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青い本と棺
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本屋にたどり着いた四人は扉を開けて、蒼月に店内へと投げ込まれる。蒼月は、中には入らずに踵を返した。
「なんでか、日が照っていたのはあの場所だけだったらしいな。私は用事ができた。でかけてくるからおとなしくしていろ」
蒼月はそれだけいうと、折りたたみの日傘を持って出ていってしまった。取り残された三人は、本屋の中で唖然とした。
「え、どっか行っちゃったけど…」
「まぁ…よくあることだ。あいつが戻ってくるまではゆっくりしていよう」
柊平は、そう言ってとりあえず店の椅子に座る。蒼月がいつも座っている椅子なのだろう、使い古されている。青いクッションが置かれている椅子に腰掛けて、暇そうに頬杖をついている。
「んじゃぁ、戻ってくるまで、日本語の勉強する?」
「いいノ!?する!する!」
「よぉし!じゃぁどれから見よっかぁ…見たい本とかある?」
「んんー…あ!えと…ち…だい…」
フラヴィアーナが見つめる先を同じく見つめると、視線の先には「吸血鬼大全」という本があった。何が書いてあるんだろうかと、個人的に気になり本を手に取る。
すると、フラヴィアーナは伝わったのが嬉しかったのか目を輝かせた。
「これ?」
「Yes!なんて、よむ?」
「吸血鬼大全。吸血鬼について書いてある本だよ。…あ、非売品って書いてある」
「ひ、ばい?」
「この本は売り物じゃないですよーって本。なんだろね、これ」
その本の名前を聞くと、今まで暇そうにしていた柊平がピクリと反応した。椅子から立ち上がり、蒼柊に近づいてくる。
そしてしゃがみ込み、本をまじまじと見た。
「そりゃ、あれだ。蒼月と周りの奴らの話が書いてあるなぁ。たしか、俺も昔に読んだ事があるぞ」
「え、日記みたいなものってこと?」
「まぁ、そういうことだなぁ。そこに置いてあるんだから、読んでも問題ねぇだろう」
「おぉ…蒼月さんを知れるチャンス…!」
蒼柊は、知ろうとしても磨りガラスのように不明瞭な存在の蒼月を知るチャンスだと思い本を開いた。フラヴィアーナも、蒼柊に近づいて中身を見る。
「ええと…なになに…。『時は飛鳥、詳しい年代などとうに忘れてしまった。冬の日、日付などわからない。年の終わり頃に、村に双子が生まれてしまった』…生まれてしまった?なんでこんな書き方なの?」
「今は双子だからって何も言われねぇ、むしろ喜ぶやつもいる。けどなぁ、昔は双子なんていうと、母親もその子供も迫害されてたんだよ」
「ハク、がい?」
「そう。いじめられるって意味だ。…んまぁ何だ。不吉の象徴だの、鬼の子だの、忌み子ってな」
飛鳥時代に遡ってることからして、蒼月さんの話なんだろうと蒼柊は思う。が、蒼月には兄弟がいると思わなかった。あれは一人っ子にしか見えない。
ページには、びっしりとまでは行かないものの、文字が敷き詰められている。
「アオト、アスカ?ってなぁに?」
「飛鳥時代、今から1300年前くらいの日本の時代のことだよ。蒼月さんが生まれた時代なんだって」
「ソウ、ゲツ…Vampire?」
「うん。かっこいいよねあの人。1300年前の人じゃないみたい」
「ウン!キレイ!…で、あって、る?」
「うん、あってるよ」
次のページを捲ると、幼い少年が2人描かれていた。とはいえ、イラストの少年は普遍的な見た目をしている。ボロボロの着物を着て、体育座りをしているイラストだ。
大人には見向きもされない、そんな状態を描いているようだった。本の紙も、古いからかシナシナとしていて日に焼けている。
「これ、誰が書いたのかな…。じいちゃん知らない?」
「俺ぁ見たことねぇが、蒼月が言ってたのァ確か、父さんだってよ」
「父さん?でも、これを見る限りじゃ…」
「実の父親じゃねぇさ。アイツを吸血鬼にした吸血鬼のことだ」
吸血鬼は、墓に入った人間が蘇って成るアンデットのような認識と、吸血鬼に噛まれて成る認識の2つが一般に知れ渡っている話だろう。しかし本当のところは、カタレプシーと言われる、強硬症や蝋屈症という名称で呼ばれる症状の一種のことを勘違いしたという説がある。受動的に取らされた姿勢を自分の意思で変えようとしない状態のことを死亡と勘違いして埋めたが、墓から出てきたものを吸血鬼と勘違いしただとか。
