147 / 151
Grand finale
Grand finale「結婚は人生の墓場だと言う」「それなら、共に、同じ土に還るまで」②
しおりを挟む
――静かなチャペルに日の光が満ちる。祭壇の向こう側を流れる滝の音が、ちゃぷちゃぷと絶え間なく静けさを彩る。
白いタキシードに身を包んだ僕は、何とも言わずに窓の外を眺めていた。
純白の大理石で作られた空間は、あまりにも荘厳で美しい。十字架の掲げられた祭壇は神秘的で、思わずその神々しさに心を呑まれてしまいそうになるほどだった。
――だけど、どういうわけだか……僕は思った以上に、大きな緊張感を抱いてはいなかった。むしろ、どこか穏やかで――それと同時に、もの哀しいような気持ちで佇んでいた。
別に、マリッジブルーというわけではない。彼女とのこれからの人生に……不安がないと言えば、ウソになるけど、何もそれ自体に憐憫を抱いてはいない。ただ、あの頃のことを思い出すと、どうしても、哀愁に耽ってしまうだけだ。
「――わっ!」
と。背後から、僕を驚かせようとする声が響いた。僕は聞こえてきた彼女の声にゆっくりと振り返り、その姿に思わず息を呑んだ。
足下にかけてふわりと広がるような、大きな花弁のようなパステルピンクのドレス。露出させた肩は色気がありながらも華やかで、小悪魔的な愛らしさのある胸元の黒いリボンが、フォーマルな雰囲気の良いアクセントになっていた。
一層気合いの入った化粧が、彼女の白い肌をより綺麗に際立たせる。くるりと巻き上がったまつげは、明るく愛らしい瞳を強調させて、思わず視線が吸い込まれるようだった。
「――綺麗だ」
僕は精巧な芸術品のような彼女の姿に、思わず声を漏らしてしまった。途端に彼女はチークで染まった頬を更に赤く染め、「ちょっ。ガチな感じで言うな」と笑いながら僕の体を叩いた。
「……へ、へへ。……でも、気に入って貰えたのなら満足だ」
どこか調子が悪そうに、だけど心の底から嬉しそうに、ぽっと彼女が笑う。僕はそれに釣られて頬を緩めると、「うん。……最高に綺麗だよ、詩子」と、彼女の名前を呼んだ。
「ふへへへ。……まあ、結婚式だし? 王道を往く、純白のウエディングドレス! ……ってのも考えたんだけどね。私と言えば、やっぱコレでしょって思って」
詩子はそう言いながら、見せつけるようにくるくると体を回転させた。踊るようにひらひらと舞うドレスの裾に僕は嬉しく笑うと、「うん。これ以上ないくらいに似合ってるよ」と感想を述べた。
「――ま、キリスト教的には、純白のドレスの方が縁起が良いんでしょうけど。生憎とこちとら日本人、宗教だの文化だのは都合の良いように解釈すんのよ」
「酷い主張だ」
「うるせ~! クリスマスもハロウィンも所詮は酒を飲むための言い訳よ! カツカレー最高! カツカレー、最高!」
結婚式当日だと言うのになんて風情のかけらもない台詞だ。
だけどまあ、これくらい腐っている方が彼女らしいな。僕はいつもと変わらない調子の詩子が面白くて、くすくすと声を押し殺して笑ってしまった。
「……でも、良かったのかい? ファーストミートに家族を誘わなくて」
「まあ、どうせ後から見てもらえるし。別に今じゃなくてもいいかなぁって」
詩子は朗らかに笑いながらそう答えた。だけど、僕は何となく、彼女の言葉の裏にある感情を察してしまった。
――とどのつまり。詩子は、僕に気を遣っているのだ。家族が来ない僕のことを。
5年前。僕の家族は、互いにウマが合わないために離れ離れになった。詩子にも散々に迷惑を掛けたから、この結婚式と言う記念すべき日に、あの人たちは呼んでいない。
僕が家族を呼んでいないからって、詩子の家族までそれに付き合わせる必要はない。無論彼女の家族には招待を送っているけれど、それはそれとして、できるだけ僕が意識しないように気を回してくれいるのだ。
その気持ちは、ありがたい物だったが――同時に、だからこそ、僕は詩子に迷惑を掛けているんじゃないかと、罪悪感に苛まれた。……本当はもっと、家族とキラキラとした結婚式を過ごしたいだろうに。
僕がそんなことを考えていると――詩子は突然、僕の背中をバシッと叩き、じとっとした目で僕を見つめてきた。
「浮かない顔してんわね。……気ぃ遣ってあげたんだから、もうちっと嬉しそうにしなさい」
「……やっぱり、気を遣ってくれてたんだね」
「アンタにはもう言っちゃった方が良いかって思ってね。……悪いけど、私も所詮は女の子。かつてはお姫様に憧れたりもしたっちゃしたのよ。今日は私が主役! アンタもだけど! だから、2人で笑ってなきゃ、みんなにも悪いよ。だから、ね?」
詩子は僕の手を握りながらニコリと笑った。僕は僕を励まそうとしてくれている彼女に少し心が晴れて、「――そうだね」と、静かに笑った。
「――ん。ありがとう、詩子。もう大丈夫」
「へっへっへっ。そんじゃあ、私はまだやることがあるから。……また後でね、真白!」
詩子はそう言って手を振ると、とてとてとチャペルから出て行った。
