雪国本屋の禁書庫から想いを乗せて。

雫花

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青い本と棺

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 紅月こうげつが急いで玄関に向かうと、急に扉が開いた。外はもう夕方で、曇り空が鈍く伸し掛かっていた。その鈍色にびいろを背にして、長身の銀髪の男が立っている。


「あ! 蒼月そうげつさん!」

「あぁ…。なんだ、この塊…わ、紅月…」

「あぁ!! 蒼月ぅぅぅ!どうしようお兄ちゃんの禁書がぁぁぁ!」

「知っている。これだろう。お前のだったのか」


 紅月がジタバタとわめき、蒼月の腰にしがみついている。が、そんなこと気にするようなそぶりも見せずに、蒼月は青い本を紅月に手渡した。
 青い本を渡され、紅月は素直に受け取る。そして本を両手で大事そうに抱きしめた。


「お前、留守中になくなったのか?」

「うん、そう。でもね、そこの可愛い子が、私から買ったっていうの」

「端的に言えば、偽物が出たんだろう。私は店にずっといるからそうもできないんだろうが、お前はよく留守にしている。真面目に経営したらどうだ?」

「別のお仕事が忙しいんですぅ~!」

「モデルだかなんだか知らんが、それなら従業員でも雇えばいいだろう」


 モデル、という言葉を聞いて、蒼柊はバッと紅月の顔を見る。まじまじ数秒見つめると、紅月はニヤニヤとして蒼柊を見つめ返す。
 その顔を記憶の中から掘り出すと、やっと目の奥に見覚えのある検索結果が見えてきた。


「あ!もしかして…!モデルでも息の長い…!?」

「モデルのときの名前は朱月あかつきだよぉ」

「全然雰囲気違ったから気づかなかった…!」

「仕事の時は蒼月のマネしてる~」

「は?私の真似だと?」


 蒼月が、紅月をにらみつける。そんな視線はお構いなしに、紅月は得意げな顔で話す。


「そう!うまいんだよぉ、さすが双子!」

「私はお前の真似などできん」

「え~?やってみてよぉ」

「死んでも嫌だ」

「死なないじゃん」

「減らず口め…」


 兄弟喧嘩を目の前でするが、蒼柊はそのまま放置して置いた。しばらくすれば治まるだろう。目の前の双子の吸血鬼は、そのまましばらく口喧嘩するも次第に真面目な話にシフトしていく。
 正体や目的はわからないが、実際に現れた偽物。ソレを見たのはフラヴィアーナだけであること、現段階では、紅月の店が危ないこと…


「お前、留守を狙われるのならばここにいる場合ではないな?」

「たしかに! さっすが蒼月てゃん! こうしちゃられない、お店に戻るね!」

「待て紅月。お前が単独行動すると、犯人を殺しかねんだろう」

「? 別にいいじゃん。死んでも問題ないでしょ?」

「せめて尋問をしてから殺せ!」

「こ、ころす…?」

「仕置だ。なにか問題あるか?情報を聞きだしたら用済みだろう」


 不思議そうな顔をして、蒼月は蒼柊を見る。その表情があまりにも無垢なために、蒼柊は何かが心のなかでストンと落ちたような気がした。この人たちは、人の感情なんて持ち合わせてないんだと。普段見せている感情の中には、真似しかしていないものがいくつかあるんだろうな、と。

 人間の世界で生きている以上、人間は法律のもとに生活している。「殺す」という行為は、重罪だ。誰もが「こいつはいつか殺してやりたい」なんて相手が一人はいるだろうが、本当に殺す人間はごく一部だ。それだけ、殺人という行為を人間は我慢している。というのにこの2人はさも当然のように「殺す」と言い放った。
 やはり人ではないものなのだろう。疑念だったものが、確信に変わった。


