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第陸念珠
#058『畑に埋まる仕事』
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#052『肉玉』の〝彼〟から聞いた話を、もう一話書こうと思う。
〝彼〟が、「正直、今までで生きてきた中で一番のトラウマ」だと語るエピソードだ。
故に、舞台となった土地名はおろか 明確な時期まで伏せて記そうと思う。
それくらい深く「あちらの方」に配慮しておかないと
きっと、この話も 危ない。
❖ ❖ ❖ ❖
オカルトと民俗学をこのうえ無く愛する〝彼〟が まだ社会人となって間もない頃のこと。
実家が道路拡張の煽りを受けて家を建て直す羽目になったので、引っ越しの手伝いをする為に長期の里帰りをしていたのだという。
「立て替えが済むまでは、隣県にあった別宅の方へ家族は移っていました。結局なんやかやで一ヶ月くらいは滞在してたのかな。懐かしい故郷ってヤツに」
必要な時には労働力として家族に貢献したが、それ以外の時間帯は割と自由だったという。
ならば。せっかく帰郷したのだし、今まであまり足を運ばなかった〝地元近辺〟を自転車に跨がって徹底的にフィールドワークしてやろうじゃないか、と〝彼〟は思い立ったそうだ。
「観光地も近いですからね。土地柄ってやつなのか、地元の方では割と誰に対してもフランクなんですよ。『何か昔から伝わる伝説とか聞かせて下さ~い』とかいきなり振っても、『ハイハイ、ここらへんでは昔ねぇ~』って感じで、おおらかに答えてくれるわけです」
フィールドワークは捗った。
地元には、日本神話に直結するタイプの興味深い民話や 巨人伝説の足跡などがあったので、なかなか有意義な時間を過ごすことが出来たという。
家族と共に一時的に移り住んだ別宅は小高い山の上にあり、そこから自転車を飛ばせば直ぐに地元の市内へ出られる。
加えて、〝彼〟は健脚だ。三時間ほどサイクリングを楽しみながら田畑が広がる農耕地帯まで至り、そこに住む素朴な人々から様々なお話を取材していたというから イヤハヤ並々ならぬ民俗学根性。恐れ入る。
「そんな中、ですね・・・ ある地区の、長閑な農道を通ったんです。ええ、麦わら帽子被ったおじさんとかが、数人で畑仕事してるような。よくある日本の田舎道でした」
そこで、〝彼〟は聞き込みを挙行することにした。
おじさん達に声をかけ、手短に趣旨を説明する。
「ナニ、ここらへんの昔話とかを教えてくれ、だって?」
「ははははは!兄ちゃん、面白いな。ちょっとこっち来いや」
農家の方々の対応は、相変わらず 気さくそのもの。
腹減ってないか?喉渇いてないか? と。漬物や飲み物を勧められたという。
「漬物は大根の葉っぱでしたね。飲み物は、紫蘇ジュースと麦茶。 ・・・ぜんぶ僕の苦手なモノだったから、すっごくよく覚えてます」
取材ついでの世間話によれば。どうも彼らは 数名が合同で大きな一つの畑を耕作している〝運命共同体〟らしい。
そして今、次に栽培する作物に合わせた『土作り』を行っている途中であったのだという。
「土を作るのは大事だよぅ?野菜には、それぞれに合った〝土質〟ってのがあるからねぇ」
なるほど、と思いながら畑を見渡す〝彼〟。
すると 牧歌的に広がる土色の視界の中、不意に〝あるもの〟が飛び込んできた。
腕。
「ん?!!」
少し遠くに位置する畑の土の中から、
二本の腕が生えている。
綺麗に耕された農耕地。そこからまっすぐ、天を突くようにして
肌色の 人間の 腕が――
「ワーッッハハハハハハハハ!」
「見つけたか、びびったな、兄ちゃん。ハーッハハハハハ・・・」
――不意に笑い声を上げられたので、本気で肝を潰した。
驚いて絶句した〝彼〟を尻目。農家のおじさん達は皆、如何にも楽しそうに 爆笑の声を発し続けたのだという。
「ハハハハハ・・・ あれはな、兄ちゃん。参ってんの」
「ま、参ってる?」
「そ。 お参り、お参り」
何でも。それはこの土地独特の民間信仰(?)のようなものであり、
土の中に人を埋め、手を空に伸ばすような形にすることによって、豊作をお参りしているのだという。
つまり、身体を張って神様に「今年も畑を宜しくお願いします!」と祈願しているわけ、なのだそうだ。
(そ、そんな信仰とかあるか?!)
