雪国本屋の禁書庫から想いを乗せて。

雫花

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青い本と棺

赤い本、青い本

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 鬼灯ほおづきが先頭を歩き、出口の梯子まで一直線に歩いていく。
 それに他4人は無言でついて行く。

 しかし鬼灯は、片側に棺を抱えている。そんな状態で梯子を登るのは…と、蒼柊が思っていると


「よっと!」


 軽快な掛け声とともに、目の前から一瞬でいなくなってしまった。


「え!?ほ、鬼灯さん!?」

「まぁ、そうだろうな」

「あの人階段なんかわざわざ登らないよね~」


 さも当然のように、吸血鬼の2人は梯子を登る。蒼柊は唖然とするも、フラヴィアーナが先に昇って行ったため上を見上げるのはやめにした。


 家の中に戻ると、その辺に雑に棺を置いて、1階へと降りる。



「案外きれいだね。掃除してくれていたのかね」

「そりゃあするでしょう。まだ管理はやってるんですから」

「ありがとう紅月こうげつ。そういえば、2人の本は狙われなかったのかね?」

「1度まんまとやられたのですが、戻ってきました」

「私のは平気だ」


 吸血鬼たちは、3人で話を進めてしまう。ついていけなくなった蒼柊あおとは、何の話か分からないと顔に出ている。


「あの……何の話ですか?」

「ああ、君は知らないのかね。赤い本と青い本、2人の大事なものなのだよ」

「ァ!アオイホン、わたし、doppelgangerから買っチャタ!」

「ほう、そっちもやはり狙われていたかね。あれを見ると、どうやら随分魂を喰ったようだね」


 鬼灯ほおづきは二人を見やると、本を見せろと目配せする。
 すると、蒼月そうげつ紅月紅月は、それぞれ持っていた本を出した。

 蒼月の持つ赤い本、紅月の持つ青い本は、それぞれが鎖で雁字搦めになっている。


「あの、この本はなんなんですか……?」

「これはね、蒼月と紅月の魂なのだよ。赤い本には蒼月の魂が、青い本には紅月の魂がそれぞれ入っていてね。中の世界は何も無い荒野で、遠くにお城があってね。その中に魂がいるのだよ」


 鎖で縛られた本は、以前お店のあの部屋で何冊も見掛けた。
 だが、あの時見掛けた本達とは違う。あの本達は銀の鎖だったが、これは金の鎖で、更に他のものより雁字搦めに封をされている。


「なんか、凄く雁字搦めになってますね·····。それに、鎖も金ですし·····」

「おや?君はあの書庫の本たちを見たのかね?」

「あっ、はい!たまたまですけど·····。というか、見たから今こうして蒼月さんと行動してるんです」

「ほう?蒼月が見せたのか?」


 鬼灯は、蒼月に視線を向ける。蒼月は質問に対して、静かに首を横に振った。


 「突然こいつが本屋に来て、本棚の仕掛けを何も知らず解いたんだ。私が進んで見せるわけが無い」

「はは!それもそうだね!それは豪運の持ち主だ!」

「それに、そいつは私の友人の孫だったからな。そいつは質問攻めが得意だからな、父様も気を付けてくれ」

「ははは!そんなもの大したことは無い!君、聞きたいことがあればなんでも聞きたまえ!」

「分かりました!よろしくお願いします!」

「ああでも、その分お菓子は多く持ってくるのだよ」

「あっ、はい!」


 会話のあと、鬼灯は「あっ、そうだ」と思い出したように2人の本の鎖を解き始めた。
 青い本の方は、知らない間に紅月が鎖を巻き直していたようだった。しかし、赤い本よりもあっさりと鎖が解ける。


「あぁ、やっぱり自分でやると巻き方が良くないみたいですね」

「仕方ない、これは私が力を込めることでより強固になるのだからね」

「そ、それっ·····取って平気なんですか·····?」

「平気さね!だがしかし、君らは離れていてくれたまえ。本に喰われたくなかったらね」



 蒼柊は息を飲んで、フラヴィアーナの手を引いて後ろに引く。
 ジャラジャラと音を立てて、木製の床に金の鎖が落ちていく。
 完全に鎖が取れると、本は勝手にバラバラと音を立てて開き、ページが捲られていく。



