愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第13話「いやまあ好きかどうかで言えば好きなんだけど別に本当そういう訳じゃないって言うか、本当そういうのじゃないからそういうのじゃない」①

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「……んん~……」


 私こと姫川詩子は、机の上に立てた卓上ミラーを睨みつけて唸り声をあげていた。

 時刻は午前7時。大学の時間まではまだ結構ある。しかしどうして睡眠を貪らず、こうしてメイクキットを出しているのかと言うと、そりゃあ当然、化粧について悩んでいたからだ。

 今日は火曜日。昨日は河野に色々とまあ変な様子を見せたわけだが、結果、私はようやく自分の中の感情を理解した。


 私は、河野真白が好きだ。以前あの清水とか言う女に食ってかかったのも、そもそもアイツをいけすかないと思っているのも、ようはこの『好き』と言う感情が理由なのだ。


 とは言え、だ。好きを自覚したからと言って、『好き好き大好き、抱いて!』となれるほど、私の頭の中はハッピーではない。生憎と、恋をしたことが無い(元カレがいた件については、別に好きじゃ無かったので無効とする)陰キャ女からすれば、この感情も、好きなオスと言う概念も、全てが戸惑いの原因なのだ。

 大体、私と河野の関係は、『そういうの』じゃない。

 確かに、まあ。好きかどうかで言えば、好きだけど。でもだからって、じゃあ『うっひょーアイツのち〇ぽしゃぶりてぇ~』とか、『頭ポンポン壁ドンからのキスと言うイケメン無罪のセクハラ三段コンボをキメて欲しい』だとか、そんなことは思わない。

 なんと言うか。うまくは言えないけど、『誰にも取られたくない』だけなのだ。ただ独占欲だけが湧いてきて、アイツと一緒にいたいって言う気持ちが強いだけで。
 漫画やアニメで見るような、痰を吐き出すおじさんの如く『カアァァ』と赤面するような、そんな気持ちではない。よくわからないけど、そういうものなのだ。

 だから、メイクにも悩む。

 そりゃあ、私は女だ。だからキメキメに気合いの入った化粧をして、男を落とすために尽力するのも、まあ悪くない。
 けど、河野はそうじゃない。アイツとの関係性を考えたら、キメキメメイクは何か違うのではないか、と言う気持ちが溢れてくるのだ。

 とは言え、やはりキメキメメイクで超かわかわな私を演出しないと、やがては私よりもかわかわないけすかない清水に取られてしまう。そう、恋愛合戦とはセックスアピールの応酬であり、いかにして男のち〇ぽをバキバキにさせたかで勝負が決するのだ。

 であればメイクに本気を出すのも致し方なしか。しかし、それでは何か違う気がする。こんな思考を、何分、何十分と繰り返していて、私はじっと、卓上の自分の顔とにらめっこをし続けていた。


「……いや、いや。やっぱり、あり得ないわ」


 私はそう言って、卓上のミラーをぱたんと倒した。


「だってさ、アイツと私よ。そ、そりゃ、好きって、昨日は思わされたけど。でも、やっぱり、アイツとの関係って、今の感じだから、良い感じなのよ。なのにこれ以上を望むなんて、そんなの、なんっつーか、本末転倒じゃん」


 私はそう言って大きくため息を吐く。

 そう。そうなのだ。私と河野は、やはり、恋人にはなれない。

 私とアイツの関係は、「親友」だから成り立つのだ。これ以上になれば、間違いなくこの関係性は崩壊する。

 だとしたら、アイツと恋仲になろうなんて、思うべきではない。そうしたら、きっと、私はアイツとの関係を続けられなくなる。

 友人と恋人とでは、その間に大きな壁がある。関係性が変わってしまえば、付き合い方も変わってしまう。
 そうなったら、私はもう、耐えられないのだ。きっとどこかで、精神的に無理が祟って、アイツとの関係性を終わらせてしまう。
 だから、アイツと恋人になろうとすることは、やめた方がいい。私は心の中でそう決めて、満足したように大きく鼻息を吐いた。


「そうよ。それが一番。だから、もうメイクはおしまい。別に、かわいく思ってもらえなくても、それが私とアイツの関係なんだから。そりゃあ、そうしたほうが、男受けがいいのはわかってるけどさ――」


 そう呟くと、途端、私の頭の中に、ふと、またアイツの顔が浮かんだ。

 ……本当、かわいい女だったな。悔しいけど。あんな奴に好かれるなんて、河野も男冥利に尽きるというものではないだろうか。


「……」


 私はしばらく静寂な時間を過ごしてから、そして、畳んだ卓上ミラーをまた起こした。

 そうして、何度も何度も悩みながら、私は、結局、入念なメイクをしてしまった。


◇ ◇ ◇ ◇


 ……いつもより気合いの入ったメイクをしてしまうと、どうも周りの視線を気にしてしまうな。

 私は大学の中をゆっくりと歩いていた。

 現在は講義が終わり、若干遅ればせた昼ご飯を食べようと考えているところだ。なんかそわそわとした感情を抱えながら、私は足早に学食へと向かう。

 ――というか。そう言えば、今日はまだ、河野と話していない。

 いや、今までも話してはいなかったのだけれど。今日は昨日のことがあったので、まあ、とにかくリアルに会って会話がしたかった。だから大学に来てから、私は必死に河野センサーをビンビンに作用させていた。

