愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋人編

第6話「愛では乗り越えられない壁もある」①

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 思った以上にかなりデカイカツサンドが出てくることで有名な某喫茶店の中で。私は机に突っ伏しながら、向かいに座る優花里と玲菜に話しかけていた。


「……そんでさぁ。もうとにかく、あのババア、しんどくってさぁ」

「えぇ……や、ヤバいね、なんか。いくら自分の息子のことだからって……」


 優花里が私の言葉に同調して、引き気味に肩を落とす。私は「ホント、そうだよね」とため息を吐きながら、ゆっくりと体を起こす。


「子供が心配って言うのはまあわかるけどさぁ。でも、だからって私らの関係にああだこうだって口出しするのは違うでしょ。私の着ている服にまでイチイチ指図してくるしさぁ」

「いや……まあ、息子の恋人事情までグチグチ言うのは違うっては思うけど……ごめん詩子、ぶっちゃけ服は今の感じの方がいいよ。正直」

「いや、まぁ、わかってるけどさぁ。なんかさぁ、これだと、私って感じがしなくってさぁ」


 私は言いながら、背もたれに体重をぐでりと預ける。

 今日の私のコーデは、白のシャツに黒のピチッとしたパンツとなっている。ちょっとだけ胸元を開けてエロさを醸してはいるが、ぴえん系の服よりかはかなり目立たない普通の構成だ。
 普通にオシャレという感じで小綺麗にまとまっているからか、周囲からの視線がいつもの『うわっ、なにあれ!?』的な感じから、『うおお、乳デケェ、エッロ』と言う感じに変わっている。

 この方が世間的にはお洒落でかわいいってことはよくよく理解している。だけど私は、そんなことをわかっていながら、あえてあの格好をしていたのだ。世間様からの目でホイホイとファッションを変える輩とは覚悟が違う。

 とは言え、今は真白のお母さんへの不思議な負い目から、そんな格好はしていないのだが。私はいまいちパッとしない自分の衣服の胸元を摘みあげて、もう一度深々とため息を吐いた。

 と。突然私のスマートフォンがぶるぶると震えだし、軽快な着信音を奏で始めた。

 私はポケットからスマホを取り出し、画面を見る。そこには、白い文字ででかでかと、『ksババア』と言う文字が映っていた。


「うっわぁ、真白のお母さんからだ」

「は? え、ちょっと待って。なんでアンタがソイツの番号持ってるの?」

「私だってわかんないよ。なんか、真白に問い詰めてみたら、アイツも知んなくて、よくよく聞くと息子のスマホから勝手に登録したって言われたらしい」

「はぁ!? なんで母親が息子のスマホ勝手に触ってんだよ! ていうか、パスワードくらい入れろよ!」

「入れてたらしいの。でも誕生日にしていたから、簡単に破られたらしい」

「うっわぁ……最悪過ぎんだろ」


 優花里が私の話に青ざめ身を引く。私は肩を落としため息を吐いてから、「ごめん」と、電話を出ながら席を立った。


「はい、姫川です」

『姫川さん。今なにやってるの?』

「なにって、友達と遊びに行っているのですけど」

『あっ、そ。で、変な格好はしてないの?』

「してませんって。あの、この質問何回目なんですか」

『なにその言い方。前々から言ってるけど、もうちょっと敬意を払ったらどうよ』


 私は電話口から顔を離して、「ッチ」と舌打ちをする。と、真白のお母さんが、『姫川さん? ねえ聞いてるの?』と大声を出し、私はイライラとしながら受け答える。


「聞いてますよ」

『また変な言い方して。まったく、あなたは本当。私の職場にいるあの子みたいで本当気に食わないわ。もうちょっとマナーとか常識を身に着けたらどうよ』

「それはどうも、すみませんでした」


 ギリギリと眉間にしわを寄せ、私は刺すように言う。真白のお母さんは、『まったく、本当。今時の子はってことかしら』と呟き、私の反応を待たずして続けた。


『そう言えばあの子も、この間うちの職場でやらかしやがってね。トイレ介助があるから行って、って指示したら、私看護師だから嫌ですぅって、そう言うのは介護職がやるもんでしょって言いやがったのよ。こっちだって忙しいんだから、アンタも協力しなさいよって。どうせ突っ立ってるだけなんだし。そんな甘い考えで現場が回るわけないでしょうが。その癖そういうふざけた態度を指摘したら、上に泣きついて私が悪いって言いだすんだから。被害者面も大概にしろって』

