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恋人編
第6話「愛では乗り越えられない壁もある」②
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部屋で小説を書いていた折。突然僕のスマホに、母親からの電話がかかって来た。
なんだろう、と思い電話に出てみると、僕の母さんは、いきなり詩子との関係性についてとやかくと言及してきた。僕は心が重たくなるのを感じながら、それに受け答えている。
「だから、無理矢理奢らされたりとかしてないって。家事を手伝わされたりとかもしてないから」
「本当? でもアンタ、あの子の部屋掃除してあげたらしいじゃない」
「アレはお互い合意の上だったし、あの後からはそこまでしてないから別にいいでしょ。何度も言うけど、詩子はちゃんと僕のこと思いやってくれているって」
「本当に? そうは見えないけどね。あんな格好だし、裏で浮気とかされてるかもしれないわよ?」
「格好と浮気の因果がわからない。いや、まあ、確かに他人が浮気しているかどうかなんてわかんないけど、アイツはそんなことするような人間じゃないよ」
「アンタだって疑ってんじゃない。そう言う関係の時点でどうかと思うよ?」
「疑ってるんじゃなくて、これは僕の話し方の癖なの。20年以上一緒なんだから、それくらいは知っておいてよ」
「ああ、そう? とにかく、絶対いい子じゃないから、お母さん認めないから。あんな子、さっさと別れなさい」
「だから、それはアンタが決めることじゃないだろ」
僕はため息を吐き、顔を覆う。すると母さんは、「またアンタ、親に向かってアンタって」と怒って来た。僕は歯ぎしりをして、「どうでもいいだろ、そんなの」と強く言及した。
「とにかく、大丈夫だから。あのさ、息子の恋愛に口出しするなんて、本当、親としてどうかと思うよ?」
「アンタが心配だからでしょ。仕方ないじゃない」
「だから、その心配がいらないんだって」
「なによ、その言い方。親だからよ? 他人のことだったらどうでもいいに決まってんでしょ」
「ああ、もう。とにかく、今忙しいから。切るね?」
「絶対変な気起こしちゃダメだからね!」
僕は深々ため息を吐き、無理矢理電話を切った。
通話を初めてから、30分以上経過している。
母さんとの電話はいつもこんな感じだ。長々とどうでもいい話をさせられて、電話が終わる頃には、数学のテストの後のように疲弊してしまう。
引っ越したての頃はもっと酷かった。毎日心配の電話を掛けてきて、文章で送れば済むような話もわざわざ電話をしてくる。流石に頻繁に電話をしないでと釘を刺して、しばらくは収まっていたのだけれど。
ここのところは、2、3日に1度の頻度で電話がかかってくる。いくら僕でも、流石に相手をしていられない。僕はイライラと頭を掻きむしった。
と。ピコン、と音がなり、僕のスマホにLI○Eが届いた。
なんだろう、と思い見てみると、送り主は、あろうことか僕の兄だった。
『おい』
『電話聞いてたぞ』
『お前まだあんな奴と付き合ってんのかよ』
僕は兄貴からの連投にイライラとして、肩を落としながらメッセージを返す。
〈いいだろ、別に〉
『良くないって。別れろよ、さっさと』
〈お前にどうこう言われる筋合いはないだろ〉
『あるって。だいたい、いつも言ってるだろ? 俺らみたいなクソな遺伝子は、この世に残しちゃいけないんだって』
僕は兄からの強い思想を受けて、ガリガリと頭を掻きむしった。
河野正斗(こうのまさと)、現在25歳。僕の兄貴は、大学を卒業してからと言うものの、働いておらず、フリーターでふらふらとしている。
兄は大学時代によく分からない自己啓発系の思想に引っかかり、それ以降、考え方が人として捻れてしまった。
D.カーネギーの焼き増しのような本を買い、誇るように僕に話してみせた。それからどんどんと『思想』にのめり込み、やがては小難しい哲学書に手を出し、徐々に人間性が拗れてしまった。
