真事の怪談～寸志小品七連～

其ノ一『いろは』

　拓郎さんは小学生の頃、心霊特集のテレビで『河童のミイラ』なるものを観てひどく衝撃を受けた。ある酒造の守り神として蔵の奥に祀られている有名な一品である。

　翌日、友達の春夫くんに「あれスゴかったなぁ」と話を振ると、「俺も観た。でも、ウチにはもっとスゴいのがあるよ」と自慢げに返される。

「こびとの髑髏だよ。拓ちゃんにだけは見せてやる。明日、持ってくる」

　その翌日、春夫くんは本当に、薄黄土色をした子供の握り拳ほどの髑髏を学校に持ってきた。
　ヒョイとポケットから出されたそれに、拓郎さんはかなりビビったという。
　赤ちゃんの頭蓋骨かな？とも思ったが、キチンと成人男性のかたちが整っている。下顎骨まできれいに付いている。
　ひとつ奇妙だったのが、脳天にあたる部分に「いろは」と三文字、毛筆で書かれていること。
　気になった拓郎さんが「いろは、って何？」と訊ねると、「え。どういうこと？」と首を傾げられた。どうも春夫くんには、こんなに明らかに書かれたひらがなの文字が見えないらしかった。
　珍しいけど、これ家宝？とも訊いたが、もじもじして黙っている。

　引っかかるものは感じたが、あえてそれ以上質問せず、「すげーすげー」と素直に驚いてみせた。春夫くんは終始、得意げだった。


　次の日、春夫くんは学校に来なかった。
　更に次の日も、その次の日も。
　彼のお父さんが友人の連帯保証人になって雲隠れされ、多額の借金を肩代わりしなければならなくなったせいだ･･･と知ったのは、3日後だった。


　この一件には〝いろはの小髑髏〟が何か関与している。　――拓郎さんは四十路に近くなった今も、そう確信しているという。