〝彼〟は驚いた。〝腕〟を発見した時よりも驚いていた。
何より、終始そのような説明で強引に納得させようとする農家の方々の有無を言わせぬ迫力に 言葉をなくしてしまったのである。
「そ、そうなんですか。 へぇー、伝統的なんだ~、コレ・・・」
やっとのことでそう絞り出し、平静を装う。
何だか怖いが、好奇心も有り余るほどにあった。
近くで見てもいいですか?と訊くと、「いいよ」とのことなので おそるおそる、〝腕〟の方へ近寄ってみた。
更に驚いた。
本当に腕しか出ていない。
つまり、顔を含めた全身が―― 二本の腕を残して、すべて土の中に埋まり込んでいるわけである。
(こ、呼吸の為の筒とかが・・・・・・)
無い。
顔にあたる部分からは、何も露出していなかった。
では この埋められた人は、どうやって息をしているというのだ?
――そうだ、作り物だ。きっとそうだ。
〝彼〟は、続けてそう思った。
自分は、担がれているに違いない。田舎の人の悪い冗談なのだ。この腕は、きっとマネキンのものとかなのだ。偽物なのだ。
(いや。 待て。これは――)
〝彼〟は、職業柄 医療の知識と経験がある。
だから、気付いてしまった。
今、自分の目の前で 土の中からニョッキリ生えている 二つの物体。
(間違いなく 人間の腕だ・・・・・・!)
農家の人々は、それからも何やらずっと、〝彼〟に話しかけてきたらしい。
だが、その言葉は半分も〝彼〟の耳には入って来なかった。
――早く、ここから立ち去らなければ。
何か、この畑。 この人達。
やばい。
本気でそう思ったので、別れの挨拶が口から出ていた。
貴重な信仰の現場を見せて頂いてありがとうございます。しかし次を急ぎますので、この辺りで失礼させて頂きます――
「何だ、もう行っちゃうのか、兄ちゃん」
おじさんの一人が言った。
「せっかくだから、一回やってみっか?」
そう訊かれた。
何をですか?と訊ね返すと、
「畑に埋まる仕事を、さ。 ハハハハハハハ・・・!」
――失礼します。
力強くペダルを踏み込んだ。
一目散に、その場を離れた。
何だ、あれは。
何だったんだ。
やばいぞ、本気でやばい。
もう忘れなきゃ、こんなコト・・・
と。
しばらく自転車を走らせているうち、〝彼〟は妙な感覚を覚えた。
眠気が差してきたのだ。
それも、急激に。合わせて、口を覆いたくなるような吐き気も込み上げてくる。
万一の為に、街を目指して下り坂をひたすら下りていった。「人の居る場所に出なければ」と直感したのだ。
街中に至った。
ホッとしたのも束の間、
強い吐き気に耐えられず、図らずも嘔吐してしまった。
(え、え、ちょっと待って。 これ、もしかして・・・)
さっき振る舞われた 大根の葉の漬物。紫蘇ジュース。
苦手なモノばかりだったけど、
場の流れから、何となく頂いて 口にしてしまった――
(もしかして あの中に・・・・・・)
意識は途切れた。
❖ ❖ ❖ ❖
その後、ややあって。
目が覚めた〝彼〟は、自分が地元近くの病院の中で担架の上に寝かされているという事実に、唖然となった。
どうやら街中で気を失った後、心ある方が救急車を呼んでくれたおかげで 病院へ救急搬送されたようである。
問診を受け、「畑の中から腕が伸びていた」という部分を伏せて経緯を説明した結果、「食あたりと疲労が重なってしまったせいでしょうね」と医師から診断された。
吐いてしまったこともあり、目が覚めた後は割と気分もスッキリしていたらしい。
親に軽トラで迎えに来て貰い、そのまま帰宅した。
気を遣ってくれたのか、帰り道は何も言われなかったという。
更にそれから3年後のことである。
同窓会で再び地元へ帰省した〝彼〟は、問題の『畑に人が埋まっていた』地区出身の友人に向かって、当時の体験を打ち明けてみた。
アルコールが入っていたというので、「ついうっかり話しちゃった」ような感じだったのだろうが、
「お前、まじか。 そうか・・・そうか、そうか」
その友人は、不意にぽろぽろと涙を零しながら「良かったなぁ、良かったなぁ!」と連呼しはじめ、〝彼〟の手をギューッと強く、握りしめてきたのだという。
友人曰く。「詳しいことは決して教えられないが、君が体験したことは あまり地元の人には言わない方がいい」とのこと。
つまり、さっきの「良かったなぁ」は
「命があって良かったなぁ」
という意味だったのだろう。
「・・・・・・ホント言うと、ですね・・・・・・ 長い間、すごく怖かったんですよ。ええ、呪いとか祟りとかじゃなくて、何かこう、もっとリアルな感じに」
あの時、農家の方々が語ってくれた「土に埋まる」風習。
あれはすべて、嘘だったのではないか?