そも、僕の兄は、思想をする才能と言うのが根本的に欠如していた。昔から都合が悪くなると声を張り上げ自己中心的な論理を展開し、うまく行かないと最終手段として容易く暴力を振るって来た。
中学、高校生くらいまでの幼い頃合なら、基本的に誰もが自己中心的なモノなのだろう。インターネットのキッズたちの発言を見ていると、何となくそんな傾向が読み取れる。だから、子供の頃であれば、そう言った所は仕方がないと捨て置くことも出来る。
だが、兄の都合の良さは異常だった。妙な自己啓発書や哲学書から、自分にとって都合のいい理屈を様々身につけた彼は、もはや止めようのないモンスターと化してしまった。
思想とは、激物だ。例えどこぞの著名な哲学者が考えた立派な思想であったとしても、そんなものを学ぶくらいなら、頭を真っ白にして適当に生きていた方が、余程人として真っ当に、何よりも賢く生きていくことが出来る。
何よりも厄介なのが、あの手の物は、往々にして、納得出来るようにはなっているのだ。否定し切れないからこそ、遅効性の毒のように、人間の脳内を犯していく。
――『俺たちの遺伝子は、残してはいけない』。
人の性格は、およそ半分程度は遺伝子により決定されると言う。僕の父親と兄を見ていると、何より、僕自身の過去とを照らし合わせると、この言葉は、真実味を帯びてくる。
仮に僕に子供が出来たとして、果たして、僕は対応出来るだろうか。自分や兄、父親のような、モンスターになってしまった自分の子供に。僕は頭を悩ませて、ため息を吐いた。
〈変なこと言ってないで、もっと常識的になれよ〉
『俺に常識を求めなよ。頭おかしいんだからさ』
〈マジで意味わからんのだが〉
『そりゃあ、わかるわけないよな』
コイツは、本当に。僕は対応するのが鬱陶しく思い、そのままLI○Eの通知をオフにした。
◇ ◇ ◇ ◇
――7月もそろそろ中旬に入る頃合い。もう少しで夏休みと言うこの時期に、私は、真白と共に彼の部屋でゲームをしていた。
「うわっ、横スマ合わせられた」
「相手の方が上手だったね」
「あ~クソ、もうちょいやれると思ったんだけどな~」
彼氏の横で、スマ○ラなんかをしながら、嫌になったように体を伸ばす。
我ながらしょうもないとは思うが、対戦ゲームで負けると少しモヤモヤとしてしまう。1人だとその悔しさから、勝つまで何度も挑んでしまうのだが、彼氏と一緒だと、そこまでの暴走はしない。
「あ~、疲れた。もういいや。やめよ」
「流石にちょっと負けが込み過ぎたね」
「こう何回も負けるとマジで萎えるよねぇ」
「うん。……ちょっと、冷蔵庫からお茶取ってくるね」
「ん~」
なんてことの無い会話をしながら、私は室内の冷蔵庫へと赴く真白の背中を見つめる。
――何気ない日常。なんてことの無い日々。変わりない毎日なのだけれど、この日の私は、少しだけ、いつもと違った。
『もう真白くんと別れちゃいなよ』
頭の中に、玲菜の言葉が響く。私は浮かんだ言葉にしかめっ面をしてから、ため息を吐き、顔を覆う。
――いや。いや。そんなわけ、ないだろ。
私は必死に、頭に浮かぶ選択肢をかき消す。
だって、真白は私が選んだ男なんだ。私にとって真白は、替えが効かない存在で、コイツ以外はありえない、とさえ思っている。
元々、恋愛体質じゃない、珍しい女子なのだ。こんな私が真白を失ったら、それこそ、永久に彼氏なんてできないかもしれない。
だから、そんなはずがないだろ。私は真白の姿をチラチラと見て、何度も、何度も繰り返す。
――あれ、でも――そう言えば。ふと、私は、更に良くない事が頭に浮かび。
――今日は、まったくムラムラしないな。そんな結論を、出してしまった、その瞬間だった。
「――詩子、」
真白が私の名を呼ぶ。私は真白の方を見て、「……なに?」と、ぶっきらぼうに答える。
「大事な話があるんだ」
「……なに?」
「………………。………………僕たち――」
ふと、私はその言葉に目を見開く。声が喉奥から出かかるが、私はだけども、それをなぜか、せき止めてしまって。
「――別れない?」
真白の言葉は――私の頭を、揺らしはしなかった。
ドキリとしたわけでも、ヒヤリとしたわけでもない。ただ、なんとなく、まるでこうなることを予期していたかのように、私の心は酷く静かで。
