真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#003 『石鹸』

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 今から5年ほど前に聞いた話。

 都会の専門学校に入ってから初めての夏休み、久しぶりに田舎へ帰郷した三井寺みいでらさんは、やっぱり家族と一緒ってのはいいもんだなぁと感慨深く感じたという。
 特に。いざ一人暮らしをしてみると、何でも家事をやってくれていた母親の存在がすごく有り難く感じられたらしい。

「やっぱウチに帰ってご飯が用意してあるってのはいいもんスね・・・掃除だの洗濯だのも、こんな手間のかかる面倒くさい仕事だとは思わなかった」

 男性のうちでもやや不精者な部類に入る、と自称する三井寺さんはそう語る。
 だから前述の帰郷の際、「母ちゃんは偉いよなぁ」と素直に吐露したらしい。

「当たり前だよ!家庭の主婦ってのは重労働なんだよ。あんたもそれがわかったって事だけで、一人暮らしさせた甲斐があったってもんだ」

 豪快な性格だったお母さんは、そう言って大笑いしたという。

「日用品だって、なくなりゃ自動的に補充されてる、なんて一人暮らしにゃないからね!歯ブラシとか石鹸とか。あんたもそういうののストックはマメにやっとかないとダメだよ?」

 お母さんから言われて、ハッとした。
 歯ブラシは、何回も換えている。むろん髭剃りや、シェービングクリームなんかも。
 でも。 石鹸を換えた覚えが、 ない。
 というか。向こうへ行って、石鹸がちびていった記憶が、まったく、 ない。

「・・・母ちゃん。最近の石鹸って、保ちが長いの?」
「は?何言ってるんだい。石鹸はいつだって同じくらいに減るさ。あんた、ケチって少しずつしか使ってないんじゃないの?」

 不潔だよソレ!と怒られるが、そんなことはない。
 体はおろか、頭だって(!)毎日、石鹸で洗っているのである。
 それなのに。何故?

   ※   ※   ※   ※

 アパートに戻るや真っ先に、三井寺さんは風呂場へ直行してみた。
 が、家に帰る前の日まで確かにあった筈の石鹸が、何処にも見当たらない。
 まったく減らなかった筈の石鹸が――

「仕方なかったから、近くのコンビニで 新しいの買って来ました」

 それから普通に減るようになったから安心です、と三井寺さんは笑った。

 もしお母さんから指摘されなかったら、卒業するまでずっと減らない石鹸を使い続け、それにずっと気付かずにいたのではないかと思うと、最近少しゾッとするという。
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