真事の怪談～魔性黒電話 通話25件～

第25報『黒電話』

　最近のこと。

　詩歌しいかさんのお母さんが、押し入れの整理中に見知らぬ菓子箱を見つけた。

　中に入っていたのは、小さな引っかき傷が無数に走った薄汚れた黒電話の受話器。
　コードは途中でむしり取られたように断絶している。
　見た瞬間に総毛立つようなものを感じ、家族に心当たりを聞きただしてみたところ、「それは俺が直したんだ」と答えた者があった。

　お父さんだった。

「学生時代に、近所の廃屋病院を探険した時に取ってきたもんだ。戦利品ってヤツさ」

　そう言って、屈託無く笑う。
　当時の探険の様子を事細かに語って、子供みたいにエッヘンと胸を張った。

　この人、マトモかよと思った。

　詩歌さんがよくよく見てみたところ、受話器に付いていた傷は予想以上に細かくミリ単位の間隔で刻み込まれており、しかもそれがぜんぶ　×印を為していることがわかった。
　人間の仕業だとすれば、途方も無い職人技である。

　お母さんに知らせると吐き気を催すほどのショックを受けたらしく、「もうこれ、捨てる」と即決の声を聞かされた。

　傷だらけの受話器は、燃えないゴミの日に捨てられてしまった。


　後日、お父さんが「そう言えばあの受話器どうした」と訊ねてきたので、「もう捨てちゃったみたい」と詩歌さんは返した。
　するとお父さんは突然「はっはっは」と快活に笑い、「詩歌は受験勉強の方、はかどってるのか？」　ぜんぜん方向違いの質問をしてきた。
　･･･よくわからないけど、何か怖い、と思った。


　今から思えば『傷だらけの黒電話の受話器』に対するお父さんの受け応えはすべてが不自然な自然体で、いま思い出しても全部に身震いがする、と。
　今年大学生になったばかりの詩歌さんは、スマホ越しにひそめた声で　そう告白された。