「――――」
私はぽかんとしてから。そのまま、無表情のまま、顔を下げて。
「…………うん」
ぽつりと、その結論を受け入れてしまった。
なんだろう、と思い電話に出てみると、僕の母さんは、いきなり詩子との関係性についてとやかくと言及してきた。僕は心が重たくなるのを感じながら、それに受け答えている。
「だから、無理矢理奢らされたりとかしてないって。家事を手伝わされたりとかもしてないから」
「本当? でもアンタ、あの子の部屋掃除してあげたらしいじゃない」
「アレはお互い合意の上だったし、あの後からはそこまでしてないから別にいいでしょ。何度も言うけど、詩子はちゃんと僕のこと思いやってくれているって」
「本当に? そうは見えないけどね。あんな格好だし、裏で浮気とかされてるかもしれないわよ?」
「格好と浮気の因果がわからない。いや、まあ、確かに他人が浮気しているかどうかなんてわかんないけど、アイツはそんなことするような人間じゃないよ」
「アンタだって疑ってんじゃない。そう言う関係の時点でどうかと思うよ?」
「疑ってるんじゃなくて、これは僕の話し方の癖なの。20年以上一緒なんだから、それくらいは知っておいてよ」
「ああ、そう? とにかく、絶対いい子じゃないから、お母さん認めないから。あんな子、さっさと別れなさい」
「だから、それはアンタが決めることじゃないだろ」
僕はため息を吐き、顔を覆う。すると母さんは、「またアンタ、親に向かってアンタって」と怒って来た。僕は歯ぎしりをして、「どうでもいいだろ、そんなの」と強く言及した。
「とにかく、大丈夫だから。あのさ、息子の恋愛に口出しするなんて、本当、親としてどうかと思うよ?」
「アンタが心配だからでしょ。仕方ないじゃない」
「だから、その心配がいらないんだって」
「なによ、その言い方。親だからよ? 他人のことだったらどうでもいいに決まってんでしょ」
「ああ、もう。とにかく、今忙しいから。切るね?」
「絶対変な気起こしちゃダメだからね!」
僕は深々ため息を吐き、無理矢理電話を切った。
通話を初めてから、30分以上経過している。
母さんとの電話はいつもこんな感じだ。長々とどうでもいい話をさせられて、電話が終わる頃には、数学のテストの後のように疲弊してしまう。
引っ越したての頃はもっと酷かった。毎日心配の電話を掛けてきて、文章で送れば済むような話もわざわざ電話をしてくる。流石に頻繁に電話をしないでと釘を刺して、しばらくは収まっていたのだけれど。
ここのところは、2、3日に1度の頻度で電話がかかってくる。いくら僕でも、流石に相手をしていられない。僕はイライラと頭を掻きむしった。
と。ピコン、と音がなり、僕のスマホにLI○Eが届いた。
なんだろう、と思い見てみると、送り主は、あろうことか僕の兄だった。
『おい』
『電話聞いてたぞ』
『お前まだあんな奴と付き合ってんのかよ』
僕は兄貴からの連投にイライラとして、肩を落としながらメッセージを返す。
〈いいだろ、別に〉
『良くないって。別れろよ、さっさと』
〈お前にどうこう言われる筋合いはないだろ〉
『あるって。だいたい、いつも言ってるだろ? 俺らみたいなクソな遺伝子は、この世に残しちゃいけないんだって』
僕は兄からの強い思想を受けて、ガリガリと頭を掻きむしった。
河野正斗(こうのまさと)、現在25歳。僕の兄貴は、大学を卒業してからと言うものの、働いておらず、フリーターでふらふらとしている。
兄は大学時代によく分からない自己啓発系の思想に引っかかり、それ以降、考え方が人として捻れてしまった。
D.カーネギーの焼き増しのような本を買い、誇るように僕に話してみせた。それからどんどんと『思想』にのめり込み、やがては小難しい哲学書に手を出し、徐々に人間性が拗れてしまった。
そも、僕の兄は、思想をする才能と言うのが根本的に欠如していた。昔から都合が悪くなると声を張り上げ自己中心的な論理を展開し、うまく行かないと最終手段として容易く暴力を振るって来た。
中学、高校生くらいまでの幼い頃合なら、基本的に誰もが自己中心的なモノなのだろう。インターネットのキッズたちの発言を見ていると、何となくそんな傾向が読み取れる。だから、子供の頃であれば、そう言った所は仕方がないと捨て置くことも出来る。
だが、兄の都合の良さは異常だった。妙な自己啓発書や哲学書から、自分にとって都合のいい理屈を様々身につけた彼は、もはや止めようのないモンスターと化してしまった。
思想とは、激物だ。例えどこぞの著名な哲学者が考えた立派な思想であったとしても、そんなものを学ぶくらいなら、頭を真っ白にして適当に生きていた方が、余程人として真っ当に、何よりも賢く生きていくことが出来る。
何よりも厄介なのが、あの手の物は、往々にして、納得出来るようにはなっているのだ。否定し切れないからこそ、遅効性の毒のように、人間の脳内を犯していく。
――『俺たちの遺伝子は、残してはいけない』。
人の性格は、およそ半分程度は遺伝子により決定されると言う。僕の父親と兄を見ていると、何より、僕自身の過去とを照らし合わせると、この言葉は、真実味を帯びてくる。
仮に僕に子供が出来たとして、果たして、僕は対応出来るだろうか。自分や兄、父親のような、モンスターになってしまった自分の子供に。僕は頭を悩ませて、ため息を吐いた。
〈変なこと言ってないで、もっと常識的になれよ〉
『俺に常識を求めなよ。頭おかしいんだからさ』
〈マジで意味わからんのだが〉
『そりゃあ、わかるわけないよな』
コイツは、本当に。僕は対応するのが鬱陶しく思い、そのままLI○Eの通知をオフにした。
◇ ◇ ◇ ◇
――7月もそろそろ中旬に入る頃合い。もう少しで夏休みと言うこの時期に、私は、真白と共に彼の部屋でゲームをしていた。
「うわっ、横スマ合わせられた」
「相手の方が上手だったね」
「あ~クソ、もうちょいやれると思ったんだけどな~」
彼氏の横で、スマ○ラなんかをしながら、嫌になったように体を伸ばす。
我ながらしょうもないとは思うが、対戦ゲームで負けると少しモヤモヤとしてしまう。1人だとその悔しさから、勝つまで何度も挑んでしまうのだが、彼氏と一緒だと、そこまでの暴走はしない。
「あ~、疲れた。もういいや。やめよ」
「流石にちょっと負けが込み過ぎたね」
「こう何回も負けるとマジで萎えるよねぇ」
「うん。……ちょっと、冷蔵庫からお茶取ってくるね」
「ん~」
なんてことの無い会話をしながら、私は室内の冷蔵庫へと赴く真白の背中を見つめる。
――何気ない日常。なんてことの無い日々。変わりない毎日なのだけれど、この日の私は、少しだけ、いつもと違った。
『もう真白くんと別れちゃいなよ』
頭の中に、玲菜の言葉が響く。私は浮かんだ言葉にしかめっ面をしてから、ため息を吐き、顔を覆う。
――いや。いや。そんなわけ、ないだろ。
私は必死に、頭に浮かぶ選択肢をかき消す。
だって、真白は私が選んだ男なんだ。私にとって真白は、替えが効かない存在で、コイツ以外はありえない、とさえ思っている。
元々、恋愛体質じゃない、珍しい女子なのだ。こんな私が真白を失ったら、それこそ、永久に彼氏なんてできないかもしれない。
だから、そんなはずがないだろ。私は真白の姿をチラチラと見て、何度も、何度も繰り返す。
――あれ、でも――そう言えば。ふと、私は、更に良くない事が頭に浮かび。
――今日は、まったくムラムラしないな。そんな結論を、出してしまった、その瞬間だった。
「――詩子、」
真白が私の名を呼ぶ。私は真白の方を見て、「……なに?」と、ぶっきらぼうに答える。
「大事な話があるんだ」
「……なに?」
「………………。………………僕たち――」
ふと、私はその言葉に目を見開く。声が喉奥から出かかるが、私はだけども、それをなぜか、せき止めてしまって。
「――別れない?」
真白の言葉は――私の頭を、揺らしはしなかった。
ドキリとしたわけでも、ヒヤリとしたわけでもない。ただ、なんとなく、まるでこうなることを予期していたかのように、私の心は酷く静かで。
「――――」
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