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青い本と棺
友だったもの
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柊平は、その場にへたり込み、そのぼろぼろの鬼を見つめた。
「それは…剛か?なんでだ…?」
「よくみろ柊平。ほんとにお前の旧友か?」
そう言葉をかけられ、混乱した頭でかつての友の姿を見つめる。意識もなく項垂れている男をよく見ると、半分は確かにかつての友の姿をしている。
「剛…だ…いや…?こいつ、だれだ…?」
「これはお前の友ではない。これは、ドッペルゲンガーだ」
「…そうか…よかった。で?じゃあ、剛は?無事なんだよな?」
蒼月を見上げ、不安と希望が綯い交ぜになった顔をする。
あの気丈だった友が、老いてからこんなにも弱くなったものかとその瞳を見つめる。
「·····なに、そう遠からず会えるだろうよ」
「蒼月·····?なんで目を逸らすんだ、おい、こっち見てちゃんと」
「お前ら冷えるぞ、中に入れ」
柊平の言葉を遮って、蒼月は店の中に入った。
その行動に鬼灯は首を傾げたが、他は皆、黙って蒼月について行った。
柊平もそれに続き、よろめきながら立ち上がって中に入る。
弱々しい祖父を見ていられず、蒼柊は柊平を見ようとしない。
そんな中、鬼灯が空気を壊すような声音で、あっけらかんと話し出す。
「なんだね、よく分からんがまぁやる事をやるとしよう」
「今開ける」
蒼月は本棚の前に立ち、以前蒼柊が誤って解いてしまった仕掛けを作動させる。
また轟音を立て、本棚が動き、あの質素な扉が顔を出す。
扉を開け、 その先に進む。中は相変わらず静かで、本達がひっそりと想いを抱えながら過ごしている。
「はは!この装置も久しぶりに見たね。さて……蒼月、それに蒼柊。他に連れていく人は居るかね?」
「いいや。居ない。フラヴィアーナには危険だし、紅月は本人だし、柊平は老いぼれで役に立たんからな」
「で、でも蒼月さん、俺その、戦ったりとかそういうのは……」
「戦わん。集めて来るだけだ。ほれ、これ一つ持て」
「……?」
蒼月はそう言って、蒼柊に古びた小瓶を渡す。少し重みのある焼き物の瓶は、異様に冷たかった。手の中にあっても、いつまでも熱が移っていかないのかひんやりとしていた。
「冷たい……。蒼月さん、これ、なんのために持ってくんですか?」
「馬鹿でもない限り分かるだろ。その中に魂を入れる。お前は特別なことはしなくていい。魂を見つけたら、その瓶の口を魂に向ければ良いだけだ」
「えっ、わ、わかりました」
投げやりな蒼月の説明に少々不安を覚えながらも、蒼柊は装置の前へと近付いた。
「父様、その本乗せてくれ。さっさと行って終わらせたい」
「わかったよ、さぁ!2人とも行ってきてくれ!」
鬼灯は持っていた青い本を水晶の上に置く。そして、蒼月がその本を開く。1ページ目を開くと、その瞬間から水晶が淡く光り出す。
「えっ!ちょちょちょ待ってください心の準備が!」
「そんなもの入ったあとでいいだろ、喚くな」
「理不尽だ!!」
蒼柊の訴えも虚しく、目の前の水晶は徐々に光を増していく。視界を白が覆い尽くし、蒼柊は咄嗟に目を瞑った。
瞼の向こうから強い白が無くなった辺りで、蒼柊は目を開く。隣に立つ蒼月はなんともない顔をして、キョロキョロする蒼柊を面白そうに見ていた。
「え、え、ここ、え?」
「本の中だ。いちいちうるさいヤツだな」
「驚くでしょうが!……でもなんか……魂?みたいな……何も無いようにしか見えないですけど」
「……確かにそうだな。探し回るしかなかろう。とは言え、こんな荒野で探し回るほどの遮蔽物も無いが」
目の前に広がる景色は、薄暗く重苦しい曇り空。地面はカラカラに乾涸び、ひび割れていて、疎らに生えている木もおおよそ生きているとは言えなかった。
視野の中に、動き回るものもなければ、目立つような異物もさして見当たらない。
蒼柊は、魂が思ったより居ないことを疑問に思い、その辺に足を踏み出す。すると、蒼月に腕を捕まれる。
「お前、臆病なのか無謀なのかどちらかにしろ。1人で行くと何があるか分からんとは思わんのか?」
「あっ……すいません。悪い癖です」
「一つの事しか出来ないのか貴様は。いいか、あまり離れるな」
「わかりました!」
眉間に皺を寄せ注意する蒼月の顔を、蒼柊はじっとみた。それは何かを思ったからでは無い。美貌とは、それだけで人を捕まえてしまうのだという事実の立証に過ぎなかった。
はっと我に返り、自身の頬をパシンっと両手で叩く。それを蒼月は訝しげに眺めたが、鼻をひとつ鳴らし歩き出した。
「どこかに隠れてるんです……よね?」
「さぁ……だが居るはずだ、まさか居なくなることは無いと思うが」
「そもそも、僕、魂ってどんなものだか分かりません……」
「あぁ、それもそうだな。……ふむ…………。あぁ」
蒼月は、すぐ近くの木の根を指さす。
「こんな感じの、紙人形のような人型のもの……」
「…………蒼月さん」
「…………ああ」
指さした先の、黒い人型の小さな紙人形は動きを止める。
吸血鬼と人間は、その紙人形をじっと見て。
「「 いたぁああ!!! 」」
「それは…剛か?なんでだ…?」
「よくみろ柊平。ほんとにお前の旧友か?」
そう言葉をかけられ、混乱した頭でかつての友の姿を見つめる。意識もなく項垂れている男をよく見ると、半分は確かにかつての友の姿をしている。
「剛…だ…いや…?こいつ、だれだ…?」
「これはお前の友ではない。これは、ドッペルゲンガーだ」
「…そうか…よかった。で?じゃあ、剛は?無事なんだよな?」
蒼月を見上げ、不安と希望が綯い交ぜになった顔をする。
あの気丈だった友が、老いてからこんなにも弱くなったものかとその瞳を見つめる。
「·····なに、そう遠からず会えるだろうよ」
「蒼月·····?なんで目を逸らすんだ、おい、こっち見てちゃんと」
「お前ら冷えるぞ、中に入れ」
柊平の言葉を遮って、蒼月は店の中に入った。
その行動に鬼灯は首を傾げたが、他は皆、黙って蒼月について行った。
柊平もそれに続き、よろめきながら立ち上がって中に入る。
弱々しい祖父を見ていられず、蒼柊は柊平を見ようとしない。
そんな中、鬼灯が空気を壊すような声音で、あっけらかんと話し出す。
「なんだね、よく分からんがまぁやる事をやるとしよう」
「今開ける」
蒼月は本棚の前に立ち、以前蒼柊が誤って解いてしまった仕掛けを作動させる。
また轟音を立て、本棚が動き、あの質素な扉が顔を出す。
扉を開け、 その先に進む。中は相変わらず静かで、本達がひっそりと想いを抱えながら過ごしている。
「はは!この装置も久しぶりに見たね。さて……蒼月、それに蒼柊。他に連れていく人は居るかね?」
「いいや。居ない。フラヴィアーナには危険だし、紅月は本人だし、柊平は老いぼれで役に立たんからな」
「で、でも蒼月さん、俺その、戦ったりとかそういうのは……」
「戦わん。集めて来るだけだ。ほれ、これ一つ持て」
「……?」
蒼月はそう言って、蒼柊に古びた小瓶を渡す。少し重みのある焼き物の瓶は、異様に冷たかった。手の中にあっても、いつまでも熱が移っていかないのかひんやりとしていた。
「冷たい……。蒼月さん、これ、なんのために持ってくんですか?」
「馬鹿でもない限り分かるだろ。その中に魂を入れる。お前は特別なことはしなくていい。魂を見つけたら、その瓶の口を魂に向ければ良いだけだ」
「えっ、わ、わかりました」
投げやりな蒼月の説明に少々不安を覚えながらも、蒼柊は装置の前へと近付いた。
「父様、その本乗せてくれ。さっさと行って終わらせたい」
「わかったよ、さぁ!2人とも行ってきてくれ!」
鬼灯は持っていた青い本を水晶の上に置く。そして、蒼月がその本を開く。1ページ目を開くと、その瞬間から水晶が淡く光り出す。
「えっ!ちょちょちょ待ってください心の準備が!」
「そんなもの入ったあとでいいだろ、喚くな」
「理不尽だ!!」
蒼柊の訴えも虚しく、目の前の水晶は徐々に光を増していく。視界を白が覆い尽くし、蒼柊は咄嗟に目を瞑った。
瞼の向こうから強い白が無くなった辺りで、蒼柊は目を開く。隣に立つ蒼月はなんともない顔をして、キョロキョロする蒼柊を面白そうに見ていた。
「え、え、ここ、え?」
「本の中だ。いちいちうるさいヤツだな」
「驚くでしょうが!……でもなんか……魂?みたいな……何も無いようにしか見えないですけど」
「……確かにそうだな。探し回るしかなかろう。とは言え、こんな荒野で探し回るほどの遮蔽物も無いが」
目の前に広がる景色は、薄暗く重苦しい曇り空。地面はカラカラに乾涸び、ひび割れていて、疎らに生えている木もおおよそ生きているとは言えなかった。
視野の中に、動き回るものもなければ、目立つような異物もさして見当たらない。
蒼柊は、魂が思ったより居ないことを疑問に思い、その辺に足を踏み出す。すると、蒼月に腕を捕まれる。
「お前、臆病なのか無謀なのかどちらかにしろ。1人で行くと何があるか分からんとは思わんのか?」
「あっ……すいません。悪い癖です」
「一つの事しか出来ないのか貴様は。いいか、あまり離れるな」
「わかりました!」
眉間に皺を寄せ注意する蒼月の顔を、蒼柊はじっとみた。それは何かを思ったからでは無い。美貌とは、それだけで人を捕まえてしまうのだという事実の立証に過ぎなかった。
はっと我に返り、自身の頬をパシンっと両手で叩く。それを蒼月は訝しげに眺めたが、鼻をひとつ鳴らし歩き出した。
「どこかに隠れてるんです……よね?」
「さぁ……だが居るはずだ、まさか居なくなることは無いと思うが」
「そもそも、僕、魂ってどんなものだか分かりません……」
「あぁ、それもそうだな。……ふむ…………。あぁ」
蒼月は、すぐ近くの木の根を指さす。
「こんな感じの、紙人形のような人型のもの……」
「…………蒼月さん」
「…………ああ」
指さした先の、黒い人型の小さな紙人形は動きを止める。
吸血鬼と人間は、その紙人形をじっと見て。
「「 いたぁああ!!! 」」
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