雪国本屋の禁書庫から想いを乗せて。

雫花

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青い本と棺

青い本

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 次の日、学校は休みの日。いつもなら朝6時起床だが、いつもよりも遅めの起床。布団を片付けて、顔を洗いに洗面所へ向け階段を降りていく。洗面所に到着すると、そこには祖父がいた。


「おはよぉじいちゃん」

「おう、おはよう。蒼月そうげつのところか?」

「うん。…吸血鬼なのに、昼間って起きてるの?」

「あぁ。カーテンは締め切っとるが、太陽光でなきゃ焼けはしないらしいな。だがまぁ、手伝いは夜にやる。俺はわかっとるが、両親にはどうするんだ?」

「んー。じゃぁ!じいちゃんついてきてよ!」

「は?」


 急にそんなことを言われ、歯ブラシをくわえたまま柊平しゅうへいは目を丸くした。不用心に口を開けたばかりに、唾液がこぼれ落ちてきそうになった。
 ジュルリと吸い込み、とりあえずうがいをして歯磨きを終わらせてから、もう一度孫に聞き返す。


「どういうことだ?なんで俺がついていかにゃならんのだ」

「だって保護者でしょ?だから!ほら、蒼月さんと積もる話もあるだろうし!今日一緒に行こうよぉ」


 珍しくしつこい蒼柊あおとに押し負け、柊平はついていくことになった。行く前に朝食を食べるため居間に向かう。
 母が今日朝食に選んだのは、ほうれん草とベーコンがたっぷり入ったキッシュと人参のラペ(レーズン抜き)だった。


「あれ?フランスのメニューなんて珍しいね母さん。今日は和食じゃないの?」

「おダシ、きのう使っちゃタ、カラ、ないなった!カラ、Frenchフレンチ!」

「そっか!」


 蒼柊の母、シルヴィーはフランス人だ。日本語が難しくて、まだあまり上手く話せない。が、生憎フランス語が話せるのは家族の中でも母はもちろん、残りは父の柊夜しゅうやだけなので日本語で話してくれる。父いわく、日本語ペラペラのシルヴィーは見てみたいが割と解釈違いなので死ぬまで片言でいてほしいらしい。
 年齢はもう40を越したが、童顔で身長も小さく、スキンケアには本気なのでシワも目立たない。可愛らしい女性と近所でも人気だ。人気ゆえお野菜が買わずとも家に流れ込んでくる。


「シルヴィーちゃん、ちいといいかね」

「ハイッ!なに、デスカ?おとさん!」

「俺ぁきょうこのチビと旧友の家に遊びに行くんだがね。その旧友、日本から出たことがねぇんだ。海外の菓子とかねぇかね」

「わぁ!あ!それなラ、出かけるの、ナンジ?デスカ?」

「そうだなぁ。昼頃…13時にしようかね」

「それなら、いまから、つくりマス!」


 張り切る母をよそに、蒼柊は朝食を食べる。すると、あくびをして腹を掻きながらボサボサで父が起きてきた。その状態を見て、シルヴィーは「おきる!カオ、あらう!かみ、とかす!シューヤ!」と、腰に手をあてて言った。それを見て柊夜はだらしない笑顔ではぁ~いと返事をする。
 そんなラブラブな光景には慣れっこで、蒼柊はキッシュの3つ目を食べ父の朝食を食べ尽くした。


「あ!!蒼柊~!! お父さんのキッシュは~?!」

「ん?あ、食べちゃった。ごめーん!」

「しるちゃん…」

「ナイ!から、はんぶんこ!ワタシの!」

「しるちゃぁぁぁん!!すきぃぃぃぃ!!」


 蒼柊は、苦めの紅茶を飲み干して二階へと上がり、部屋に戻り普段着を選ぶ。白のニット、黒い細身のパンツに、アウターは最近、SNSを見ているときに発見し、懸賞だったため運試しに応募したら当たってしまったデザインパーカーだ。和服のようなデザインと、洋のパーカーが共存している藍色のお気に入り。
 それからスマホを開き、SNSを眺める。すると、一つの記事が目に止まった。どうやら、古代の遺跡を発掘したのみならず、その遺跡に不釣り合いな真っ青でタイトルも何もついていない、古く分厚い本が見つかったらしい。

 ―― 古書…か。

 蒼月の禁書庫にある本たちは、鎖で雁字搦めだったし、上の方にあってあまり良く見えなかった。タイトルがあったかどうかもよくわからない。
 ただ、遺跡から出土したというのも気になる。普通の本であれば、なくなっていてもおかしくはない。それに、その頃の遺跡から「紙」が出てくるというのもおかしな話だ。

 何処から、いつ頃に紛れ込んだものなのか?

 蒼柊は、この記事を蒼月にも見せようと記事をブックマークに追加した。


 

 その頃、蒼月は晴天を睨みつけながら店や居住スペースの遮光カーテンを引き、店内は真夜中とも言えるほど暗くなった。
 照明は、歴史を感じるアンティークな装飾。オレンジの光を湛えている。


「今日も客はこないな…」


 ひとりそうボヤくが、今のこの大雪の時期に客が古びた本屋に入ってくるほうが珍しい。昨日の夕方にきた蒼柊が珍しいくらいだ。
 店内は、禁書庫を隠した状態で今日も通常営業している。たまに、常連の女性客は来る。だが、多分あの女性客は蒼月の顔が目当てなのだろう。


 居住スペースに引っ込み、テレビを付けてみる。テレビの画面には、今日も殺人だの、行方不明だの、誰かが死んだのという興味も無ければ自分には一切関係のない話が流れている。
 かといって、他のチャンネルでも面白いテレビなど何もやっていない。テレビを消そうとリモコンを目の前に掲げると、目にはとあるニュースが映った。


『先日、古代遺跡発掘調査から戻ってきた隊員が、遺跡の中で古い本を発見したと報告しました。本は古く、真っ青ですがタイトルや作者名などは書かれておらず、劣化で擦り切れた様子もありません。解析はまだ開始しておりませんが…失礼いたしました!速報が入りました。解析を開始した解析班が、本を開くと何も書いていないどころか、読んだ班員は次々に体調不良を訴えているとのことです!』

「…!?…禁書か」


 ニュースに出ている本をよく見ることは叶わなかったが、情報は手に入った。なんとかしなければ、被害は広がる一方である。
 しかし、所在先の組織が何処にあるのかは検討もつかない。さて、どうするかと思案していると、店の玄関が開く音がした。またあの女達か…?と疑ったが、それはすぐに打ち消された。


「蒼月さん!」

「なんだ、お前か…って、柊平!?」

「久しいな蒼月。何だ難しい顔しやがって。変わらんなお前は」

「禁書が見つかってな。どうしようか思案していた」


 その言葉を聞いて、蒼柊はスマホを取り出し近づいてくる。画面には、先程見たニュースの本よりも鮮明にくだんの本が映っている。


「これですか!?」

「あぁ、これだ。どうやら体調不良者が出たらしい。このタイプは初めてだ。物語はもともとあったのか、なかったのかさえわからん。しかも、解決するにも入手しづらい…。どうしたものか…」

「…古代遺跡発掘調査隊…。これなら、俺の知り合いが隊長だ。電話してみよう。…お前のことは、なんて伝える?」

「正直にとまでは行かないが、そういう類の本に詳しい専門家とでも言え」

「じいちゃ…何者?」


 孫の質問をよそに、柊平はスマホをポケットから取り出す。忙しいだろうからすぐには出ないと思っていたが、電話を掛けると2コールで相手が電話を取る。


『あ、ああぁ柊平!た、助かった!いや、助けてくれ頼む!』


 電話口からは、とても慌ただしい周りの喧騒と、電話主の助けを懇願する声が聞こえた。柊平は、予想よりも焦る声を聞き驚く。


「ど、どうした剛力!?お前がそんなに焦るなんてないだろう…?」

『た、隊員達が、本を見た途端倒れていくんだ…!お前そういうの詳しかっただろう!?』


 その「剛力」と呼ばれた男の発言を聞き、蒼月が身を乗り出して大きな声を出した。


「今すぐその本を何処かに隠せ!人の目に触れさせるな!!」

『へっ!?だ、だれだ?』

「私のことは後にしろ!とにかく今は隠せ!手では触れるな、道具で移動させろ!」

『わ、わかった!』


 電話口から、騒々しい声が聞こえる。バン!となにかを弾き飛ばす鈍い音。本を弾き飛ばしたのだろう。喧騒は一旦静まるが、まだザワザワしている様子だった。


「私はそういう本を自分の店の禁書庫に閉じ込めている。私がそれを取りに行くまでは誰にも触らせるんじゃないぞ」

『わ、わかった…』

「安心しろ、確実な専門家だ。場所は何処だ?何処に行けば受け取れる?」

『わかった!住所を送る!直ぐにでも来てほしい…!』


 懇願するその声に続いて、柊平のスマホにメールが届く。住所のようだ。
 電話を切り、住所を確認する。


「じっとしてはいられん。今すぐ向かうぞ」


 蒼月は、少しの貴重品と鎖を持って、二人の意見も聞かずに店を飛び出した。残された二人も、急いで蒼月を追いかけていった。

 
 
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