」

「また会いに来てくれる?」

「おう。前よりは来てやるよ」

「ん、じゃあ、僕待ってる!」

「おう。また手紙出すわ」

「うん!」


 少しだけ表情の明るくなったサンは、そのままビオンが作った料理を食べ始める。
 美味しいなぁと言いながら、失った魔力を取り戻していく。

 食事を終えると、ビオンは片付けをしに厨房へ戻った。
 セイカは、隣でニコニコと機嫌よくしているマホに質問する。


「なぁマホ、お前はどんな魔法使いになりたい?」

「んぇー?……んーとねぇ、マホね、セイカ様みたいな魔法使いになりたい!かっこよくてね、魔法が上手で、なんでも出来ちゃうの!」

「……そうか。でも、俺はそんなに凄くはないぞ。まぁ……プラチナになるまでは、面倒見てやるさ」

「やだー!それの後も、セイカ様は仲良くしてくれないといや!」

「はは、別に死ぬわけじゃねぇから大丈夫だよ。安心しとけ」

「うん!」


 この光景を、サンは穏やかに眺める。
 窓際に置いた愛しい花瓶を、テーブルに置いてその目の前で本を広げる。
 その本の栞には、野花の押し花と、指輪らしいチャームが着いていた。
 そのチャームにふたつ着いている指輪のひとつを取り、紐に着いている方を花瓶にかけ、もう片方を自身の指に嵌めた。


「……早く戻るように、頑張るわ」

「うん。待ってるからね?僕」

「おう。その指輪無くすんじゃねぇぞ?お前が無くすわけねぇだろうけどな」

「当たり前だよー。だって、絶対、……戻ったら、渡すからね」

「……おう」


 自身にのしかかった重責に押し潰されそうでも、やり遂げなければならない。待っている人々がいる。

 ……繰り返してはいけない。


 セイカは、ビオンが戻ってくるなりソファから立ち上がる。


「じゃあ、そろそろ行くわ。ありがとなサン」

「うん、こちらこそ。まって!お土産、お土産!」

「お?」


 サンは不自由な脚を精一杯動かして、1度書斎へ向かう。
 戻ってくると、その手には花束があった。


「これね、この街にしか咲かない花なんだ!セイカは見たことあるよね?」

「おう。……これ、俺好きだ」


 淡く水色に輝く花弁が夜道を照らす、この街の明かりとも言える花「夜水晶よるすいしょう」。
 その花束に永久保存魔法を掛けたものらしい。

 花束を受けとり、セイカ一行は街を後にした。

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