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Grand finale
Grand finale「結婚は人生の墓場だと言う」「それなら、共に、同じ土に還るまで」①
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――静かなエンジン音が、軽自動車の中に響く。晴れやかな景色が窓を右から左へと流れ、爽やかな空気が肺に満ちる。
「……絶好の結婚日和って奴ね」
運転席に座る清水心春が、助手席で外を眺める私に話しかけて来た。私は変わらず開けた窓から外を眺めながら、「そうだな」と笑った。
「しかし、あれからもう……5年? も経ってるのか。このまま結婚しないんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ」
「本当、それな。アイツら、時間かけすぎなんだよ」
「おやおや。由希ちゃんも、もうとっくに振り切ってるみたいだね」
「今更なに当たり前のこと言ってんだよ」
「別に~?」
私が呆れた返事をすると、心春はケラケラと楽しそうに笑った。私は彼女が明るく笑っている姿が楽しくて、つられてはにかむように笑ってしまった。
チェーンの服屋に、お洒落なカフェ。少し大型の電器店に、靴を専門に売っている個人店。商業区画の景色を右から左へと流していると、やがて、私たちの目に、荘厳なお城のような施設が現れた。
「おっ、アレじゃない? 式場」
「アレアレ。やっと見えてきたな」
私たちはそう会話を交わすと、大通りを左に曲がって、車が1台すれ違える程度の広さの小路へと入った。
碁盤のように入り組んだ道を、右に、左にと曲がっていく。そうして私たちは、大きな生垣に囲まれた、真っ白な建物へと辿り着いた。
――ここだ。あの2人が式をあげる場所。今日、人生の節目を迎える、あの2人の思い出となる場所。
生垣の間に開いた鉄門を抜け、ガーデンの中へ。一層狭くなった道を進み、私たちは式場内の駐車場へと着く。
心春がエンジンを切ったことを確認すると、私は車のドアを開けて、慣れないヒールに足を踏み外さないよう、ゆっくりと外へ出る。
「……やっと着いたかぁ~!」
ぐっと背伸びをしながら、私は青空に向かって言う。すると運転席の方から、「ずっと私に運転させてた癖に」と、心春が呆れたように声を出した。
「いいじゃんか、別に。アンタの車なんだし」
「アンタに運転させるとワンチャン死ぬからね。せっかくの結婚式がお葬式になったらいたたまれないっての」
「だから、少しずつ直すようにしてるって言ってるだろ。わかってんだよ、運転荒いの」
私は心春の言い分に肩を落とした。心春はしおらしくなった私を小バカにするように笑うと、「てかさ、服装、大丈夫かな」と話を切り替えながら、着ているドレスを見せつけるように体を回転させた。
白いレース状の羽織を肩にかけ、そこからするりと端正なベージュの生地が伸びている。手には服に合わせた白い色のクラッチバッグを持っており、どことないフォーマル感が全身から立ち込めている。
私は心春に笑いかけながら、「別に、大丈夫じゃね? 知らんけど」と意見を伝えた。心春は肩を竦めながら、「頼りになんね~」と私と同じように笑った。
「てか、それ言ったら私も大丈夫かよ?」
私は心春に尋ねながら、両腕を広げて全身を見せつける。
黒い無地のドレスに、メリハリを付けるように白の羽織を羽織った、無難な格好だ。心春は「ん~」と私の全身をまじまじと見ると、考えるように少しの間を空け、それから指でOKサインを作って答えた。
「いいんじゃない? 知らんけど」
「お前も知らねーのかよ。……なんか、調べたら全身黒は喪に服するって意味になるからダメって出て来たけど」
「じゃあ大丈夫じゃね? バッグも私と合わせてあるし」
心春は軽い調子でそう言うと、「てか、靴履き替えないと」と言いながら、車の後部座席を開いた。私は「おう」とだけ答えると、心春がスニーカーからパンプスに靴を履き替えるのを待った。
