3 / 15
光と影
光と影
しおりを挟むお昼を済ませ車は東へ向かって走った。
南波さんお願いがあります。
何だい?
私、服これしかありません。
どこかの街で買ってもいいですか?
ああ、そうか!
日本に来る時の荷物はどうしたの?
札幌のゲストハウスに預けたままです。
そっか、ここから札幌に行くには遠すぎるし…
わかった、次の街でお店寄ろう。
ありがとう。
愛蘭は朝までの彼女と違って表情がすごく明るくなった。
笑顔が似合う
きっとこれが普段の愛蘭なんだろうと洋介は思った。
暫く走ると街に出た。
複合型のショッピングセンターがあったので車を付けた。
行ってらっしゃい
俺は車で待つよ。
愛蘭は売り場へ買い物に入って行った。
洋介は体の気だるさを感じ運転席のシートを倒して休むことにした。
南波さんなんで会社辞めなきゃいけないの?
そうですよ先輩残ってくださいよ。
私からもお願いするよ。
南波くん 君の力がうちには必要なんだ。
残ってくれ。
同僚の女性と後輩それに上司の部長。
すみません…
このままの気持ちのままじゃやれないんです。
君が奥さんを亡くしてショックなのはわかる。
しかし何も仕事を辞めなくてもいいじゃないか。
いえ、こんなことでは皆さんに迷惑をお掛けすることになりますし…
しかし仕事辞めてからどうするんだ?
わかりません。
でもやらなきゃいけないことがある気がするんです。
ご迷惑をかけて申し訳ありません。
洋介は会社から強く慰留されたが結局このままでは生きる意味を見出せないと思った。
悩んだ結果洋介は20年近く働いた会社を退社したのであった。
そして退職金を使って北海道へ旅に出たのである。
トントン
愛蘭が車の窓をノックする音で起こされた。
どうやら眠ってしまったようだ。
頭痛が酷く寒気もする。
愛蘭は両手に持ちきれないくらいの沢山の紙袋を抱えて帰ってきた。
たくさん買ったね。
はい。服だけじゃなく鞄や本も買いました。カード使えて良かったです。
愛蘭はニコニコして買い物を終えたようだ。
どの国の人でも女性はショッピングが好きなんだなと洋介は思った。
街なかの観光名所をすこしだけ回ったところで空が暗くなってきた。
洋介の体調はますます悪くなっている。
愛蘭には気づかれないよう洋介は無理をした。
今夜泊まるところを探さないと…
スマホで検索してみたが空室のあるホテルがヒットしない。
仕方なく観光案内所を調べてそこに行くことにした。
観光案内所は幸い開いていた。
泊まるところを探してもらったがどこのホテルもいっぱいで唯一空きがあるのは古い旅館で一部屋のみということだった。
洋介は次の街まで走ることも考えたがこの体の具合で運転を出来るか自信がなかった。
その時愛蘭が口を開いた。
そこの旅館でいいです。
愛蘭さん部屋が一つしか空いてないんだよ。
私大丈夫です。
洋介は年甲斐もなく動揺した。
案内所で紹介された旅館はこの街で長く営業しているのであろうかなり古ぼけた和風旅館だった。
部屋に案内されると8畳一間のなんの特徴もない純和風の畳部屋だった。
暫くすると仲居さんに別部屋の夕食部屋に案内された。
愛蘭と向かいあって旅館の夕食を食べるのは少し小恥ずかしい感じがしたが、愛蘭は日本式の和食に興味津々というところだった。
料金も安いこともあり、これといって特質した料理はなかったが愛蘭は喜んで食べていた。
洋介は体調の不調を隠すため食欲はなかったが無理に押し込んだ。
隣の部屋からはお酒が入っているのであろう大きな声で話す数人の男性の声が聞こえてきた。
南波さんお酒飲まないの?
愛蘭が聞いてきた。
俺ね お酒飲めないんだ。
病気で?
違う違う、体が受け付けなくて飲むと気持ちが悪くなっちゃうんだよ。
ふぅーん
中国ではお酒飲めない人ほとんどいませんよ。
そうなの?
私お酒飲めない人初めて見ました。
…
愛蘭さんはお酒強いのかい?
強いかどうかわからないけど飲みますよ。
酔っぱらったりもするの?
私酔ったことないかなぁ…
それって強いんだよ。
今夜だって君は飲んだっていいんだよ。
またの機会でいいです。
そんな取り留めのない会話をして二人は夕食を済ませてから客室に戻った。
すると旅館の人が二人をアベックだと気を利かせたのか畳の上に布団がピッタリと寄せて敷いてあった。
洋介は慌てて部屋に入ると並んで敷いてある布団を離して端に寄せてあった丸テーブルを真ん中に置いた。
ハハ…
洋介は苦笑した。
愛蘭もクスっと笑った。
私日本の布団を使うの初めてです。
そうなんだ…
ちゃんと眠れるかな?
それから浴衣も初めてだから着てみたいです。
床の間に置いてある浴衣を愛蘭は取り出した。
あ、じゃあ俺は愛蘭さんが浴衣着るまで外で待っているよ。
ありがとう。
外の廊下で待っていると愛蘭から声がかかった。
どうぞ
愛蘭は浴衣を着ていたが浴衣のまえが右左逆になっていた。
愛蘭さんその着方だと縁起が悪い着方なんだよ。
洋介は自分の手で動きを交えてジェスチャーで教えてあげた。
愛蘭は顔を赤らめて
難しいのね…
と言った。
南波さんあっち向いていてください。
愛蘭はその場で浴衣の右左を直しはじめた。
浴衣の擦れる音が後ろから聞こえてきた。
洋介は後ろを向きながらもドキドキしていた。
これでいいですか?
今度はちゃんと着こなしていた。
大丈夫だよ。
愛蘭は身長も高くスラっとした体型で艶のある黒く長い髪に浴衣が似合った。
私これでお風呂行ってきます。
愛蘭にとって初めてのことばかりで愛蘭は興奮しているようだった。
お風呂は一階の奥にあることを仲居さんが部屋に入るときに案内してくれていた。
愛蘭はお風呂に出て行った。
洋介は布団に座ると我慢していた体調の悪さが一気に出た。
凄く熱っぽい。
全身に汗が噴き出し顔は熱いのに寒気が襲った。
堪らず洋介は布団に入って横になった。
体全体が地面の中に吸い込まれて落ちていくような感覚を感じ意識が薄くなっていった。
愛蘭が風呂から出てくると途中の廊下で酔っぱらいの中年親父がニヤーと笑いながら愛蘭の頭から足の先までジロジロと舐めるように見てきた。
愛蘭は屹と男の顔を睨んで横を立ち去った。
おぉ、姉ちゃんこぇーな
親父の捨て台詞を後ろに聞いたが愛蘭は気にせず部屋に戻った。
南波さん?
布団に入っている洋介を見つけると
もう寝たの?
と声をかけた。
返事がないかわりに洋介の息は荒く顔中汗が噴き出していた。
大変…
愛蘭は洋介の枕元に座ると額に手を当てた。
すごい熱い…
愛蘭はフロントに行き事情を話して必要なものをもらってきた。
愛蘭は簡単な応急処置なら仕事柄学んでいる。
まず意識がほとんどない洋介の上半身をか細い腕で起こすと解熱剤を飲ませた。
そして洋介の着ている汗で濡れている上半身のポロシャツ、ズボン、靴下、最後のトランクスまで全部を脱がせた。
裸にした洋介の体を借りてきた洗面器のお湯にタオルを入れ固く絞ってから拭き出した。
状況が状況だけに男性の裸を前にしても恥ずかしさなど全く感じなかった。
南波さんしっかりして。
こんなに熱だしてずっと我慢していたの?
きっと冷たい海に入ったことが原因だね。
私のせいだわ…
愛蘭は何度もタオルを絞り洋介の身体を献身的に拭き続けた。
乾いた男性用の浴衣をやっとのことで着させて洋介を見守った。
自分は眠りもせず一時間おきに愛蘭は洋介の体の汗を拭き続けた。
そのとき洋介は夢のなかにいた。
体が辛い…
ベッドに寝ていた。
見える天井や壁に見覚えがある。
かつての自宅のベッドだ。
遠くからぼんやりと人が現れた。エプロン姿の妻の美紗子が近寄ってきた。
風邪引いちゃったみたいね。
今日は会社休んだほうがいいわね。
うん…
とても懐かしい光景だった…
体が重くて動かない。
美紗子の手が伸びて洋介の顔に当ててきた。
優しい温もりを感じた…
いつも感じていた美紗子の手の温もり…
お粥でも作るわね。
美紗子の手が離れるとき洋介はしっかり美紗子の手を握った。
瞬間、洋介は現実に戻された。
瞳に溜まる涙で周りが見えなかった。
やがて涙が流れ落ち視界が開けてきた。
南波さん気が付きましたか?
洋介は愛蘭の手をしっかり握っていた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる