真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

文字の大きさ
75 / 102

#074 『テレビ幽霊ちゃん』

しおりを挟む
 森繁さんという悠々自適な老後を過ごしておられる紳士が、建築関係の仕事の都合で大阪に住んでいらした現役バリバリの頃の話。

 当時 彼が一人住まいしていたアパートでは、「何もしていないのにひとりでにテレビがつく」という謎の現象が頻繁に発生していた。

 しかも、ついたテレビには決まって、ある有名な男性芸人が映っている。
 これは 彼のファンである『幽霊ちゃん』の仕業に違いない・・・と、若かりし頃の森繁さんは確信を持って考えていた。

 ――ピッ
「あ、ついた」

 ――ピッ
「げ、またかい」

 ――ピッ
「あら、またテレビ・・・」

 ――ピッ
「何や、今日は多いな」


 日に少なくとも2、3回、そのようなことが起こるのである。
 最初はひどく不気味に感じていたものの、あまりに度々なので逆に一ヶ月と経たないうちに すっかり慣れてしまった。

 別に、不意に映ったテレビが怪奇特集をやり出すわけでもない。
 芸人さんを狙って映すのだから、ほとんどがお笑い番組だ。
 更に向こうも(?)それなりに気を遣ってくれているのか、一瞬だけ映したら、直ぐにまた電源を切ってくれる。


 ――ピッ
「おや、またかいな。幽霊ちゃん、ほんま〇〇〇さんが好っきやなぁ」


 遂にはそんな軽口が飛び出すくらいになってしまったという。


  ※   ※   ※   ※

 ――ピッ

 ある日、森繁さんが仕事の資料と睨めっこをしていると、また突然にテレビがついた。

『ちょ、それアカンやろ!いやいやいや本気本気』

 画面の中で、芸人〇〇〇さんが 軽妙なトークを披露。会場からドッカンドッカンの笑いを取っている。

『やー、今日はお客さんの反応が最高ですねぇ-、居心地ええわぁ。ここに住もうかな、ボク』

 と、そこでプツン、とテレビが消えた。
 いつものことだ。
 が。


 ――森繁さんは、顔面蒼白になった。


 何故ならば、その時 芸人〇〇〇さんは、とある不祥事が元で業界を干されていたからだ。
 当然、彼がテレビに出演しているとすれば その不祥事を報道するニュース番組くらいである。

 なのに。

(・・・いまの番組、何??)

 真っ黒なテレビの画面を凝視しながら、ごくりと唾を飲んだ。
 映ってなかった?いま・・・・・・


 ――ピッ

 それから二時間ほどして、またテレビがついた。

『ハイ!というわけで、次のコーナーですけどねぇ』

 謹慎している筈の、〇〇〇さんの笑顔のトーク。
 また、プツンと切れる。

 ありえない。
 何だこれ 何だこれ 何だこれ。わけわからん!

(・・・やばい。もう ここ、よう住めん・・・)

 森繁さんは震えが止まらなくなった。


  ※   ※   ※   ※

 結局、それから直ぐに転居し、府内の別のアパートに入った。
 テレビは同じものを使用したが、もうそれがいきなり芸人〇〇〇さんの映像を映し出すことは無かった。

「いや・・・よくよく考えれば、テレビがいきなり〇〇〇さんの番組のみを映す時点でおかしすぎる話なんですけどね・・・・・・」

 頬をポリポリ掻きながら、苦笑まじりに森繁さんは語られる。

「ありえない要素がひとつ増えただけで、人間てアホみたいに恐怖が湧いてくるもんなんですな。まるでビデオみたいに〝放送されていない筈の映像〟がテレビに流れた時の空恐ろしさときたら、もう、忘れられません」


 そこまで徹底して、何故〇〇〇さんが出ている映像のみをテレビに映すのか。
 いやもしかして、何らか意図があって 〇〇〇さんの姿を自分に見せつけようとしているのか?
 そう考えると、理解不能な『幽霊ちゃん』の情熱が 心底怖くなったのだという。


 『幽霊ちゃん』て 実際 何かを森繁さんに伝えたかったんでしょうかねぇ?
 何気なく私が言うと、「いや、それ、たぶん知ってしまったら眠れなくなるようなことだと思うから 今は深く考えないようにしとります」と ぶんぶん頭を左右に振りながら森繁さんは仰った。

 今でも、復帰した〇〇〇さんがテレビに映ると、ぞくりとするという。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...