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14話 

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 「アキトさん、ご飯できたからそろそろ降りてきてくださーい!」
 ドアの向こうからノックとともにヒヨリの声がする。
 ヒヨリとメリーと別れた俺は、新しいマイルームを探検したあと、ベットでごろごろしていた。
 「はーい、今行く!」
 そう叫んだ俺は、新しいマイルームから離れるのに少し寂しさを感じつつ、部屋から出て食堂へ向かった。
 階段を降りている途中に、今晩のメニューは分かってしまった。
 この空腹に食欲を誘うスパイスの香り、間違いない。カレーだろう。

 ガチャッ。
 食堂の扉を開けると、予想通り、カレーが並べられていた。
 「来ましたね、アキトちゃん!今夜は美少女二人の愛が詰まったカレーですよ。」
 「結構おいしくできたと思うので、温かいうちに食べましょう。」
 メリーにツッコムのはやめておいて、早くいただくとしよう。
 「「「いただきます!」」」
 「このカレー、凄く美味しいな!」
 「思った以上のできばえです!」
 「私もこんな美味しいカレー食べるの久しぶり。やっぱり、食事って誰かと一緒に食べるといつもよりおいしく感じるんですね!」
 俺たち三人はそれぞれ、カレーを絶賛した。
 「アキトさん!ここの調理場の道具、すごいんですよ!見たこともない便利な器具が沢山あって、とっても楽しかったです!」
 やっぱり言語は同じでも、道具なんかは結構違うみたいだな。街でも何に使うのかよくわからない物をいくつか目にした。
 「そういえば私、お二人にこと全然知りませんよね?」
 確かに、メリーには名前くらいしか教えてなかったな。
 ヒヨリと顔を見合わせどうしたもんかと悩む。
 異世界人っていうのを隠す理由もないんだが、言ったところで怪しまれても困る。
 ここは慎重に話を進めていった方が良さそうだ。
 「俺たちのことを話すにあたってメリーに聞きたいことがある。」
 「聞きたいこと?」
 「この世界には魔法が存在するだろ?その魔法についてだが、なんらかを召喚する魔法ってあるのか?」
 「うーーん。とくに聞いたことはありませんが、もしかしたらオンリースキルにはあるかもしれませんね。」
 「オンリースキルってなんだ?」
 「アキトちゃん、オンリースキルを知らないの?オンリースキルっていうのは、スキルにない自分だけの技を極めることで実戦なんかで使えるようになるオリジナルのスキルのことです。例えば、アキトちゃんが盗賊なんかのスキルを使わずに弓を完璧に扱えるようになったとする。そうなると、その弓の技術は盗賊以外の職業でもつかえるようになるんですよ。」
 なるほど、自分の特技を伸ばしていけば実戦でも使えるってことか。
 まあ、よく考えたら当然のことかもしれないな。
 ゲームの型にはまってしまっていて、その発想はなかったな。
 「ちなみになんですが、オンリースキルで弓術を覚えて、更に盗賊のスキルの弓術をつかうと、しっかり盗賊スキルの効果も発動して、威力と命中力が上がります。」
 なるほど、いいことを聞けたな。
 大好きなあの子を必死にストーキングすれば、いずれは立派な尾行スキルになるってことか、ふむふむ。
 「それで、オンリースキルとアキトちゃんがどんな関係があるの?」
 そんなスキルがあるのなら推測の話ではあるが、説明はしやすいか。
 「俺、そしてヒヨリは、別の世界からここにとばされてきたんだ。おそらくメリーが話してくれたオンリースキル、それを使って何者かが俺たちを召喚したんだと思われる。」
 「じゃあ、アキトちゃんとヒヨリちゃんは異世界人だっていうの?」
 俺たちは静かに頷いた。
 「とても信じられる話じゃないかもしれないが事実だ。」
 ……………
 一瞬、沈黙がはしった。が、
 「もちろん、信じますよ!それに、どこから来ようとアキトちゃんとヒヨリちゃんは私の恩人で、お友達ですから!」
 俺とヒヨリに張り詰めていた緊張が、メリーの一言で消えた。
 「そう言ってくれて嬉しいよ!」
 「メリーちゃん、私も嬉しい!これからもよろしくね!」
 それから俺とヒヨリは、この世界に来た時期がそれぞれ違うこと、出会ったときのこと、この宿に来た経緯をメリーに話した。
 どの話も、メリーは真剣に聞いてくれた。
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