実際は数人がかりで人を埋めていたのではないか。
あの手は、埋められた人の最後の抵抗ではなかったのか。
それを自分が発見するのは想定外の出来事だったのではないか・・・
――むろん、このような〝彼〟の推察には現実的で無い部分も散見出来る。
しかし、実際にこのような事態に巻き込まれ 異様な経験をしたとするならば
至極、もっともな考え方だとも読み取れる。
だが、私が注目したいのは
〝彼〟が続けて語った、次のような考察だ。
「僕が体調を崩した原因が 例の漬物や飲み物だったとするならば 同じものが、土の中に埋められた人にも振る舞われていたのではないでしょうか?」
もし、あの時 吐き気と眠気がもっと早く来ていたら。
もし、下り坂でなく 山を越えるような上り坂を目指して移動していたとしたら
〝彼〟はいま、ここに居たのだろうか?
「あの人達の目的とかはまったくわかりませんけれど・・・・・・ 一歩間違えば 僕も畑に埋まっていたのかも知れません」
❖ ❖ ❖ ❖
――当時の出来事は、本当にその場での出来事として終わったのであろうか。
この話を口外した時、何かが自分を見出し、過去の歯車が再び動き出してしまうのではないだろうか。
そういった不安が、今でも残っているのが本音であるという。
しかし当時、農家の人々に名前も言わずに接したこと。その後 自ら十数年間、関東に移住していることなどを考慮し、〝彼〟は重い口を開くことを決意したという。
「松岡さんに、この話を供養して頂きたいんです」
文章化し、公表することが供養だというならば 私は喜んで協力させて頂く。
〝彼〟が、長年モヤモヤを募らせて 不安に戦かされていた、曰く付きの話だ。
私の手で、解き放たせて頂く。
結果は、皆様 ごろうじろ である。
〝彼〟が、「正直、今までで生きてきた中で一番のトラウマ」だと語るエピソードだ。
故に、舞台となった土地名はおろか 明確な時期まで伏せて記そうと思う。
それくらい深く「あちらの方」に配慮しておかないと
きっと、この話も 危ない。
❖ ❖ ❖ ❖
オカルトと民俗学をこのうえ無く愛する〝彼〟が まだ社会人となって間もない頃のこと。
実家が道路拡張の煽りを受けて家を建て直す羽目になったので、引っ越しの手伝いをする為に長期の里帰りをしていたのだという。
「立て替えが済むまでは、隣県にあった別宅の方へ家族は移っていました。結局なんやかやで一ヶ月くらいは滞在してたのかな。懐かしい故郷ってヤツに」
必要な時には労働力として家族に貢献したが、それ以外の時間帯は割と自由だったという。
ならば。せっかく帰郷したのだし、今まであまり足を運ばなかった〝地元近辺〟を自転車に跨がって徹底的にフィールドワークしてやろうじゃないか、と〝彼〟は思い立ったそうだ。
「観光地も近いですからね。土地柄ってやつなのか、地元の方では割と誰に対してもフランクなんですよ。『何か昔から伝わる伝説とか聞かせて下さ~い』とかいきなり振っても、『ハイハイ、ここらへんでは昔ねぇ~』って感じで、おおらかに答えてくれるわけです」
フィールドワークは捗った。
地元には、日本神話に直結するタイプの興味深い民話や 巨人伝説の足跡などがあったので、なかなか有意義な時間を過ごすことが出来たという。
家族と共に一時的に移り住んだ別宅は小高い山の上にあり、そこから自転車を飛ばせば直ぐに地元の市内へ出られる。
加えて、〝彼〟は健脚だ。三時間ほどサイクリングを楽しみながら田畑が広がる農耕地帯まで至り、そこに住む素朴な人々から様々なお話を取材していたというから イヤハヤ並々ならぬ民俗学根性。恐れ入る。
