愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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Grand finale

Grand finale「結婚は人生の墓場だと言う」「それなら、共に、同じ土に還るまで」②

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 ――静かなチャペルに日の光が満ちる。祭壇の向こう側を流れる滝の音が、ちゃぷちゃぷと絶え間なく静けさを彩る。

 白いタキシードに身を包んだ僕は、何とも言わずに窓の外を眺めていた。

 純白の大理石で作られた空間は、あまりにも荘厳で美しい。十字架の掲げられた祭壇は神秘的で、思わずその神々しさに心を呑まれてしまいそうになるほどだった。

 ――だけど、どういうわけだか……僕は思った以上に、大きな緊張感を抱いてはいなかった。むしろ、どこか穏やかで――それと同時に、もの哀しいような気持ちで佇んでいた。

 別に、マリッジブルーというわけではない。彼女とのこれからの人生に……不安がないと言えば、ウソになるけど、何もそれ自体に憐憫を抱いてはいない。ただ、あの頃のことを思い出すと、どうしても、哀愁に耽ってしまうだけだ。


「――わっ!」


 と。背後から、僕を驚かせようとする声が響いた。僕は聞こえてきた彼女・・の声にゆっくりと振り返り、その姿に思わず息を呑んだ。

 足下にかけてふわりと広がるような、大きな花弁のようなパステルピンクのドレス。露出させた肩は色気がありながらも華やかで、小悪魔的な愛らしさのある胸元の黒いリボンが、フォーマルな雰囲気の良いアクセントになっていた。
 一層気合いの入った化粧が、彼女の白い肌をより綺麗に際立たせる。くるりと巻き上がったまつげは、明るく愛らしい瞳を強調させて、思わず視線が吸い込まれるようだった。


「――綺麗だ」


 僕は精巧な芸術品のような彼女の姿に、思わず声を漏らしてしまった。途端に彼女はチークで染まった頬を更に赤く染め、「ちょっ。ガチな感じで言うな」と笑いながら僕の体を叩いた。


「……へ、へへ。……でも、気に入って貰えたのなら満足だ」


 どこか調子が悪そうに、だけど心の底から嬉しそうに、ぽっと彼女が笑う。僕はそれに釣られて頬を緩めると、「うん。……最高に綺麗だよ、詩子」と、彼女の名前を呼んだ。


「ふへへへ。……まあ、結婚式だし? 王道を往く、純白のウエディングドレス! ……ってのも考えたんだけどね。私と言えば、やっぱコレでしょって思って」


 詩子はそう言いながら、見せつけるようにくるくると体を回転させた。踊るようにひらひらと舞うドレスの裾に僕は嬉しく笑うと、「うん。これ以上ないくらいに似合ってるよ」と感想を述べた。


「――ま、キリスト教的には、純白のドレスの方が縁起が良いんでしょうけど。生憎とこちとら日本人、宗教だの文化だのは都合の良いように解釈すんのよ」

「酷い主張だ」

「うるせ~! クリスマスもハロウィンも所詮は酒を飲むための言い訳よ! カツカレー最高! カツカレー、最高!」


 結婚式当日だと言うのになんて風情のかけらもない台詞だ。

 だけどまあ、これくらい腐っている方が彼女らしいな。僕はいつもと変わらない調子の詩子が面白くて、くすくすと声を押し殺して笑ってしまった。


「……でも、良かったのかい? ファーストミートに家族を誘わなくて」

「まあ、どうせ後から見てもらえるし。別に今じゃなくてもいいかなぁって」


 詩子は朗らかに笑いながらそう答えた。だけど、僕は何となく、彼女の言葉の裏にある感情を察してしまった。

 ――とどのつまり。詩子は、僕に気を遣っているのだ。家族が来ない僕のことを。

 5年前。僕の家族は、互いにウマが合わないために離れ離れになった。詩子にも散々に迷惑を掛けたから、この結婚式と言う記念すべき日に、あの人たちは呼んでいない。

 僕が家族を呼んでいないからって、詩子の家族までそれに付き合わせる必要はない。無論彼女の家族には招待を送っているけれど、それはそれとして、できるだけ僕が意識しないように気を回してくれいるのだ。

 その気持ちは、ありがたい物だったが――同時に、だからこそ、僕は詩子に迷惑を掛けているんじゃないかと、罪悪感に苛まれた。……本当はもっと、家族とキラキラとした結婚式を過ごしたいだろうに。

 僕がそんなことを考えていると――詩子は突然、僕の背中をバシッと叩き、じとっとした目で僕を見つめてきた。


「浮かない顔してんわね。……気ぃ遣ってあげたんだから、もうちっと嬉しそうにしなさい」

「……やっぱり、気を遣ってくれてたんだね」

「アンタにはもう言っちゃった方が良いかって思ってね。……悪いけど、私も所詮は女の子。かつてはお姫様に憧れたりもしたっちゃしたのよ。今日は私が主役! アンタもだけど! だから、2人で笑ってなきゃ、みんなにも悪いよ。だから、ね?」


 詩子は僕の手を握りながらニコリと笑った。僕は僕を励まそうとしてくれている彼女に少し心が晴れて、「――そうだね」と、静かに笑った。


「――ん。ありがとう、詩子。もう大丈夫」

「へっへっへっ。そんじゃあ、私はまだやることがあるから。……また後でね、真白!」


 詩子はそう言って手を振ると、とてとてとチャペルから出て行った。

 ――陽だまりが満ちる。静かな滝の音が、心をなだめる。僕は自分のパートナーがどれほど素晴らしいのかを、胸の内に染み渡らせた。
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