「ふむ。蒼月の本は大切に保管されていたようだね、魂を喰っていない。·····けども、紅月の方は良くないね。これでは紅月の魂が危うい」

「えっ!?な、なんでですか?魂って、もしかしてあの研究所の·····」

「研究所?よく分からないが、まぁつい最近の死体をたらふく喰っているね。さて·····と」


 鬼灯は、蒼月の赤い本だけを閉じ、再び鎖で巻き始めた。その間、紅月の青い本を片足で踏みつける。強い力はかけていないようだ。
 赤い本に鎖を巻き終えると、その本を垂直に上へと放り投げる。そしてそのまま垂直に落ちてきた本を目掛け、両手で勢いよく挟んだ。


「よし!これで蒼月の本は終わりだ。問題は紅月の方だね。この魂たち·····どうしようか」

「あの·····どうしてそんなに、魂を食べた?って分かるんですか?」

「はは!本当に質問攻めが得意みたいだね!これはどんな菓子がくるか楽しみだ。まぁ、簡単な話さね。さっき、ページがバラバラ勝手にめくれていただろう?そのページの進度で、喰った魂の量を測るのさ。そして、最終ページに到達すると·····この本にある本人の魂は、不変ではなくなってしまう」

「不変·····?それって、紅月さんや蒼月さんは、どうなるんですか?死ぬ、とか·····?」

「ああ、そうさね。この本は2人の魂を不変にするためのもの。であるから、この本の最終ページに雑多な魂が押し寄せれば、不変の魂は穢されて·····消滅だ」


 蒼柊はそれを聞き、生唾を飲んだ。先程みた深度で言えば、紅月の本のページは半分より少し進んでいた。
 分厚い本だと言うことは、半分に到達するまでに大層な量のページが必要だ。それが半分を越したということは、それだけ大量の魂を喰っている事になる。


「ああ!いい機会だ。蒼月!お前の店の水晶を貸してくれたまえ!」

「·····魂を排除してこいと言うことか」

「話が早くて助かる!それ自体は雑魚だろうから、私が行く必要もないだろう?そこの人間も連れていきたまえ!いい機会だからね」



 蒼月はひとつため息を吐き、好きにしろと言わんばかりの顔で蒼柊を見た。

 そのまま、無言で蒼月は自分の本を取り、玄関へと歩いていく。


「あ!ちょっと蒼月さん!」

「早くしろ、父様は紅月の本を持って追いかけてきてくれ。先に行く」

「ああ!わかったよ!」

「父上、面倒かけます」

「なに!息子の事だ、面倒なことなどあるものかね」


 先に家を出る蒼月を、蒼柊、フラヴィアーナ、鬼灯、紅月の順で追いかけ家を出た。

 そして、また吸血鬼2人は人間2人を抱え、店への帰路を辿る。
 その間、後ろから鬼灯がニコニコとしながら追い掛けてくる。
 鬼灯の手には、青い本と金の鎖、そして鷲掴みされたドッペルゲンガーが引きづられている。

 しばらくして、蒼月の店に到着すると、物音で柊平しゅうへいが出てきた。


「おぉ!早かったなお前ら·····って、誰だぁアンタ?」

「はは!枯れたじじいがなんという!貴様こそ誰さね」

「父様、これは蒼柊の祖父で私の友人、柊平だ」

「ほう!貴様も友人か!蒼月に友人というのはおかしなものだね!」

「柊平。これは父様だ。名を鬼灯」

「あぁん?父様ァ?···············あぁ!?本当か!?お、おぉ俺は食っても美味かねェぞ!」


 柊平の反応に、鬼灯は大笑いする。顎が外れそうだ。


「だれがそんな枯れたジジイを喰うかね!頼まれたって喰わんね!見たところ店番かね?足元にいるこの雑魚どももかね?」

「あぁ、コイツらはァあれだ、何か知らんが蒼柊に懐いてやがるヤツらだ。ほらおめーら!蒼柊が帰ってきたんだぞ、分かるか?」



 柊平の足元に隠れていた成れ果て達は、蒼柊をみてモゾモゾと前に出てきた。鳴き声を上げ、帰宅を歓迎しているようだ。
 ふと、柊平はあるものに目が行く。鬼灯が鷲掴みにしているもの。



「·····なぁ、父様とやらよォ·····。それってのァ·····まさか」

「あぁ、これかい?ほれ!見物だろう!ドッペルゲンガーだ!」


 前に突き出されたボロボロのドッペルゲンガー。
 その瞬間、柊平の顔は引き攣る。

 そしてそのまま、その場に力なくへたりこむのだった。
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