「そんな中、ですね・・・ ある地区の、長閑な農道を通ったんです。ええ、麦わら帽子被ったおじさんとかが、数人で畑仕事してるような。よくある日本の田舎道でした」
そこで、〝彼〟は聞き込みを挙行することにした。
おじさん達に声をかけ、手短に趣旨を説明する。
「ナニ、ここらへんの昔話とかを教えてくれ、だって?」
「ははははは!兄ちゃん、面白いな。ちょっとこっち来いや」
農家の方々の対応は、相変わらず 気さくそのもの。
腹減ってないか?喉渇いてないか? と。漬物や飲み物を勧められたという。
「漬物は大根の葉っぱでしたね。飲み物は、紫蘇ジュースと麦茶。 ・・・ぜんぶ僕の苦手なモノだったから、すっごくよく覚えてます」
取材ついでの世間話によれば。どうも彼らは 数名が合同で大きな一つの畑を耕作している〝運命共同体〟らしい。
そして今、次に栽培する作物に合わせた『土作り』を行っている途中であったのだという。
「土を作るのは大事だよぅ?野菜には、それぞれに合った〝土質〟ってのがあるからねぇ」
なるほど、と思いながら畑を見渡す〝彼〟。
すると 牧歌的に広がる土色の視界の中、不意に〝あるもの〟が飛び込んできた。
腕。
「ん?!!」
少し遠くに位置する畑の土の中から、
二本の腕が生えている。
綺麗に耕された農耕地。そこからまっすぐ、天を突くようにして
肌色の 人間の 腕が――
「ワーッッハハハハハハハハ!」
「見つけたか、びびったな、兄ちゃん。ハーッハハハハハ・・・」
――不意に笑い声を上げられたので、本気で肝を潰した。
驚いて絶句した〝彼〟を尻目。農家のおじさん達は皆、如何にも楽しそうに 爆笑の声を発し続けたのだという。
「ハハハハハ・・・ あれはな、兄ちゃん。参ってんの」
「ま、参ってる?」
「そ。 お参り、お参り」
何でも。それはこの土地独特の民間信仰(?)のようなものであり、
土の中に人を埋め、手を空に伸ばすような形にすることによって、豊作をお参りしているのだという。
つまり、身体を張って神様に「今年も畑を宜しくお願いします!」と祈願しているわけ、なのだそうだ。
(そ、そんな信仰とかあるか?!)
〝彼〟は驚いた。〝腕〟を発見した時よりも驚いていた。
何より、終始そのような説明で強引に納得させようとする農家の方々の有無を言わせぬ迫力に 言葉をなくしてしまったのである。
「そ、そうなんですか。 へぇー、伝統的なんだ~、コレ・・・」
やっとのことでそう絞り出し、平静を装う。
何だか怖いが、好奇心も有り余るほどにあった。
近くで見てもいいですか?と訊くと、「いいよ」とのことなので おそるおそる、〝腕〟の方へ近寄ってみた。
更に驚いた。
本当に腕しか出ていない。
つまり、顔を含めた全身が―― 二本の腕を残して、すべて土の中に埋まり込んでいるわけである。
(こ、呼吸の為の筒とかが・・・・・・)
無い。
顔にあたる部分からは、何も露出していなかった。
では この埋められた人は、どうやって息をしているというのだ?
――そうだ、作り物だ。きっとそうだ。
〝彼〟は、続けてそう思った。
自分は、担がれているに違いない。田舎の人の悪い冗談なのだ。この腕は、きっとマネキンのものとかなのだ。偽物なのだ。
(いや。 待て。これは――)
〝彼〟は、職業柄 医療の知識と経験がある。
だから、気付いてしまった。
今、自分の目の前で 土の中からニョッキリ生えている 二つの物体。
(間違いなく 人間の腕だ・・・・・・!)
農家の人々は、それからも何やらずっと、〝彼〟に話しかけてきたらしい。
だが、その言葉は半分も〝彼〟の耳には入って来なかった。
――早く、ここから立ち去らなければ。
何か、この畑。 この人達。
やばい。
本気でそう思ったので、別れの挨拶が口から出ていた。
貴重な信仰の現場を見せて頂いてありがとうございます。しかし次を急ぎますので、この辺りで失礼させて頂きます――
「何だ、もう行っちゃうのか、兄ちゃん」
おじさんの一人が言った。
「せっかくだから、一回やってみっか?」
そう訊かれた。
何をですか?と訊ね返すと、
「畑に埋まる仕事を、さ。 ハハハハハハハ・・・!」
――失礼します。
力強くペダルを踏み込んだ。
一目散に、その場を離れた。
何だ、あれは。
何だったんだ。
やばいぞ、本気でやばい。
もう忘れなきゃ、こんなコト・・・
と。
しばらく自転車を走らせているうち、〝彼〟は妙な感覚を覚えた。
眠気が差してきたのだ。
それも、急激に。合わせて、口を覆いたくなるような吐き気も込み上げてくる。
万一の為に、街を目指して下り坂をひたすら下りていった。「人の居る場所に出なければ」と直感したのだ。
街中に至った。
ホッとしたのも束の間、
強い吐き気に耐えられず、図らずも嘔吐してしまった。
(え、え、ちょっと待って。 これ、もしかして・・・)
さっき振る舞われた 大根の葉の漬物。紫蘇ジュース。
苦手なモノばかりだったけど、
場の流れから、何となく頂いて 口にしてしまった――
(もしかして あの中に・・・・・・)
意識は途切れた。
❖ ❖ ❖ ❖
その後、ややあって。
目が覚めた〝彼〟は、自分が地元近くの病院の中で担架の上に寝かされているという事実に、唖然となった。
どうやら街中で気を失った後、心ある方が救急車を呼んでくれたおかげで 病院へ救急搬送されたようである。
問診を受け、「畑の中から腕が伸びていた」という部分を伏せて経緯を説明した結果、「食あたりと疲労が重なってしまったせいでしょうね」と医師から診断された。
吐いてしまったこともあり、目が覚めた後は割と気分もスッキリしていたらしい。
親に軽トラで迎えに来て貰い、そのまま帰宅した。
気を遣ってくれたのか、帰り道は何も言われなかったという。
更にそれから3年後のことである。
同窓会で再び地元へ帰省した〝彼〟は、問題の『畑に人が埋まっていた』地区出身の友人に向かって、当時の体験を打ち明けてみた。
アルコールが入っていたというので、「ついうっかり話しちゃった」ような感じだったのだろうが、
「お前、まじか。 そうか・・・そうか、そうか」
その友人は、不意にぽろぽろと涙を零しながら「良かったなぁ、良かったなぁ!」と連呼しはじめ、〝彼〟の手をギューッと強く、握りしめてきたのだという。
友人曰く。「詳しいことは決して教えられないが、君が体験したことは あまり地元の人には言わない方がいい」とのこと。
つまり、さっきの「良かったなぁ」は
「命があって良かったなぁ」
という意味だったのだろう。
「・・・・・・ホント言うと、ですね・・・・・・ 長い間、すごく怖かったんですよ。ええ、呪いとか祟りとかじゃなくて、何かこう、もっとリアルな感じに」
あの時、農家の方々が語ってくれた「土に埋まる」風習。
あれはすべて、嘘だったのではないか?
実際は数人がかりで人を埋めていたのではないか。
あの手は、埋められた人の最後の抵抗ではなかったのか。
それを自分が発見するのは想定外の出来事だったのではないか・・・
――むろん、このような〝彼〟の推察には現実的で無い部分も散見出来る。
しかし、実際にこのような事態に巻き込まれ 異様な経験をしたとするならば
至極、もっともな考え方だとも読み取れる。
だが、私が注目したいのは
〝彼〟が続けて語った、次のような考察だ。
「僕が体調を崩した原因が 例の漬物や飲み物だったとするならば 同じものが、土の中に埋められた人にも振る舞われていたのではないでしょうか?」
もし、あの時 吐き気と眠気がもっと早く来ていたら。
もし、下り坂でなく 山を越えるような上り坂を目指して移動していたとしたら
〝彼〟はいま、ここに居たのだろうか?
「あの人達の目的とかはまったくわかりませんけれど・・・・・・ 一歩間違えば 僕も畑に埋まっていたのかも知れません」
❖ ❖ ❖ ❖
――当時の出来事は、本当にその場での出来事として終わったのであろうか。
この話を口外した時、何かが自分を見出し、過去の歯車が再び動き出してしまうのではないだろうか。
そういった不安が、今でも残っているのが本音であるという。
しかし当時、農家の人々に名前も言わずに接したこと。その後 自ら十数年間、関東に移住していることなどを考慮し、〝彼〟は重い口を開くことを決意したという。
「松岡さんに、この話を供養して頂きたいんです」
文章化し、公表することが供養だというならば 私は喜んで協力させて頂く。
〝彼〟が、長年モヤモヤを募らせて 不安に戦かされていた、曰く付きの話だ。
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