「…殺すのは、良くないです。何処かないんですか、人外を裁けるところとか」

「無いことも無い…が、あそこは面倒なんだ。行きたくない」

「わがまま言わないでくださいよ。とにかく殺すのはだめです!」


 そう言われると、蒼月と紅月はムスッと同じタイミングで頬を膨らませた。その顔は、色味を除くと同じ顔になった。本当に双子のようだ。


「紅月、蒼月。俺がここの店番しとくから、こいつら連れて行け」

「わ!今まで気づかなかったよ!ええともしかして…柊平しゅうへいかい!?」

「そうだ。すまんな枯れたじじいで」

「ほんとに枯れてるねぇ!ここまで枯れちゃうとなぁ、美味しくないからなぁ。もう柊平からもらえないのかい?」

「まずいし、俺ぁもうあげられるほど血はねぇよ」

「そうかい?あぁ!美世みよちゃんは?」

「もうとっくに死んだ」

「なんだい、いないのかぁ」


 紅月はまたつまらなそうな顔をするが、すぐに普通の顔に戻ってしまう。そして、蒼月はそんな話など聞きもせずただ頷いた。


「じゃあそうしよう。おい紅月、一人抱えて走れ」

「わかった!」

「ふっ!!フラヴィアーナさんのことは蒼月さんが抱えてください!!!!」

「あ?なぜだ」

「蒼月さんなら興味なさそう、だから、です!」

「よくわからんな…。まぁどっちでもいいが…おい女」

「フラヴィアーナ!!あと乱暴に持たないでくださいよね!!!」

「喚くな小僧が…。わかった、さっさと行くぞ」


 耳を押さえてうるさいとジェスチャーをする。蒼月はあたふたするフラヴィアーナをおぶり、先に出発した。紅月は蒼柊を姫だきして走る。俵みたいに持たれなかったことが以外で、すこし驚く。

 丁寧な姿勢のまま、ものすごいスピードを出して2人を運んでいく吸血鬼。車よりも早く移動する景色は、高速道路を走る車から見る景色よりも早かった。
 絶句しているうちに、いつの間にか見慣れない景色の街に到着していた。


「はっっっ…や…」

「す、ごい…はや、かた!」

「ほら、立って歩け」


 蒼月はストンと投げやりに下ろそうとして、一旦動きを止めてフラヴィアーナを丁寧に下ろす。紅月は言わずとも、姫抱きしていた蒼柊を丁寧に下ろす。
 到着した店は、赤い暖簾のれんに赤い提灯で「古本屋」と書かれていた。


「ここが、私のお店だよ。大体は蒼月と一緒だけど、建築方法と壁材はまるっきり違うねぇ」


 紅月の店は白塗りの壁で、硬い材質だった。扉も両開きの洋扉で、ドアノブはリング状のものだった。雰囲気的には、英国を彷彿とさせる建物だ。
 中に入る前に、紅月が店の鍵を差し込む。解錠の方に回すと、しっかりと鍵が開く、カチャリという音が聞こえた。


「良かった。鍵はかかったままだった…けど、ちゃんとなくなったものがないかは見なくちゃね」


 紅月がそう言って店の扉を開き、中に入っていく。蒼柊たちも続いて中に入る。店の中は外と同様に白塗りの壁で、柱などの見える木材たちは、白い木材から視線を奪う様に黒い木材だ。


「おしゃれ…雰囲気も明るいですね」

「そうでしょぉ!蒼月は和風が好きだしくらいところが好きだけど、私は明るいところと洋風がすきなんだ」

「和も暗いところもいいだろうが。で?何か無くなってるものはないのか?」

「そうだそうだ」


 蒼月に促され、無いものはないか、販売されているコーナーを確認する。幸い、売りだされているコーナーには被害はないようだ。物品リストを確認して、そのまま禁書庫のある方へ歩いていく。
 同じく本棚の裏に隠されているようだが、蒼月の店の仕掛けとは違い、パズルを隠してあるようだった。本棚の本の柄を、何冊も使って一つの模様にしていく。

 また、音を立てて横にスライド…と思いきや、本棚は上へ消えて行く。その背後からは、蒼月の本屋にある禁書庫と同じ扉が出現した。


「この扉は同じなんだ…」

「この扉は、父上の特注品なんだ。この中の禁書たちを沈めておく力がある。それでもどうにもならない本が落ちてくるんだ。さぁ、入ろっか」


 紅月が扉を開け、四人で禁書庫へ入っていく。禁書庫の中も、蒼月の禁書庫と代わりはない。あるとすれば、あの台が無いことくらいだ。

 紅月についていくように歩いていく。1つ1つ確認するように、紅月は螺旋階段をゆっくりと登っていく。


「おい紅月、これはお前に返す。よく見たら、これはお前のものだ」

「ありがとう蒼月。そう、私の本だ。だから、結構焦ってたんだ…。これだけは本当になくしちゃけない、人にあげちゃいけない…」

「私の赤い本も、取られないといいが…。ソレを他人に渡らせる目的が、なにかあるんだろうな」


 ゆっくりと階段を登り、頂上につく頃、紅月が声をあげた。


「な、ない…」

「なにっ…何が無くなった」



「ち、父上の棺がないんだ!」
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