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ココロノウチ
ココロノウチ
しおりを挟む洋介は夢をみていた。
それはかつて妻とともにすんでいた自宅の食卓。
妻は台所で背中を向けて洗い物をしている。
今日さぁ、俺 海で死のうとしていた女の人を助けたんだぜ。
へぇ凄いじゃない。
それでその女の人は助かったの?
妻は背中を向けたまま答えた。
ああ。俺が必死になって海の中に入って腕を引っ張って砂浜まで戻したんだ。
その人助かって良かったわね。
おかげで服もずぶ濡れになっちゃってね。
フフ、あなたらしいね。
相変わらず妻は背中を向けたまま皿を洗っている。
…
俺にしてはよくやったろ?
よくやったわ
偉いわよ…
…うん…
次の瞬間には妻の姿は見えなくなっていた。
あれ?どこ?
ゆっくり瞼を開けるとホテルのカーテンの隙間から朝陽が入り込んでいた。
夢…?どこまでが?
全部が夢であってほしい…
涙が瞳に浮いた。
妻の美紗子の姿が形として夢に出てきたのは今回が初めてだった。
覚醒するまでまだ少しの時間が必要だった。
洋介は昨日の一件を頭の中で順を追って思い出していった。
支度を整えると平静を装い女の部屋の前に立った。
時間はもう9時を過ぎている。
トントン
二回ノックをする。
返事がない…
少し間を開けてもう一度ノックをする。
トントン
待っても返事がない…
洋介は最悪のケースも覚悟した。
ガチャ
部屋のドアが少し開いた。
昨日と同じ服装で女がドアの向こうに立っていた。
洋介は無事でいてくれたことに内心ホッとしたがそのことはおくびにださないよう普通に
おはよう
と声をかけた。
女は呟くような小さな声で
おはようございます…
と上目遣いに答えた。
相変わらず表情は硬いし、きっと昨夜あの後泣いたのであろう目は充血し腫れていた。
よく休めたかな?
もうここにはいられないからそろそろ出ようか?
…はい…
フロントで洋介は2人分の宿泊料を支払おうとした時女は
昨夜のラーメン代とホテル代自分の分払います。
と言ってきた。
洋介は女がこのような状況でそんなにお金を持っている訳はないと思いここは俺が出すからと言った。
すると女は
私あなたにお金出してもらう理由ない。
と返してきた。
態度が可愛くないと思いつつ女の自尊心を踏みにじるわけにもいかず、またここで押し通すのも逆効果だと思った洋介は女の申し出に従った。
ホテルを出て車に向かう途中女は言った。
私貸し借り嫌い
なかなかこの女性は気が強い人だと洋介は思った。
洋介は行き先も定まらぬままとりあえず車を出した。
朝の陽にキラキラと美しく海が輝いている。
海岸線の道を車は進む。
そう…昨日一歩間違えれば今助手席のこの娘はここにはいない。
洋介の思いを知ってか知らずか相変わらず女は頭をウィンドにもたれて生気のない目を海に向けている。
会話のないまま車を一時間も走らせると道の先に公園があるのを見つけた。
洋介はそこに車を停めた。
公園といっても高台から海が見えるベンチとテーブルが4つあるだけの小さなものだった。
この公園を利用している人は誰もいなかった。
少し休憩しよう。
今後のことも決めたいし…
…はい…
女は力のない声で答えた。洋介と女は並んでベンチに座った。
ベンチからは海が遠くまで見えた。
洋介は女に言った。
そういえば俺らお互い名前も知らないよね?
俺の名前は
なんばようすけ
あ、ちょっと待って。
洋介は急いで車からメモとペンを持ってきた。
こう書くんだ。
南波洋介
君は?
女は答えた。
…郭 愛蘭
発音が難しい。
どう、書くの?
メモに書いてもらって書かれた漢字からようやくなんと言ったか分かった。
といってもなかなか口に出すと発音できず何度も聞き直し女を苛立たせた。
愛蘭さんこれからどうする?
洋介は聞いた。
…
なんの返答もない。
国に帰るかい?
それなら空港まで俺が送っていってもいいよ?
…私帰るとこなんてない…
え…?