実際に蒼月が吸血鬼という証拠はない。吸血している現場をまだ見たことがないからだ。だが本当にこの本に書かれているのが蒼月の始まりならば…
「…人間が嫌いでも、仕方ないかもね」
無意識に出た言葉だった。だが、その声はすぐに別の声に否定された。
「蒼月は、人、嫌いじゃないよ。お兄ちゃんが保証したげる」
「へ?」
声のした方向を見ると、黒い髪の毛にルビーのように真っ赤な目、白く透き通る肌、金縁の丸メガネに、ワインレッドのストール、漆黒の羽織に、赤銅色に絹鼠色の縦ラインが入った着物、煤色の帯、黒い足袋に真っ赤な鼻緒の草履を履いた男がいた。
男は、玄関に肩を寄りかからせて立っている。蒼月のように恐ろしいくらいに顔が整っているが、蒼月とは違い髪の毛は少し長めの短髪だ。
「アレ?アオイほんの、ほん、やさん!」
「うん?君みたいな子、うちの店に来てたっけ?」
「?イッタ…」
「そう?覚えてなかったのか。ごめんよ?こんなにかわいい子を忘れるなんて、おかしいなぁ」
男はフラヴィアーナに近づき、膝をついて顔を見る。が、怖かったのか、蒼柊の背中に隠れてしまった。
「おや、君はさながらナイトだね?」
「え、え…だ、誰ですか?」
「ん!紹介が遅れてしまった!私は蒼月のお兄ちゃんの紅月だよ!よろしくね!」
「え、お兄ちゃん…?似てな…」
「もう!お兄ちゃんと蒼月は双子なんだよぉ?似てるってぇ!」
「更に似てない…」
似てないと言うたびに似ているアピールをする紅月。少し面倒になってきたところで、紅月がぱっと表情を変えた。
「んねぇ、ところで、愛しの蒼月てゃんが居ないんだけど…」
「蒼月さんならでかけましたけど…日傘持って…」
「えぇ!?蒼月てゃんいつ帰ってくるぅ…?」
「知りませんよ。でもあの速さで移動できるんですから、すぐに戻ってくるんじゃないですか?」
「まぁ、蒼月おうち好きだしねぇ。おっじゃましまーす!」
「あ、ちょっと!?」
紅月は立ち上がると、そのまま蒼月の居住スペースに入ってしまう。止めようとする声も虚しく、姿は奥に消えてしまった。
すると、奥から顔だけだしておいでと言わんばかりに手招きした。
「怒られたら紅月さんのせいですからね…」
「怒られないよぉだいじょーぶ!君さ、蒼月が本当に吸血鬼かまだ実は疑ってるでしょ!」
「え?…はい」
「じゃあほら!これなーんだ!」
紅月は、クローゼットから何かを取り出し蒼柊に見せてくる。透明なパウチの中に、暗い赤の液体が入っている。
「…もしかしてソレ…血?」
「ち…Blood!?」
「そっ! 私らのごはん!蒼月まだかなあ~」
血液のパックを持って、紅月は、青い座布団の上に座りあぐらをかいた。血液パックを開封して、持っていた自前のストローを差し込み吸い始めた。
その光景に少しだけ嫌悪を覚え、顰めっ面をする。これが蒼月だったら、こうも思わないのだろうか。蒼月はこんなふうにダイレクトには飲まなさそうだな、と思った。
「ていうか、何しに来たんですか?」
「あんね、うちの禁書庫に保管してある青い古い本がなくなってしまったんだあ。だから、なんか知らないかなぁって。それに、なんかあったときに本の中に潜れるの、蒼月のところだけだしぃ」
「あの…ソレって、題名も何も書いてないやつですか?」
「え?うん。なんで知ってるの?」
「いや、ソレが原因で遺跡の研究所が大変なことになったりしてて…。あんたがフラヴィアーナに売ったんでしょ?」
その言葉を聞いて、紅月は大きく首を振る。血液を吸うのを中止して、口いっぱいに頬張った血液を一気に飲み込み、慌てて口を開く。
「そんなわけない!禁書庫の本なんて絶対に売らないよ!」
「でも、買ったって」
「かった!ワタシ、本、アオイ、かった!」
「うそぉ!?アレに値段なんてつけられないし、売るなんてありえないよ!本当に私だったの!?」
そう言われた途端、フラヴィアーナは考え込んでしまった。紅月の顔を見て、顎に手を当てながら考え込む。
「Face、おなじ…しゃべり…ちがう…。ううん…」
「顔は同じなのに、喋り方が違うのかぁ。どういうことだろう…」
紅月はソレを聞くと、飛び出さんばかりの勢いで玄関に向かっていった。
「なんでか、日が照っていたのはあの場所だけだったらしいな。私は用事ができた。でかけてくるからおとなしくしていろ」
蒼月はそれだけいうと、折りたたみの日傘を持って出ていってしまった。取り残された三人は、本屋の中で唖然とした。
「え、どっか行っちゃったけど…」
「まぁ…よくあることだ。あいつが戻ってくるまではゆっくりしていよう」
柊平は、そう言ってとりあえず店の椅子に座る。蒼月がいつも座っている椅子なのだろう、使い古されている。青いクッションが置かれている椅子に腰掛けて、暇そうに頬杖をついている。
「んじゃぁ、戻ってくるまで、日本語の勉強する?」
「いいノ!?する!する!」
「よぉし!じゃぁどれから見よっかぁ…見たい本とかある?」
「んんー…あ!えと…ち…だい…」
フラヴィアーナが見つめる先を同じく見つめると、視線の先には「吸血鬼大全」という本があった。何が書いてあるんだろうかと、個人的に気になり本を手に取る。
すると、フラヴィアーナは伝わったのが嬉しかったのか目を輝かせた。
「これ?」
「Yes!なんて、よむ?」
「吸血鬼大全。吸血鬼について書いてある本だよ。…あ、非売品って書いてある」
「ひ、ばい?」
「この本は売り物じゃないですよーって本。なんだろね、これ」
その本の名前を聞くと、今まで暇そうにしていた柊平がピクリと反応した。椅子から立ち上がり、蒼柊に近づいてくる。
そしてしゃがみ込み、本をまじまじと見た。
「そりゃ、あれだ。蒼月と周りの奴らの話が書いてあるなぁ。たしか、俺も昔に読んだ事があるぞ」
「え、日記みたいなものってこと?」
「まぁ、そういうことだなぁ。そこに置いてあるんだから、読んでも問題ねぇだろう」
「おぉ…蒼月さんを知れるチャンス…!」
蒼柊は、知ろうとしても磨りガラスのように不明瞭な存在の蒼月を知るチャンスだと思い本を開いた。フラヴィアーナも、蒼柊に近づいて中身を見る。
「ええと…なになに…。『時は飛鳥、詳しい年代などとうに忘れてしまった。冬の日、日付などわからない。年の終わり頃に、村に双子が生まれてしまった』…生まれてしまった?なんでこんな書き方なの?」
「今は双子だからって何も言われねぇ、むしろ喜ぶやつもいる。けどなぁ、昔は双子なんていうと、母親もその子供も迫害されてたんだよ」
「ハク、がい?」
「そう。いじめられるって意味だ。…んまぁ何だ。不吉の象徴だの、鬼の子だの、忌み子ってな」
飛鳥時代に遡ってることからして、蒼月さんの話なんだろうと蒼柊は思う。が、蒼月には兄弟がいると思わなかった。あれは一人っ子にしか見えない。
ページには、びっしりとまでは行かないものの、文字が敷き詰められている。
「アオト、アスカ?ってなぁに?」
「飛鳥時代、今から1300年前くらいの日本の時代のことだよ。蒼月さんが生まれた時代なんだって」
「ソウ、ゲツ…Vampire?」
「うん。かっこいいよねあの人。1300年前の人じゃないみたい」
「ウン!キレイ!…で、あって、る?」
「うん、あってるよ」
次のページを捲ると、幼い少年が2人描かれていた。とはいえ、イラストの少年は普遍的な見た目をしている。ボロボロの着物を着て、体育座りをしているイラストだ。
大人には見向きもされない、そんな状態を描いているようだった。本の紙も、古いからかシナシナとしていて日に焼けている。
「これ、誰が書いたのかな…。じいちゃん知らない?」
「俺ぁ見たことねぇが、蒼月が言ってたのァ確か、父さんだってよ」
「父さん?でも、これを見る限りじゃ…」
「実の父親じゃねぇさ。アイツを吸血鬼にした吸血鬼のことだ」
吸血鬼は、墓に入った人間が蘇って成るアンデットのような認識と、吸血鬼に噛まれて成る認識の2つが一般に知れ渡っている話だろう。しかし本当のところは、カタレプシーと言われる、強硬症や蝋屈症という名称で呼ばれる症状の一種のことを勘違いしたという説がある。受動的に取らされた姿勢を自分の意思で変えようとしない状態のことを死亡と勘違いして埋めたが、墓から出てきたものを吸血鬼と勘違いしただとか。
