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#006 『拳一つ』
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利根川さんの一族は、大が付くほど酒豪の家系である。そして彼だけが下戸で、一滴もお酒が飲めない。
家族の友人らも漏れなくお酒が大好きで、自宅ではしばしば、夜遅くまで酒盛りが挙行される。すると一人だけ飲めない人間の悲しさ、飲み物が切れてしまった際に補充を買いに行かされるハメになる。
どれほど多めに酒類を買っていても常に足りなくなってしまう為、「うちは酒飲みの魔窟か」と いつも辟易しながら、利根川さんはパシリ仕事に精を出していたという。
その日もアルコールが切れてしまったのに場は盛り上がりまくりだったので、利根川さんは更なるビールを購うためにコンビニへ車を走らせた。
首尾良く指名銘柄20本ばかりを買い込み、ついでに自分用にジュースを二本(お駄賃として貰ったお金で)購入すると、帰路を急ぐことにした。
いつも通る十字路に差し掛かる。
その近所は交通量も比較的少なく、夜も遅いので、信号機が点滅モードになっている。
左右をよく確認し、速度を少し緩めて通過しようとしていたその時、
「えっ?」
いきなり信号機が赤を示した。
何だこれは故障か――と思うより先に、反射的に車を停止させてしまった。
(・・・仕方ない。青になるまで律儀に待つか・・・いや、点滅モードに戻るのかな?)
ずっと赤のまんまだったらヤだな、と思いながら何気なく視線を車の外、道路の右の方へやってみて、ハッと気付いた。
古い平屋の空き店舗が一件。
確かここ、半年前までラーメン屋だったんだよな、と思い出す。
ご主人だったお爺さんが突然死したとかで、店が潰れて空き家になってたんだ。
そこの玄関戸が、かすかに開いている。
店の中は真っ暗で何も見えないが、確かに戸は開いている。拳一つぶんくらい。
――誰か明るいうちに訪ねてきて、そのまま閉め忘れて帰ったのか?
(そうに違いない、そうに違いない)
信号をちらりと見ると、まだ赤。
いっそこのまま行っちまうか、と苛立ちながら、もう一度 空き店舗の方を見てみる。
戸は、閉まっていた。
は?と小さく口から漏れる。
直後、何も操作していないのに運転席と助手席のパワーウインドゥが開いた。
拳一つぶんくらい。
利根川さんは、生まれて初めて信号無視をした。
びゅんびゅん飛ばして帰った。
家に帰ると、呑ん兵衛達が全員、キツネに抓まれたような表情で黙りこくっていた。
何でも、わいわいやっている途中に突然、部屋の窓が少しだけ開いたのだという。
利根川さんのお母さんが気付いて閉めると、それがまた、直ぐに開く。
鍵を締めても、カチャッと開錠され、また 開く。
それが三度ばかり繰り返され、みんな酔いが吹っ飛んだのだ、と。
そんなばかな、と利根川さんは口元を引きつらせながら窓の方を見た。
拳一つぶんだけの隙間 窓は開いていたという。
家族の友人らも漏れなくお酒が大好きで、自宅ではしばしば、夜遅くまで酒盛りが挙行される。すると一人だけ飲めない人間の悲しさ、飲み物が切れてしまった際に補充を買いに行かされるハメになる。
どれほど多めに酒類を買っていても常に足りなくなってしまう為、「うちは酒飲みの魔窟か」と いつも辟易しながら、利根川さんはパシリ仕事に精を出していたという。
その日もアルコールが切れてしまったのに場は盛り上がりまくりだったので、利根川さんは更なるビールを購うためにコンビニへ車を走らせた。
首尾良く指名銘柄20本ばかりを買い込み、ついでに自分用にジュースを二本(お駄賃として貰ったお金で)購入すると、帰路を急ぐことにした。
いつも通る十字路に差し掛かる。
その近所は交通量も比較的少なく、夜も遅いので、信号機が点滅モードになっている。
左右をよく確認し、速度を少し緩めて通過しようとしていたその時、
「えっ?」
いきなり信号機が赤を示した。
何だこれは故障か――と思うより先に、反射的に車を停止させてしまった。
(・・・仕方ない。青になるまで律儀に待つか・・・いや、点滅モードに戻るのかな?)
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確かここ、半年前までラーメン屋だったんだよな、と思い出す。
ご主人だったお爺さんが突然死したとかで、店が潰れて空き家になってたんだ。
そこの玄関戸が、かすかに開いている。
店の中は真っ暗で何も見えないが、確かに戸は開いている。拳一つぶんくらい。
――誰か明るいうちに訪ねてきて、そのまま閉め忘れて帰ったのか?
(そうに違いない、そうに違いない)
信号をちらりと見ると、まだ赤。
いっそこのまま行っちまうか、と苛立ちながら、もう一度 空き店舗の方を見てみる。
戸は、閉まっていた。
は?と小さく口から漏れる。
直後、何も操作していないのに運転席と助手席のパワーウインドゥが開いた。
拳一つぶんくらい。
利根川さんは、生まれて初めて信号無視をした。
びゅんびゅん飛ばして帰った。
家に帰ると、呑ん兵衛達が全員、キツネに抓まれたような表情で黙りこくっていた。
何でも、わいわいやっている途中に突然、部屋の窓が少しだけ開いたのだという。
利根川さんのお母さんが気付いて閉めると、それがまた、直ぐに開く。
鍵を締めても、カチャッと開錠され、また 開く。
それが三度ばかり繰り返され、みんな酔いが吹っ飛んだのだ、と。
そんなばかな、と利根川さんは口元を引きつらせながら窓の方を見た。
拳一つぶんだけの隙間 窓は開いていたという。
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