帰るところがないなんて…
洋介は一瞬理解出来なかった。
犯罪がらみ?とも考えた。
愛蘭は一度息を吸い込み思い切った様子で息を吐いた。
下向き加減で愛蘭はポツリポツリと自らのことを語り出した。
それは日本に来る前の出来事だった。
愛蘭いよいよ上級試験明日だな?
どうだ勉強は進んでいるか?
…うん…
この試験に合格すればお前のことを周りは今よりもっと尊敬するようになる。
そうすれば片親だからって馬鹿にもされなくなるし、お前の将来は安泰だ。
父さんも頑張ってきた甲斐があるというものだ。
それに亡くなった母さんも喜ぶ。
お母さんの話はやめて…
お父さん
…そうか。
とにかくこんな中流家庭でもあの李家と釣り合う女性になれるんだ。
ねぇお父さん…
何だ?
私…今の学校の教え子たちと別れるのがつらいの。
とてもいい子たちなの。
そんなこと…
試験に合格すればまたレベルの高い学校で教鞭とれるじゃないか?
お前の歳でしかもこの階級の女性教師なんてなかなかいないんだぞ。
…分かってる
…それに私なんのために勉強しているのか分からなくなっちゃった…
何を言っている!
そんなのお前自身のために決まっているだろう。
父さんは母さんが死んでからお前のためならなんだってやってきたし、これからもなんだってやってやる。
お前がそんな弱気でどうする?
愛蘭は無言のまま俯いた。
父さんはお前のことを心から応援しているんだ
それはお前も分かってくれているだろう?
…うん…
試験頑張りなさい。
愛蘭の父親は愛蘭の部屋を出て行った。
ハア…愛蘭は深い溜息をついた。
そしてデスクに置いてある写真立ての写真に向かって
お母さん…
とか細い声をかけた。
頰には涙が流れていた。
写真の中の愛蘭の母親は優しい笑みを浮かべていた。
そして愛蘭は難関の上級試験に合格した。
おめでとう愛蘭~
幼馴染の女友達の王依依が愛蘭の上級試験の合格を聞きつけ家までやって来た。
依依は愛蘭の母親が亡くなって愛蘭が学校の同級生に揶揄われているとき唯一味方になってくれた愛蘭の親友だ。
ありがとう依依
よく頑張ったね
愛蘭はこの街の誇りだよ。
そんなことないよ…
私ね…本当いうと愛蘭が羨ましいの。
え?
容姿も私みたいなブスじゃくて綺麗だしさ、昔から勉強も学年一トップでスポーツも万能。
それにお金持ちで御曹司の天祐君と婚約も決まってるんでしょ?
もう非の打ち所がないじゃない。
私なんか地元の普通の銀行員だしさ、自分のならいいのに毎日人のお金数えているだけだよ~
愛蘭には逆立ちしたってかなわないよ。
依依にはそんな風にみえているのね…
そうだよ~愛蘭は私にとっても誇りなんだよ。
うん…ありがとう…
ところで天祐君からは連絡あったの?
ううん…まだ…
天祐君もきっと忙しいんだね。
今日あたり連絡くるんじゃない?
…そうだね
依依はその後機関銃のように好みの異性のこと、スイーツのお店のこと、流行のファッションのことなど自分の話しを一方的に喋ったあと愛蘭の家を出て行った。
その間愛蘭は適当に相づちをうちながら虚ろに依依の話を聞いていた。
羨ましいか…
一人部屋のベッドで横たわった愛蘭はつぶやいた。
試験勉強の疲れもあってか眠ってしまったのだろう いきなりスマホの着信音が鳴って愛蘭は起こされた。
愛蘭 僕だよ
それは愛蘭の婚約者 李天祐からの電話だった。
天祐とは大学時代にテニスサークルで出逢った。
父親が大企業の社長で彼自身今一流企業でエンジニアとして働いている。
将来は父親の会社の社長になることを約束された御曹司だ。
優しい彼のことは好きだし、家柄も申し分ない。
しかし何か彼に対して心の中にわだかまりのようなものが愛蘭にはあった。
愛蘭 上級試験合格したんだって?