実際に蒼月が吸血鬼という証拠はない。吸血している現場をまだ見たことがないからだ。だが本当にこの本に書かれているのが蒼月の始まりならば…
「…人間が嫌いでも、仕方ないかもね」
無意識に出た言葉だった。だが、その声はすぐに別の声に否定された。
「蒼月は、人、嫌いじゃないよ。お兄ちゃんが保証したげる」
「へ?」
声のした方向を見ると、黒い髪の毛にルビーのように真っ赤な目、白く透き通る肌、金縁の丸メガネに、ワインレッドのストール、漆黒の羽織に、赤銅色に絹鼠色の縦ラインが入った着物、煤色の帯、黒い足袋に真っ赤な鼻緒の草履を履いた男がいた。
男は、玄関に肩を寄りかからせて立っている。蒼月のように恐ろしいくらいに顔が整っているが、蒼月とは違い髪の毛は少し長めの短髪だ。
「アレ?アオイほんの、ほん、やさん!」
「うん?君みたいな子、うちの店に来てたっけ?」
「?イッタ…」
「そう?覚えてなかったのか。ごめんよ?こんなにかわいい子を忘れるなんて、おかしいなぁ」
男はフラヴィアーナに近づき、膝をついて顔を見る。が、怖かったのか、蒼柊の背中に隠れてしまった。
「おや、君はさながらナイトだね?」
「え、え…だ、誰ですか?」
「ん!紹介が遅れてしまった!私は蒼月のお兄ちゃんの紅月だよ!よろしくね!」
「え、お兄ちゃん…?似てな…」
「もう!お兄ちゃんと蒼月は双子なんだよぉ?似てるってぇ!」
「更に似てない…」
似てないと言うたびに似ているアピールをする紅月。少し面倒になってきたところで、紅月がぱっと表情を変えた。
「んねぇ、ところで、愛しの蒼月てゃんが居ないんだけど…」
「蒼月さんならでかけましたけど…日傘持って…」
「えぇ!?蒼月てゃんいつ帰ってくるぅ…?」
「知りませんよ。でもあの速さで移動できるんですから、すぐに戻ってくるんじゃないですか?」
「まぁ、蒼月おうち好きだしねぇ。おっじゃましまーす!」
「あ、ちょっと!?」
紅月は立ち上がると、そのまま蒼月の居住スペースに入ってしまう。止めようとする声も虚しく、姿は奥に消えてしまった。
すると、奥から顔だけだしておいでと言わんばかりに手招きした。
「怒られたら紅月さんのせいですからね…」
「怒られないよぉだいじょーぶ!君さ、蒼月が本当に吸血鬼かまだ実は疑ってるでしょ!」
「え?…はい」
「じゃあほら!これなーんだ!」
紅月は、クローゼットから何かを取り出し蒼柊に見せてくる。透明なパウチの中に、暗い赤の液体が入っている。
「…もしかしてソレ…血?」
「ち…Blood!?」
「そっ! 私らのごはん!蒼月まだかなあ~」
血液のパックを持って、紅月は、青い座布団の上に座りあぐらをかいた。血液パックを開封して、持っていた自前のストローを差し込み吸い始めた。
その光景に少しだけ嫌悪を覚え、顰めっ面をする。これが蒼月だったら、こうも思わないのだろうか。蒼月はこんなふうにダイレクトには飲まなさそうだな、と思った。
「ていうか、何しに来たんですか?」
「あんね、うちの禁書庫に保管してある青い古い本がなくなってしまったんだあ。だから、なんか知らないかなぁって。それに、なんかあったときに本の中に潜れるの、蒼月のところだけだしぃ」
「あの…ソレって、題名も何も書いてないやつですか?」
「え?うん。なんで知ってるの?」
「いや、ソレが原因で遺跡の研究所が大変なことになったりしてて…。あんたがフラヴィアーナに売ったんでしょ?」
その言葉を聞いて、紅月は大きく首を振る。血液を吸うのを中止して、口いっぱいに頬張った血液を一気に飲み込み、慌てて口を開く。
「そんなわけない!禁書庫の本なんて絶対に売らないよ!」
「でも、買ったって」
「かった!ワタシ、本、アオイ、かった!」
「うそぉ!?アレに値段なんてつけられないし、売るなんてありえないよ!本当に私だったの!?」
そう言われた途端、フラヴィアーナは考え込んでしまった。紅月の顔を見て、顎に手を当てながら考え込む。
「Face、おなじ…しゃべり…ちがう…。ううん…」
「顔は同じなのに、喋り方が違うのかぁ。どういうことだろう…」
紅月はソレを聞くと、飛び出さんばかりの勢いで玄関に向かっていった。
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