 我ながらなんともまあ、気持ちが悪いと言うか。羞恥心があったり、時には「いやいやいや」と内心否定したりもしながらも、私はなお彼の姿を探し続けた。

 とは言え、こういう時ほどなぜか目当ての物は見つからないもの。私は結局午前中を、アイツどころか他の人たちともろくに話さずに、呆然としたままで過ごしていた。

 そして私は、構内の学食へとたどり着いた。

 中は昼飯を貪りに来た学生共であふれかえっている。ややざわざわとする広い室内で、私はやはり、辺りを見回して、河野センサーをビンビンと反応させていた。

 ――いや、本当、マジで何やってんだ、自分。私はそんなことを思いながら、首を大きく回していると、ふと、私のセンサーが、見覚えのあるもじゃもじゃ頭を捉えた。

 ――いた、河野だ。私は瞬間、口元がややニヤニヤとするのを感じながら、それを必死に抑え付けて、足早にアイツの背中に向かっていった。

 ……って、待て。一目散に向かって、一体なにを話せって言うのよ。

 というか、昨日のことがあって、逆に何で話しかけられるのよ。無理じゃね? そんなの。いくらなんでも恥ずかしすぎる。私の頭の中を、様々な想いが駆け巡った。
 でも、足は止まらなかった。それに、歩いているさなかで、どうしても清水のことが浮かんでしまい。

 ……ええい、ままよ。なんて覚悟もままならないまま、私は河野に話しかけた。


「お、おはよう、河野」


 私が話しかけると、もじゃもじゃ頭が私の方を振り返った。

 が。なんと、目の前のもじゃもじゃ頭は、後ろ姿が若干似ているだけの別人だった。


「……え?」


 目の前の男が私に首を傾げる。私は一気に顔が赤くなり、「あ……す、すみません……間違えました……」とおずおずと頭を下げた。

 目の前の男が、特に物を言うわけでもなく引いていた気がした。私は『やらかしたやらかしたやらかした』と脳内で呟きながら、後ろを振り返り、縮こまるように頭を下げながら、顔を押さえて歩き出した。

 と。どん、と体が何者かにぶつかり、「いたっ」と小さい声が聞こえた。


「あ、あああ、す、すみません!」


 私がそう言って何者かを見ると、そこには、見覚えのある顔があった。

 河野だ。間違いない、今度こそ。河野は私の方を見て、「ぬおお、君か」と驚いたように声を出した。

 河野と私の目が合う。私は瞬間、なぜか顔が熱くなって、アニメなら目がぐるぐると回っているような、そんな気持ちに駆られた。


「よかった。えっと、その、ちょうど、探してたんだ。昨日、その、辛そうだったから……」


 河野は私にそう言うと、心配そうに眉端を下げた。私は途端、なんかもう、色々とわけがわからなくなって、河野の胸の辺りを拳で軽く叩いた。


「ちょっと、え、何? 僕、何かした?」

「なにもしてないけど! あーもー! ああ、もう!」


 二度、三度と(痛くならない程度に)河野の体を叩く。河野は困ったように口をへの字にしながら、しかし、やがてはクスリと微笑んで、なんだか温かみのある表情をした。


「まあ、元気そうでなにより」


 グッ……! 私は目の前の河野が笑うのに合わせ、やや気に食わないような視線を向けた。

 どういうことだ。なんか、こう、明確に『好きだ』って理解させられると、見る目が変わってしまった気がする。
 やけに意識してしまうというか。一方で、そんなことはないって必死に否定していると言うか。

 ていうか、メイク濃くないかな。ていうか、気合い入れてきたの、気付いてくれるかな。
 いや、ていうか、気付いたとしたら、なんていうか、キモイって思われないかな。一人だけ意識してる感じがして、いくらなんでもアレだろって言うか。


「……姫川。今日、もうご飯食べた?」


 と。河野が私に話しかけてくる。私は少し口を尖らせながら、「食べてないけど」と呟いた。


「ん、そっか。よかったら、僕と食べない? あと、できれば、ここじゃなくて、別の所行きたい。その、色々、話したいこともあるし」


 河野がそう提案したのを聞いて、私は少し心が弾んだのを感じた。

 いやいやいや。何浮かれてんだよ、私。私は自分の感情をそう否定しながら、河野の言葉に、「ん、うん。そうする」と呟いた。


「じゃあ、行こう」


 河野がそう言って先を行く。私はその背中を、呆然と見つめ。

 ……ていうか、もう一時半だぞ。アイツ、まさか、私と飯行くために食べなかったのか?

 ふと気が付いたアイツの行動に、私はまた、心が弾むのを感じてしまった。
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