おめでとう!
…うんありがとう
御祝いをしたいんだけど会ってくれるかな?
この間の話しのこともあるし。
…わかった いいよ…
め
愛蘭は応じた。
後日愛蘭は清楚なブルー系のパーティードレスに身を包み指定された彼の父親が経営する一流ホテルの最上階のレストランへ出かけて行った。
ウェイターに席に案内され暫く経ってから彼は小走りで席にやってきた。
いやーごめんごめん
迎えにもいけなくて約束の時間にも遅れちゃって。
今 仕事忙しいんでしょ?
そうなんだよ。いよいよ父が自分の後継者として会社に入って勉強してもらわなくてはならないぞってうるさくて。
今の会社の残務処理もあるからもうバタバタでね。
そんな時間がないのなら私のことで無理しなくていいのに…
何言っているんだよ。
これから僕のお嫁さんになる人を放っておけるもんか。
愛蘭は少し口に笑みをたたえて頷いた。
天祐と婚約したのは去年のこと。
しかし半ば天祐に強引に押し切られて進められた婚約だった。
愛蘭の父も学生時代から彼のことは知っていたし、彼の家柄、経済力も申し分ないと考えたのであろうこの婚約を認めた。
しかし愛蘭が懸念したのは父が彼と会ったとき父親としての振る舞いを見せなかったことだ。
終始彼におべっかを使い娘をよろしくと頭を下げ続けていた。
その姿を見て父の気持ちは痛いほどわかったが、どうしても今まで一生懸命働いてきた父が御曹司というだけでお金持ちの彼にぺこぺこするのには嫌悪感があった。
けれどそんな父の行動も裏を返せば全て私のためなんだと思えば父を責めることはできなかったし、これからの父の生活のことを考えると私さえ耐えればと思うことも仕方ないと感じた。
彼は私に対して優しいし、父に対しても横柄な態度は出さなかった。
ただ彼のことは好きだったが愛があるかと聞かれるとそれはわからなかった。
やがてウェイターが高級ワインを持って席にやってきた。
豪華なフランス料理が皿に並べられバイオリンの生演奏が始まった。
周りにいるのはセレブな紳士淑女の夫婦ばかりであった。
愛蘭 乾杯しよう
ワイングラスを重ねる。
ここは父のホテルだからなんだって無理は効くよ。
フランス料理だけじゃなく
君の教えている日本の寿司や天ぷらだって僕が言えば作ってくれる。
まあ、じきにここも僕のものになるんだけどね。
愛蘭は俯いたまま黙って聞いていた。
この前から話している結婚のことだけど…
君の返事待ちだったけどこっちで結婚式の日取り決めたからね。
え…私何も聞いてないよ…
だってもう僕たち婚約して一年じゃない?
僕には社長就任まで時間がないんだ。
それから結婚したら君は社長夫人として家に入ってもらうよ。
そんな…
愛蘭は驚いて顔を上げた。
私 上級試験に合格してこれから教師として子供達のために頑張ろうと思っていたのに…
君はもう働く必要はないんだよ。
え…?私何のために試験受けたの?
難関試験に合格したことは凄いことだけど、僕の妻になればそんなもの必要のないものなんだよ。
まあこう考えればいいんじゃない、自分に対しての勲章とか。
そんなもの…?
勲章…?
そんな勝手な…
愛蘭は呟いた。
それからこれは母さんから言われている絶対の条件なんだけど僕の妻には社長夫人として相応の振る舞いができなければならないからまず仕事を辞めて我が家で我が家の作法の勉強してもらうよ。
愛蘭の目の前は真っ暗になった。
どうして自分本位で決めちゃうの?
私の気持ちは?
君は僕に付いてきてくれればいいんだよ。
これから会社を経営していくのに社長はすぐ決断を迫られる立場だからね。
だから決めていくことは僕がどんどん決めていく。
僕は父を超える人間になりたいんだ。
君にも協力してほしい。
…協力なの?
そうさ僕の妻としてね。
天祐 私のことどう思っている?
今更何を聞くんだい?愛蘭
君は美しいし、学識もある。社長夫人として僕に相応しい女性だと思っているよ。
僕と結婚すれば君も君のお父様も一生楽ができるんだよ?
だからいいよね?僕が取り仕切っても?
君との結婚披露宴で会社の社長就任を皆に報告できるなんて素敵だろ?
僕の頭の中でいろいろプランはできているだ。
今からワクワクするなぁ
愛蘭は唇を噛んで聞いていたがとうとう居たたまれなくなり席を立って夜の街に飛び出した。
おい愛蘭どこへいくんだ!
愛蘭はホテルを駆け出してからどこをどう歩いたか記憶になかった。
途中何度も若い男にナンパされたがその度走って逃げた。
夜の街を彷徨い川辺にかかる小さな橋の上に立っていた。
川面に悲しい沈んだ顔の自分の顔が映った。
私…
深夜になりショックでふらついた足取りで家に辿り着くと父が心配して待っていた。
父の顔を見ると涙が出そうになったが愛蘭は至って平静を装い
ただいま…
と声をかけた。
愛蘭の父親は
おかえり。
天祐君と会ってきたんだろう?
本当ならこんな遅くに帰ってきて叱りつけられても仕方ないのに愛蘭は何か言いかけてやめた父を見て心を痛めた。
早く休みなさいと言って立ち去る父の背中を愛蘭はただじっと見つめた。
自分の部屋に入ってからバッグの中のスマホを見ると何件も天祐から電話の着歴とメールが入っていた。
メールには
愛蘭どうして急に帰ってしまったんだい?
すぐに連絡ください。
次のメールには
実は今夜のこと母さんに話したんだけど母さんすごく怒っちゃって婚約解消しなさいって言われたよ。
正直僕も君という人がよく分からなくなってきたよ。
こんないい条件何が不満なんだい?
僕には君とやっていける自信がなくなったよ。
と書いてあった。
お父さん、お母さんごめんね…
愛蘭は絶望した。
これまで自分を押し殺し父の期待に重圧を受け続け更に婚約者天祐からの突然の別れの通告…
挫折を知らずにきた愛蘭にとって自分を支える糸がぷっつり切れてしまったように心痛いことであった。
愛蘭は枕に顔を埋めて泣いた。
翌朝、愛蘭は父に嘘をついた。
次の新しい学校が始まるまでまだ日にちがあるから今この機会にもっと日本のことを勉強するために日本を旅行したい。
そして前から好きな日本の小説家 渡辺淳一 が描いた北海道の景色を実際にこの目で見て見たいと…
父親は快く応じてくれた。
お前は日本語教師だけど一度も日本に行ったことはないもんな。
楽しんできなさい。
父の優しい言葉に愛蘭の胸は痛んだ…
もうお父さんの顔を見ることは二度とないのだと…
悲壮な決意のもと愛蘭は中国を旅立った。
初めての日本。
それは愛蘭にとって片道の旅になる。
向かう先は憧れていた北の大地北海道
そして…
小説の舞台阿寒湖を巡り幽霊のような足取りであの海岸に彷徨いついた。
どこまでも蒼い海は太陽の光を反射してキラキラと光っていた。
遠くに漁船が動いているのが見える。
よく話してくれたね…
愛蘭さん とても辛い思いをしたんだね…
洋介のその言葉を聞いた瞬間 愛蘭は嗚咽して泣いた。
俯いた顔からポタポタと膝の上に涙が落ちた。
北海道の爽やかな風が通り過ぎ木々の葉を揺らした。
洋介はハンカチを取り出し愛蘭に差し出した。
泣きたいときは泣けばいいんだよ…
涙に潤んだ綺麗な瞳で愛蘭は人の良さそうな洋介の顔を見上げた。
コクっと愛蘭は頷きハンカチを受け取った。
私これからどうすればいいの?
…
それは君自身が決めなくてはいけない。
でも…私今まで自分で決めたことなんてない…
そんな事ないだろ?
この北海道に来たこと。
君自身が決めたんだろ?
あ…
愛蘭は自分自身で自分の行く先を決めるべきという洋介のような考えを示されたことは初めてだった。
暫くの沈黙の後 愛蘭は口を開いた。
私 南波さんに昨日した質問答えてもらってない。
ん?
南波さん大切なひと失なったの?
…
…
夏の北海道って憧れるわね。
機会があれば一緒に行こうよ!
テレビに映る北海道の景色を観ながら妻は話しかけてきた。
いいねー。
俺も北海道の地平線まで延びる一本道を車で走ってみたいよ。
美味しいカニも食べたいしね~
妻は陽気に応えた。
絶対連れてってね。
約束だよ。
それからその約束は果たされることはなかった。
妻が癌と判ったのはそのわずか後、そして余命わずか半年と宣告された。
洋介は妻が癌で居なくなるなんて信じられなかった。
信じたくもなかった。
お互い遅くに結婚したので年齢はアラフォーだがまだ結婚6年の夫婦だった。
子供は二人とも好きで欲しかったがついにコウノトリはやってくることはなかった。
子供には恵まれなかったが二人の生活は慎ましいながら幸せに送ってきた。
その幸せがあの日突然消えた。
花に囲まれ妻が眠る棺桶。
涙が落ちた…
俺は…
死んだ妻と果たせなかった旅をしているんだよ…
洋介は手で涙を拭った。
この北海道の旅を完結させることで気持ちに踏ん切りをつけようとしたんだ…
ふんぎり?
愛蘭は意味がわからないようだった。
気持ちの整理というか本当に妻にお別れをするための儀式みたいなものかな…
あ…
愛蘭は言葉をのんだ。
昨日俺が言った意味少しは分かってくれたかな?
残されたものはとても心が痛いんだよ…
きっと俺はまだ立ち直ることが出来ないんでいるからここに来たんだと思う…
…
…
ごめんなさい…
私…
え?
洋介は愛蘭の顔を見た。
私…自分がいなくなったほうがいいことなんだと勝手にそう決めつけていた。
…
私もう自分から死ぬなんてことしません…
洋介は「そうだよ…」と遠い目で海を見ながらしぼりだすような声で応えた。
それからどれだけの時間が経過しだろう。
サワサワと風で葉っぱの擦れる音だけがこの公園を支配していた。
やがて愛蘭の優しげな顔が洋介に向けられた。
私南波さんにお願いがあります。
え?
南波さんの旅に私も一緒させてください。
洋介は急な愛蘭の言葉に驚いた。
私もまだ ふんぎり?がついていません。
南波さんと同じです。
父には北海道へ旅行に行ってくると嘘をつきました。
帰る予定日まではまだ時間があります。
だけど…
洋介はこんな若い娘との旅など全く想像ができなかった。
お願いします。
せっかく日本に来ることが出来たのにこのまま帰るなんて嫌です。
愛蘭は懇願した。
…
洋介は根負けした。
わかった…
ただし条件がある。
一つはすぐにお父さんに連絡して無事にやっていることを伝えること。
もう一つは愛蘭さんが踏ん切りがついて向かうべき目的地が見つかったら遠慮なく出発すること。
それから俺の旅は毎日行き先の決まっていない勝手気ままな車旅だから観光ツアーみたいにはいかないよ。
わかりました。
父への電話は今すぐ?
今すぐに。
…はい…
わかりました。
愛蘭はスマホをバッグから取り出し海の高台から見える海のほうへ歩きながら電話をかけた。
父親は愛蘭から数日連絡がなかったことを大変心配していたようだが無事を伝え元気に北海道旅行をしていることを伝えるとほっとしたようだ。
電話を切った後あんなことがあって久しぶりに父親の声を聞いて愛蘭は泣いていた。
私生きていて本当に良かったです。
洋介はその言葉で救われた気がした。
さあ、今日は朝ごはんも食べていないし美味しいお昼ごはん食べに行こう。
はい…
愛蘭は応えた。
溜まっていたものを出してまるで瘧がとれたようなスッキリとした表情だった。
洋介はこの時初めて愛蘭の笑顔を見た。
それはとても輝いた美しい顔だった。
愛蘭の人生はレールが引かれた全てが計画通りの人生であった。
愛蘭にとって次の目的地も決まっていない旅など今までありえなかった。
生まれて初めての経験に愛蘭は出発した。
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