「えっと、あの、ちょっと。今私、友達と遊びに来ているんですけど」

『それがどうしたのよ』

「いや。あんまり長話されると困るのですけど」

『あ~、ハイハイ。あなたは、息子の親よりも友達を優先するのね。まあいいけど。わかったから、それじゃあ。邪魔して悪かったわね~』


 真白のお母さんはそう言いながら、ぷつりと電話を切った。

 ……なんなんだよ、一体。私は歯ぎしりをして、スマホを力強く握り絞めた。

 謝ってるように言っているけど、めちゃくちゃ私のこと刺して来るし。大体、なんでお前の職場の愚痴なんかを聞かなきゃならねぇんだよ。意味わかんねぇ。私は頭の中で、クソみたいな感情がぐるぐると流れるのを感じた。

 ため息を吐きつつ、私は元の席へ戻る。と、優花里と玲菜は私の様を見て、口の端をひくひくとさせていた。


「……今のでどんだけヤバいか全部わかったわ」

「でしょ? なんだって私が友達と遊んでるって時に電話するんだよ。お前は私の彼女かよ、クソが!」


 私は吐き捨てながら、やや強く机に突っ伏す。優花里が同情的な目で私を見つめて来て、その一方で、隣に座る玲菜は、不安げな表情をして、私に話しかけて来た。


「ねえ、詩子。アンタ、もう真白くんと別れちゃいなよ」


 私は「ハァ!?」と言いながら、がばっと顔を上げる。玲菜は私の声に少し驚いたようだが、一呼吸の間を空けてから、更に私に語り掛けて来る。


「だって、どう考えてもヤバいよ。いくら彼氏が良くても、相手の家族がアレだったら、そんなの、結婚とかなんてできないじゃん」

「……や、まだするって決まったわけじゃ、」

「相手は完全にそのつもりじゃん。完全に家に来ること前提にしてるっぽいし。このままだとアンタ、向こうの家族と一緒に暮らすことになるんだよ?」


 私は玲菜の主張を聞き、「うっ、」と声を詰まらせた。


「……そ、それだけは死んでも嫌だ……」

「でしょ? もう、手を引くべきだよ。付き合ってらんないよ、そんな変な家族と」


 玲菜が更に詰めると、隣の優花里が、「ちょっと、待ちなよ」と彼女の声を止めた。


「あのさ、玲菜。そこまで行くとちょっと話飛びすぎだわ。大体、今時絶対相手の家に行かなきゃならないわけでもないし、そこまで言う必要ないって」

「でもこの感じだと、たぶんどこまでもついてくるよ? 大体、あんなのと年一でも関わるなんて嫌じゃん」

「まあ、それはそうだけど、言うて年一だし。そう言うのは詩子が決めることで、私らに口出しする権利はないの」

「でもさぁ、」

「それに、詩子は別に、向こうのババアが嫌なだけで、真白のことが嫌いなわけじゃないじゃん。ね、そうだよね? 詩子」


 優花里はそう言って、私にへと視線を合わせて来る。私は「えっ」と声を詰まらせた後、ふと、頭の中に嫌な感触が過ぎった。

 ――いや。いや、そんなわけない。ありえない。
 何かの間違いだ。私は浮かんだ考えを無理矢理否定して、首を振ってから優花里に答える。


「……そ、そりゃ、そうだよ。なんで、別れなきゃなんないの。そうなったら、あっちの思うつぼじゃん」


 頑張って平静に答えたはずだが。その瞬間、優花里と玲菜の顔が曇った気がした。

 私はそれに思わずドキリとしてしまう。まるで2人が、私の内面を見透かしたような気がしたからだ。

 ――真白と別れる。その選択肢を、『アリ』だと思ってしまった、その一瞬の感情を。私は、浮かんだその考えをごまかすために、「そんなことより、次どこ行く?」と、無理矢理話を挿げ替えた。
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