――陽だまりが満ちる。静かな滝の音が、心をなだめる。僕は自分のパートナーがどれほど素晴らしいのかを、胸の内に染み渡らせた。
白いタキシードに身を包んだ僕は、何とも言わずに窓の外を眺めていた。
純白の大理石で作られた空間は、あまりにも荘厳で美しい。十字架の掲げられた祭壇は神秘的で、思わずその神々しさに心を呑まれてしまいそうになるほどだった。
――だけど、どういうわけだか……僕は思った以上に、大きな緊張感を抱いてはいなかった。むしろ、どこか穏やかで――それと同時に、もの哀しいような気持ちで佇んでいた。
別に、マリッジブルーというわけではない。彼女とのこれからの人生に……不安がないと言えば、ウソになるけど、何もそれ自体に憐憫を抱いてはいない。ただ、あの頃のことを思い出すと、どうしても、哀愁に耽ってしまうだけだ。
「――わっ!」
と。背後から、僕を驚かせようとする声が響いた。僕は聞こえてきた彼女の声にゆっくりと振り返り、その姿に思わず息を呑んだ。
足下にかけてふわりと広がるような、大きな花弁のようなパステルピンクのドレス。露出させた肩は色気がありながらも華やかで、小悪魔的な愛らしさのある胸元の黒いリボンが、フォーマルな雰囲気の良いアクセントになっていた。
一層気合いの入った化粧が、彼女の白い肌をより綺麗に際立たせる。くるりと巻き上がったまつげは、明るく愛らしい瞳を強調させて、思わず視線が吸い込まれるようだった。
「――綺麗だ」
僕は精巧な芸術品のような彼女の姿に、思わず声を漏らしてしまった。途端に彼女はチークで染まった頬を更に赤く染め、「ちょっ。ガチな感じで言うな」と笑いながら僕の体を叩いた。
「……へ、へへ。……でも、気に入って貰えたのなら満足だ」
どこか調子が悪そうに、だけど心の底から嬉しそうに、ぽっと彼女が笑う。僕はそれに釣られて頬を緩めると、「うん。……最高に綺麗だよ、詩子」と、彼女の名前を呼んだ。
「ふへへへ。……まあ、結婚式だし? 王道を往く、純白のウエディングドレス! ……ってのも考えたんだけどね。私と言えば、やっぱコレでしょって思って」
詩子はそう言いながら、見せつけるようにくるくると体を回転させた。踊るようにひらひらと舞うドレスの裾に僕は嬉しく笑うと、「うん。これ以上ないくらいに似合ってるよ」と感想を述べた。
「――ま、キリスト教的には、純白のドレスの方が縁起が良いんでしょうけど。生憎とこちとら日本人、宗教だの文化だのは都合の良いように解釈すんのよ」
「酷い主張だ」
「うるせ~! クリスマスもハロウィンも所詮は酒を飲むための言い訳よ! カツカレー最高! カツカレー、最高!」
結婚式当日だと言うのになんて風情のかけらもない台詞だ。
だけどまあ、これくらい腐っている方が彼女らしいな。僕はいつもと変わらない調子の詩子が面白くて、くすくすと声を押し殺して笑ってしまった。
「……でも、良かったのかい? ファーストミートに家族を誘わなくて」
「まあ、どうせ後から見てもらえるし。別に今じゃなくてもいいかなぁって」
詩子は朗らかに笑いながらそう答えた。だけど、僕は何となく、彼女の言葉の裏にある感情を察してしまった。
――とどのつまり。詩子は、僕に気を遣っているのだ。家族が来ない僕のことを。
5年前。僕の家族は、互いにウマが合わないために離れ離れになった。詩子にも散々に迷惑を掛けたから、この結婚式と言う記念すべき日に、あの人たちは呼んでいない。
僕が家族を呼んでいないからって、詩子の家族までそれに付き合わせる必要はない。無論彼女の家族には招待を送っているけれど、それはそれとして、できるだけ僕が意識しないように気を回してくれいるのだ。
その気持ちは、ありがたい物だったが――同時に、だからこそ、僕は詩子に迷惑を掛けているんじゃないかと、罪悪感に苛まれた。……本当はもっと、家族とキラキラとした結婚式を過ごしたいだろうに。
僕がそんなことを考えていると――詩子は突然、僕の背中をバシッと叩き、じとっとした目で僕を見つめてきた。
「浮かない顔してんわね。……気ぃ遣ってあげたんだから、もうちっと嬉しそうにしなさい」
「……やっぱり、気を遣ってくれてたんだね」
「アンタにはもう言っちゃった方が良いかって思ってね。……悪いけど、私も所詮は女の子。かつてはお姫様に憧れたりもしたっちゃしたのよ。今日は私が主役! アンタもだけど! だから、2人で笑ってなきゃ、みんなにも悪いよ。だから、ね?」
詩子は僕の手を握りながらニコリと笑った。僕は僕を励まそうとしてくれている彼女に少し心が晴れて、「――そうだね」と、静かに笑った。
「――ん。ありがとう、詩子。もう大丈夫」
「へっへっへっ。そんじゃあ、私はまだやることがあるから。……また後でね、真白!」
詩子はそう言って手を振ると、とてとてとチャペルから出て行った。
――陽だまりが満ちる。静かな滝の音が、心をなだめる。僕は自分のパートナーがどれほど素晴らしいのかを、胸の内に染み渡らせた。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる