真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#039『くしゃみゾーン』

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(・・・あれ?もしかしてここは、なのか・・・?)

 ついこの間の話だという。

 仕事の都合で新しい町に転居した池谷さんは、その新しい通勤路を一ヶ月ばかり車で通るうちに、奇妙なことに気付いてしまった。

 職場と自宅とのちょうど間に位置するスーパーの近く。
 そこにはバス停もあるので、田舎ながらもけっこう人通りの多い道なのではあるが、

(あ、 やっぱりあの人も !)

 ハクションッ、

 と車のウインドゥ越しに声まで聞こえそうなほどに。
 何故か―― そこを歩く人々は、〝全員くしゃみをしている〟のだ。
 少なくとも、その道を池谷さんが車で通りかかって外を見た場合、老若男女を問わず、必ず誰かが くしゃみをしている現場に遭遇するのである。

 くしゃみをしなかった人はいるか?と考える。
 ――いないかも知れない。ほぼ100%じゃなかろうか。

(ハハハ・・・ まさか、な)

 あまりにバカバカしい発想に、本人も苦笑した。そんなわけあるかい、と自分自身にツッコんだという。

 しかし。

(あっ、あの人も くしゃみした・・・)
(今日もだ・・・)
(えっ、今回もかよ・・・)

 それから一週間、気をつけて観察してみたところ。何とその通りを通過する際に人と出くわした場合、本当に100%の確率で皆くしゃみをしていることが判明したのだ。

 おかしい、気持ち悪いという以前に、「何故か?!」という好奇心の方が刺激された。
 もしかして、あの道には「人にくしゃみをさせる何か」があるのかも。
って、?!)

 そんなわけで、休日である。
 池谷さんは、近くの公民館の駐車場に車を停めさせて貰い、くだんのスーパー付近の通りまで歩いてきてみた。
 さぁ、今から〝くしゃみゾーン〟を通過する。
 自分も見事、くしゃみをしてしまうのか??

 息を殺して、一歩一歩、歩いた。
 妙にドキドキしていた。子供の頃に戻って、バカな遊びをやっている気分だ。
 あと少しでスーパーに着く。あと少し、あと少し・・・


 くしゃみは、出なかった。


 ・・・なぁんだ、と心底ガッカリしている自分に気付き、妙におかしくなって一人、笑ってしまった。女房子供もいる男が、何を休日にバカやってんだか。
 スーパーに寄って飲み物を買い、そのまま散歩がてらに周囲をぶらぶらして、車で家に帰った。当然ながら、くしゃみは一回も出なかった。

  ※   ※   ※   ※

 翌日、昼休みに弁当をつかっていると、同僚の一人から「あの~・・・」と歯切れの悪い声を掛けられた。
 どうしたんです? 白米をもぐもぐやりながら応えると、「もしかして昨日○○スーパーの近くをお昼前くらいに歩いてませんでした?」苦笑いのような顔で尋ねられる。

 ええ、歩いてましたよ?と涼しい顔で言った。
 同僚の苦笑いが消えた。

「あの、池谷さん。ここだけの話ですよ・・・私の見間違いに違いないんだけど、ですね。もし何かあったら大変だから。バカなことかも知れないけど、正気を疑われるかも知れないけれど、そこんとこ わかってて言うんですけどね、」


 昨日、車で 例のスーパーの近くを通りかかったら、
 3人の池谷さんが1メートル感覚くらいで歩道に並んでいて、
 全員 同じタイミングの動きで、
 ものすごい くしゃみをしてたんですよ。
 何回も、何回も。


「膝を突いて、うずくまるような姿勢で、ね」


  ※   ※   ※   ※

 同僚の目撃談を聞いたのが、何らかの契機のようだった。
 池谷さんが、「くしゃみをする人」を その通りで見かけることは、パッタリと無くなってしまった。

 ある意味で安心していると彼は笑うが、

 同時に。五月に行われる次回の社内健康診断が、何だか凄く心配だという。
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