それから、駐車場から移動して、すれ違う式場の職員に会釈をしながら、お城のような建物の中へと入る。ホールでは既に受付が始まっていて、見覚えのある2つの顔が立っていた。
「よう、優花里」
「うぃ~ッス、由希~」
受付に立っていたのは、友人の青山優花里と、その旦那である四郎という男だった。
心春は「優花里~!」と黄色い声を出しながら優花里へと近づいて行き、優花里はそれに合わせて「心春~! 今日はよろしくね~!」とかわいらしい声を出した。私は優花里の対応の上手さに感心しつつ、受付の前に立って、彼女に確認をする。
「そういやさ。一応持っては来たんだけど、マジでご祝儀いらないの?」
「いいって。賞の賞金で賄うって」
「ぐあ~、言ってみてぇ~! あの野郎、金持ちになったからって調子に乗りやがって」
「まさか2人とも夢叶えちゃうなんてねぇ~。お金がかかんないのはありがたいけど、なんか、違う世界に行っちゃったって感じ」
優花里はそう言ってケラケラと笑った。私は受付の出席簿にチェックを付けつつ、「終わったら二次会も奢ってもらおうぜ」と軽口を叩く。優花里は嬉しそうに手を叩くと、「そうだね。金持ちなんだし、たかっとこうたかっとこう」と声を出して笑った。
心春と共に受付を済ませると、優花里が「そんじゃあ、係の人が来るまでしばらく待ってて」と指示を出した。私は「おう」と答えると、そのままホールのカフェスペースへと向かった。
小さなカフェテーブルの並んだスペースでは、既に何人かのゲストが集まっており。と、その中の一人が私たちに気が付き、「あっ」と明るく笑うと、椅子から立ち上がって、とことこと小走りでこちらに駆け寄って来た。
「由希ちゃーん! 心春~!」
「玲菜~!」
心春は玲菜と同じようにトコトコと小走りになり、そのまま2人でギュッと体を抱き合った。
「しばらくぶり~! てか心春、ドレス似合ってる~!」
「玲菜の方こそ~! 綺麗~、かわいい~!」
2人は互いに言い合うと、きゃあきゃあと会場に響くような声で騒ぎ始めた。私は心春の様子に少しだけ眉をひそめると、「コラ」と言いながら彼女の背中を人差し指で突いた。
「きゃあっ! なに、いきなり!?」
「あんまりうるさくすると周りに迷惑かけるだろ」
「え~、今日くらいいいじゃん別に~」
「いや……まあ、そうだけどよ。その、ほら……」
私は答えに窮して心春から目を逸らしてしまった。すると、私たちの様子を見ていた玲菜が、「由希ちゃん、相変わらずだねぇ」と肩を竦め、私は思わず「どういうことだよ」と食って掛かった。
「あー、それにしても、あの2人も遂に結婚かぁ」
と、玲菜は話を逸らすようにそう声をあげた。私が「あぁ」とそれに相槌を打つと、玲菜はため息を吐きながら、「いいなぁ……」と一言ぼやいた。
「別に、玲菜だって彼氏いるだろ。そっちとはどうなんだよ?」
「いやぁ、いるけどさぁ~。なんていうか、結婚する気があるかわかんないんだよぉ~! そういう話すると話を逸らちゃれちゃうしさぁ~!」
「ああ……。お前も大変なんだな……」
玲菜はもう一度ため息を吐くと、「助けてよぉ~、由希ちゃ~~ん!」と私に泣きついて来た。私は首裏をさすりながら、「私に言ってもしょうがねぇだろ」と肩を落とした。
と。そんな他愛のない会話を繰り返していると、係の人が私たちの前に現れ、「皆様、ゲストルームへ」と声をかけて来た。私たちが「はい」と返事をすると、周囲の参列者たちは係の人について行って、次々とその場を去って行った。
私も同じく、ホールから移動する集団について行く。しかし、ふと、私は途中で足を止め。
「――、」
受付に置かれた、2人の思い出が飾られたウェルカムボードへと目を移した。
見知った思い出に、私の知らない思い出。2人の人生が、端的に載せられたその簡素なコルクボードに、2秒、3秒と、私は時を止め。
「――由希?」
と。私の後ろから、心春が声をかけて来た。
「どうしたの? 早く行かないと」
私は首を傾げる心春へと目を移す。そしてもう一度だけ、ウェルカムボードに視線を移すと、「ああ。ごめん」と、急ぎ足で心春の元へと駆け寄った。
――2人の思い出の中に、私と、彼女だけの思い出が在った事に、想いを馳せながら。
「……絶好の結婚日和って奴ね」
運転席に座る清水心春が、助手席で外を眺める私に話しかけて来た。私は変わらず開けた窓から外を眺めながら、「そうだな」と笑った。
「しかし、あれからもう……5年? も経ってるのか。このまま結婚しないんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ」
「本当、それな。アイツら、時間かけすぎなんだよ」
「おやおや。由希ちゃんも、もうとっくに振り切ってるみたいだね」
「今更なに当たり前のこと言ってんだよ」
「別に~?」
私が呆れた返事をすると、心春はケラケラと楽しそうに笑った。私は彼女が明るく笑っている姿が楽しくて、つられてはにかむように笑ってしまった。
チェーンの服屋に、お洒落なカフェ。少し大型の電器店に、靴を専門に売っている個人店。商業区画の景色を右から左へと流していると、やがて、私たちの目に、荘厳なお城のような施設が現れた。
「おっ、アレじゃない? 式場」
「アレアレ。やっと見えてきたな」
私たちはそう会話を交わすと、大通りを左に曲がって、車が1台すれ違える程度の広さの小路へと入った。
碁盤のように入り組んだ道を、右に、左にと曲がっていく。そうして私たちは、大きな生垣に囲まれた、真っ白な建物へと辿り着いた。
――ここだ。あの2人が式をあげる場所。今日、人生の節目を迎える、あの2人の思い出となる場所。
生垣の間に開いた鉄門を抜け、ガーデンの中へ。一層狭くなった道を進み、私たちは式場内の駐車場へと着く。
心春がエンジンを切ったことを確認すると、私は車のドアを開けて、慣れないヒールに足を踏み外さないよう、ゆっくりと外へ出る。
「……やっと着いたかぁ~!」
ぐっと背伸びをしながら、私は青空に向かって言う。すると運転席の方から、「ずっと私に運転させてた癖に」と、心春が呆れたように声を出した。
「いいじゃんか、別に。アンタの車なんだし」
「アンタに運転させるとワンチャン死ぬからね。せっかくの結婚式がお葬式になったらいたたまれないっての」
「だから、少しずつ直すようにしてるって言ってるだろ。わかってんだよ、運転荒いの」
私は心春の言い分に肩を落とした。心春はしおらしくなった私を小バカにするように笑うと、「てかさ、服装、大丈夫かな」と話を切り替えながら、着ているドレスを見せつけるように体を回転させた。
白いレース状の羽織を肩にかけ、そこからするりと端正なベージュの生地が伸びている。手には服に合わせた白い色のクラッチバッグを持っており、どことないフォーマル感が全身から立ち込めている。
私は心春に笑いかけながら、「別に、大丈夫じゃね? 知らんけど」と意見を伝えた。心春は肩を竦めながら、「頼りになんね~」と私と同じように笑った。
「てか、それ言ったら私も大丈夫かよ?」
私は心春に尋ねながら、両腕を広げて全身を見せつける。
黒い無地のドレスに、メリハリを付けるように白の羽織を羽織った、無難な格好だ。心春は「ん~」と私の全身をまじまじと見ると、考えるように少しの間を空け、それから指でOKサインを作って答えた。
「いいんじゃない? 知らんけど」
「お前も知らねーのかよ。……なんか、調べたら全身黒は喪に服するって意味になるからダメって出て来たけど」
「じゃあ大丈夫じゃね? バッグも私と合わせてあるし」
心春は軽い調子でそう言うと、「てか、靴履き替えないと」と言いながら、車の後部座席を開いた。私は「おう」とだけ答えると、心春がスニーカーからパンプスに靴を履き替えるのを待った。
それから、駐車場から移動して、すれ違う式場の職員に会釈をしながら、お城のような建物の中へと入る。ホールでは既に受付が始まっていて、見覚えのある2つの顔が立っていた。
「よう、優花里」
「うぃ~ッス、由希~」
受付に立っていたのは、友人の青山優花里と、その旦那である四郎という男だった。
心春は「優花里~!」と黄色い声を出しながら優花里へと近づいて行き、優花里はそれに合わせて「心春~! 今日はよろしくね~!」とかわいらしい声を出した。私は優花里の対応の上手さに感心しつつ、受付の前に立って、彼女に確認をする。
「そういやさ。一応持っては来たんだけど、マジでご祝儀いらないの?」
「いいって。賞の賞金で賄うって」
「ぐあ~、言ってみてぇ~! あの野郎、金持ちになったからって調子に乗りやがって」
「まさか2人とも夢叶えちゃうなんてねぇ~。お金がかかんないのはありがたいけど、なんか、違う世界に行っちゃったって感じ」
優花里はそう言ってケラケラと笑った。私は受付の出席簿にチェックを付けつつ、「終わったら二次会も奢ってもらおうぜ」と軽口を叩く。優花里は嬉しそうに手を叩くと、「そうだね。金持ちなんだし、たかっとこうたかっとこう」と声を出して笑った。
心春と共に受付を済ませると、優花里が「そんじゃあ、係の人が来るまでしばらく待ってて」と指示を出した。私は「おう」と答えると、そのままホールのカフェスペースへと向かった。
小さなカフェテーブルの並んだスペースでは、既に何人かのゲストが集まっており。と、その中の一人が私たちに気が付き、「あっ」と明るく笑うと、椅子から立ち上がって、とことこと小走りでこちらに駆け寄って来た。
「由希ちゃーん! 心春~!」
「玲菜~!」
心春は玲菜と同じようにトコトコと小走りになり、そのまま2人でギュッと体を抱き合った。
「しばらくぶり~! てか心春、ドレス似合ってる~!」
「玲菜の方こそ~! 綺麗~、かわいい~!」
2人は互いに言い合うと、きゃあきゃあと会場に響くような声で騒ぎ始めた。私は心春の様子に少しだけ眉をひそめると、「コラ」と言いながら彼女の背中を人差し指で突いた。
「きゃあっ! なに、いきなり!?」
「あんまりうるさくすると周りに迷惑かけるだろ」
「え~、今日くらいいいじゃん別に~」
「いや……まあ、そうだけどよ。その、ほら……」
私は答えに窮して心春から目を逸らしてしまった。すると、私たちの様子を見ていた玲菜が、「由希ちゃん、相変わらずだねぇ」と肩を竦め、私は思わず「どういうことだよ」と食って掛かった。
「あー、それにしても、あの2人も遂に結婚かぁ」
と、玲菜は話を逸らすようにそう声をあげた。私が「あぁ」とそれに相槌を打つと、玲菜はため息を吐きながら、「いいなぁ……」と一言ぼやいた。
「別に、玲菜だって彼氏いるだろ。そっちとはどうなんだよ?」
「いやぁ、いるけどさぁ~。なんていうか、結婚する気があるかわかんないんだよぉ~! そういう話すると話を逸らちゃれちゃうしさぁ~!」
「ああ……。お前も大変なんだな……」
玲菜はもう一度ため息を吐くと、「助けてよぉ~、由希ちゃ~~ん!」と私に泣きついて来た。私は首裏をさすりながら、「私に言ってもしょうがねぇだろ」と肩を落とした。
と。そんな他愛のない会話を繰り返していると、係の人が私たちの前に現れ、「皆様、ゲストルームへ」と声をかけて来た。私たちが「はい」と返事をすると、周囲の参列者たちは係の人について行って、次々とその場を去って行った。
私も同じく、ホールから移動する集団について行く。しかし、ふと、私は途中で足を止め。
「――、」
受付に置かれた、2人の思い出が飾られたウェルカムボードへと目を移した。
見知った思い出に、私の知らない思い出。2人の人生が、端的に載せられたその簡素なコルクボードに、2秒、3秒と、私は時を止め。
「――由希?」
と。私の後ろから、心春が声をかけて来た。
「どうしたの? 早く行かないと」
私は首を傾げる心春へと目を移す。そしてもう一度だけ、ウェルカムボードに視線を移すと、「ああ。ごめん」と、急ぎ足で心春の元へと駆け寄った。
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